『失礼、噛みました』
◁
気のせいかな、寝すぎた気がする。 コメント欄もなんだかよくわからないが大盛りあがりだったし、まだ傷が全回復していないせいなのか腹部にも鈍痛が残っている。
「しかしまあ、数多の試練を攻略した後だと大空洞はベリーイージーに感じますね」
「まったくだわさ。 阿鼻冥界の時は死を覚悟したんだわさ」
相変わらず大空洞は天変地異の嵐で、この最終階層はかなり高頻度で災害が発生する。
比喩ではなくガチで雨みたいに雷が降ってくるし、突然近くの小山が噴火したかと思ったら突拍子もなく竜巻が発生したりとてんてこ舞いだったが、そのことごとくをスキルや知恵を応用して回避することができた。
ここまでの試練で培った能力が活かされている気がする。
そんなわけで大量の天変地異やアンデットモンスターに追いかけ回され続けて数十分、目標だった東の岩山に到着した。
あの岩山の下に目的の人物、レアメス二世の魂が滞在しているらしい。
「もうすぐ目的地につきますよ? 皆さん気を引き締めて下さい?」
メメジェットさんの号令に従い、全員が気を引き締め直す。 と思ったのだが……
「ふーんだ。 メメジェットよ、一番気を引き締めるべきなのは貴様ではないか?」
「ラーザ様? いつまで不貞腐れているのです? そろそろ機嫌を直していただかないと困りますよ? まあ、不機嫌なお顔も可愛らしいですがぐへへ……」
珍しくラーザさんとメメジェットさんがギスギスしている。 休憩中になにかあったのだろうか?
まあ、ギスギスしててもここまでの連携は完璧だったから、ギスギスしてるのは表面上だけなのかも知れない。 ぐへへとか言ってるし、もしかしてツッコミ待ちなのかな?
なーんて思って気安いトーンで理由を追求してみた。
「二人共、珍しくギスギスしてますけどなにかあったんです?」
「あなたには関係ありませんからっ!」
「お前が気にすることではないぞっ!」
そして食い気味に制されてしまうのだった。
『ナイル君、なんて罪な男なのかしら』
『この弄ばれてる感じを第三射視点で見てるのが面白いんじゃないか』
『君が寝ている間に戦争が起こっていたのだよw』
コメント欄は冷やかしばかりでなにがあったかは教えてくれなかった。 仕方がないので二人のことは後回しにして岩山へと足を向ける。
すると、岩山のふもと部分に洞窟のような大穴が開いているのが確認できた。 おそらくあの洞窟の中にレアメス二世という人がいるのだろう。
一体どんな人なのだろうか、ここまで苦労してきたのだから無駄足にならないことを祈っていると、自然と洞窟へと向かう足取りは早まっていくのだった。
◁
「フハハハハ! なぜこのような場所に生者が迷い込んでおる? ステータスに大幅な規制がかかっているはずなのだがな? 面白い、実に面白い若人共であるな!」
洞窟を目前にした瞬間、背後から豪快な笑い声が聞こえてきた。 武器を構えながら振り返ると、そこにいたのは見上げるほどの大男。
赤褐色の短い髪を風になびかせ、高飛車な雰囲気をまとわせている三白眼のイケメン。 そして特筆すべきは、俺とキャラ被りしている褐色肌である。
これは、刺さる人にはぶっ刺さる容姿をしている、その証拠にママは目を血走らせながらウィンドウにペンを走らせ始めている。 取り憑かれたように絵を描き始めたママに対し、ちょうど隣に立っていたルタカは興味深そうにママのイラストを見学し始めた。
「誰だこのイケメンは、キャラ被ってるんだけど」
「フハハハハハ! やめいやめい。 我がイケメンであるのは世の理。 言われるまでもなく分かっておるわ!」
もしかしなくてもナルシストなのだろう。 愉快そうに笑いながら俺の方ににじり寄ってくると、バシバシと無遠慮に背中を叩いてくる。
「レアメス二世ですね? お初にお目にかかります。 我々はあなたを探すため冥界に足を踏み入れていました」
「ふむ、このシーツを被った美女は貴様の伴侶か?」
「ひゃ? ひゃんりょ? なにをいっちょるのですかあなたはっ!」
「なに動揺して噛みまくってるんですかメメジェットさん」
『失礼、噛みました』
『わざとだろ』
『はにかみました。 えへっ!』
「えへっ! ってなんだよ!」
「突然どうした小僧」
「すみません、つい条件反射で口が滑りました」
『わざとだろ』
『ファミマみた?』
『なぜまだ続いてる?』
このネタはエンドレスサマーも青ざめるくらいに長引いてしまうので、このあたりで一旦スルーしとかないと話しが進まなくなってしまう。
なぜか屈み込んで丸くなってしまったメメジェットさんの代わりにラーザさんが一歩踏み出し、真剣な顔でレアメス二世と正対する。
「失礼レアメス二世殿、こちらの黒湖ナイルという童は固有スキルの問題で、別世界に存在する信者と会話ができてしまうようでな。 たまに突拍子もなく変なことをいい始めてしまうのです」
「なるほど、この小僧は少々頭がぶっ飛んでいるのだな? 実に愉快ではないか」
