~22~
山を登り始め数十分後、タカミヤが皆の心配をして振り返り立ち止まると、もう少し登ったら休憩にしようと提案し、重い手荷物を抱え息も絶え絶えなホームズは「ぜびぞうびよう」と言葉にならない返事をしながらも荷物を背負い直して必死に道を歩いていく、カノンやレディは慣れた様子で水筒の水を飲みつつ道を歩き、最後尾のブラックが眉を潜め険しい顔でタカミヤに小さな声で話しかける。
(ヤっさんの言う通り、何人か尾けてきてる)
(やっぱりね、数は分かる?)
(鎧着たのが数人っつうのは分かったが、他の断定はまだできてねぇ、スマン)
(いえ、それだけでも分かれば十分よ、ありがと)
自分たちを尾行するものが居るのはブラックだけではなくレディも知っていた、タカミヤが今日は朝から 何故か張り切ってオムライスを作り始めた時はどうしたのかと思っていたが、タカミヤがケチャップで悪戯書きのように『監視』『されてる』と二人のオムライスに書き記していた、文字は日本語だったが二人には通訳機能の恩恵で難なく読み取ることが出来た、カノンとホームズには模様にしか見えていないようで何が書いてったのか気付いていないようだった、それを確認したのかタカミヤはそのまま日本語で小さな紙に文字を書き、『アサシンの警戒スキルとバックアタック防御スキルは持ってる?』と会話を進めて来た、タカミヤは言葉を発せずに文字を指差して二人の顔を伺ってきたので、ブラックは行儀が悪いと思いつつも手にしたスプーンを首肯と否定で左右に振り、レディはウィンクで返事を返した、タカミヤがもう一枚紙を取り出すとそこに文字を書いていき『待ち伏せ警戒で私が先頭、ブラックはバックアタック警戒で進むわ』と書かれたそれを見て二人は再び肯定の合図を出したのだった。
広いエリアに到着し、モンスターの非POPエリアであることを確認すると其々て身近な場所に腰を下ろし疲れた体を少しでも休めようと息を整えていた中、タカミヤは歩いてきた道を見下ろしていた。
(さて、向こうさんもお疲れみたいだし仕掛けてみようかしら)
考えを纏めると水筒を何本か取り出すと、ブラック達に一言告げる。
「ちょっと彼らに仕掛けてみるからそっちの迷探偵に事情を説明しておいて」
「ああ、気をつけてな」「あんまり無理しないでね?」
「な~に、お疲れの彼らに水を分けてあげるだけよ」
そしてタカミヤは来た道ではない荒れ道を素早く進んでいく、タカミヤが山を下った理由を手早くホームズとカノンに告げると二人の表情はとても緊張したものになった、ブラックは尾行を何処かで撒く為にも洞窟か穴蔵かなにか隠れる場所を探すために道を一旦外れる提案し残りのメンバーもそれに頷き素早く移動を開始した、獣道を歩いた先で洞穴があるのを見つけたブラックは素早くその洞穴に潜り込めと他のメンバーを促し、タカミヤから予め何個か貰っておいたハイド効果のあるアイテムを取りだし、洞穴の入り口に『カメレオンシャッター』を取り付け洞穴の入り口を保護色で隠蔽すると自分も素早く潜り込み中からシャッターの隙間を埋め音を立てないように気配を圧し殺した。
洞穴に隠れて小一時間が過ぎた所で鎧が軋む音と重い足音が響き渡ってきた、外の様子を確認するために入り口付近にまで近付き気配を押し殺して息を潜めると、恐らく先程まで尾行してきていたと思われる集団のようだ、隠蔽アイテムで洞穴を隠してはいたが念の為ブラックは他のメンバー達に合図を送り見つからないように洞穴の奥に再度戻り、彼等の会話を聞き取る為に耳を澄ませていたらとんでもない情報が舞い込んできた、彼等の会話から判明したのは姫様誘拐の首謀者は大臣で、いずれ自分達に何かしらの罪を被せて姫様もろとも殺害し国の実権を掌握しようとしていたこと、その時に秘密裏に入手した北の隣国の兵士の鎧を使い姫様の殺害の犯人は北の隣国であるとし仇討ちを理由に侵略しようとしているなどの事だった。
「こいつぁとんだ大事件だな」
「きっとワトソン1に接触されたことに驚愕したことで口や心が弛くなっていたんだろう、思わぬ収穫だ」
「でも変じゃない?」「そうよねぇ」
「「??」」
ブラックとホームズには分からなかったがカノン達には何かしらの違和感があるらしい、二人の考えが纏まるのを静かに待つと、カノンが手を叩いて何かを閃いた。
「そっか!、誘拐犯の情報が全然一致しないのと何故か南側でしか情報が集まらないのも大臣の差し金で、きっと姫様の閉じ込めてる場所は北側なんだ!!」
「「「!?!?!?」」」
カノンが行き着いた答えに皆驚愕が走り、尾行者達の重装備の意味も少なからず納得出来るものになってきた事でホームズは自分が行き着いた推理を皆に話し、各々の意見や推理を照らし合わせて行く、そして彼等がたどり着いた答えは。
「この山の何処かに姫様が幽閉されていて、私達がこの洞穴を隠した様な隠蔽アイテムを用いている可能性が高い、彼等の重装備も私達が姫様を見つけてしまう前に幽閉場所の移動もしくは私達と一戦交えるためだと考えられる、これに異論は?」
「いや、十分納得できる」
「可能性は無くはないわね」
「そだね、この山を徹底的に調査するには十分過ぎる可能性だよ」
「ではワトソン1が戻り次第この調査方針で行動しよう」
皆が頷き山の調査に意気込んでいるその真後ろに
「もう帰ってきてるし、その答えで合ってるみたいよ?」
「「「「!?!?!?!?!?!?」」」」
驚きのあまり心臓が口から飛び出そうになったが皆揃って声を出さないように慌てて口を手で塞ぐと、すぐ後ろに立っていたタカミヤに恨みがましい目を向けた、タカミヤはそこまで驚く程に推理に集中していたのかと思いゴメンゴメンと皆に謝ると。
「この山、私達とさっきの集団以外にも人が要るみたい」
「そうなの?」
驚愕から素早く立ち直ったのはカノンだった、タカミヤとの付き合いも其なりに長いので急に驚かされるのにも少し慣れているのだろう、だからカノンは代表しmで皆の疑問をタカミヤに確認した。
「エリアサーチで確認できたこの山にいる人間は13人、私達が5、さっきの集団が6、あとの2人は未確認だけど冒険者でないことは判明してる」
「その二人が」
「もしかしたら姫様と見張り番かもしれないわね、でも今日はもうよしておいた方がいいわ」
「え、何で?」
カノンの問い返しにタカミヤの標準はかなり渋いモノとなり、言うかどうかを悩んでいたが。
「この山、ホームズがこの前言ってた様にウィルスモンスターらしきものが夜な夜な徘徊してるらしいのよねぇ」
「うへぇ、マジか」
「お姫様の救出が先か感染した魔物の退治が先か、って言われたら」
「危険だしお姫様の救出が先だよねぇ・・・」
「そういうことね、それに戦闘してる間に姫様を連れ出されちゃったら次のチャンスがいつになるか分からないし、ウィルスモンスターはまあ、専用特技で一応見つける事ができるしね」
「むぅ、仕方ないが今夜は明日に備えて準備を整えて休むとしよう」
「そうだな」
夜の見張り番を決め、彼等は翌日の調査に向けて早めに就寝した。




