19.やりなおし
「……ああ、ユウナには言ってなかったな。
ベルンは、このギルド支部の責任者、ギルドマスターなんだ」
そう言えば、ここは『ベルンさんの執務室』だ。
このギルドの規模は本部を上回るとのことならば、それなりの所属人員が想定される。
そのなかで、執務室を持っていると言うことは、それなりの立場の人間であることは何らおかしい話ではない。
「なんだぁ?俺がギルマスじゃ不満だってぇのか?」
ベルンさんが話を始めると、他の皆はその言葉に真摯な姿勢で向き合っていた。
年長者への敬意かとも思ったが、それだけではなかったのだ。
所属組織のリーダーの言葉を傾聴する姿勢たったのだ。
ふざけて軽口を交えるような事もあったが、それはむしろ人間性への信頼の証と言えるだろう。
「いえ!……なぜ気が付かなかったのか、と……
ベルンさんが代表であるならば、寧ろ納得です」
ニヤリと八重歯をちらつかせて揶揄うような口調に、素直に思っていたことを述べた。
照れたようにポリポリと頬を掻いたベルンさんは、私の質問に答えてくれた。
「確かに、一般的な登録であれば、ユウナの指摘の通り受付で手続きを進めるのが通常の手順だ。
その場合は受付で受理された時点でギルドの所属証明である身分証、仮の認識票が発行される。
その後は俺……ギルドマスターのところに書類が回ってきて、問題がなければ正式な認識票、コレが発行されるんだ」
そう言って、首から下げていたプレートを見せてくれた。
門番さんに見せていたもので、プレートには文字が彫ってある。
元の世界でのドッグタグに近い物だろうか。
「だがまれに身元不明者などのイレギュラーが発生する。
その場合は受付で受理だけはするが、仮の認識票は発行されない。
別の街で指名手配になって逃げてきた奴なんかがいたりするからな。
そういうイレギュラーは一度手続きを止めて、慎重に調べることになる。
それで問題がない場合のみギルマスの承認を受けて、やっと手続きが進むってわけだ」
「なるほど。
私はそのイレギュラーの状態にあたり、受付の方への書類提出の部分をすっ飛ばして直接ギルドマスターのベルンさんの承認を得た状態になるということになるのですね」
「その通りだ。だから──
これがユウナの仮の認識票だ。」
薄いプレートを差し出される、
頂戴します、と両手で受け取り頭を下げる。
就活の際からさんざん練習して体に染みついていたらしい名刺交換の作法だった。
いざ働き始めたら、社外の人間と会うことはあまりなかったためあまり活きなかったが、あの時練習しておいてよかった。
プレートには文字が彫ってある。
まだ何と読むかはわからないが、これがしばらく私の身分証がわりだ。
「無くすなよ。正式な認識票と引き換えになってる」
「はい、お返しするときまで大事にします」
「さて、これでユウナの滞在許可が1年延びたってことだな。
まずは一安心だ。
次はユウナの滞在場所だ」
「アタシんトコでいいんじゃないかい?
ね、ユウナ?一人は寂しいだろう?」
「……ディアナさんの……おうち……」
こんな蠱惑的な声で自分の名前を呼ぶディアナさんに、断れる人間はいるのだろうか……
ぽやぽやした頭ではいと答えそうになる私とディアナさんの間に、リオンさんが割り込んだ。
「ディアナ!ユウナを揶揄うんじゃない!
ユウナもしっかりしろ!」
「あら、リオン。ヤキモチかい?
アタシは本気だよ」
「そっそういう話をしているのではない!
