『いち……に……ポカン』
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冥界の入り口はリコポリス神殿にあると言う。
挑むメンバーは五人。 前衛が俺とラーザさん、中衛がママとルタカ、後衛にメメジェットさん。
まあリコポリス神殿の攻略は大して難しくない。 推奨平均レベルは六十と、今の俺たちからすればベリーイージーな階級だ。
神殿内はやはりダンジョンとなっていて、石煉瓦で作られた遺跡のような構造になっている。 特段変わった様相ではないため事細かく実況する事もないだろう。
出現する魔物も大して強くないから退屈すぎたくらいだ。
サクサクと神殿内を攻略していき、ボス部屋があると言う八階層に降りて来ると、メメジェットさんはボス部屋とは関係のない部屋へと入って行く。
メメジェットさんの方向指示を聞く限り、どうやらこのダンジョンのマップを脳内に記憶していたのだろう。 いつも思うがメメジェットさんは非常に頭がいい。
その頭の良さを変な方向に向けなければホープさん並みの実力者になっていただろうに……もったいない。
「おそらく冥界の入り口と言うのは、このアヌビス像の足元にある石床をどかした場所でしょうね」
躊躇する事なくアヌビス像の足元を漁り出す。 少し風化した石床をコツコツ叩いて行くと、あからさまに音が変わった場所を発見。 チラリと俺へ視線を送ってきたので隣へと歩み寄り石床を踏んづけると、乾いた音を立てながら床が崩れ落ちた。
崩れた床の先を見てみると、地下へと続く階段が見えて来る。
一仕事終えた俺はすまし顔でメメジェットさんの視線に応じたのだが、なんだかわからんが細目を送られていた。
「あの、壊すのではなく石床を持ち上げて欲しかったのですが……」
砂煙が舞う部屋の中で、返す言葉もなく苦笑いしてしまう。
『破壊神だw』
『重要文化財だったら刑務所行きだぞ』
『脳筋だなナイルくんは』
コメント欄からも非難を浴び、背中に冷めた視線を受けながらも渋々石床の残骸を片付け始めた。
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長い階段を下って行くと、石煉瓦で作られた階段が途切れ、淡い青色の光が見えて来る。
地下なのになぜ光が見えるのか疑問に思いながら光に向かって行くと、洞窟のようになっている空間が見えた。 恐る恐る進んでいくと、光が見えた理由が判明して絶句する。
「んなっ!」
「これが、冥界なのか!」
「これは、創作心を刺激するんだわさ!」
冥界を始めてみる俺たちは口をあんぐり開きながら天井? を仰いだ。
踊るように燃える蒼炎が、視界の端まで延々と続いている。 青白く光っていたのは間違いなくこの蒼炎が原因で、洞窟全体が青い光を反射しており、不気味さを際立てている。
「なんか、なんだこれ? 寒いんだけど……ジメジメしてる?」
「ナメクジが住んでそうな気候なんだわさ」
俺とママは周囲を観察しながら率直な感想を述べる。 天井が燃えている割には気温はかなり低く、少し肌寒い。
肌寒いのにジメジメしていると言う矛盾が不快感を感じさせていた。
「今は大丈夫そうですが、あの蒼炎がヒョウのように降り注いだり、突発的な砂嵐が発生したり、水源がないのに突然鉄砲水が襲ってきたりします。 お気をつけてくださいね」
「何その面白気候」
「とんでもない場所なんだわさ!」
『他にも突然雷が雨みたいに落ちてきたりするよ』
『三時間おきに突発的な噴火も発生する』
『前置きがない地割れとかしょっちゅうだからねw』
「なんだその天変地異のオンパレード!」
視聴者たちからも様々な情報をもらい、軽く頭がこんがらがりそうになる。
「黒湖さん、ここから先、前衛はルタカさんにお任せしましょう!」
「とうとう僕の出番なのですね!」
ルタカは一度この冥界を攻略している。 ここが冥界の入り口だと言うのなら、こいつは一体どこから入ったのだろうか?
「おいルタカ、お前ってどこから冥界に入ったの?」
「ホープ様に転移罠へ放り投げられたんですよ。 冥界に飛ばされると言う本来なら大外れの罠にね!」
なぜだか胸を張りながら嬉しそうな顔をするルタカ。 なんで嬉しそうな顔をしてるのかは気になったが、大方の予想はつくため追求はしないでおこう。
「今回の目標はレアメス二世との接触であり、冥界の攻略ではありません。 ルタカさん、ここを攻略する際にレアメス二世には会いましたか?」
「僕が転移したのは第六試練の灼熱冥界でしたので、残念ながら顔は合わせていませんね」
「ふむ、ならばできるだけ最短ルートで第八試練の阿鼻冥界まで潜るわけですので、常に警戒を怠らないように」
緊張感のない声音で指揮を取るメメジェットさん。 名前の響き的にとんでもない場所に聞こえるのだが、気のせいなのだろうか?
