『つまり信者集めに取りかかれと?』
◁
そんなわけで、冥界から帰るのは一瞬だったのでした。
「私に感謝してくれていいんだよ? 坊や」
帰宅早々得意げな表情のホープさん。
そう、もしかしなくてもレアメス二世が言っていた通路とは……
「神祟の大穴からダイブすれば、一瞬で最下層まで行けたんじゃねえか」
「みなまで言うな黒湖ナイルよ、私たちの努力が報われぬではないか」
レアメス二世が発見した通路とは、先日アセト様と戦った際ホープさんがぶち空けた神祟の大穴だったのだ。
「まさかあのような巨大な穴を作り出してしまうとは! 恐れ入ったぞ魔術師の娘!」
「こいつは娘じゃなくて息子だぞレアメス二世」
「坊や、もしかして私が女だってことを改めて分からせてもらいたいのかな?」
「ごめんなさい嘘ですこのネカマは淫乱娘です」
慌てて謝罪を入れたのだが、意味深な笑みを浮かべながらにじり寄って来るホープさん。 しかし冷や汗を流す俺の前に心強い味方が立ち塞がる。
「伴侶様にセクハラができるのはわたくしの特権ですわよ?」
「どんな特権だい?」
久々にみんなと再会してなんだか安心した気分になる。 だがレアメス二世は俺たちが隠れているアジトを総覧すると、ふてぶてしくため息をついた。
「それにしても貴様ら、なんだこの質素な居城は? このような粗末な場所に我を招くとは、どういった神経をしておる?」
「冥界でも話しましたが、私達は今……王国軍に追われている身です。 姿を隠すにはこういった場所で息を潜めるしか方法が——」
「追われるのも身を隠さなければならぬのも、貴様らが脆弱だからであろうが」
下手に出て説明をしてくれていたメメジェットさんにきつい一言を浴びせるレアメス二世。 これにはさすがのメメジェットさんも気に触ったようで
「そうは言われましても、王国軍の脅威は想像を絶します。 我々だけでは対応ができないのもご理解いただければと」
「そんなもの当たり前ではないか。 貴様らは我を合わせても十人そこらの盗賊まがいなのだからな」
レアメス二世は呆れたように声を上げる。 わかりきったことをペラペラと、こいつを連れてきたのは間違いだったのではないか?
『なるほど理にかなってるな』
『つまり信者集めに取りかかれと?』
『すまんニキたち、何がなるほどなのかわからんから詳しく説明を求む』
「俺もサッパリわからないのでお願いします賢い視聴者の皆様」
あまり声を張らずに言葉を発したつもりだったが、全員が俺に興味深げな視線を送ってくる。
居心地が悪いとは思ったが、視聴者たちが推測するレアメス二世の考えは、それはもう目からウロコな話しだった。
『まず、君たちが追われる理由は地位も名誉もなにもない少数集団だからだ』
『となると強くなる以前に国民たちから信頼を集めなければならない』
『国民たちから支持されるようになったらどんな事が起きるか』
『当然、王国軍が君たちを捕まえた瞬間、どこかしらで暴動が起きる』
『小規模であっても暴動が起きるのを王国軍は見過ごせなくなるだろう』
『結果、王国軍の中では捕獲を強行するか、話し合いするかで意見が分かれる』
俺はためになりそうなコメントを厳選して読み上げながら、全員の表情を確認する。 すると、満足気に頷くレアメス二世や、視線を下げながらひとりブツブツ言葉を発するメメジェットさん。
他にも地図とにらめっこしながらあごをさするハートちゃんや、納得したようにうなずきながら続きを聞こうと前のめりになるサラーマさんが確認できた。
他は全員ぽかんとしてたりイラスト描いてたり、乾パンに貪りついていたりと当てにならなそうだったが。
なんとなくわかってきた。
俺たちが追われるのはいつでも捕えることができる少数集団だからだ。 数さえかければすぐ捕まえられるのだもの追うのは当然。
しかし、俺たちを支持する国民が増えればそう単純な話ではなくなる。 数百数千の支持者が募れば、捕まえた瞬間反感を買うのは当然なのだから。
よって、数には数で対応すると言うのがベストアンサー。
『つまり今すぐするべきなのは信者集めなのだよ』
『もちろん王国軍に捕まらないよう撹乱する必要もあるな』
『そしてこちらにはレンジャーが二人もいるし、王国軍と相性がいいレアメス二世もいる』
「なるほど、つまり黒湖さんを教祖として信者を集めつつ、レンジャー二人を中心にすぐに逃げられる体制を整えつつ、武闘派メンバーで王国軍の追手を撹乱。 もしくは信者集めに向かっている仲間を護衛すると?」
「貴様らが阿呆の集まりでなくて何よりだ。 それにしても小僧、貴様の信者には優秀な人材が多数おるのだな。 見直したぞ、貴様の信者はな」
「それはどうもありがとう、だが俺を頑なに認めようとしない辺りは文句を言っておく」
得意げな顔で鼻を鳴らすレアメス二世にイライラしながらも、今後の方針は視聴者の皆さんのお陰で固まりつつある。 なぜ俺が教祖前提に話が進んでるのかは気になるが、とりあえず保留。
