パパの秘密と、ショーウィンドウの指輪
お仕事が終わる時間。エレナ(姿はリリィ)は、詰め所の前でレオンが出てくるのを待っていました。
「パパ! おしごと、おつかれさま!」
元気に駆け寄ると、レオンは少し驚いた顔をした後、優しく微笑んでくれました。
「リリィ。迎えに来てくれたのか。ありがとう」
レオンは大きな手で、エレナ(リリィの小さな手)をギュッと握ってくれました。
その手は、剣を振るうためのマメがたくさんあって、ゴツゴツしているけれど、とても温かい手でした。
夕焼け空の下、二人は手をつないで家へ向かって歩き出します。
商店街を通りかかったとき、レオンがふと足を止めました。
そこは、キラキラした宝石が並ぶアクセサリー屋さんの前でした。
(パパ、どうしたのかな?)
エレナがショーウィンドウを覗き込むと、そこには小さな青い石がついた、銀色の指輪が飾られていました。
それを見た瞬間、エレナはハッと息をのみました。
(あの指輪……! 昔、私が売ってしまった指輪と同じだわ!)
リリィがまだ小さかった頃、レオンがお給料の少ない下っ端の警備隊員だったため、生活がとても苦しい時期がありました。
その時、エレナはレオンからもらった大切な結婚指輪を、家族のご飯のために泣く泣く手放してしまったのです。
「……ママは、あんな風に笑ってくれなくなったな」
レオンが、ショーウィンドウのガラス越しにポツリとつぶやきました。
「えっ?」
「俺に力がなくて、大切な指輪まで手放させてしまった。家ではいつも疲れた顔ばかりさせて……俺は、本当にダメな夫だ」
レオンは悲しそうに目を伏せ、ギュッと拳を握りました。
「でも、もう少しなんだ。待っていてくれ、エレナ……」
それは、誰に言うでもない、レオンの心からの本音でした。
エレナは胸が張り裂けそうになりました。
夫は、エレナのことを嫌いになったわけでも、冷たくなったわけでもありませんでした。
「指輪を手放させてしまった」という後悔をずっと抱えていて、妻に申し訳なくて、顔を合わせられなかっただけなのです。
(パパ……。私こそ、ごめんなさい。あなたの深い愛情に、少しも気づいていなかった……)
エレナの目に、涙がいっぱいあふれそうになりました。
でも、今は「リリィ」の姿です。ここで泣くわけにはいきません。
エレナは、つないでいるレオンの大きな手を、両手でギュッと握り返しました。
「パパ! ママはね、パパのことがだーいすきだよ! いつも頑張ってくれて、ありがとうって思ってるよ!」
精一杯の笑顔でそう伝えると、レオンは少しだけ目を丸くして、それから今日一番の、とても優しくて温かい笑顔を見せてくれました。
「ありがとう、リリィ。さあ、ママが待つお家に帰ろうか」
二人は夕日に照らされながら、ゆっくりと歩き出しました。




