『とっとと修正されろ邪魔ルタカ』
◁
ルタカのお陰で攻略は順調に進み、俺達は第六試練である灼熱冥界を目前としたところまで辿り着いた。 ……のだが。
「冥界の天変地異は過酷すぎるんだわさ」
「いきなり吹雪いてきた時は、さすがに遭難する覚悟をしたぞ」
先ほど俺達は突然発生した吹雪に襲われ、ひどい目にあった。 メメジェットさんの起点が功をそうし、かまくら内に避難できたため涙目で背中を預けあうママとラーザさん。
ぐでーっとしながら背中を預け合う二人を横目に、メメジェットさんは何故か残念そうな顔で今後の方針を立て始める。
『メメジェット氏はなぜ残念そうなのだ?』
『ニキ、解説おなしゃっす』
『馬鹿野郎、考えなくても分かるだろ』
『背中を預けてるのがナイル氏じゃなかったからがっかりしてんだよ』
『ありたむ氏を悪者のように扱うのはやめろ』
『こんな吹雪の中で鼻血なんて出したら一瞬でお陀仏だろw』
「ここまで来ると、天変地異を予測していたとしても回避するのは困難ですね」
「予測できてただけマシでしょ。 何も知らないで入ってたら、間違いなく遭難して死んでたっすよ」
吹雪が発生すると低体温状態になり、行動速度が半減してしまうらしい。 おかげさまで全力ダッシュしても迫りくる吹雪から逃げることができなくなってしまい、機転を利かせたメメジェットさんが【下級魔法】を応用してかまくらを作成してくれた。
おかげさまで事なきを得たわけだが……
「僕の判断が的確ではなかったせいで、皆さんを危険な目に合わせてしまいました! どうかお仕置きを与えて下さい!」
「この吹雪が過ぎ去ったら探索を続けましょう。 第六試練はすぐ目の前です」
「試練って言っても、面倒なギミックが盛りだくさんってだけだったよね?」
ルタカはうるさいしキモいので一旦無視してここまでの道筋を振り返る。
大空洞となっている冥界の最奥部には、試練の間がある。 感覚的に言えばこの冥界全体が巨大なダンジョンになっていて、次の階層に進むためには試練を攻略しなければならない。
試練を攻略するとまたしても広大な大空洞に出てきて、奥に進めば進むほど天変地異の頻度が多くなったりモンスターが強力になる仕組みになっていた。
「メメジェットさん、あれは一体何ですか?」
「ゾンビザウルスです」
「頭にゾンビとつけたら許されるとでも思っているんですか?」
「私に言わないで下さい」
かまくらの外を覗いたら巨大な恐竜が見えた気がしたので質問したが、あんな見た目でもアンデットモンスターらしい。
「では僕の出番ですね! すぐに討伐して差し上げましょう!」
「お前に話しかけてねぇよ、邪魔な位置にポジショニングしてるNPCみたいにいちいち反応すんじゃねぇ!」
「邪魔者扱いしていただきありがとうございます! ついでに踏んでいただいて結構ですナイルボーイ!」
『邪魔イオスみたいな扱いw』
『錬金台が見当たらないが?』
『とっとと修正されろ邪魔ルタカ』
「あひゃあ! 今回の悪口はかなり恐ろしい予感がします! 申し訳ありません視聴者様! お詫びと言ってはなんですが、これから僕はこのかまくら内で首吊りショーを……」
「ルタカさん、本当にうるさいし非常にイライラするので黙っていただけませんかね?」
無慈悲な殺戮者のような視線をルタカに向けるメメジェットさん。 吹雪の冷気よりも凄まじい寒気が背中を駆ける。
メメジェットさんの殺気に当てられて震えながら抱き合うラーザさんとママを横目に、俺もしれーっとかまくらの端に避難した。
『メメジェットさんの機嫌が非常に悪い、ラーザさんと絡みに行けよナイル』
『ナイル君、ちょっとラーザさんの尻尾握ってみてよ』
『やめろお前ら、そんなことをしたらメメジェットが出血死してしまう』
吹雪よりも、ゾンビザウルスよりも、冥界で発生するありとあらゆる異常事態よりも
……メメジェットさんの方が怖かった。
◁
ゾンビザウルスをやり過ごし、吹雪が去ったため灼熱冥界へと足を踏み入れた。
冥界の大空洞は気温が低いくせにジメジメしていて気持ち悪かったが、灼熱冥界はその真逆。
「ここは砂漠の三倍熱いな」
「鉄板の上に放り出された気分だわさ」
「このままでは俺達チャーハンになっちゃうよ」
湿気など一切なく、足元から伝わる熱気が全身を焼くような気分に晒される。
「皆さんここはまだ第六試練です。 第七試練の焼夷冥界はこれより遥かにひどいですよ?」
「なんだよそれ、ここはもしかして地獄なのか?」
「そりゃあ冥界ですからね」
なぜメメジェットさんはケロッとした声音でそんなことを言えるのだろうか?