「ちなみにメメジェットさん。 冥界ってどう言う場所なの?」
恐る恐る尋ねてみると、メメジェットさんはあらぬ方向に視線を送りながらスタスタと歩き出す。
「雷豪雨がふりそうですね。 歩きながら説明しますので、先導していただけますかルタカさん?」
「お任せ下さいメメジェット殿! このルタカがいる限り、誰一人として危険な目には合わせません!」
弾むような足取りでメメジェットさんを追い越して行くルタカを眺め、俺は慌てて二人に続いて歩き出した。
◁
冥界の試練は八個あるらしく、難易度が上がるごとに数字が大きくなって行く。 つまり、第八試練が一番難易度が高い。
さらに試練に向かうまでの大空洞は天変地異が頻発する上に、出没する魔物はかなり高レベル。 まぁ、ほとんどがアンデットなため聖属性が扱えるモンク、パラディン、プリーストはかなり優遇される。
優遇職が多い上に全職業レベルマックスにした俺たちにとって、怖いのは天変地異くらいだろう。
メメジットさんの指示出しと、経験者であるルタカのおかげで攻略はスムーズに進んでいる。 天変地異が発生しそうになればルタカかメメジェットさんが素早く察知して方向転換してくれるのが大きいだろう。
幸い、天変地異が頻発する大空洞は道幅がものすごく広い。 巨大な荒野を探索しているようなものだろう。
まあ、たまにマグマの池があったり猛毒の噴水があったり、触るだけで体に刺さって取れなくなるトゲトゲ植物があったりする点は非常に凶悪だが……
危ないとわかっていれば誰も近づかない。 興味本心でトゲトゲ植物に触ってしまったママが大泣きしていたぐらいしか問題は発生していない。
トゲトゲ植物を切除する際の絵面がグロかったが、触るなと言ってたのに触ったママが全面的に悪いだろう。
天変地異や危険植物と比べれば、魔物討伐はご褒美のようなものだ。 まあ、ご褒美というのは言葉のあやで、極力無駄な戦闘はしないよう気は配っている。
けれど、どうしても戦闘が回避できない時は仕方がなく特殊な方法で対処することになっていた。
特殊な方法とは簡単な話し、俺やラーザさんなどの主力を温存する省エネ戦法。 そこで、魔物と戦闘する際の対処はこうなる。
「ルタカさん、エルダーヴァンパイアです。 排除なさい。 【神聖領域】展開!」
「仰せのままに!」
魔物は全てルタカに丸投げ作戦。 こいつは一般市民を大量虐殺したクズだ、適当に扱ってもバチは当たらないだろう。
しかし驚くべきはルタカの戦闘能力だ。 メメジェットさんが範囲内の味方に聖属性を付与する神聖領域を展開しているとは言え、出てくる魔物を手際よく掃除してくれるのだ。
こいつの固有スキル【希望の簒奪者】は思ったよりも強力な能力だったらしい。
上級魔法を詠唱し始めたエルダーヴァンパイアに一瞬で近づくと、無防備だったヤツの肩に触れてすれ違うように背後へ回る。
すると、詠唱中だった上級魔法の魔法陣が弾け飛んでしまった。
「発動準備中だった上級魔法を簒奪したんですか」
「発動前のスキルを簒奪されたから攻撃が強制中断されたってことか、エグいなしかし」
「見たところ、簒奪できるスキルは固有スキルだけではないらしいな」
「でもさっきゴーストナイトから簒奪した【幻影の霧】を使ってなかったんだわさ」
感心しながら解説をする俺たち四人。
「僕の希望の簒奪者には許容量がありましてね。 通常のスキルならせいぜい十個、固有スキルの場合は二〜三個が限界でしょう」
「なるほど、新しい技を覚えるためには弱い技を忘れないといけないってことか」
『ルタカは上級魔法を覚えたい』
『いち……に……ポカン』
『ルタカは幻影の霧の使い方を綺麗に忘れた』
「非常にわかりやすいコメントをありがとう」
「どんなコメントがあったのかは想像つくんだわさ」
手で作ったピストルマークを顎に当てながら、キリッとした目つきを向けて来るママ。 しかし俺は華麗にスルーする。
「モンスターが相手でもこのスキルは有効なのですよ。 だからこいつが使おうとしていた上級魔法のスキルを盗んだのです。 無論、同時に厄介なスキルを根こそぎ盗んでしまえばそれだけで大幅な弱体化が可能です」
エルダーヴァンパイアの厄介なスキルは、魔法スキル封印、上級魔法、超速再生、生命力吸収などが上げられる。 それさえなければただレベルが高いだけの魔法系モンスター。
仕留めるのは容易になるだろう。
「シーフは敏捷が非常に高いですからね。 すばしっこく動きながら厄介なスキルを奪えるのは有効でしょう」
「そして、弱体化したモンスターを【バックスタブ】でグサリ。 これが僕の戦い方です」
バックスタブはアサシンも覚える闘技スキルで、急所に当たる確率が非常に高い技である。
この世界における急所判定は人体の弱点となる部分、心臓部やあご、鼻や首など、簡単に考えれば喰らったら痛い場所への攻撃は急所判定になり、ダメージが半倍する。 急所への一撃をゲーム用語だと会心の一撃と呼ぶらしい。
バックスタブの場合は急所判定に関係なく会心の一撃を叩き出せる上、急所判定の部位に当てればさらに半倍、つまり二倍ダメージを与えることができる便利な闘技スキルだ。
「モンスターに関してはルタカさんに丸投げして問題ないでしょう、次行きますよ? まだまだ先は長いですし」
倒れ伏したエルダーヴァンパイアの隣で決めポーズを取っていたルタカなど見向きもせず、メメジェットさんは早足で先に進み始めた。
それに続いて俺たちもルタカを無視して歩き出す。 決めポーズのまま固まっていたルタカは、徐々にプルプルと震え出し……
「放置プレイ! ご褒美ですありがとうございます!」
自分の体を抱きながら歓喜の叫びを上げた。
『あいつまじキモイからどさくさに紛れて捨ててかね?』
『クズなだけじゃなくてキモイとか、終わってる』
『ナイルくんの目に毒だ』
「ひいっ! 何やら悪口の予感、大変申し訳ありませんでした視聴者の皆様、つきましてはこの僕……ルタカめは反省の意を示し、ここで腹切りショーを」
「いちいちうるせーんだよ! 次口を開いたら口を縫い付けるぞゴラァ!」
またしても土下座していたルタカの頭を引っ叩き、恍惚とした顔でクネクネし始めたドエムを引きずって先を急いだ。




