パパのお仕事見学と、頼れる背中
魔法学校の帰り道。エレナ(姿はリリィ)は、まっすぐお家へは帰らず、街の広場へと向かいました。
広場には、夫のレオンが働いている『警備隊の詰め所』があります。
(パパのお仕事って、どんな感じなのかな……)
エレナは建物の陰に隠れて、そっと広場の様子を覗き込みました。
「よし、第三小隊は東の門を警備! 馬車が多くなる時間だから、みんなが安全に道を歩けるようにしっかり誘導を頼むぞ!」
「はいっ、隊長!」
そこにいたのは、家で見るような、背中を丸めて疲れ切ったレオンではありませんでした。
ピシッとした制服を着て、大きな声で部下たちに的確な指示を出す、とても頼もしい『レオン隊長』の姿でした。
(すごい……。パパ、あんなにハキハキとお話ししてる……)
エレナが驚いていると、突然、広場の奥から「ヒヒーン!!」という大きな鳴き声が響きました。
「大変だ! 荷馬車が暴走してるぞー!」
荷物をたくさん積んだ大きな馬車が、コントロールを失って、ものすごいスピードで広場へ突っ込んできたのです。
道の真ん中には、逃げ遅れた小さな子供が座り込んで泣いています。
「危ない!」
エレナが叫ぼうとした瞬間、風のように飛び出した影がありました。レオンです。
「みんな、道を開けろ! 下がって!」
レオンは大きな声で周りの人たちを安全な場所へ誘導すると、走ってくる馬の前にサッと立ち塞がり、力いっぱい手綱を掴みました。
「落ち着け! もう大丈夫だ!」
ズザザザッ! と土ぼこりを上げて、馬車は子供の鼻先でピタリと止まりました。
レオンが優しく馬の首をなでると、馬も安心したように大人しくなりました。
「わああっ!」と、広場から大きな拍手が湧き起こりました。
「レオン隊長、ありがとう!」「隊長がいてくれるから、この街の道はいつも安全だね!」
街の人たちが次々とレオンに駆け寄り、笑顔でお礼を言っています。
物陰からその姿を見ていたエレナの目から、ポロリと涙がこぼれました。
(パパは毎日、こんなに危険で大変なお仕事をして、街のみんなを守ってくれていたんだ……)
家に帰ってきたときのレオンが無口でそっけないのは、エレナのことが嫌いになったからではありませんでした。
外でみんなのために一生懸命に働いて、全てのパワーを使い果たして、お家に帰る頃には『電池切れ』になっていただけだったのです。
(私、パパが疲れていることに気づきもしないで、「お話してくれない」って自分のことばっかり怒ってた……。最低な奥さんだわ)
エレナは、みんなから「ありがとう」と言われて少し照れくさそうに笑うレオンの大きな背中を見つめました。
結婚したばかりの頃に大好きだった、優しくて頼りになる背中。
「パパ……かっこいいよ」
エレナは、リリィの小さな手でそっと涙を拭うと、もう一度レオンとちゃんと向き合うことを心に誓うのでした。




