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神様に轢かれて【天神地祇】を授かりました ~東京と異世界を行き来する二重生活~  作者: 廻間 朔夜


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2-6 オークと女騎士のくんずほぐれつ

「タケシ様! 右からもう一体来ます! そちらは私が引き受けますので、エレオノーラ様をお願いします!」


「分かった! エレオノーラ、俺の後ろから離れるな!」


「はい!」


 森の中にセラフィナの声が響き、俺は目の前のハイオークから視線を外さないまま、背後のエレオノーラへ声をかけた。


 相手は身長二メートルを軽く超える巨体で、人間の胴ほどもある棍棒を握っている。通常のオークより一回り以上大きく、盛り上がった肩や腕を見るだけでも、まともに一撃を受けたくない相手だった。


 右肩が持ち上がったところで、《先読み》によって棍棒の軌道が分かる。俺はエレオノーラのいる場所へ敵を向かわせないよう左へ動き、振り下ろされた一撃をかわしたが、思ったより大きく距離を取ってしまったため、すぐには反撃に移れなかった。


 棍棒が地面を叩き、土と枯れ葉が足元まで飛んでくる。


「タケシ様! 避けるときの足運びが大きすぎます! それでは、せっかくできた隙に攻撃できませんよ!」


「分かってる! 今のはちょっと離れすぎただけだ!」


「でしたら、次は半歩で十分です! 相手の腕の長さも見てください!」


 自分も別のハイオークを相手にしているというのに、よくこちらを見る余裕があるものだ。


 言っていることは正しいし、俺も剣術のスキルを持っているからといって、すべての動きを使いこなせているわけではない。それでも、戦っている最中にこうも次々と指摘されると、返事をするだけで忙しくなってしまう。


 もっとも、セラフィナから声で指導を受ける日が来たこと自体、少し前までなら考えられなかった。


 何しろ彼女は、十年もの間、声を失っていたのだから。


 ◇ ◇ ◇


 セラフィナが初めて声を出した日から、数か月が経った。


 その後も必要な処置と発声訓練を続け、短い言葉を口にするだけで疲れていた時期を過ぎると、少しずつ会話のできる時間が長くなっていった。思うように声が出ず、筆談の板へ手を伸ばす日もあったが、いつの間にかそれを持ち歩くことも減り、今では普通に話していて困ることはなくなっている。


 声が完全に戻ったと本人が喜んだときには、俺もエレオノーラも本当に嬉しかった。


 ただ、その後の生活には、予想していなかった変化があった。


「タケシ様、今日の夕食は何にしましょうか? 昨日は魚でしたから、お肉がいいと思うのですが、冷蔵庫の白菜も使ってしまいたいですね。あれと牛肉を炒めたらおいしいでしょうか? それとも、あの甘い汁で煮るお料理にします?」


「すき焼きか? それなら豆腐も買わないとな」


「でしたら、買い物に行くときに私もご一緒します! 前に買ったきのこもおいしかったですし、あれも入れましょう。エレオノーラ様、卵はまだ残っていましたか?」


「ええ。けれど、三人で食べるなら買い足したほうがよさそうね」


 夕食の相談が終わったかと思えば、買い物の話になり、そこから屋台で客に教えてもらった食べ物の話へと移っていく。


 以前は筆談の板に必要なことを書いて伝えていたセラフィナだが、どうやら、書くのが大変だから短くまとめていただけだったらしい。


 もともと話好きだったことはエレオノーラから聞いていたものの、実際に一緒に暮らしてみると、こちらの想像を随分と上回っていた。


「セラフィナ、ちょっと待ってくれ。今、テレビで何か言ってたんだけど」


「あっ、すみません。何のお話でしたか?」


「それが聞こえなかったから、ちょっと待ってって言ったんだよ」


 俺がリモコンで音量を上げると、エレオノーラが笑いながらセラフィナの袖を引いた。彼女もようやく口を閉じたが、番組が広告に切り替わった途端、今度は画面に出てきた料理について尋ねてくる。


