21.閑話/リオンとユウナ
『Ep.10.怒っているわけじゃない』の間の出来事と、ユウナとリオンの会話を聞いていたフェルとベルンの視点でのお話です。
皆が起きだしてユウナを紹介する。
朝食を終えて片付けとなったところで、アピスとユウナが治療のため遠ざかったのをしっかり確認し、ベルンが口を開いた。
「それで?なんだ、あれは」
「ああ。嘘につき合わせてすまない。
昨晩、2人も聞いていただろう」
フェルはユウナが魘される気配で目を覚ましていた。
ベルンも同じだ。俺が立ち上がった瞬間、意識を覚醒させたのを気配で感じていたのだ。
「この世界の人間ではないとか言っていたな」
フェルの眉間にしわが寄る。
普通なら、信じない話だ。
けれど──
「…………何か、心当たりがあるのか?」
ベルンが俺に問いかける。
「ああ。ただ、理由がわからない。
それはこれから探ろうかと思っている。
もし俺の仮説が本当ならば、情報の統制が必要な事態になるかもしれない。
ユウナは保護する必要がある。」
「なるほどな……アピスに知らせるべきじゃねぇ、ってことか」
「ああ。ただ、ここでは話すのは避けたい……
街に戻ったら俺の仮説を含めて話したいと思っているんだが、このまま身元不明者として衛兵に引き渡してしまえば、厳しい尋問を受けるかもしれない。
そこで、ベルンに頼みがある」
フェルの眉間の皺が深くなる。
「ベルンに、身元保証をお願いしたい。
その後は俺がしばらく面倒を見てやろうと思う」
俺がなってやりたいが、それが今後不利に働く可能性がある。
なんとか彼女を街に入れるため、頭を下げた。
「お前……」
フェルが嫌悪の表情を滲ませた。
「違う。
……ずいぶん憔悴はしていたが彼女はとてもいい身なりをしていた。
それが、あんな姿で、生きることを、諦めたような顔をして……
なんとかしてやりたいと思ったことは確かだ。
だがそういった感情ではないんだ。
気になることがある。嫌な予感がするんだ。
それをしっかりと確認するまでは、無暗に彼女をほかの人間に接触させたくない。
それに、彼女は嘘をついていないと思う。
それは2人も察しているんじゃないか?」
「…………」
「…………はぁ、わーったよ。
彼女を無事街に送り届ける。
んで、ギルドで保護して、ある程度の体裁を整えてやる。
その間、お前はその心当たりとやらの確証を取りに調査する。
これでどうだ?
独身の男に若ぇお嬢さんを囲わせるなんてさすがに気が引ける!」
「ああ。すまない。たすかるよ」
「構わねぇさ。
あのお嬢さんはワケありってことには違ぇねぇが、なんか企んでそうかと聞かれりゃぁその気配は感じねぇ。
どちらにせよ保護して街に連れていく段取りだったんだ。
お前がそこまで言うんなら、保証人にでもなんでもなってやるよ」
「ありがとう、ベルン。
フェル、お前も不満だろうが……」
「構わない。ギルマスの決定だ。ただ……恋慕の類ではないんだな?」
「ああ」
「ならば私から言うことはない」
「そうか……ありがとう」
深夜。
警戒していた女性に変化の気配がした。
呼吸に変化がないように、体を動かさないように、脳だけをしっかり覚醒させる。
魘されているようだ。
リオンが立ち上がり様子を見に行ってすぐ、落ち着いたようだが、しばらくするとまた魘され始めた。
しばらくのやり取りの後、リオンの誠実さが伝わったのだろう。
彼女は警戒心を緩めたようだった。
リオンは良いやつだ。誠実で誰にでもその優しさを向ける。
見目も良く、爽やかで凛々しい顔立ちに男らしい体つき。街の若い女性たちからの人気も高い。
彼女が心を許すのもわからなくもない。
ただ、その彼女が耳を疑うような話を始めた。
この世界の人間ではない……と。
彼が私と出会う前、どこから来たのか、どんな生活を送っていたか。
そういった話は一切したことがないが、私はリオンとの付き合いが長いため、彼の本来の警戒心の強さと慎重さを知っている。
過去についても、なんとなく見当はついている。
彼は彼で、内に何か底知れない闇を持っているのだ。
だからこそこの女性の一言に、リオンがなんと返すのかが気になったのだ。
怪しくも感じたが、リオンは何か心当たりがあるようだった。
同時に、自分の胸にも引っかかりをおぼえる。
彼女の顔立ち、装い、元の世界とやらの話。
リオンが思い当たった節ももしかしたら自分と同じ部分なのかもしれない。
いや、でも……と延々と思考が行き交う。
結局それは朝まで続いた。
身支度を整えていると再び眠っていた彼女が目を覚ました。
こちらをじっと見ている。
またか……
自分の見目が整っていることは嫌というほど自覚している。
この顔のせいで散々嫌な目に合ってきた。
彼女も今までと同じか……
少し落胆した自分に驚きながらも挨拶を済ませる。
裸足の彼女に、間に合わせの靴もどきを作ってやった。
挨拶の後からなるべくこちらを見ないようにしていた彼女は驚き、喜びをかみしめるように控えめにほほ笑んでいた。
余計なことをしてしまったかもしれない……
しかしその後も彼女は普通だった。
無駄にべたべた纏わりついたり、やたらとこちらに話を振ったり、ちらちらと熱い視線を向けるようなこともない。
他のメンバーと同じ態度で接してきた。
考えすぎだったのか……と少し警戒を緩め、昼食を終える。
そうしてリオンが放った一言。
「ベルンに、身元保証をお願いしたい。
その後は俺がしばらく面倒を見てやろうと思う」
コイツもついに女色におぼれたか……と残念に思ったが、そうではないと。
リオンの考える仮説が正しければ、彼女の情報を周りに開示することは避けるべきだと。
まだその仮説とやらを聞いていないが、行きつく先は同じだろうと直感した。
自分としても、確認しておきたいことができた。
お。目覚めたか。
彼女は戸惑っているようだった。
優しく自然な態度で接するリオンに次第に落ち着いてはいったが、不思議な子だ。
回答こそたどたどしいものだが、それにしては知性を感じさせる言い回し。
栄養もろくに取れていないような体形のわりに、洗練された、たおやかなしぐさ。
余程の訳があるのかと思えば、この世界の人間じゃないと来た。
こいつは参った……と頭を抱えたくなる。
リオンは彼女を信じることにしたようだ。
アイツはガキの頃から狡猾な人間に揉まれてきた奴だ。
そんなリオンがそう決めたなら、信じるに値するとも言えるが……
翌日、あいつを囲うだなんて言い出してさらに俺は頭を抱えることになった。
いや、正確には、囲うとは言っていないんだが……
年頃の男が金を出して女の生活の面倒を見てりゃあ、周囲からはそういう目で見られるだろうが!!!
仕方ねぇ、間にギルドを挟んで、身元をしっかりと保証するしかねぇか……
冒険者として登録しちまえば滞在許可も伸びるし、自分で依頼をこなして食い扶持を稼ぐこともできる。
最初の基盤こそ作ってやる必要はあるが、それさえ固まればあとは何とかなるだろう。
保護して街まで連れていくだけのつもりが、とんだ展開になっちまった。
だがまあ、悪い子じゃねぇんだろう。
辛い目にも合ってきたようだし。
リオン一人じゃできることも限られてくるだろうから、多少のサポートくらいはしてやるか。