「とは言ってもやっぱり難しいのは確かだよ? 信用を集めるとは言ってもそう簡単に上手くはいかない。 なんせ、ここは現実の異世界なんだからね?」
ホープさんのもっともな言い分に対し、一度は明るくなりかけた全員の表情がまたしても暗くなってしまう。 けれど、ひとりだけおかしそうに笑う偉そうなやつがいた。
「なに簡単なことよ。 現状この国はどういった出来事が起きておるのかを整理してみよ」
「エニアードが降臨して各地で信仰戦争が勃発している」
「王国軍とアセト様の信者が協力関係になってそれは収束したでしょ?」
「確かにな、今では王国軍がそこらの街に徘徊してるせいで食料調達もままならねえ」
「どの村に行っても商店街は寂れてたからうろうろすれば目立っちゃうし、すぐ購入しようとしても食料も値段が高騰化してたから手を出しづらいのも痛かった」
頼りになる頭脳派組が今の状況を整理し始める。 俺はとりあえずそれを聞いてふむふむと頷いていたが、
「おい暗殺者の娘、貴様はさきほど何と言った? 商店街が寂れておると言ったな? なぜ寂れていると思う?」
「なぜって、食料が値上げされてて野菜ひとつ買うのにも高額になってたし、食料を買えないとなると娯楽に費やすお金もなくなっちゃうじゃないか。 寂れても仕方がないよ」
「そこで思考を止めるから貴様は阿呆だと言っておるのだ。 なぜ食料が値上げされておると思う? 原因は何だ? 考えれば我らのするべき行動がおのずとわかってくるであろう?」
レアメス二世の挑発的な問いかけに対し数秒の沈黙を挟んだ後、ゆっくりと目を見開くハートちゃん。
『信仰戦争の影響で農村が何らかの被害を受けたか?』
『食料の生産に手が足りてないんだろうな』
『生産というより、運搬ができてないんじゃない?』
「なるほど分かった!」
「貴様は一旦黙っておれ。 どうせ信者の助言をそのまま口にするだけであろう?」
苛立たしげに黙らされてしまう俺。 食料の話が出てから耳がピクピクと動き出すサナさん。
「そうか、戦争の影響で運搬ルートが安全じゃなくなった、もしくは食料を必要とした各勢力の信者たちが食料を買い占めた!」
「概ね正解である。 他にも、王国軍が貴様らの捜索に兵を割いておるから魔物が畑を荒らしているが、そちらへの対処が滞っているなどの可能性も浮上するであろう」
「それは大変だにゃ! すぐに畑の野菜を守るべきだにゃ!」
食べ物の話になると張り切り出すサナさんはさておき、レアメス二世の助言は的を射ている。
文句のつけどころがなさすぎて腹が立つほどに!
「さすがは元アイギュプトス王! 素晴らしき慧眼ですね。 おみそれしましたよ」
「やめいやめい、シーツの美女よ。 そう褒められても愛でてはやらんぞ?」
「愛でられるのは断固拒否します」
「釣れない女子よなぁ? 貴様はそこな生意気な小僧しか見えておらんのか?」
「溺・死!」
「……すまぬ、少々調子に乗ってしまっただけであるからその恐ろしい目つきはやめよ」
よくわからない会話がかわされたが、ハートちゃんとメメジェットさんは机の上に開いていた地図を舐めるように見渡し、二人揃ってああでもないこうでもないと相談をし始めてしまう。
どうやら俺達は、レアメス二世のおかげで大きな一歩を踏み出せたようだ。
「さて、方針も決まりそうなことであるから我の助言はこの辺りで問題ないであろう。 おい小僧、貴様はこれから教祖として君臨することになるのだが、それには民たちの心を惹きつけるための威厳を示さねばならん」
突然そんなことを言われても困ってしまう。 俺は今まで趣味でVtuber活動しているだけの普通の人間だったのに、成り行きで教祖になれとか言われても実感が湧かない。
「威厳とか言われてもよくわかんないんですけど? こういうの初めてだし」
「なに、わかりやすい形で貴様の偉大さを示せば良いだけだ。 差し当たっては武力であろうな。 よって、我が貴様を測ってやろうではないか。 どの程度の実力か、我に見せるが良い」
「見せろと言われてもどうすれば?」
突然の展開に困惑しながらも、肩をすくめて皮肉を返す。
「なに、簡単な話し。 我と立ち会えば良いだけだ。 現世に来たばかりでこの体にもなれておらん、恐れることは何もないぞ小僧」
民達の信頼を集めるために、なんで俺の実力を図る必要があるのかは知らないが……
おそらくレアメス二世は適当な理由をつけて、憑依した体の状態を調べるために模擬戦したいだけだろう。
今後の方針はハートちゃんとメメジェットさんが立ててくれているから俺ができることはほとんどない、となればもちろん断る理由もないわけで……
「先に言っておきますけど……俺にボコボコにされたからって、拗ねて冥界に帰るとか言い出すのは無しですからね?」




