~19~
オルソンがサキュバスっぽいモンスターに教われた翌日
「旦那、いくら可愛いっつても下半身クモのモンスターに盛るのはどうなのよ」
「オルさんサイテー」
「違う!!!これはちがうのだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
ブラックとレディに蔑んだ眼で見られ涙眼で必死に無罪を主張する構図は中々シュールだったので、タカミヤはそのモンスターが《大峡谷エリア》を進むのに必要な友好モンスター(NPCキャラでもある)であることを説明し、取りだした『マナウォーター』の栓を外すとそのモンスターの口に瓶をぶちこんだ。
****『マナウォーター』******
MP回復薬(20%くらい)
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「おいおい、女性にはもっと優しくしなきゃあかんぜよ」
「強引ねぇ、もっと優しく扱わなきゃあ」
「いやですがモンスターですし・・・・」
オルソンは昨夜気付かなかったがこのモンスター、下半身というか腰の下辺り、足の付け根辺りから蜘蛛の体になっているのだ、朝になってオルソンはそれに気付き思わず叫んでしまったことでブラックとレディを起こしてしまい糾弾される羽目になってしまったのだが、無罪には違いない。
モンスターは一応起きていたのか瓶の中身を飲み干すとのそのそと起き上がり
「うぅ~、これじゃつまんないー、性気が足りないよ~」
「はぁ、あんま調子に乗ると退治するわよ」
「もう、こっちのお姉さんは怖い怖い、ねぇそうおもわない?」
「///え!!いや自分は!!///」
睨み付けるタカミヤから逃げる振りをしつつオルソンにしなだれかかり何やら艶やかな動作でオルソンの体を撫で回すモンスター、タカミヤは溜め息を付いてオルソン達を放置してブラック達にこのモンスターの説明をはじめた。
「彼女は『ブラックウィドー』サキュバスとアラクノフォビアの合成魔物ね」
「また意味わからんハーフだな、どうしてそうなったんだか」
「ウチの上司が『エロスなイベントを作りたい』と叫びはじめて企画が出来て、ダンジョン選択で何故かココになって、何故か山なのにサキュバスでどうやってダンジョン攻略を手伝うのかになって、じゃあ蜘蛛を混ぜようと、で、あれよ」
「なるほど、で、あれか」
「そもそも、なんで企画通ったんです・・・」
「深夜3:00の会議だったからねぇ・・・皆ネジが外れてたんでしょう」
「深夜ノリ全開かよ、そりゃ通るわ~」
あらかた説明を終えたタカミヤはウィドーにこのキャンプエリアに訪れた理由を聞いたところ、山の入り口に仕掛けておいた糸に反応があり、久し振りに食事(冒険者の性気(MP)を吸う)にありつけると思い山を急いで下ってきたのだという、しかしオルソンに必死に抵抗されMPが尽きて空腹で倒れたとの答えが帰ってきた、元々このダンジョンは冒険者の往来が極端に少ない場所でありマナにありつけないでいたらしい。
「・・・それはそれでどうなのよ、アラクノフォビアが混ざってるんだから野生動物食べるとか何とでもなるでしょうに」
「残念でした~♪、混ざってるのは10%位なので糸吐く位しかできませ~ん」
「ていうか冒険者に夜這いかけたら退治されんじゃね?」
「ゲームだった頃は許可貰って堂々とおそってたわよ・・・」
「・・・ほんと、なんでこんな中途半端なの作ったんでしょうね」
未だに襲われそうになっているオルソンを担ぎ上げ、タカミヤは山を登り始めた、キャンプセットを片付け終わったブラックとレディ、カノンとアルンもその後をゆっくりと付いていく、ウィドーは特に気にせず担がれたオルソンにちょっかいをかけているが、担がれたオルソンは必死に抵抗してバタバタと騒がしい、ブラックには呆れられレディには溜め息を吐かれ、カノンは何があったのか良く理解していない状況だった。
それから2時間かけてようやく《大峡谷エリア》へと到着した面々はその雄大なエリアに感嘆の声をあげる。