 声が戻る前は、これほど話したいことを抱えたまま過ごしていたのだろうか。


 そう考えると止めるのも気が引けて、俺は結局、分かる範囲で答えることになった。


 そんなある日の夕食後、セラフィナが湯飲みを置いて、少し改まった様子で俺に向き直った。


「タケシ様、一つお願いがあるのですが」


「何だ?」


「そろそろ、剣の稽古を再開したいのです」


 買い物か料理の相談だと思っていた俺は、その言葉を聞いて彼女の顔を見た。


「喉はもう大丈夫なのか?」


「はい。身体を動かしても問題ないと言われていますし、食事も十分に取れるようになりました。ただ、先日、久しぶりに剣を振ってみたところ、思っていた以上に身体が鈍っていまして……」


 そう言いながら、セラフィナは自分の右手を握ったり開いたりした。


「踏み込めると思ったところまで足が届かず、剣を止めたつもりでも腕が流れるのです。頭では覚えているのに身体がついてこないというのは、なかなか悔しいものですね」


「十年もまともに稽古できなかったんだから、仕方ないだろ。少しずつ戻していけばいいんじゃないか?」


「ええ。ですから、これからはきちんと時間を取って、鈍った身体を叩き起こそうと思いまして」


 言葉だけを聞けば勇ましいが、彼女は嬉しそうだった。


 痛みや食事の心配をしながら暮らしていた頃と違い、今は自分の身体をどう動かしたいか、先のことを考えられるようになったのだろう。


 セラフィナは元々、アルセニア王国の近衛騎士だった。以前に《簡易鑑定》で見たレベルも二十七と高く、身体の感覚を取り戻せば、俺のほうが教わることも多そうだった。


「それでしたら、私もご一緒してよいかしら」


 隣で話を聞いていたエレオノーラがそう言うと、セラフィナは少し驚いた顔をした。


「エレオノーラ様も、剣の稽古を?」


「最初から同じことはできないでしょうけれど、もう少し身体を動かしてみたいの。最近は長く歩いても以前ほど疲れなくなったし、屋台がお休みの日に家にいるだけでは、少しもったいない気がして」


 エレオノーラも治療が進み、皮膚の引きつれに動きを妨げられることが減っていた。屋台の仕事を一日こなしたあとでも、帰りに買い物へ寄るくらいの余裕があり、以前のように途中で休める場所を探す必要はほとんどなくなっている。


 とはいえ、彼女にはセラフィナのような実戦経験はない。以前に確認したレベルも三だったし、剣を持たせていきなり魔物と戦わせるようなことはできなかった。


「それなら、二人とも冒険者登録してみるか?」


「冒険者ですか?」


 エレオノーラが目を丸くする一方で、セラフィナはすぐに身を乗り出した。


「依頼を受けるということでしょうか?」


「ああ。休みの日に採取へ行くくらいなら、屋台にも無理は出ないだろ。森を歩けば体力づくりになるし、セラフィナも周りが開けたところで剣を振れる。慣れてきたら、俺と一緒に討伐へ行くこともできるしな」


