24.才能
プチ
ディアナさんは私の右手の人差し指を針で刺した。
「ほら、この紙に指を押し当ててごらん」
もし、もしも魔法が使えたら……
いったいどんな気分なのだろうか……
少々の期待を乗せて、名刺程度の大きさの紙に人差し指を押し当てる。
「………………」
「これは……」
「あちゃあ……」
「残念ながら、才能ナシってとこかね!」
紙には何も変化が起きなかった。
私の血がぽつんとついているだけ。
「はぁ……」
がっかりだ。
ほんのひとつまみ程度の期待のつもりが、心の奥底では随分大きな夢を描いていたらしい。
ディアナさんのあっけらかんとした物言いに、大きく肩を落とした私を見て、皆が口々にフォローを入れる。
「ユウナ、あまり気を落とすな!魔力量が冒険者としての才能ではないんだ!」
「ベルンなんて魔力量があってもただの持ち腐れだぞ」
「そ、そうだぞ!俺が魔法なんて発動しようとすりゃあ、味方まで一網打尽だ!」
「アンタら、励ますのが下手だねぇ……」
ため息をついたディアナさんを見て、ちょっと泣きそうになる。
「失礼いたしました。
少し期待してしまいましたが、まぁ予想通りですね。
ちなみに、魔力がある場合、この用紙はどのように反応するのでしょうか」
「あ、あぁ……ちょっと待ってろ」
そう言ってベルンさんが追加で用紙を持ってきた。
それぞれ指先を針で差して、用紙に血を押し付ける。
私が見えやすいようにだろう。
皆はその用紙をテーブルに置き、私の前まで滑らせた。
押し付けた血の周囲に、じんわりと模様が広がっていく。
まるで血の跡から木の枝が成長していくように上下左右まんべんなく広がっていく。
ベルンさんの枝は黄色で、用紙の半分強を染め上げたところで、その成長は止まった。
リオンさんの枝は赤色だ。
同じようにゆっくりと枝が伸びているが、こちらは用紙の7割ほどを染める。
フェルさんの用紙には緑色の枝が広がっているが、間に青の線も交じっている。
こちらは8割ほどといったところで止まる。
「わぁ……綺麗……」
驚いたのはディアナさんだった。
用紙全体に模様が広がっている。
赤がメインの色だが、間に黄色や緑が混じる。
少ないが青の枝もあるようだ。
「これは、属性との相性を色で判断できる用紙ということでしょうか……
大きさが違うのは……魔力量……?」
「さっすがユウナ、理解が速いね」
「ディアナほどの反応はとても珍しい。
相性についてもそうだが、ここまで大きく広がるということは相当な魔力があるということだ」
フェルさんの言葉に顔を上げる。
「この紙きれは魔力判別紙といって、これも一つの魔道具だ。
魔力に反応する植物から作られている特殊な道具だ」
「魔道具……」
「興味深そうな顔をしているな。
フッ……魔道具については2種類ある」
私の顔を見て一瞬ほおを緩めたフェルさんが説明してくれた。
「一つは、魔力を繰り返し充填すれば何度も使えるもの。
この部屋のランプ、あれがそうだ。
『密談の灯り』あれを使うと、その空間が魔力の膜で覆われ、外に声が漏れなくなる。
扉を開けると効果が中断するが、扉を閉めればまた効果が再開される。
あれには魔力が充填してあって、それが尽きれば効果は消える。
だが、魔力さえ充填すればこの魔道具が壊れるまでその効果を享受できる」
昨日から使用していた密談の魔法とやらはあのランプが発動していたのだ。
魔道具という言葉から何となく察していたが、言葉で説明されるとやはり不思議だと再認識してしまう。
「もう一つは効果が一度きりで使い捨ての物だ。
昨日ベルンが渡していただろう。
『残響の鈴』ガラス玉を壊すと、対になっている鈴が鳴る。
ガラスを壊した場所には魔力が残滓となって残り、
鈴を持っているものはその音の響きでガラスを壊した場所を探すことができる」
「魔力をエネルギー……電池だとすると、充電式のバッテリーと使い捨ての電池の違いで良いのかな……?
