22.もしも魔法が使えたら
「ちなみだが……当時はまだギルドは無くてな、冒険者の仕事としては個人間のやりとりが主流だったんだ。
トラブルも多かったらしい。
そこで、件の冒険者が中心となっていまのギルドの体勢が作られた。
そこからここアーベントは冒険者の街として栄えるようになったんだぜ」
少し重い雰囲気になったところで、ベルンさんが空気を変えてくれた。
「ギルドっつーのは職業組合で、ここは冒険者のための冒険者ギルドだが、ほかにも商業ギルド、製作者職人ギルドなんてものもある」
「……複数のギルドに所属することはできるのですか?」
「いいや。それは出来ねぇ。だが、変更することはできる。
ある程度の実績や紹介が必要になるがな。
もしギルドを移りたいなら、相談してくれてかまわねぇぜ」
「そんなつもりで聞いたわけではないので、大丈夫です!!」
慌てる私の背後から、ノック音が響いた。
「私だ」
フェルさんの声だ。リオンさんが席を立って扉を開いた。
「遅くなってすまないな」
そう言って入ってきたフェルさんは、私のソファの横で立ち止まった。
「ユウナ、これを」
差し出された包みを、私も立ち上がって両手で受け取った。
「君の大切なものを持ち運ぶためにも必要だろう。
以前買ったが、使っていなかったものだ」
包みを開けると、シンプルなベルトポーチだった。
私がアクセサリーを入れた袋や、認識票を手に握りしめて移動していたのを見て、用意してくれたのだろうか……
正直に言うと、とても助かる。
「俺からもあるんだ」
そう言ってリオンさんの手には手のひらに収まるサイズの本。
「俺が昔使っていたもので、薬草について書かれた本だ。
これから仕事をすることになるだろうが、採取依頼が多くなるだろうからな。
見た目も絵がついていてわかりやすいし、特徴なんかも書いてある。
これを持っていけば役に立つだろうと思う」
革の装丁の、手のひらサイズの小さな本。
パラパラとめくると、所々追記されたような走り書きがある。
「ありがとうございます……あの……でも……」
声が小さくなる。
どんどん頂き物が増えていく……
何も持たずにこの世界に来てしまった私とっては、とても、助かる。
仕事を始めるにも先立つものが必要だ。
道具を揃えたり、収入を安定させるまでの日々の生活にもお金はかかる。
生きているだけで、お金は必要になるのだ。
それは理解している。
いつか必ず返そうとは思っているが、それにしても甘えすぎなのではないか。
そう不安になるが、現状、必要なものなのだ。
一文無しの私には、これを断ったとて代替案が何もない。
「ありがとうございます!大切に使わせていただきます!」
フェルさんが椅子に腰かけるのを確認して、ベルンさんは話し始めた。
「次は、この街の中のことについて説明しよう。
この街は中心部に領主の住む館があり、その周辺は貴族の屋敷や大店の商人の店や住居がある。
そして、そのさらに外側が俺たち庶民の生活圏だ。
俺たちのような庶民が貴族の住むエリアに入りこめば悪目立ちしちまうから、あまり中心部には近づかねぇほうがいいだろうな。
ちなみにここのギルドは貴族エリアと庶民エリアの境あたりにあるから、迷わねぇように気を付けるんだぞ」
「はい。街の造りを覚えるまでは、知らない場所にはいかないように気を付けます」
「あと、ユウナの世界には魔法が無いんだったな。
ディアナ、頼めるか」
「じゃあ、まずはどんな魔法があるかを種類別に説明しようか。
魔法は基本的に火、水、風、土の4つの属性に分けられる。
人間にはこれらを操る潜在的な能力があるんだが、どの属性をどの程度操れるのかは生まれ持った適性に大きく左右されると言われている。
つまり、属性によって、得手不得手がわかれるものでもあるんだ。
どれか一つしか使えないというわけではないんだけどね、複数の属性を使いこなすとなりゃあ相当なセンスが必要となるね」