「それはいいですね! でしたら、タケシ様の剣の稽古もご一緒に――」


「俺の話まで決まってるのか?」


「せっかくですから。普段の動きを見ていて、いくつか気になっていたところがありますので」


 以前、テレビに斬りかかった彼女を止めたことはあるが、剣の使い方について教わったことはほとんどない。


 俺が頷くと、セラフィナは早速、稽古に使う場所について考え始めた。その隣で、エレオノーラは自分が冒険者になるという話を確かめるように、小さく呟いていた。


「私も、冒険者に……」


「気が進まないなら、登録だけ急ぐ必要はないぞ」


「いいえ。少し驚いただけです。自分で依頼を選んで、街の外へ出かけるなんて、以前は考えたこともありませんでしたから」


 そう言って顔を上げた彼女は、もう迷っている様子ではなかった。


「ぜひ、やってみたいです」


 翌日、俺たちはアドリアノープルの冒険者ギルドを訪れた。


 受付のミレーユは、二人が登録を希望していると聞くと驚いたものの、屋台の休みに合わせて活動するつもりだと説明すると、すぐに必要な書類を用意してくれた。


「最初は採取依頼から始めるのでしたら、こちらがおすすめです。街から近い場所でも見つかりますし、見分け方を覚えておくと、ほかの依頼でも役に立ちますよ」


 説明を聞きながら、エレオノーラは見本の薬草を手に取って葉の裏側まで眺めていた。セラフィナも依頼の条件を確かめ、二人で相談しながら登録の手続きを進めていく。


 やがて、それぞれの名前が記されたギルドカードが渡された。


「お二人とも、最初はFランクからになります。無理のない範囲で依頼を受けてくださいね」


「はい。よろしくお願いします!」


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 セラフィナは受け取ったカードを早速俺のものと並べ、エレオノーラは文字を指でなぞってから、大切そうにしまった。


 その日は街の近くで薬草を集め、帰る前にセラフィナが少しだけ剣を振った。次の休みにはもう少し遠くまで足を延ばし、採取の合間に俺も剣の握り方や足運びを見てもらうようになった。


 エレオノーラも、最初は帰り道に疲れた様子を見せていたが、何度か出かけるうちに歩くことに慣れ、薬草を見つけるのも上手くなっていった。


 そうして三人での活動に慣れてきた頃、ギルドへハイオークの目撃情報が持ち込まれた。


 俺たちだけで判断して受けられる依頼ではなかったが、セラフィナの剣の腕を確認してもらい、討伐を担当するのは俺と彼女だと説明したところ、今回は許可が出た。


 もちろん、エレオノーラに戦わせるつもりはなかった。護身用の短剣は持ってもらうが、俺たちの後ろにいてもらい、危ないと判断したら討伐より撤退を優先する。


 出発前にはそのことを三人で確認し、俺の《索敵》で周囲を探りながら、目撃された森へ向かったのだった。


 ◇ ◇ ◇


「タケシ様! また右肩です!」


 セラフィナの声が飛び、目の前のハイオークが棍棒を持ち上げた。


 今度は大きく離れず、振り下ろされる軌道から身体をずらしながら前へ出る。頭上を棍棒が通り過ぎると同時に、伸びた腕へ剣を斬りつけ、そのまま敵の横へ回り込んだ。


 深く傷ついた腕から力が抜け、棍棒が地面に落ちる。


 ハイオークは反対の手を振り回してきたが、その動きも《先読み》で分かっていた。俺は巨体が向きを変えるより早く踏み込み、無防備になった首筋へ剣を振り抜いた。


 相手が膝をついてもすぐには気を緩めず、一歩退いて剣を構える。ハイオークは傷口を押さえようとしたものの、そのまま前のめりに倒れ、動かなくなった。


「エレオノーラ、大丈夫か?」


「はい! こちらは大丈夫です!」


 声のするほうを見ると、彼女は指示した場所から動かず、短剣を握っていた。周囲に新たな魔物の気配がないことを確かめてから、俺はセラフィナへ視線を向けた。


 ちょうど、もう一体のハイオークが横薙ぎに棍棒を振るところだった。


 セラフィナはわずかに身を沈めてかわすと、相手が振り切った腕を戻す前に距離を詰め、膝の脇を斬りつけた。片足を支えきれなくなった巨体が傾くところへ、迷いなく喉元へ突きを入れる。


