おっきな娘の、ドタバタお家しごと!
その頃、お家でお留守番をしている大きなお母さん――中身は8歳のリリィは、腕まくりをして鼻息を荒くしていました。
「ふふん! 今日から私がママなんだから、お家のお仕事なんてパパッと終わらせちゃうんだから!」
リリィは大人の体がすっかり気に入っていました。棚の高いところにあるお菓子にも手が届くし、重たいものもひょいっと持てます。
(ママっていいなあ。何でもできて、自由で!)
まずは、パパとママが帰ってきたときのために、美味しいオムライスを作ることにしました。
「卵を割って、フライパンでジュ~ッて焼くんでしょ。かんたん、かんたん!」
しかし、大人の体でも、中身は8歳の女の子です。
コンロの火加減がわからず、火はボウボウ。
大きなフライパンをうまくひっくり返すことができず、卵はぐちゃぐちゃに。
あっという間に、キッチンからモクモクと黒い煙が上がりました。
「けほっ、けほっ! うわああ、真っ黒こげになっちゃった!」
お皿に乗ったのは、オムライスではなく、黒い石のようになってしまった何かでした。
「お、お料理は失敗しちゃったけど……そうだ! ママのお仕事の『魔法薬の調合』を手伝ってあげよう!」
リリィは気を取り直して、リビングの隅にあるママの作業机に向かいました。
ママはいつも、ここで色々な色の液体を混ぜて、風邪薬や、お掃除に使う魔法の石鹸を作って、お店に納品しています。
「ええと、この青いお水と、赤いお水を混ぜて……」
トクトク、とビーカーに液体を注ぐリリィ。
しかし、分量を量らずに適当に混ぜてしまったのが大間違いでした。
シュワシュワシュワッ!
「えっ?」
ボフンッ!!!
ビンの中から、ものすごい勢いでピンク色の泡が吹き出しました。
泡はモコモコと膨らみ続け、机からこぼれ落ち、あっという間にリビングの床を埋め尽くしていきます。
「わわわっ! ストップ、ストップー!」
リリィが慌てて止めようとしますが、泡で足が滑ってしまい、スッテンコロリン! と派手にしりもちをついてしまいました。
「いたたた……」
顔中を泡だらけにしながら起き上がったリリィは、黒焦げのフライパンがあるキッチンと、ピンクの泡だらけになってしまったリビングを見渡しました。
大人の体になれば、何でもできると思っていました。
でも、全然違いました。
「ママは、毎日これを一人でやってたんだ……」
朝早く起きて、ご飯を作って。
お掃除をして、お洗濯をして、さらに難しい魔法薬を作って。
それは、「かんたん」なんかじゃありませんでした。
魔法のキャンディなんかなくても、ママは毎日「お家を守る魔法使い」みたいに、ものすごいことをやっていたのです。
「私……ママのこと、全然わかってなかった」
パパが冷たくて、ママがいつもイライラしていると思っていたけれど、ママは疲れ切っていただけだったのです。
「ママ……ごめんなさい。ママ、いつもありがとう……」
誰もいない泡だらけのリビングの真ん中で、リリィはぽろぽろと大粒の涙をこぼして、子供のように大きな声で泣いてしまいました。




