02.とにかく眠りたい
低い音が聞こえた気がして意識がふわふわと浮かび上がる。私は眠っていたのだろうか。
バスドラムを力いっぱい叩くような、おなかに響く重低音。たくさん聴こえる。地面からも、その震度が伝わってくる。私は地面に横たわって眠ってしまったのか。
「おい!誰か倒れてるぞ!」
「こんなところで?」
「たいへん、事故か何かでしょうか…」
「装備何も持ってないな。追い剥ぎにでもあったか?」
「この辺りで賊が出るなんて聞いたことはないぞ。」
人の声だ。折角森の中にまで入って逃げてきたのに、誰かに見つかってしまったのだろうか。嫌だ。戻りたくない。彼に会いたくない。これ以上、彼に傷つけられたくない。自分に、失望したくない。
重低音が止み、今度はカチャカチャと金属の音や土を踏む足音が聞こえる。私はゆっくりと目を開いた。
視界がぼやけている。霞がかった視界で確認したのはおそらく4頭の馬。先ほどのおなかに響く重低音は、馬の蹄の音だったのか。
2人が馬から降り、慌てた様子で近づいてくる。
体格的に男性と女性だろうか。
「生きてる!君!大丈夫か!?何があった!?」
男性が駆け寄り、私をのぞき込んだ。
「……んでも…………りま……せん」
なんでもないの。放おっておいて。そう伝えようとしたがかすれてしまって声が出ない。
「ん?どうした?声がでないか?」
優しい声で尋ねられ、少し動揺する。
「リオンさん、お水です。身体を支えてあげてください。」
柔らかい女性の声にあぁ、と小さく返事をした彼は、差し出された革袋を受け取り、私の肩の下にグッと腕を差し込んだ。肩が少し浮いて、起こそうとしてくれているのだろうと理解するが、そのわずかな動きだけで肋骨がギシリと音を立た。
「いっ……た……」
「すっ、すまない!」
慌てた声色で謝罪をしてくれた彼はすぐに動きを止めた。
優しい人なのだろう。持ち上げようと支えた背中を離すわけにもいかず、けれど腕の力が伝わりすぎないようにか、少しだけ力を抜いたのが背中越しに伝わった。
「怪我をしているのか?どこが痛むか、説明できるか?」
もう一度私の顔を覗き込み声をかけてくれるが、目が霞んでいてはっきりとした表情がわからない。ただ、突然森に現れた不審者に困惑しながらも心から気遣ってくれているのは声色で伝わっている。
こんなに優しい人には大変申し訳ないが、このまま保護されても、私には行くところがないのだ。場所だけじゃない。心の、行く当ても。
もうなにもしたくない。なにも考えたくない。このまま眠りたいのだ。
「あり、がと……だい……じょぶ、です……。きに、せず……いって……くださ」
掠れて聞き苦しいだろうが、なんとか絞り出し、そこで限界を迎えた。
そのまま目を閉じて、真っ白な靄の中をストンと落ちていくように、意識が途切れた。