 ハイオークが倒れると、彼女も剣を構えたまま少し待ち、完全に動かなくなったことを確かめてから息を吐いた。


「……踏み込むのが、少し遅れましたね」


「そうか? 俺には随分と余裕があるように見えたけど」


「身体が覚えているところと、まだ戻っていないところがあるのです。今のも、以前と同じつもりで動いたら、少し足が足りませんでした」


 剣を抜いてこちらへ戻ってきたセラフィナは、自分の足元を見てから、もう一度軽く踏み込んでみせた。


 俺には違いがよく分からなかったが、本人にははっきりした感覚があるらしい。


「ただ、タケシ様の最後の動きはよかったですよ。倒したあとも構えを解かなかったのは、特によかったと思います」


「この前、そこを注意されたからな」


「ええ。相手が倒れたからといって、すぐに近づいてはいけませんから」


 褒めたあとに続きそうになった説明を止め、セラフィナはエレオノーラへ向き直った。


「お怪我はありませんか?」


「ええ。タケシさんが前にいてくださったから、私は何ともないわ」


 そう答えたエレオノーラは、ようやく短剣を下ろした。指に力が入りすぎていたようで、柄から手を離すと、少しぎこちなく開いたり閉じたりしている。


「最初に姿を見たときは、どうしたらよいか分からなくなってしまいました。離れるように言われなかったら、あの場に立ったままだったかもしれません」


「初めてなら、そんなもんだよ。ちゃんと俺の後ろへ下がって、そのあとも動かなかったんだから、それで十分だ」


「でも、お二人はあんなに大きな魔物を前にしても、普通に話していらしたでしょう?」


「俺だって怖かったぞ。攻撃が分かっていても、あの棍棒を近くで見るのは嫌なもんだ」


 エレオノーラが意外そうに俺を見ると、セラフィナも頷いた。


「怖いからこそ、相手の動きをよく見るのです。慣れれば何も感じなくなる、というものでもありませんよ」


「そうなのね……」


「今日は、言われた場所にいてくださって助かりました。途中で走り出されると、私たちも守るのが難しくなりますから」


 その言葉に、エレオノーラの表情が少し和らいだ。


 何もできなかったと思っていたのかもしれないが、こちらとしては、落ち着いて指示に従ってくれたことがありがたかった。無事に終わった今も、慣れない討伐へ連れてきた以上、俺たちが気を抜いていいわけではない。


 俺はもう一度《索敵》で周囲を確かめ、二人に待っていてもらって討伐証明の回収に取りかかった。


 残りはまとめて《アイテムボックス》へ収納すると、セラフィナが感心したように、ハイオークの消えた地面を眺めた。


「何度見ても便利ですね。これだけのものを運ぼうとしたら、普通は荷車が必要になりますのに」


「俺も、これがなかったら持って帰るのは諦めてたかもな」


「屋台でも使わせていただいていますし、すっかり頼るのが当たり前になってしまいました」


 俺が回収を終える間に、セラフィナはエレオノーラの短剣を鞘へ収めるのを手伝っていた。さっきまでの緊張が抜けたらしく、二人は帰りにギルドへ寄る段取りを相談している。


 その様子を見ながら、俺は《簡易鑑定》で自分を確認した。


 レベルは、出発前より一つ上がっていた。


 アーマーボアを倒して三十四になったあとも、屋台の手伝いや日本の仕事の合間に依頼を受けていたため、少しずつ数字は増えている。今回も強い魔物を倒した分、しっかり経験値を得られたらしい。


 続いてセラフィナを見ると、こちらも二十七から二十八になっていた。


「セラフィナ、身体の調子はどうだ?」


「悪くありません。少し疲れましたけれど、思ったほどではないですね」


 彼女は肩を回し、剣を持っていないほうの手を握ってみた。


「むしろ、出発したときより動かしやすい気がします。久しぶりの実戦で、少し感覚が戻ってきたのでしょうか」


「それならよかった。ただ、帰ってからさらに稽古するのはやめとけよ」


「……少しだけ、と思っていたのですが」


「今日はもう十分動いただろ」


 図星だったらしく、セラフィナはエレオノーラと顔を見合わせて笑った。


 俺も笑いながら、今度はエレオノーラへ《簡易鑑定》を使ったのだが、表示された数字を見た途端、思わず彼女の顔を見直した。


 レベル八。


 出発前に確認したときは、三だったはずだ。


 もう一度確かめても数字は変わらず、俺はさっきの戦闘を思い返した。エレオノーラが短剣を抜いたのは覚えているが、ハイオークに斬りつけたところは見ていないし、彼女のいた場所から届くはずもない。


 俺たちと一緒にいたことで、経験値が入ったのか?


