『それがお前の罪だぜ?』
◁
レアメス二世に連れられて、アジトをでてすぐ目の前に広がる森の中を数分歩く。 森の中でたまたまできたであろう開けた空間に出ると、レアメス二世は背中越しに振り返りながら声をかけてきた。
「さて小僧。 貴様の勝利条件は我に傷を与えることだ」
「は? 傷を与えるだけとか、余裕過ぎてあくび出るんすけど?」
「その意気やよし、有言実行してみせるがいい」
含み笑いを漏らしたレアメス二世はパチンと指を鳴らすと、足元の地面から何やらゴツい装飾が施された戦車が隆起してくる。 続いて右手を前に掲げると、その右手に光の粒子が集まり、黄金の弓を生成した。
「なんで弓なんだわさ! しましまの杖じゃないだなんてがっかりなんだわさ!」
「うるさいにゃナイルくんのママ! ついてきたのがバレちゃうにゃ!」
後ろの茂みが騒がしいが、俺はあえて気づかないふりをしていた。 けれどレアメス二世は満更でもなさそうに薄笑しながら振り返る。
「おいそこな女子どもよ。 別に我らはやましいことをするわけではない、観戦したいのならば好きに見ていくが良い」
なんだか嬉しそうな声音でそんな声を上げると、草陰からおそるおそる出てくるママとサナさん。
「でへへ、ちょっくら外の空気が吸いたくて出てきちゃったんだわさ」
「別にあたしは、メメちゃん達の話しが難しすぎて頭が痛くなりそうだったから抜け出してきたわけじゃないにゃ」
「そうだわさ、なんか面白そうだから観戦しに来ようだなんて思ってないさ!」
「ほとんど本音漏れてるぞ」
『サナたんはいつでも自由人だからな』
『ありたむ先生は戦うイケメンを描くための参考資料がほしいのだろう』
『レアメス二世は弓使いっていうのは少し意外だよね』
コメント欄からもあったが、レアメス二世の身長や筋肉量からして近接武器でゴリゴリに戦う武闘派だと勝手に思い込んでいた。 だから俺も視聴者と同じで弓を構えるレアメス二世を見て意外に思っている。
油断なく鋼の戦棒を構えながら周囲を確認。 開けた空間とは言っても広々としているわけではない。 弓を使うのなら間合い的にも不利にも感じるが?
「いつでも来るがいい小僧。 我の力を見せてやろうではないか」
レアメス二世は余裕そうに手をクイクイと曲げてくる。 挑発のつもりなら乗ってやろうではないか、俺の力を甘く見られては困る。
「そんじゃまあ、遠慮なく行かせてもらいますよ?」
油断なく警戒しながら地面を蹴り、正面から一気に肉薄する俺。 さてさて、レアメス二世はどういった戦い方をするのやら。
冥界行きが決まる前、アジトに引きこもっていた期間ラーザさんや熊さん大事件ペアとずっと組手をしてきたのだ。 それに、冥界では数々の試練を乗り越えたことで戦闘面以外でも洞察力や、咄嗟の判断力も鍛えられている。
今が修行の成果を見せる時!