「なるほど……剣士と仰っていたリオンさんも、魔法を使っていましたよね?指でこう…焚き木に火を……あれも魔法なのでしょうか?」
「ああ、そうだ」
「ならばリオンさんは火の魔法が使える、剣士さんと言うことに……?」
「そうだね。火の適性がある、魔法剣士だ」
「魔法剣士……」
「ちなみにフェルは風と水の適性があるね」
「ああ、確か馬のお水を……」
「風と水の適性がある、魔法射手だね」
「魔法射手……」
未知の知識に頭が思考を止めそうになる。
「そういえば、ディアナさんやアピスさんは魔法士と仰っておられましたが……
魔法を専門としている職業、と認識していいのですか?」
「私は火、水、風、土、4つの適性がある魔法士だよ」
「複数の属性を使いこなせるということは……もしかして、その相当なセンスの持ち主ということなのでしょうか?」
「流石だね。その通りさ。
まぁ、水属性なんかは苦手ではあるんだけどね。
基礎的な魔法は一通りってとこだね」
「ベルンさんは……?」
「俺の適性はまぁ、土なんだが……」
視線をベルンさんのほうへ向けるが、なぜか明後日の方を向いて気まずそうに答える。
リオンさんとフェルさんもなんというか、先ほどまでとは違い、微妙な反応だ。
「あっははは!ベルンはねぇ、魔法が苦手なんだよ。
適性も魔力量も問題ないんだけどねぇ、コントロールが苦手で、使いたがらないんだよ。
魔法を使わずにただの槍で魔物を蹴散らす、フィジカル馬鹿なんだよ!」
抑えられない笑いを隠すわけでもなく楽しそうに言うディアナさん。
「使えるけど使いたくない、ということなんですね……
その場合は……槍の戦士……?」
「槍手だ!ただの槍手!」
ただの槍でも扱えるだけすごいことなのでは……と私は感心しているのだが。
自棄になったように言ったベルンさんに、申し訳なくなり、別の質問をしてみた。
「そ、それでは魔力量というのは……?」
「魔法を扱うための体力みたいなもんだ。
鍛錬して増やすこともできるが、基本的にはあまり変わらない。
これも生まれ持ったセンスだと言われてるね。
魔力量が少ないと、攻撃系の派手なものは使えない。
魔力量が多いと、威力の高い魔法も扱える。
まぁ、高いに越したことはないねぇ」
「なるほど……
どれくらい生活に根付いているのかが気になっていたんですが、魔法が使えなくても問題なく生活はできるものなのでしょうか?」
ずっと不安だった部分を聞いてみた。
「ああ。大丈夫だよ。
冒険者の中でも魔法がほとんど使えない奴もいるし、農民なんかは魔力がほとんどないなんて人もいるんだ。
ユウナが使えなくても、普段の生活には何の支障もないよ」
「よかった……」
欲しい言葉を聞けて、ほっと息をつく。
「折角だ。量ってみるか?」
「そうだな!何か適性があるかもしれない!」
「早めに調べておいて損はないだろう」
ベルンさんが歯を見せて笑っている。だが──
「……自分にそんな力があるとは思えません」
元の世界で病院にかかったこともあるが、そんな数値は聞いたことが無い。
この世界の人間とは体の造りが違う可能性だってあるのだ。
「まぁまぁ、いいじゃないか。
試してみるだけ、やってみなよ!
もし魔力があるなら、アタシが手取り足取り、教えてあげるよ」
ベルンさんが小さな紙きれを持ってきた。
ニコニコと左手を差し出しているが、右手には針を持っている。
「あの、その針……」
「大丈夫だ、ちょっと、一瞬、チクっとするだけだ」
「アンタが言うとなんだかいけないことしてるみたいだねぇ……」
「ああ。見た目がもう……な……」
「完全に犯罪者だな」
「何だよ!!お前らも賛成してたろ!」
助け舟かと思いきや針がディアナさんに渡った。
「ほらユウナ、おいで」
「うぅ……でも……」
「大丈夫。アタシを信じな。女は度胸!だよ!」
もし魔法が使えたら……
私にも……
そんなことはあり得ないと思いつつ、ほんの少しの期待が頭をよぎり、右手をディアナさんへ差し出した。