俺は、しっかり考えて返事をしろと──」
「落ち着け、リオン。
ディアナもユウナが気に入ったのはわかったから、あんまり揶揄ってやるんじゃねぇよ。
それにお前の住む家の周りはあまり治安が良くねぇだろう。
お前が大丈夫でも、ユウナに何かあったらどうするんだ」
「あはは!わかったよ。悪かったね。反応があまりにかわいくてねぇ。
でも、知らない世界にきて不安だろう。
そばにいてやりたいと思ったのは本心だよ」
出会ってまだ間もないというのに、なぜこんなにも気に入っていただけたのかはわからないが、傍にいてあげたいという心遣いに嬉しくて思わずほおが緩んだ。
「ユウナにはすまねぇが、今晩はここにいてもらうことになる。
あのドアの向こうが仮眠室になっててな。シャワーもトイレも揃ってる。
俺のベッドで不快かもしれねぇがシーツや枕は後で綺麗なモンに変えるからよ。
鍵は内鍵をかけてもらって構わねぇし、食事もこっちで運ぶ。
だから今晩はここで休んでくれねぇか」
執務室のデスクの横に、簡素な扉があったが、仮眠室になっているらしい。
「ユウナ……俺からも、頼む。
不自由な思いをさせて申し訳ないが、まだこの街……この世界に来たばかりで何も知らない状態のユウナを放り出すわけにはいかなくてな。
信用のおける居住先を確保できるまではある程度目の届く範囲に居てもらいたいんだ」
ベルンさんもリオンさんも、本当に申し訳なさそうだ。
「あの……私は、屋根があるところで眠らせていただけるだけで、充分です。
ここまでしていただいてるんです。申し訳ないだなんて、言わないでください……」
「悪ぃな。早速だが、部屋を案内しよう。
リオン、フェル。倉庫から新しいシーツと枕、かけ布団を持ってきてやってくれねぇか。
この間エミルが用意してくれたものがあるはずだ。
ディアナ、用意したものを引き渡してやってくれ」
ベルンさんが立ち上がり、入口のそばにあった大きな荷物を手渡した。
「わかったよ。まずは服と靴、下着類だね。」
「ま、待て!部屋を案内すると言っただろうが!
中でやれ!!」
ベルンさんの執務机の右手の壁。入り口の扉と並んで奥に、その扉はあった。
内開きのその扉を開いたベルンさんは、手で扉を抑えて私とディアナさんを先に行くように誘導した。
入ってすぐ左側にはヘッドボードが奥になるよう縦に置かれたシンプルな木のベッド。
そのさらに奥には小さな簡易デスク。座ると窓の外が見えるように置かれている。
入口正面の壁には部屋の扉と同じ簡素な扉が一枚ついていた。
「ここだ。好きに使ってくれ。
奥の扉がトイレとシャワー室だ。
俺は最近使ってなかったから、綺麗なはずだ……
ちょっと待っててくれ」
慌てた様子で中の様子を確認しに行く。
部屋を貸してくれるだけでもありがたいから、別に汚れていても気にしないんだけど……
サッと確認して戻ってきたベルンさんは改めて、大丈夫だと思うと言って、ベッドの上の枕やシーツをはがしていく。
「あの、別にこのままで大丈夫ですが……」
「いや、オッサンが使った寝具を若ぇお嬢さんに使わせてるってだけで罪悪感で胃が痛くなる。
俺のためだと思ってスルーしてくれや」
ノックの音がして仮眠室の扉を振り返る。
ドアの前で開いた扉の前で立ち止まるフェルさんとリオンさん。
「持ってきた。入るぞ」
リオンさんがわざわざ断りを入れてくれ、持ってきてくれた寝具を整えてくれる。
「さぁて、女同士の秘密の時間だね」
そう言ってウインクしたディアナさんは、男性陣が部屋の外へ出るのを待って、扉を閉めた。
持ってきてくれた鞄の中身を一つ一つベッドの上に並べていく。
まずは服。
可愛いオフホワイトのブラウス?だろうか。
それに深緑のロングのフレアスカート。
そしててなかったな。
ベルンは、このギルド支部の責任者、ギルドマスターなんだ」
そう言えば、ここは『ベルンさんの執務室』だ。
このギルドの規模は本部を上回るとのことならば、それなりの所属人員が想定される。
そのなかで、執務室を持っていると言うことは、それなりの立場の人間であることは何らおかしい話ではない。
「なんだぁ?俺がギルマスじゃ不満だってぇのか?」
ベルンさんが話を始めると、他の皆はその言葉に真摯な姿勢で向き合っていた。
年長者への敬意かとも思ったが、それだけではなかったのだ。
所属組織のリーダーの言葉を傾聴する姿勢たったのだ。
ふざけて軽口を交えるような事もあったが、それはむしろ人間性への信頼の証と言えるだろう。
「いえ!……なぜ気が付かなかったのか、と……
ベルンさんが代表であるならば、寧ろ納得です」
ニヤリと八重歯をちらつかせて揶揄うような口調に、素直に思っていたことを述べた。
照れたようにポリポリと頬を掻いたベルンさんは、私の質問に答えてくれた。
「確かに、一般的な登録であれば、ユウナの指摘の通り受付で手続きを進めるのが通常の手順だ。
その場合は受付で受理された時点でギルドの所属証明である身分証、仮の認識票が発行される。
その後は俺……ギルドマスターのところに書類が回ってきて、問題がなければ正式な認識票、コレが発行されるんだ」
そう言って、首から下げていたプレートを見せてくれた。
門番さんに見せていたもので、プレートには文字が彫ってある。
元の世界でのドッグタグに近い物だろうか。
「だがまれに身元不明者などのイレギュラーが発生する。
その場合は受付で受理だけはするが、仮の認識票は発行されない。
別の街で指名手配になって逃げてきた奴なんかがいたりするからな。
そういうイレギュラーは一度手続きを止めて、慎重に調べることになる。
それで問題がない場合のみギルマスの承認を受けて、やっと手続きが進むってわけだ」
「なるほど。
私はそのイレギュラーの状態にあたり、受付の方への書類提出の部分をすっ飛ばして直接ギルドマスターのベルンさんの承認を得た状態になるということになるのですね」
「その通りだ。だから──
これがユウナの仮の認識票だ。」
薄いプレートを差し出される、
頂戴します、と両手で受け取り頭を下げる。
就活の際からさんざん練習して体に染みついていたらしい名刺交換の作法だった。
いざ働き始めたら、社外の人間と会うことはあまりなかったためあまり活きなかったが、あの時練習しておいてよかった。
プレートには文字が彫ってある。
まだ何と読むかはわからないが、これがしばらく私の身分証がわりだ。
「無くすなよ。正式な認識票と引き換えになってる」
「はい、お返しするときまで大事にします」
「さて、これでユウナの滞在許可が1年延びたってことだな。
まずは一安心だ。
次はユウナの滞在場所だ」
「アタシんトコでいいんじゃないかい?
