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光の聖女と祝勝会

 魔王がその禍々しい力と共に崩れ去った翌日。王宮では魔王討伐の祝勝パーティーが行われた。


 アザレアとアダムは聖女と勇者、そして王国を背負っていく者として多くの貴族の相手をすることになったのだが、慣れていないアザレアは息苦しさを感じていた。


「美しい聖女様、未来の王妃様に会えて光栄です。わたくし――」


 挨拶に来た者が皆口を揃えて女神のようだと褒め称えていたが、その言葉は嘘偽りのない本心だと断言するほどアザレアは美しかった。


 アザレアが今夜纏っているのは、聖女の象徴である純白をベースにしたドレスだ。アザレアの髪色によく似た、金色の繊細な刺繍やレースが惜しげもなく使われ、一目でこのパーティーの主役だと分かる。


 アザレアが歩くたびにドレスは優雅に揺れ、胸元の黄金色に輝くシトリンは、アザレアの人々を包み込むような、この国に繁栄をもたらすために降り立った豊穣の女神のような優しさを最大限に引き立たせている。


 金色に輝く長い髪も透き通るような肌も人形のように完璧に仕上げられている。


「今夜のパーティーの話題はすっかりアザレア一色だな」


「そんなことありませんよね……?アダム様……?」

 

 波が去ったあと、疲労を感じたアザレアを心配してか、少し夜風を浴びようとアダムの提案で、月光の差し込む美しい噴水庭園へ向かった。


「あまり元気がなかったが、大丈夫か?」


「心配してくださりありがとうございます。アダム様」


 平民だった頃では全く想像もできないことが次々と起き、持ち前の明るさで聖女の役目も次期王妃としての教育もこなしてきたアザレアは、気が付かない間に重圧で押し潰されそうになっていた。


 魔王討伐の安心からか、これまで誰にも見せなかった涙があふれそうになったが、アダムに心配をさせないよう、必死に笑顔を作った。


「……アザレア。君はたまにそうやってつらそうに笑う。君が僕を孤独から救ってくれた。君はいつだって自分ではなく他人のために笑おうとする。」


「っ……!」


 アザレアの赤みがかった頬を涙が流れ落ちる前にアダムは自分の胸へ抱き寄せた。


「君は人には敏感なくせして自分にはとことん鈍感だ。……アザレア。僕は君の婚約者だ。僕の前まで完璧な聖女である必要なんてないんだよ。」


 アザレアの瞳から流れ落ちた涙が差し込む月光に照らされ光を帯びる。

 優しく頬を撫でるアダムと視線を合わせるとアザレアは静かに瞳を閉じた。

 水面が月光を反射する噴水の前で、二人は初めて、長い口づけを交わした。


 その二人を月光が差すバルコニーから睨むように眺める狼のような美しい琥珀色の瞳の少女の姿があった。


 

「……だから言ったはずだ。あの程度の傀儡では聖剣と聖女は止められはしないとな」

 

「黙りなさい、シル。ああ忌々しいお姉様……。こちらの予想を遥かに上回っていたわ。それに私たちにはあまり時間は残されていないの。貴方もそれは分かっているでしょう?」


 人の形をした狼、シルベスタ。元公爵家お抱えの護衛騎士であり、かつて公爵家がリリアの魔獣化の力を引き出すために行った実験の被害者。


「分かってはいるさ……。こうなったら例の術式が完成するまでの時間稼ぎくらいはしてやる。……本当にやる気なんだな?」

 

「当たり前じゃない……。この間違った忌々しい伝説に終止符を打つのよ。このリリア・ティンタジェルに二言はないわ。」


 その時、カツカツとよく響く足音が近付いてきた。


「誰か来たわね。シル、あとは任せたわ。」


「おやおや。奇遇だね、リリア嬢?貴女も夜風を浴びに?」

「あら、ニコラス様。人が多い所は苦手ですぐに疲れてしまいますの。あなたほどの方がパーティーを抜け出していいのですか?」


 リリアは大人しい令嬢の顔を瞬時に作り、警戒心を引き上げる。いま一番会いたくない人物――ニコラスは貼り付けたような笑顔から冷たく鋭い視線をリリアに送った。


「そんな警戒されるとは悲しいなぁ。少しお話に来ただけじゃないか……。」


「話?魔王のことなら何も知らないと言ったはずですわ。」


「そのことじゃなくてねぇ。なぜ隠しているんだい?妖精姫様?」


 リリアはニコラスを睨みつけたが全てを見透かしたような瞳に観念したのか、自白をした。


「まったく……。あなたは何者なの?」


「わたしはただの宮廷魔術士だよ。少し伝説に詳しいだけのね。」


「そう……。あの伝説、建国伝説の最後の選択は間違いだと思うの。この力は国を腐らせるわ……」


「光と闇の力はこの国の宝だよ。キミはその力を消し去ろうというのかい?ウォルター公爵様は許さないだろね。正統な後継者であるキミとアザレア嬢が手を組めばこの国の未来は約束されているようなものなのになぁ。」


 リリアはおそらく敵となるだろうニコラスに悲しそうな目を向けて答えた。


「私は人智を超えた力は早く返還した方がいいと思いますわ。それに、この力と聖女に人生を狂わされるのはもうこりごりですので。」


「本当にただ力を消すだけで彼女の立場は君の物になるのかなぁ?」


「私はあまり犠牲を出したくありませんわ。お父様のように人の心を無くしたわけではありませんもの……。ですがもし、どうにもならないときは……」


「キミの怒りがどうかこの国を滅ぼさないことを祈るよ」


 ニコラスはそう言って月光の届かない闇の中に溶けて消えた。


「もっとこの力を引き出さないと聖女には敵いませんわね……。早くあの術式を完成させ、肉体の器を……」


 リリアはひとりごとを呟きながら先ほどまでアダムとアザレアがいた噴水を一瞥し、月光の差す水面を腹いせに凍らせてパーティーへ戻って行った。

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