まって……これは……結構高価なものでは……」
フェルさんの言っていたことを咀嚼して一人でブツブツ言っていたが、きっとこれは伝わる内容ではないだろう。
ただ、色々と考えていて魔道具とやらの価格について行きついて背筋が凍る。
「これはそんなに高いものではないよ。冒険者の中ではよく使われるものでもある。
外ではぐれたりしたときに便利なんだ」
リオンさんがそうフォローを入れてくれて少し安心した。
「魔道具については色々あるから、高いものもあれば手ごろなものもある。
いずれユウナも何か欲しいものがあれば買えばいい」
「私も……魔道具を……
はい!がんばります!」
この世界は未知の楽しみで溢れている。
「よし、じゃあ次はギルドの話でもすっか。
依頼の受け方だ」
「依頼……お仕事ですね!」
「やる気だねぇ」
「ああ、まず依頼というのは様々なところから受注する。
個人での依頼もあるが、商業ギルドや職人ギルド、貴族からの依頼もある。
依頼者は、依頼書を書き保証金を受付に預ける。
受付はその依頼内容と保証金に問題が無いかを確認し、問題なければ受付完了だ。
もし依頼が達成できなかった場合は、その保証金は返却される。
達成された場合はその保証金から手数料を差し引き、冒険者に支払われるという仕組みだ」
依頼を終えても報酬がもらえないという事態にならないための保証金なのだろう。
先払いシステムとはこちら側に安心のシステムのようだ。
「冒険者が金を稼ぎたいと思ったら、まずはこのギルドに足を運ぶ。
1階の受付付近には掲示板があってな、そこに受注待ちの依頼が貼り出してあるんだ。
それを見て、自分ができそうなものを探して受付に申し出る。
受付がその冒険者のランクや実績をみて、問題なければ受注完了だ」
昨日の説明では実力に見合ってないと判断されれば受けられない場合があると聞いたが、そういった場合はきっとここで弾かれるのだろう。
「冒険者はその依頼書通りに仕事をこなす。
終わったら報告書を受付に提出して、報酬をもらって完了、って流れだ。
依頼内容は多岐にわたる。
採取依頼、護衛依頼、魔物討伐……ユウナができそうなのは採取依頼とかだな。
この近辺でとれるものと言えば報酬はあまり高くないが、ちゃんとこなしていれば生活はできるだろう。
たまに面白い依頼も出てるから、こまめに覗くと良い」
「俺は昔、パン屋の店番とかいう依頼を見かけたことがあるな」
腕を組んで懐かしむように言ったのはリオンさん。
「私は逃げた飼い猫を探してほしいという依頼を見た」
フェルさんも顎に手を添えて思い出すように呟く。
「アタシは絵のモデルってのを見たねぇ。
受けようと思ったがもう他の依頼を受けちまっててね。
あれは残念だったよ」
ディアナさんがモデルなら素晴らしい絵になったに違いない。
相手方もこの事実を知れば残念がっただろうなとクスっと笑いが漏れる。
「店番や猫探しなら、私でもできそうですね」
「ああ。案外楽しいものだよ。冒険者というのは」
リオンさんが優しく微笑んでくれて、皆もフッと小さく笑いを漏らした。
きっと今までたくさんのお仕事を受けてきて、色々なことがあったのだろうな。
私も、せっかくここで生きると決心したのだから、たくさん働こう。
積極的にお仕事を受けて、色々な人と話して、いずれ自分の足でしっかりと立てるように。
そう気持ちを新たに引き締めたところで、気になっていたことを質問しようと手を上げた。
「昨日、依頼の達成と完了という言葉を分けて使っておられましたが……
『達成』は目的通りの結果が得られた、『完了』は期限切れ等で目的通りの結果が得られなかった場合も含んでいる……という認識であっていますか?」
「ああ。そのとおりだ。
冒険者が途中で依頼を降りることもあれば、死んで達成できなかったなんてこともある。
その場合は期日内なら別の冒険者を差し向けるか、依頼者に保証金を返却して終結だ。
依頼を放り出したり、諦めるようなことを続けているとペナルティが課せられる場合があるが……
……もし死んでしまいそうな危険があるなら、迷わず依頼を諦めろ。いいな」
ベルンさんが突然声を低くした。
目が真剣さを物語っている。
声にも目にも威圧感すら感じるが、きっと私の身を案じての事だろう。
「はい、でもそんなことにならないよう、まずは自分の身の丈に合った依頼を受けるようにします」
「ああ、そうだな。
それに何か困ったことがあればすぐに相談してくれ。
受付の人間でもいいし、俺やリオンやフェル、ディアナにでもいい」
「はい、ありがとうございます」
緊張感が解けてベルンさんが優しく微笑む。
皆の優しい視線が、むずがゆくも暖かい。
「さぁて、一通り説明は終わったかい?」
「ユウナ、一つ依頼を受けてみないか?」
ディアナさんとリオンさんの言葉に、何度も大きく頷いた。




