不器用なパパの、涙の謝罪
ガチャッ。
「ただいま……おい、どうしたんだ!」
玄関のドアが開いたとたん、レオンは血相を変えてリビングに飛び込んできました。
一緒に帰ってきたエレナ(姿はリリィ)も、慌てて後ろから駆け込みます。
二人が見たのは、床にペタンと座り込んで、わあわあと大泣きしている「大人のエレナ(中身はリリィ)」の姿でした。
手には、あの赤いスタンプが押された謎の書類がしっかりと握られています。
「パ、パパぁ……! うわあああん!!」
リリィはレオンの顔を見るなり、さらに大きな声で泣き出しました。「この書類、やだぁ! どこにも行かないで! ずっといっしょにいたいよぉ!」
リリィは「離婚の書類」だと思って必死に訴えたのですが、レオンの解釈は違いました。
「エレナ……ついに、見つけてしまったんだな」
レオンは痛ましそうに顔をゆがめると、泣いている妻(中身はリリィ)の前にドスンと膝をつき、その肩を力強く、そして優しく抱きしめました。
「えっ……パパ?」
急にギュッと抱きしめられて、リリィは目をパチクリさせました。
「すまない、エレナ。俺が間違っていた」
レオンの声は震えていました。不器用で、いつも無口なパパの目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちたのです。
「君を驚かせたくて、この書類のことはずっと内緒にしていた。お金を貯めるために、夜中の警備のお仕事もこっそり増やしていたんだ。でも、そのせいで……」
レオンは、妻の背中をさすりながら、後悔を絞り出すように言いました。
「君にだけ、家のことも、リリィのことも全部押し付けてしまった。君がこんなに泣き崩れるまで、寂しい思いをさせてしまった。君と一緒にいる時間を減らしてまで頑張るなんて、本末転倒だった。俺は、本当にダメな夫だ……ごめん。本当に、ごめんなさい」
それは、今まで「言葉が足りない」とすれ違ってきたレオンの、心からの謝罪でした。
「やだぁ、パパ、泣かないで……。あれ?」
リリィは、パパの頭をよしよしと撫でながら、ふと首をかしげました。
(夜中の警備のお仕事? お金を貯めるため? ……あれ? 離婚の書類じゃないの?)
そして、その光景をすぐ隣で見ていたエレナ(姿はリリィ)は、両手で口を覆って立ち尽くしていました。
(パパ……!)
エレナの目からも、とめどなく涙があふれてきました。
レオンは、家から逃げたかったわけでも、家族を避けていたわけでもありませんでした。
この『秘密の書類』のために、文字通り身を粉にして働き、ボロボロになっていただけだったのです。
「パパ……」
エレナは、リリィの小さな声でつぶやきました。
もう、レオンに対する不満や怒りは、ぽっかりと消え去っていました。
あるのは、こんなにも深く愛してくれている夫への、愛おしさと申し訳なさだけでした。
「パパ、泣かないで。ママも、泣き止んで」
エレナ(リリィの姿)は、そっと二人に近づくと、小さな手でレオンの大きな背中をトントンと優しく叩きました。
「……ねえパパ。その『秘密の書類』って、いったい何なの?」
エレナが尋ねると、レオンは涙を拭いながら、ゆっくりとその書類を開きました。