 もしそうなら、直接戦わなくても成長できることになる。ただ、今回だけでどこまで条件を絞れるかは分からない。一緒に依頼を受けたからなのか、戦っているすぐ近くにいたからなのか、今の俺には確かめようがなかった。


「タケシさん? どうかなさいましたか?」


「ああ、いや。疲れてないかと思って。結構歩いたし、怖い思いもしただろ」


「それが、不思議とあまり疲れていないのです。ここへ来るまでは、帰りも同じ道を歩けるか少し心配だったのですけれど……」


 エレオノーラは自分の足元を見て、その場で軽く足を動かした。


「今は、まだ歩けそうな気がします。身体も少し軽く感じますし、緊張していて気づかなかっただけでしょうか」


「痛いところは?」


「ありません。どこかおかしいという感じでもないのですが」


 本人も変化は感じているらしい。


 この世界では、自分の身体の強さをレベルという数字で確かめる習慣も、そのための手段もない。エレオノーラにしてみれば、急に疲れが取れたように感じているだけなのだろう。


 俺が何も分かっていないうちから、強くなったから大丈夫だと伝えるわけにもいかなかった。身体が動くようになっても、剣の扱いや危険への対処まで身につくわけではない。


「それなら、帰りに少し様子を見よう。調子がよくても、今日は無理しないでくれよ」


「はい。けれど、疲れずに歩けるのは嬉しいですね。これなら、次もご一緒できそうです」


「もちろんです。次は採取にしましょうか。剣の稽古も、少しずつ始められますよ」


 セラフィナがそう言うと、エレオノーラは短剣の柄へそっと手を添えた。


「私にも扱えるようになるかしら」


「今日も、抜くところまではできていました。まずは握り方と、足の置き方から覚えていきましょう。振るのは、そのあとで十分です」


「私、力を入れすぎていたわね」


「ええ。ずっと強く握っていると、腕が疲れてしまいますから」


 説明を聞きながら、エレオノーラはもう一度柄を握り、さっきよりも力を抜いてみていた。


 レベルが三から八へ上がったのなら、体力にも随分と違いが出るはずだ。それを彼女自身が少しずつ確かめ、使いこなせるようになれば、街の外でできることも増えていくだろう。


 ただ、今日はこれ以上試す必要はない。俺は二人に声をかけ、来た道を戻り始めた。


「ギルドで報告したら、夕飯の買い物もして帰るか」


「でしたら、今日はお肉にしませんか? 身体を動かしたら、お腹が空いてしまいました」


「俺もだ。エレオノーラは?」


「私も、お肉がいいです。今日はいつもより食べられそうですから」


「それなら、少し多めに買いましょう。あの焼いたお肉にかけるたれも、まだ残っていましたよね?」


 セラフィナは献立を相談しながら歩き、エレオノーラも隣で、付け合わせに何を食べたいか話している。俺が冷蔵庫に残っているものを挙げると、今度はそれを誰が切り、何から焼くかという話になった。


 行きには足元を気にしていたエレオノーラが、帰りは顔を上げて会話に加わっている。その歩調が落ちていないことを確かめてから、俺は前へ視線を戻した。


「それからタケシ様、次の稽古では、今日の踏み込みをもう一度やってみましょう。最初の一歩さえ小さくできれば、もっと楽に――」


「夕飯の次は、俺の稽古かよ」


 思わず苦笑すると、エレオノーラが声を上げて笑った。セラフィナも笑いながら、それでも説明を続けている。


 帰り道まで指導が続くとは思わなかったが、俺は時々相槌を打ちながら、二人と並んで街へ向かった。


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