18.冒険者として
「次は、ユウナの市民権についてだ。
さっき門をくぐった時、俺が保証人になったわけだが、これだけじゃただの一時滞在者、1週間で期限切れだ。
そこでユウナには、このギルド支部に冒険者としてFランクの登録を行ってもらう。
身分の証明が必要だが、これも、保証人をたてることでクリアできる。
Fランクとは言え、登録さえできれば一年間滞在が許可される。
その間に一定の基準をクリアできれば、Eランクに昇格でき、正式に冒険者として登録され、これには市民権も含まれる。
他にも方法はあるにはあるが……正直これが一番現実的だな」
ベルンさんの目をしっかりと見て頷く。
冒険者のことについては、リオンさんに道中大まかに教えていただいた。
採取の依頼などもあると言っていたから、そういうものを地道にやっていけばクリアできるのだろうか。
基準については後程しっかり確認しておこう。
「ユウナが良ければ、このままここで登録を済ましちまおうと思うんだが……どうだ?」
「はい、よろしくお願いいたします」
「よし、じゃあ俺は受付に書類を取りに行ってくる。
しばらくここで待っててくれ」
そう言ってベルンさんは席を立った。
「そういえば……ユウナ、歳はいくつなんだい?
見たところ22,3ってとこかね?」
「24です」
「24かい!ちょっと外しちまったねぇ。
アタシは27だ。お姉さんって呼んでくれてもいいんだよ?」
私をじっと覗き込み、紫色の瞳がこちらをとらえると、逃げられない引力を感じる。
これが、大人の色気か……とたじたじになる。
「お、お姉さんというより、お姉様という言葉のほうがディアナさんのイメージに近いです……」
「やだ!何この子!!ほんとにかわいいったら!!!」
両手で頬を包み、キャーッと笑うディアナさん。
「ディアナはすごいな……俺は最初、てっきり16かそこらかと……」
「ああ。どう見ても10代に見える」
リオンさんの驚きを含んだ呟きに、フェルさんの追い打ちが胸に刺さる。
「私、そんなに子供っぽいですかね……」
ハハハ……と乾いた笑いが漏れる。
「10代って、ねぇ……限度があるだろう……
確かにこの子は元が幼い顔立ちなんだろうが、立ち居振る舞いや雰囲気で何となくわかるだろう。
年相応にみられないことを、嫌がる女だっているんだよ。
これだから男どもは……
ユウナ、気にするんじゃないよ。
この失礼で無礼で見る目のない馬鹿な男共が悪いのさ」
「あ、いえ、そこまで気にしているわけでは……
……でも、ありがとうございます」
コンプレックスというほど気にしているわけではないが、ディアナさんの言ってくれた言葉に私に対するやさしさが込められているのが伝わって、心が温かくなる。
同時に、明るくてさっぱりした、はっきりと自分の意見を言える彼女に、尊敬の念が溢れる。
「ユ、ユウナ……すまない……!な、舐めているなんてことはないんだ……!」
「……私もだ。配慮に欠ける発言をした。軽はずみだった。」
慌てるリオンさんと気まずそうに視線を伏せるフェルさん。
「いえ、元の世界でも幼く見えるとよく言われる人種でした。
本当に大丈夫ですよ」
「それにしても、あのフェルが、出会って数日でこれとは、ユウナには恐れ入るよ」
気まずい二人の空気を察して、ディアナさんが明るい声で話題を変えてくれた。
「…………ヴィンダルがやけに彼女を気に入ってな。
……だから、下心も悪意もないのだろうと……」
「おやまぁ、あのじゃじゃ馬まで手懐けたのかい?」
「ヴィンダルどころか、ミロもオルカンも、フィリクスまでユウナがお気に入りなんだ。
フェルが警戒を解くのもわかる気がする」
「うーん、わからんでもないねぇ。
斯く言うアタシも気に入っちまったんだ。
そうだ、この後はどこに住む予定なんだい?