ね、ユウナ?一人は寂しいだろう?」
「……ディアナさんの……おうち……」
こんな蠱惑的な声で自分の名前を呼ぶディアナさんに、断れる人間はいるのだろうか……
ぽやぽやした頭ではいと答えそうになる私とディアナさんの間に、リオンさんが割り込んだ。
「ディアナ!ユウナを揶揄うんじゃない!
ユウナもしっかりしろ!」
「あら、リオン。ヤキモチかい?
アタシは本気だよ」
「そっそういう話をしているのではない!
俺は、しっかり考えて返事をしろと──」
「落ち着け、リオン。
ディアナもユウナが気に入ったのはわかったから、あんまり揶揄ってやるんじゃねぇよ。
それにお前の住む家の周りはあまり治安が良くねぇだろう。
お前が大丈夫でも、ユウナに何かあったらどうするんだ」
「あはは!わかったよ。悪かったね。反応があまりにかわいくてねぇ。
でも、知らない世界にきて不安だろう。
そばにいてやりたいと思ったのは本心だよ」
出会ってまだ間もないというのに、なぜこんなにも気に入っていただけたのかはわからないが、傍にいてあげたいという心遣いに嬉しくて思わずほおが緩んだ。
「ユウナにはすまねぇが、今晩はここにいてもらうことになる。
あのドアの向こうが仮眠室になっててな。シャワーもトイレも揃ってる。
俺のベッドで不快かもしれねぇがシーツや枕は後で綺麗なモンに変えるからよ。
鍵は内鍵をかけてもらって構わねぇし、食事もこっちで運ぶ。
だから今晩はここで休んでくれねぇか」
執務室のデスクの横に、簡素な扉があったが、仮眠室になっているらしい。
「ユウナ……俺からも、頼む。
不自由な思いをさせて申し訳ないが、まだこの街……この世界に来たばかりで何も知らない状態のユウナを放り出すわけにはいかなくてな。
信用のおける居住先を確保できるまではある程度目の届く範囲に居てもらいたいんだ」
ベルンさんもリオンさんも、本当に申し訳なさそうだ。
「あの……私は、屋根があるところで眠らせていただけるだけで、充分です。
ここまでしていただいてるんです。申し訳ないだなんて、言わないでください……」
「悪ぃな。早速だが、部屋を案内したい。
まずはこれを仕舞ってくれるか」
テーブルの上のアクセサリーを仕舞うよう指示されてリオンさんから革袋を受け取る。
2つの革袋にそれぞれまとめて入れようとしてディアナさんから待ったの声がかかった。
「そんな貴重な品に傷がついたらどうするんだい!?
ほんとに気の利かない男共だ!」
そう言ってディアナさんはベルトについている小さなポーチから布切れと小さなナイフを取り出し、それを割いた。
「確かに…悪ぃ。気が回らなかった」
「お、俺も……すまない、ユウナ」
「あ、あの……」
「ユウナ、アンタも大事にしてるんだろう?
