2-9嵐の前のなんとやら
翌日のゴブリン討伐は、周辺の確認も含めて午後までかかったものの、三人とも怪我をせずに終えることができた。
帰り道では、エレオノーラが戦っている最中に迷ったことをセラフィナへ尋ねていた。セラフィナも実際の動きを交えながら答えていたので、俺は二人が足を止めるたびに待ちながら、街まで戻った。
ギルドで報告を済ませると、ローデリックとの面会を終えたガルドに会った。村までの道順を確認し、紹介状も受け取れたので、明日の早朝には出発するという。
そこで翌朝、俺たちは屋台の準備を始める前に、ガルドを見送るため東門へ向かった。
門の近くにはすでにグレンが来ており、馬の鞍に荷物を固定しているガルドと話していた。俺たちが近づくと、ガルドは締め終えた革帯から手を離し、こちらへ顔を向けた。
「わざわざ来てくれたのか。今日は屋台があるんだろう?」
「まだ準備を始める時間じゃありませんから。出発前に、ご挨拶しておこうと思いまして」
「そうか。昨日の討伐は、問題なかったか?」
「はい。少し時間はかかりましたけど、無事に終わりました」
俺が答えると、ガルドは頷き、エレオノーラにも目を向けた。
「森を歩き回ったんだろう。疲れは残っていないか?」
「少し足が重いですけれど、屋台のお仕事には支障ありません」
「ならいいが、立ちっぱなしも楽じゃないからな。休めるときに休んでおけ」
エレオノーラが礼を言うと、ガルドは馬の手綱を取り、街道の方へ視線を向けた。門を通る荷馬車が途切れたところで、グレンが声をかける。
「向こうで確認することが増えたら、予定を延ばしても構わん。こっちへの報告を急いで、調べ残しがあっても困るからな」
「ああ。まずは預け先を訪ねて、書類を見せてもらう。ローデリックには一週間ほどで戻るつもりだと伝えてあるが、長引くようなら宿場から知らせを出そう」
「分かった。こっちでも、あいつの話を調べておく」
ガルドは頷いて馬にまたがり、鞍の上で荷物の位置を確かめた。エレオノーラはそれが済むのを待ってから、一歩前へ出た。
「ガルドさん、私たちのためにありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「グレンから受けた仕事でもあるんだ。そう気を遣わなくていい」
「ですが……」
「戻ったら話を聞いてくれ。それまでは、タケシたちといつもどおり過ごしていればいいさ」
穏やかに言われ、エレオノーラは小さく頷いた。その隣でセラフィナも頭を下げたので、俺は二人に続いてガルドへ声をかけた。
「お気をつけて。戻ったら、屋台にも寄ってください」
「ああ。じゃあ、行ってくる」
ガルドは手綱を軽く引いて馬の向きを変えると、東門を抜けて街道へ出ていった。荷馬車の横をゆっくり通り過ぎ、道が空いたところで速度を上げると、やがて朝の往来に紛れて姿が見えなくなった。
「さて、俺たちも戻るか」
グレンに声をかけられ、俺たちは門を離れた。途中でギルドへ向かうグレンと別れ、市場通りへ入ると、近くの店でも朝の準備が始まっていた。
屋台に着いて荷物を出し始めたところで、エレオノーラが食器を手にしたまま俺へ尋ねた。
「タケシ様、書類が見つかったら、私も拝見できるでしょうか?」
「もちろん。ただ、俺たちだけでは分からないこともあるだろうから、ローデリックさんにも一緒に見てもらった方がいいと思う」
「そうですね。父の頃の記録を、私がどこまで理解できるか分かりませんし……」
「最初から全部分かろうとしなくてもいいさ。気になるところを聞きながら、少しずつ確かめていこう」
エレオノーラは頷くと、重ねていた食器をいつもの場所へ並べ始めた。セラフィナも彼女の隣で準備を進めながら、今日揚げるカレーパンの数を俺に尋ねてきたので、俺は昨日休んだ分も考えて数を決め、カレーの鍋を火にかけた。