まだ決まっていないのなら、どうだい、うちに来るかい?」
ディアナさんが妖艶にほほ笑む。
「あ、あの……」
またもや顔が熱くなったところでベルンさんが戻ってきた。
「どうしたユウナ?顔が赤いぞ」
「い、いえ……大丈夫です」
「これが登録用の用紙だ。内容を読み上げるから、よく聞いてくれ」
私の前に用紙を置き、上から順に内容を説明してくれた。
Fランク冒険者として登録をしたものは、登録した日から1年間で120件の依頼を完了させること。
できなければギルドの登録は取り消されること。
個人的な依頼を受ける場合は、事前に申請が必要であること。
申請を出していない場合は依頼を完了してもノルマにはカウントされないこと。
依頼を達成した場合、報酬の中からギルドに1割を手数料として収める必要があること。
手数料はギルドの運営に使われること。
依頼を受けるうえでかかる経費は基本的に自己負担になること。
依頼の進捗、達成、完了の報告は義務であり、速やかに行う必要があること。
もし守れなければ所属先のギルドマスターの裁量によって罰せられる可能性があること。
依頼が達成できないことが続いた場合、ペナルティが課せられる可能性があること。
冒険者同士の争いは処罰の対象になること。
冒険者として、恥じない行い、発言を心がけること。
これらを説明して、最後の一文を読み上げてくれた。
「登録に際して、身分の証明に足るものがないが、ベルナルド・ガルシアが身元を保証する。
これで以上だ。何かわからないことはねぇか?
問題がなけりゃあサインしてほしいんだが……」
内容を聞いていると契約書のようだな、と感じる。
文字が読めないので、これにサインして、実は書いてある内容と説明に乖離があった場合、不利益を被る可能性があるな。
などと元の世界で見た映画のワンシーンを思い出すが、私には何の疑念も浮かばなかった。
読み上げてもらった、最後の一文がじんわりと胸の中に広がる。
こんなシーンを思い出すくらい、精神的に余裕ができてきたということだ。
胸の奥でそっと笑みをこぼす。
「はい。ご説明、ありがとうございました。大丈夫です」
「ユウナは字が書けなかったろう。これを使ってくれ」
ベルンさんはそう言って一枚の紙を取り出した。
27個の記号が書いてある。
50音表やアルファベット表に当たるもののようだ。
読み方や構成を聞いていると、やはり以前に感じたように、ヘボン式ローマ字に似た法則性があることが分かった。
少々違う部分もあるが、あとはこの記号……文字さえ覚えられれば、読み書きについては思っていたより早く理解が進みそうだ。
ただ、ペンを受け取って、躊躇した。
「このタイプの筆記具になれていないので、試し書きをしてみたいのですが、よろしいでしょうか?」
こちらの世界の筆記具は、映画の中で見るような羽ペンなのだ。
先ほどの身元保証書類には、慣れていないせいでとても情けない線をひょろひょろと綴ることになったのだ。
「ああ。そうだったのか。気がつかなくてすまんな」
これなら自由にして構わんぞと、デスクからとってきた紙を裏返して私の前に広げてくれた。
表を見ながら自分の名前を何度か練習するがなかなかうまくいかない。
4回ほど繰り返したところで、先ほどよりはマシになったか、と登録証にサインした。
「これで仮登録完了だ。これからは同じ冒険者として、よろしく頼むぜ」
ニカっと歯を見せて破顔したベルンさん。
周りのみんなも口々によろしく、と挨拶をしてくれる。
「ユウナ、依頼の完遂には俺もできるだけ協力する。
知らないことばかりで最初の依頼も大変だと思うんだ。
だから、一緒に頑張ろうな」
「……私にも協力できることがあれば声をかけると良い。
リオンだけでは都合がつかない場合もあるだろう」
「ああ。質問でも相談でも、依頼のサポートでも、なんでも言ってくれや」
「もちろん、アタシも協力するよ!
女同士なんだ、仲良くしようじゃないか」
「皆さん……ありがとうございます……
まだお仕事の内容については想像が及ばないところも大きいのですが、できるだけ皆さんにご迷惑をおかけしないよう自分でも努力するつもりです。
知識や経験が足りず、理解不足で至らない点も多々ございますがご指導のほどよろしくお願いいたします」
しっかりと感謝を伝えたくて、ソファから立ち上がって頭を下げた。
今しがた挨拶したばかりだが、一つ気になることがあった。
躊躇するも、分からないことが降り積もってパンクしてしまう前に、聞いてしまおうと勢いで声に出してみる。
「……あの……早速の質問で恐縮ですが……
この書類はどこかに提出しなくても、サインした時点で受理されたことになるんでしょうか?」
戸惑いながらこのギルドのシステムやオペレーションについて理解したく尋ねてみる。
そんな私に、さわやかな笑顔を向けるリオンさん。
「……ああ、ユウナには言ってなかったな。
ベルンは、このギルド支部の責任者、ギルドマスターなんだ」