傷がついちまったらもう元には戻せないんだよ。
今まで大事にしていたのに、ここで遠慮して傷がついちまったら、その子たちがかわいそうだよ」
優しく諭しながら、いくつかに割いた布を私に手渡した。
「はい……そうですね……ありがたく、頂戴します」
なんだか、涙が込み上げた。
私が一つ一つ布に包んで、革袋にしまうのを見届けたベルンさんが立ち上がった。
「ユウナ、部屋に案内する。
リオン、フェル。倉庫から新しいシーツと枕、かけ布団を持ってきてやってくれねぇか。
この間エミルが用意してくれたものがあるはずだ。
ディアナ、用意したものを引き渡してやってくれ」
ベルンさんが立ち上がり、入口のそばにあった大きな荷物を手渡した。
「わかったよ。まずは服と靴、下着類だね。」
「ま、待て!部屋を案内すると言っただろうが!
中でやれ!!」
ベルンさんの執務机の右手の壁。入り口の扉と並んで奥に、その扉はあった。
内開きのその扉を開いたベルンさんは、手で扉を抑えて私とディアナさんを先に行くように誘導した。
入ってすぐ左側にはヘッドボードが奥になるよう縦に置かれたシンプルな木のベッド。
そのさらに奥には小さな簡易デスク。座ると窓の外が見えるように置かれている。
入口正面の壁には部屋の扉と同じ簡素な扉が一枚ついていた。
「ここだ。好きに使ってくれ。
奥の扉がトイレとシャワー室だ。
俺は最近使ってなかったから、綺麗なはずだ……
ちょっと待っててくれ」
慌てた様子で中の様子を確認しに行く。
部屋を貸してくれるだけでもありがたいから、別に汚れていても気にしないんだけど……
サッと確認して戻ってきたベルンさんは改めて、大丈夫だと思うと言って、ベッドの上の枕やシーツをはがしていく。
「あの、別にこのままで大丈夫ですが……」
「いや、オッサンが使った寝具を若ぇお嬢さんに使わせてるってだけで罪悪感で立ち直れねぇ。
俺のためだと思ってスルーしてくれや」
ノックの音がして仮眠室の扉を振り返る。
ドアの前で開いた扉の前で立ち止まるフェルさんとリオンさん。
「持ってきた。入るぞ」
リオンさんがわざわざ断りを入れてくれ、持ってきてくれた寝具を整えてくれる。
「さぁて、女同士の秘密の時間だね」
そう言ってウインクしたディアナさんは、男性陣が部屋の外へ出るのを待って、扉を閉めた。
持ってきてくれた鞄の中身を一つ一つベッドの上に並べていく。
まずは服。
オフホワイトのペザントブラウス、深緑のロングフレアスカート、黒いビスチェ。
靴はダークブラウンの編み上げブーツ。
そして下着。
下着はシュミーズと言って寝間着にも使われるらしい。
髪結い用のリボン。
簡単なメイク道具を用意してくれていたようだ。
「指示が曖昧だったからね。これくらいしか用意してないんだけど、足りないものは無いかい?」
「はい、充分です」
「替えの下着や服はまた改めて一緒に選びに行こうね。
シャワーを浴びたいだろうが、それは男共が帰ってからにしたほうがいいね」
「はい。ありがとうございました」
仮眠室を出たら男性三人は再びソファに座っていた。
テーブルには一人分の食事が置かれていた。
「よし、これで今夜出来ることは以上だな
あとは飯だが……俺たちはこのまま解散するから、ユウナは部屋でゆっくり食ってくれや。
皿の回収は明日で良い。
執務室も鍵をかけて帰るから、誰も入ってこないはずだ。
疲れただろう。シャワーでも浴びて、今夜はぐっすり寝てくれ。
そっちの部屋の外鍵はディアナに預けるから、内鍵をかけるのを忘れんなよ」
「皆さん……」
今日という日が、終わりを迎えようとしている。
一度諦めた人生を、改めてやり直すきっかけをもらった。
家族になろうとした人には裏切られたのに、見ず知らずの人達に、たくさんの善意と慈しみで包んでもらった。
返しきれない恩ができた。
「公私にわたり多大なるお力添えを賜り、心より御礼申し上げます。
そして、細部にまで至るお気遣いには、感謝の言葉もございません」
溢れそうになる涙をぐっとこらえ、深く礼をした。
「固ぇな」
「ああ。良家のご令嬢のようだ」
「礼儀正しいのは良いことだが、冒険者にしては畏まりすぎだな」
「フェルの口調もさほど変わらないけどねぇ。
ねぇ、ユウナ。同じギルドの仲間になったんだ。
もっと言いやすい言葉で言ってごらんよ」
皆が優しく微笑んでいる。
堪えていた涙が溢れた。
「皆さん優しくしてくれて、とてもうれしかったです!
このご恩はいつかぜったいに返します!
これからも、よろしくおねがいします!!!」