「故郷のグレートキャニオンを思い出すような絶景だなぁ」
「ホントね、これが《アラバスタ大峡谷》」
「ふわぁ、凄い山々」
「あの・・・戦姫どの、いい加減下ろしては頂けませんか?」
「ん、忘れてた」
「担ぎ上げといて!?」
オルソンを地面に下ろし、川沿いをゆっくりと進んでいくと川が深くなり道が無くなっていた、だがタカミヤは特に気にせず辺りをキョロキョロ見回すと、崖の上を指差して。
「ウィドー、あの辺りに糸の梯子をかけてちょうだい」
「いいけど、マナが足りないよ~」
「これでも飲みなさい」
ポケットから新しいマナウォーターを取り出してウィドーに渡す、ウィドーも不満そうな顔をしてはいるがマナウォーターを大人しく飲むと、ウィドーはタカミヤが指差した場所を睨む様に見つめると思い切り息を吸い、次の瞬間、口から糸を吐き出した。
タカミヤの注文通りに崖上に糸の梯子を作り出したウィドーは脚をワシャワシャ動かしグモモモモと妙に気持ち悪い変な足音を響かせながら崖を上っていく、タカミヤ達も糸の梯子を順々に登り(メンズファースト)最後にタカミヤがその他の荷物(キャンプセットやカノンの荷物、糸の梯子を上るには重量が重すぎる)を全て担いでカノンが設置したワイヤーロープを1人登っていく、崖上まで着くと既に他の面々は崖上にあった洞窟への侵入準備をしているところだった。
「さて、じゃあローテの確認ね、トップがブラックとレディね、そのスーツの効果を活かして索敵をお願い」
「おう、任された」
「次にオルソン、ウィドー、カノンの順、私も何だかんだで『暗視』が使えるから私が後尾を担当するわ」
「1つ宜しいですか?」
「どうぞ、オルソン君」
手を上げて質問をしてくるオルソンを指差して先を促し話を聞くと、何故『照明魔法』や道具を使わないのか?という事らしい、それに対しタカミヤは洞窟内のモンスターの特徴を教え、この洞窟内は明かりに反応してモンスターが出てくると説明した、オルソンは納得したようだったがタカミヤはソコへもう1つある事を付け足した。
「このダンジョンのスライムって、天井からいきなり降ってくるのよね~」
「おう、ファインの予かごぶらば!!」
「あんたが真っ先に被害にあえ!!」
期待に胸踊らすブラックを殴って諌めるレディ、オルソンもスライムが降ってくると聞いて表情が険しいなか、何故かウィドーだけは恍惚の表情で。
「///あぁぁぁぁ~ん♪、降ってくるスライム、舐め回される肢体、そして|×××××××××××(ばきゅんばきゅーーん)あぁぁん!!ステキっ!!!///」
「やめい!!、発言禁止ワードに引っ掛かってる!!」
発言禁止ワードは基本テキストにしか反応してなかった筈だが、何故か音声にまで反応し始めるという荒業を身に付けたのかウィドーの発言は途中から全く聞こえなかった。タカミヤはとりあえずウィドーにゲンコツをお見舞いし余計な真似をしないように注意を促し、準備を整えて洞窟へと入っていった。
急なモンスターとの遭遇を警戒し洞窟内を進んでいくメンバーは、タカミヤのパチンと指を鳴らした静止の合図で立ち止まる、辺りを警戒しつつも最後尾のタカミヤの回りに集まると。
「そう言えば、もう1個ウィドーが居ないとダンジョン攻略が難しい理由忘れてたわ」
「ん?、さっきみたいに糸を吐いてロープをかけてもらうのか?」
「理由は見た方が早いわ、ウィドー、貴女ちょっとその先に1人で進んでちょうだい」
「ん?いいよ~」
ウィドーは特に気にせずグモモモと相変わらず気味の悪い足音を鳴らしながら歩いていくと、何やら妙なモノに引っ掛かった。
「あ、これ別の蜘蛛の巣だ、ってっきゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「「「「!!!!!」」」」
「アレがウィドーが居ないとダンジョン攻略出来ない理由よ」