『ナイル氏、正面からはあかんやつ』
『すぐに横へ飛べ』
『こいつの能力マジで面倒くせーから』
コメント欄がちらりと見え、俺は訝しみながらレアメス二世の様子をうかがうが、
「ピクリとも動いてないじゃないか」
「我に正面から肉薄するとは。 もしや小僧、我の栄光を知らずに挑んでおるな?」
「っぬをぉ!」
突然、俺の足元からビルのような建築物が隆起してくる。 それに続いて周囲に次々と巨大な建物が隆起してきて、開けた空間が一瞬にして摩天楼のように変わってしまう。
「小僧、このままではなにもできずに敗北してしまうだろう。 せめてもの情けとして我の力の一端を開示してやろう。 我が作り出す建築物には、我が定めたルールのもとに絶対領域を産み出すのだ」
「絶対領域? 太もものことか?」
「ナイル君はバカなのかにゃ?」
俺の素っ頓狂な問いかけに対し、観戦していたサナさんから呆れた声が掛けられる。
とまあそんな漫才をしているのも一瞬。 俺は瞬く間に石造りの部屋に閉じ込められてしまった。
閉じ込められたのはかなり狭い部屋で、広さ的には八畳程度だろう。
「なんじゃこりゃ!」
「これじゃあ何にも見えないんだわさ」
「ナイル君! ステータスを確認するにゃ! レアメス二世さんが作る建築物は、とんでもない弱体能力を付与するにゃ!」
サナさんの声が響いてきた。 俺はすかさず冒険者端末を確認したのだが……
『手始めに闘技スキル封じですか』
『舐められてるねナイル君』
『ひどい時はレベル半減とか半永久的にHP減少』
『俺的に強化スキル無効がストレスかな』
『うる覚えだけど視界が反転するときもあったよな?』
『建物に施される追加効果は上げればきりがないぞ?』
コメント欄が大方の情報を教えてくれた。 レアメス二世の能力は、自身が設定したルールを元に建築物を召喚し、その中に閉じ込めた相手に何らかのバットステータスを付与する。
バットステータスもかなり面倒だが、それよりも厄介なのは建物に閉じ込められるとレアメス二世がどこに行ったのかわからなくなる点。 探し回るのは面倒だから壁をぶっ壊せば話しは早いだろう。
そう思って鋼の戦棒を振りかぶり、思い切り壁をぶっ叩いたのだが……
鋼の戦棒は甲高い金属音を響かせながら役目を終えた。
「ぎゃあ! 俺の鋼の戦棒が! せっかく愛着が湧いてきたのに!」
「ふむ、これはすまんことをしたな小僧。 貴様がそこまで阿呆だったとは思わんでな」
『建築王が作った建築物を甘く見るからだ』
『建物はすべて不壊属性だぞ』
『専用武器を早く取りに行かないといけなくなったな』
今現在、鍛冶師さんが専用武器を作っているから武器の問題はさておき、この面倒な能力を使ってくるレアメス二世を相手に素手で戦わないといけないというのはかなり面倒だ。
「まずはレアメス二世を見つけないとだめなやつっすね」
奥歯を軋らせながら走り出す。 しかし走り出した俺の足先にどこからともなく弓矢が飛んできたため、慌ててバックステップ。
どこから飛んできたのかが分からず視線を巡らせるが、レアメス二世は見当たらない。
「ナイル君! レアメス二世様の弓矢は建物を透過して飛んでくるにゃ! とりあえず建物から出ないと話にならないにゃ!」
「なんなの一体? ちょっと強すぎないですかね?」
「我を甘く見るからだ小僧、それ後方注意だぞ?」
慌てて反転したのだがすでに遅く、俺のわき腹を弓矢がえぐる。 HPは少ししか削られなかったが、見えない敵を相手に弓矢をかわすのは無理がある。 その上建物の外に出たくても建物は破壊不可能。
「すごいんだわさ、レアメス二世ちゃまは建物の中にはいっていっちゃったんだわさ!」
「レアメス二世様は建物を透過して自由自在に移動できるから当然にゃ!」
「嘘でしょ?」
絶望的なアドバイスが飛んでくる。
「レアメス二世、強すぎんだろ!」
「フハハハハ! 愉快愉快、実に愉快! さて小僧、我の威厳を存分に思い知るが良いぞ?」
建物を出たいのだが、進もうとする先に嫌がらせのように弓矢が飛んでくるため思い通りに進めない。 視界は建物に遮断されているし、レアメス二世がどこにいるのかわからない現状。
【心眼】スキルを使えば建物を透視できるのだが、建物が入り組んでいて逆に頭が混乱してしまいそうになる。 レアメス二世の場所だけは分かるのだが、どこをどう進めばいいのか考えると頭がパンクしそうだ。
『さすがは勇猛果敢な建築王』
『その武勇はこの国の脅威を次々と退けたらしい』
『固有スキルが可愛く見えるレベルの強さだよね』