「なあずるいぞメメジェットよ。 お前のその白い布は、周囲の気候を遮断して快適温度を保つことができるレアアイテムなのだろう? 私にも貸してはくれないか?」
「ラーザ様、でしたら一緒に被りましょう? ご安心を、二人で肌を寄せ合えば問題なくかぶれるはずですから♡」
「そうか、では遠慮して……」
「きゃああああ! ラーザ様が! ラーザ様が私の中に♡」
『てぇてぇ』
『救急車呼んでくれ、鼻血多量で多くの視聴者が倒れた』
『ナイル氏、おまえもあの中に侵入するのだ!』
アホかコイツラはと言いたいところだったが、目つきを鋭くしたママが俺のそばへやってきて、コソコソと耳打ちしてくる。
「ナイルきゅん、あいつらを剥いてやろうさ」
「羅生門の下人かお前は、追い剥ぎじゃないんだから変な気起こすなよ?」
がるるるる! と、なぜかシーツの下でモゾモゾしている二人を睨みつけるママは放っておき、額から落ちた汗が一瞬で蒸発するほどの熱気に耐え、灼熱冥界のギミックを確認する。
部屋の大きさは小さな体育館程度だろうが、縦に長い作りになっている。 入口から出口までの直線距離は二百メーター程度だろうか?
入口からは細い石橋が一本用意されており、その橋の下にはマグマが敷き詰められている。 ギミック的にはこの石橋を渡ればクリアなのだろうが、厄介なのは両サイドの壁から噴出している炎。
「灼熱冥界とはよく言ったものだな」
「ご安心下さいナイルボーイ。 もしもの時は、僕が身代わりになってあの炎に焼かれましょう!」
「分かったから近づくんじゃねえ変態」
隣に寄ってきたルタカを反射的に押し返し、炎が噴射してくる部分を遠目から観察。
どうやら炎が噴射するのは一定間隔。 噴射口は両サイド合計して計十六。
厄介なのは一つ一つが独立した間隔で炎を噴射しており、よくあるゲームのギミックのように複数が連動し、規則正しく炎を噴射しているわけではない。
おそらくすべての噴射口から炎が噴射するタイミングを見極め、素早くこの石橋を渡らないといけないというギミックだろう。
「悲報なんだわさナイルキュン。 マグマの中を見てみるんだわさ」
「え? なに? まさかそんなわけ……あったわ」
マグマの中からこちらを睨んでいるなにかが見える。
「あれはラヴァーフィッシュですね、他にもマグマリザードとかのマグマ内に潜むモンスターが少々……っきゃ! ラーザ様? どこを触っているのです♡」
「す、すまんメメジェットよ、よく前が見えなくてな」
『お前らもう付き合っちゃえよ』
『てぇてぇ! てぇてぇぞ畜生!』
『ナイル君心眼スキル使うとかずるいよ』
「いや使ってねーよ!」
「突然どうしたんだわさ?」
コメント欄にマジレスしていたらママに心配された。
どうやらこのマグマの中にはモンスターも生息しているらしい。 冥界内のモンスターが九割アンデットと言われていた理由がわかってしまった。
どうやら残り一割のモンスターがここにいるマグマ系モンスターだったらしい。
「なんだよこれ、詰んでるじゃん」
「ご安心をナイルボーイ! モンスターが飛びかかってきた際は、ぜひともこのルタカを肉の盾として……」
「やっかましいぃぃぃ!」
ヒステリックに叫びながらルタカの後頭部を鷲掴みして床に叩きつける。 するとルタカ、のっそり身を起こしたかと思ったら、鼻血を垂らしながらもにへらぁ〜っと笑い出す。