メンバー達が見たのはとても巨大な大蜘蛛(どこかの指環持ちのホビットさんが騙されて襲われたようなヤツの1.5倍増位の大きさ)だった、巣に掛かったウィドーをドシャドシャと足音を響かせながら連れ去って行く、その様子を特に気にせず眺めるタカミヤとダンジョンの仕掛けを知らなかった面々達は只そのまま立ち尽くしていた、だが、正気に戻った面々に。
「って姐さん、ウィドーもってかれたぞおい!!」
「どどどどどうするのよ!?!?」
「早く助けにいかねば!!」
「あれがこのダンジョン最大のトラップ、ゴーヴァよ」
「「「「ゴーヴァ??」」」」
*********《ゴーヴァ》**********
一部のダンジョンに存在する退治不可能なイベント魔物
このダンジョンでは蜘蛛の姿だがダンジョン毎に姿が違
うので注意が必要。撃退できないイベントモンスターは
大体対処法がそのダンジョン内に存在する。
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「つうことは、ウィドーを囮にゴーヴァを引き付けといて先に進むのか?」
「?、そんなことはしないわよ、戻ってくるまで待つわよ」
「え?、でもさっき」
ブラックが訳が分からなくなり首を傾げているとグモモモと足音を鳴らしながらウィドーが戻ってきた、ウィドーに特に怪我は無く何の問題も無さそうだった、だが全く何が起きたのか分からない面々達はこのダンジョンの仕組みを知っているらしいタカミヤに説明を求めると、タカミヤはウィドーに説明を促した。
「よくわかんないけど、あの大蜘蛛に気に入られちゃったみたい」
「この洞窟内はあのゴーヴァの巣が大量に張ってあって進めないのよ、火で巣を焼こうものなら喰い殺されるし、まあウィドーも何だかんだで言って蜘蛛だから」
「ええと、つまりどういう事??」
「本人が10%しか混ざってないって言ってたけど何だかんだでウィドーも雌蜘蛛ってことよ」
「あ、なんか分かった気がする」
※ウィドーの蜘蛛部分は雌の蜘蛛の種類(雄も一応は居る)で、雄の蜘蛛は雌蜘蛛の匂いやフェロモンに弱い。
「つまり、このゴーヴァの巣窟を抜けるにはウィドーにゴーヴァを説得してもらう必要があると言うことよ」
「私がこの洞窟を抜けたいっていったらあの大蜘蛛、この洞窟内の巣は外しておいてくれるって~」
「と、言うわけよ」
「「「「あ~、なるほど」」」」
と、ダンジョンの仕掛けを理解したメンバー達はタカミヤの指示通りウィドーを先頭に洞窟内を進んでいく、途中天井からスライムが降ってきてウィドーが放送禁止状態になってオルソンが鼻血を吹いて倒れたり、レディのスーツの中に入ってブラックが鼻息荒くレディのスーツに手を入れてまさぐったりとしながらも、なんとか洞窟を抜ける事に成功した、いつから居たのかゴーヴァがウィドーを見送って脚をモシャモシャ動かしている様は中々にレアな光景と同時にかなりキモかった。
「いつから居たんだあのデカ蜘蛛」
「最初からずっとよ」
「「「「「え!?」」」」」
「最初からずっと天井でワシャワシャいってたわよ?」
「知らなかったです」
「下手な動きを見せると次の瞬間ゴーヴァに首チョンパで喰われて近くの復活ポイントで復活」
「なにそれ、メチャクチャ怖い」
「撃退不可能なイベントモンスターは大概そんなのが多いわよ」
終わった後になってその説明をされたのが余程恐怖だったのかメンバー達は全部キチンと聞くので事前に説明求むと強くタカミヤに訴えていた、タカミヤは説明不足を謝り気を付けるとメンバーに告げる、その後もモンスターとの遭遇もすくなく、ウィドーに糸梯子をかけてもらった崖上にあるキャンプエリアで二日目のダンジョン進行は終了することになった。
~その夜~
タカミヤは見張り番を担当し休憩エリアの入り口付近(雨風を凌ぐ洞穴の奥にテントを設置した)で静かに空を眺めていた、雲は無く月明かりが綺麗に降り注ぐ中。
「?、・・・・・・影?」
月に影が映り込んだ様な気がしてタカミヤは月を睨み付けるが影の招待は判明しなかった。