観戦している仲間だけでなく、視聴者たちからもレアメス二世の事をどんどん教えてもらっていはいるが、一向に解決策が浮かばない。
建築物は破壊不可、レアメス二世は自由に移動できる。 さらに弓矢は建築物を透過して俺に襲いかかってくる。
極め付けは建築物ひとつひとつに異なるデバフ効果が付与されていると。
「理不尽! クソゲー展開はご遠慮いただきたい! このゲーム神ゲーじゃなかったの?」
「もう泣き言を上げるか小僧。 それでも破滅の女神セフメト様を退けた豪傑か? 期待はずれも甚だしいわ!」
あざ笑うような挑発を受け、さすがの俺もイラッときてしまう。
「ほほう、上等じゃあないか。 そのセリフ後悔させてやるからな? ……確かこの弓矢、建物を透過して攻撃できるんだよな?」
大きく息を吐き集中をする。 呼吸を整え次の攻撃を待つ。
心眼スキルを発動させ、レアメス二世の場所だけを把握する。 この建物のどこから出ようかとか、余計なことは考えない。
『呼吸を深くしているね』
『全集中の呼吸か?』
『ナイル氏の場合はなんの型になるの?』
「視聴者の皆さん、期待を裏切って申し訳ないが、俺が今からするのはまったく違うことでございます」
「なにを見せてくれるのだ小僧、我を楽しませてみせよ!」
レアメス二世が愉快そうな声を上げて弓を放ってくる。 冥界に行く前、ラーザさんから伝授してもらった反射神経を存分に発揮する。
弓が飛んでくる方向をいち早く察知した俺は、すぐに体を反転させて真横から飛んでくる弓矢に右手を伸ばし……
「バカな! 射速二百キロを優に超えているのだぞ?」
『掴みやがった!』
『これは、真剣白刃取りならぬ新弓白矢取り!』
『まさか矢避けの加護を習得していたか?』
「なんのこれしき! ラーザさんから教えてもらったジャストガードの極意、身を持って味わえってんでぃ!」
掴んだ弓矢をそのまま振りかぶり、飛んできた方向に投げ返す。
「ラーザたんが聞いてたら喜びそうな声が聞こえたわさ」
「おらいくぞ! リベンジカウンター!」
『さてさてさーて?』
『ここにラーザ様がいないという運命に憤怒しそうだ』
『それがお前の罪だぜ?』
俺が投げ返した弓矢は案の定、建物の壁を貫通した。 おそらくこの弓矢は特殊な性能をしているのだろう。
レアメス二世が作った建物だけを透過するように設定されているのなら、俺が投げても結果は同じ。
「ぬをぉ! なんてことをするのだ小僧! 我の一張羅が切り裂かれてしまったではないか!」
「あたくしの力作衣装が切り裂かれちゃったんだわさ!」
武器を投げるのはこの世界に来たばかりの時、モンクへジョブチェンする過程でなんとなくコツを掴んでいる。 心眼スキルでレアメス二世がどこにいるのかだけを見ていれば、入り組んだこの建物の集合体に頭をこんがらせることもない。
よって、俺が投げた弓矢は遠慮なくレアメス二世の肩をかすった。
これで攻略法は分かった。 後は持久戦だ。
向こうは攻撃手段が弓しか無い。 俺は心眼スキルを駆使して建物の中を駆け回り、弓矢が飛んできたタイミングで掴んでしまえばいいだけ。
どんなバットステータスを付与されようと、弓矢を掴むための反射神経は俺自身が身につけたプレーヤースキルだ。 このスキルはどんなバットステータスを付与されたとしても封じるのは難しいだろう。
「おらおらこの鼻下長紳士! どっからでもかかってきやがれ!」
対抗策が浮かんだ以上、テンションが最高潮に達した俺はノリノリで声を上げる。
しかし気持ちが高ぶった俺を裏切るがごとく、建物の集合体は音を立てて崩れていってしまった。
「ふむ、セフメト様を退けたという貴様の武勇。 偽物ではないようだな」
砂になってしまった建物をぽかんとした顔で眺め、呆気にとられてしまう。
「え? もう終わり?」
「我に傷を与えたら貴様の勝ちだと言ったであろう」
悔しそうな声で自らの肩を指差すレアメス二世。 俺が投げた弓矢が切り裂いた肩からは結構な勢いで流血しており、かなり痛そうだった。
「それにしても小僧、貴様我に向かって鼻下長紳士などと暴言を吐きおったな?」
「え? ナンノコトデスカ?」
鋭い眼光を向けてきたレアメス二世に対し、そっぽを向きながら返事をするのだが、
「どさくさに紛れて無礼なことをいいおって! 覚悟せいクソガキめが!」
「ちょっと待て! 傷を与えたら俺の勝ちって話しだったんじゃないの?」
「それとこれとは話が違うわ! これから始まるのは教育である! 覚悟せい!」
結局、俺はこの後もレアメス二世から涙目になるまでしごかれてしまうのであった。