「大方その通りかと」
「どの通りだよ!」
ラーザさんが失礼な紹介をしてくれたおかげで、俺は頭のおかしな小僧になってしまったようだ。
「して、生者の身でこの冥界最深部まで足を踏み入れた猛者たちよ。 貴様らは今しがた我を探しに来たと申していたな。 何用で我を探しに来ていたのだ?」
「折りいって協力していただきたいことがございまして。 単刀直入に申しますと、我々とともに現世にいらっしゃって欲しいのです」
「うむ、よかろう」
「我々の都合であなたの力を借りる以上、こちらから提示できる条件としては……今なんと?」
「手を貸すのには条件があると言ったまでだ」
「嘘つくなよ、うむよかろう、って言ってただろ?」
「生意気な口を聞くでないわ小僧!」
ぽかんとしていたラーザさんを差し置いて、ジリジリと火花をちらしながらにらみ合う俺とレアメス二世。
「あ、あの……レアメス二世殿、本当に我々に協力してくれるのですか?」
「条件があると言ったであろう? まずは聞くのだ」
あたふたしてしまっているラーザ様の肩に気安く手を置くレアメス二世。 それを見て俺は何故か不快な気分になり、レアメス二世の腕を掴みあげた。
「気安くラーザさんに触るんじゃねえこのチャラ男!」
「はわっ! ななにゃ、にゃにを言っているのだきゅろこニャイル!」
「噛んでるぞ、それと犬なのににゃーにゃー言うのは解釈違いです」
『すみません、噛みまみた』
『わざとじゃない?』
『始まったよ一連の流れw』
口をあわあわさせながら頬を赤くするラーザさんをかばい、チャラ男二世を睨みあげていると、チャラ男二世は面白いものを見たように笑い出す。
「なるほど小僧、貴様も伴侶を複数抱えておるのか?」
「複数も何も、伴侶なんていねえよ」
「なるほどなるほど、愉快! 実に愉快ではないか小僧! よいぞよいぞ! では貴様らの要望に答え、我も早々に現世に参ろうではないか! ワーッハッハッハッハッハッハ!」
何故か大笑いしながら俺の肩をバシバシと叩いてくるレアメス二世。 メメジェットさんは丸くなったままブツブツ念仏唱えているし、ラーザさんも顔を真赤にしながら頭を抱えて高速スクワットをしている。 なぜこうなってしまったのかは分からない、実にカオス。
レアメス二世はひとしきり大笑いした後、突然真剣な表情に戻ったかと思ったら大きな吐息を漏らした。
「とまあ、我の野望のため現世に戻りたいのはやまやまなのだがな、我の体はすでに風化しており、魂だけこの冥界で意識を保っている状況なのだ」
レアメス二世は遠い目をしながら天井を見上げる。 大空洞の天井は代わり映えすることなく、蒼炎が燃えたぎった不気味な様相をしている。
「冥界の魂は、その心に刻む意思が強ければ強いほど長い期間を彷徨い、やがて天界に登る事なく摩耗してアンデットと成り果ててしまうのだ。 我がこの冥界に来てから早数百年、我がアンデットに成り下がるのも時間の問題であろう」
ひとりセンチメンタルな雰囲気を醸しながら自分の手をぐっと握りしめるレアメス二世。 偏見かもしれないが、ガチなナルシストは時たまこういった一人芝居を恥ずかしげもなくひけらかすのだ。
ノーモアナルシスト!
「あの、ちょっといいですかなナルシス二世」
「レアメスだ小僧、間違えるでない」
「こちらにいる露出狂がですね、少し変わった固有スキルをもっていまして、現在こうして目の色を変えながらスキルを使用するために奮闘しているのですよ」
レアメス二世に会ったその瞬間から、ママは目を血走らせつつペンを走らせている。 ルタカは後ろから感心した顔でママのイラストを覗いていた。
おそらくこのナルシストが相当イケメンだったから、イラストレーター魂に火が点いてしまったのだろう。 こうなったママは腕が痙攣するまで止まることはない。
おかげでいつもうるさいふたり組が静かになってくれたのはありがたかった。
「固有スキル? どういったスキルを使用するのだ官能的な女子よ」
露出狂ではなく官能的と来たか、なんて感心している俺を差し置いて、レアメス二世はママがペンを走らせているウィンドウを盗み見ると、
「な、何だこれは! おぬしは天才か! 待て待て、待たんか官能娘よ! 我を移すのならばこのポーズにせよ! 今すぐ描き直すのだ!」
突然決めポーズを取りながら真っ白な歯をキラリと光らせるレアメス二世。
「ちょっと待つんだわさ! これが描き終わったらそのポーズも描くからこれが完成するまで我慢するんだわさ!」
「なんと! 複数の絵画を移すことが可能なのか! ならばこのポーズと、このポーズ! それからこのポーズとこのポーズも所望する! ああそれと、少し扇情的だがこのポーズも……」
すっかりイラストに興味津々になってしまったレアメス二世は、ボディービルダーの大会でも開いているのかとツッコみたくなるほどに様々な決めポーズを披露し始めてしまったのだった。
もう、勝手にして下さい。