「ご褒美ですありがとうございます!」
『こいつはもう手遅れだ』
『こいつの職業はシーフだったはず、いつの間にクルセイダーにクラスチェンジした?』
『このゲームにそんな職業はない』
収集がつかない状況になりつつある。 おそらくこの凄まじい熱気のせいで思考を鈍らされているのだろう。
熱すぎてまったく集中できないというのに、不規則に噴出してくる炎を見極めながら、襲いかかってくる魔物も対処しないといけないってのか? しかもルタカにイライラしながら。
非常に面倒かつ性格が悪いギミックを前に、これを考えた制作陣に対してありとあらゆる悪感情が芽生え始めてくる。 ああ、この素晴らしき悪感情、美味である。
「さて、それではそろそろ行きましょうか?」
一人脳内でイライラを噴出させていると、いつもの声音に戻ったメメジェットさんがあっけらかんとした声を上げた。
「行くっつったって、この火炎放射をどう対処するのさ?」
「私に歩調を合わせていただければ問題ないですよ? 魔物が飛びかかってきた際は、その場から動かずに迅速に仕留めてくださいね? 貴方たちなら造作ないことでしょう?」
そう言ってメメジェットさんは迷いない歩調で歩き始める。 俺とママは口をあわあわさせながらもあわててメメジェットさんの後ろへついていき……
「後ろではなく真横に、三秒後に炎が来るので」
言われるがまま俺とママはメメジェットさんの隣へ移動。 すると、宣言通りぴったり三秒で炎が噴射された。
背後と鼻先を炎が横切り、さらに激しい熱気に挟まれる。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ! 熱い! 熱いですぞナイルボーイ!」
「どうやら炎は直撃しても死なないようです。 熱いだけみたいですので最悪の場合炎を無視して強行突破もできそうですが、どうしますか黒湖さん」
「熱いのは嫌なのでメメジェットさんに従います」
「でしたら歩調を合わせてくださいね? あと、右からラヴァーフィッシュが来ます。 対処をお願いしても?」
メメジェットさんの言葉に促され、右側を確認すると、大口を開けながら飛びかかってくるラヴァーフィッシュを確認。 息をするように鋼の戦棒を振り回し、通常攻撃で吹き飛ばす。
「黒湖さんは棒を装備してますし、ありたむさんが装備してるのも槍です。 中距離攻撃には優れているのでこのギミックは簡単に攻略できそうですね」
後ろで燃えていたアホは一切気にかけることなく、メメジェットさんは迷いない歩調で歩き出した。
ゆっくり歩いたり素早く歩いたりするメメジェットさんと必死に歩調を合わせると、まるで炎が俺たちを避けるように道を作って行く。
未来視でもしているのかと疑いたくなる歩調を横目に、指示があるたび飛びかかって来る魔物を排除。
ルタカは黒焦げになっていたが、俺たちはほとんど炎の直撃に合わずに進むことができた。
「まさかメメジェットさん、あんたこの炎の噴射を見ただけで、燃やされないように突破するタイミングを演算したんすか?」
「ええまあ、さほど複雑なリズムではなかったので、すこし厄介な音ゲーみたいなものですよ、こんなの」
さっきまでラーザさんといちゃこらしていたとは思えないほどの心強さを見せるメメジェットさんに感動しながらも、彼女の歩調に合わせて俺達は進無こと数分。
五体満足で出口へ辿り着けたのだった。




