『九柱神が降臨したってマジ?』
◁
『悲報、ホープさんのせいで森が消滅した件』
『九柱神が降臨したってマジ?』
『正確には、シリスはまだ復活してないから八柱だね』
先日、突然現れた神様たちから命からがら逃れた俺たちは、アジトに帰還してビクビクしながら生活している。
アセト様との戦いにて、ホープさんが放った極級魔法の化学反応はとんでもない威力になった。
本人は「気合いが入りすぎちゃった、てへっ☆」なんてお茶目な発言をしていたが、あれに巻き込まれなかった俺たちは奇跡だったと言っても過言ではない。 全力で飛んでくれたネイちゃんには感謝してもしきれないほどだ。
いまだから言える話しだが、ルゥーファちゃんの固有スキルが封印されていたら、確実に巻き込まれていただろう。
化学反応を起こした六種類の極級魔法は、開闢魔法、新星魔法、暗黒魔法、紅炎魔法、星屑魔法、黒渦魔法の六つ。
どれも威力は言うまでもなく、俺たちが戦闘していた樹海は広大な面積だったと言うのに綺麗さっぱり消滅。 樹海があった場所には新たな地名がつけられてしまった。
「神祟の大穴、またの名を冥界への入り口……お兄はとんでもないことをやらかしたね」
「もう三日も経ったんだ、そのネタでおちょくるのはやめてくれないかな?」
神祟の大穴、向こう岸が見えなくなるほどの強大な穴が開いてしまい、それを見た一般市民たちは口を揃えて「神の祟りだ」と言って震え上がっているとか。
しかし悪いことばかりではない。 神が降臨するやらなんやらの騒ぎは王国軍の方にも伝わっていたらしく、揺動として動いていたハートちゃんを追尾していた王国軍はなぜか大混乱。
俺たちが命からがらアセト様から逃げている間に王国軍の追跡は完全に中断され、ハートちゃん達は怪我なく帰還できたし、適宜連絡を受けていた本命部隊は遺憾無く専用武器の原型を手に入れたとか。
その流れで鍛治師のところも回って、さらには足りなかったモンスターの素材集めもできたと言う話しだ。
現在は俺、ホープさん、ハートちゃん、ルゥーファちゃん合わせて四人の武器を作成中。 この順番は懸賞金を参照にして決められた。
とは言ったものの、なぜ王国軍は突然追跡を中断したのか、なんであのタイミングで神様が顕現してしまったのか。
わからないことだらけのため今は隠れながら情報収集に励んでいる。
情報集めに励んでくれたのはサナさんサラーマさんペアの王国軍担当と、トト兄妹の神様担当。
他のメンバーはアジトの防衛という名目で留守番や、食料調達を交代交代で行った。 外出禁止の命令を受けた俺は待ってる間暇だったため、ここ数日間ルゥーファちゃんが召喚したくまさん大事件ペアと組み手したり、ラーザさんに武術のイロハを教わったりしていた。
ラーザさんの指導のおかげで俺の接近戦技術もかなり成長している。
現在、数日ぶりに全員集合したアジトでは、それぞれが集めた情報を共有しているというわけだ。
情報収集のためにかき集めた資料に目を通しながら頬を引き攣らせるハートちゃん。
「いい情報と悪い情報があるね」
「では悪い情報から聞きたいですね」
「アセト様を信仰する勢力が王国軍と強力関係になったらしい」
「信仰する勢力? もしや、神々が降臨したことで信仰戦争でも始まったのでしょうか?」
「ボクのセリフ取らないでよメメジェットさん」
「それは失礼を」と言いながらぺこりと頭を下げ、壁際に用意してあった質素な椅子に座り直すメメジェットさん。
「サナさんやサラーマさんが集めてくれた情報によれば、王国軍が危険視してる信仰勢力は九つ。 ヘリオポリス九柱神、通称エニアードが降臨した影響だね」
『初見イベント発生』
『エニアードって、ストーリーに出てきたのはセテフだけだよね?』
『しかも戦闘できたわけじゃないから能力わからん』
ストーリー終盤、シリスを蘇らせようとシリシオン神殿に向かうと、セテフ様に邪魔をされるらしい。
けれどその時は、協力関係になっていたハレンドスさんが助けに来てくれるため、俺たちプレーヤーはセテフと戦う事はないみたいだ。
「へいハートちゃん!」
「どうしたのかな少年」
「エニアードってなんですか?」
俺の質問に対し、盛大なため息を吐きながら説明してくれるハートちゃんであった。
◁
豆知識やらうんちくやらをここぞとばかりに披露するハートちゃんの話は長く、後半はほとんどどうでもいい事だったから一旦脳内で整理しよう。
まず、九柱神とはこの国、アイギュプトス王国を作り上げた九人の神々らしい。
創造神テム
大気の神シャウイ
湿気の女神トフェニス
大地の神ケーブ
天空の女神ヌート
植物の神シリス
葬送の女神アセト
暴風神セテフ
葬祭神ネフェベト
この九柱の神々は国民たちからの信仰が厚く、それぞれの勢力が小競り合いを続けていたらしい。
王国軍はそう言った小競り合いを取り締まり、この国の平和を守り続けていた。
しかし先日、九柱神が現世に顕現してしまったことが原因で、信仰勢力のぶつかり合いが激化し始めた。
そんな中で俺達が指名手配になり、王国軍は俺達を捕えるために戦力を大幅に偏らせるという隙を見せた。
それぞれの信仰勢力はこの好奇に動き出そうと準備をしていたらしいのだが、そんな時に面倒なことが起きてしまったのだ。
「なるほど、アセト様が登場した時に出た、あの光の柱が着火剤になったか」
俺たちの前にアセト様が降臨した際、天にまで届きそうな高さの光柱が出現した。 それを見た信仰勢力は恐ろしいほどに士気が上がってしまったらしい。
「神は我々を導いてくださっている! あれは神の思し召しだ! なんて主張しながら各地で大規模な紛争が勃発。 王国軍がボクたちの追跡を断念したのは完璧にこれが原因だね」
「信仰戦争が各地で勃発し、収集がつかなくなったから今もなお四苦八苦していると考えていいですね」
「俺達にとっては嬉しい話しだ」
俺達を追跡していた王国軍が、一時的とは言え追跡を断念しているのだ。 これは良い知らせだと個人的には思うが?
「これが悪い知らせという事は……各地の信仰戦争の収拾もアセト様の勢力と結託した今、すぐに収まる見込みができたのですか」
「そういう事。 つまり王国軍の追跡がまたしても始まると考えていい」
とてつもなく悪い情報だった。
『それはつまり、どういう事だ?』
『王国軍とアセト信者の両方から追われるってこと』
『セテフにも襲われたじゃん、もしかしてそこにセテフも入ってくるの?』
コメント欄を横目に、ゴクリと喉を鳴らしながら質問をしてみる。
「ねえねえハートちゃん、もしかしてジャッカルヘッド……セテフ様も俺達を追ってくるってことかな?」
俺の質問を聞き、現地人組はあからさまに顔を青ざめさせるのだが、
「それに関してはいい情報を知らせてあげよう」
予想していなかった返しを聞き、胸をなだめるのと同時に疑問も湧いてくる。
「まったく良い情報になるような予想がつけられないんだが?」
「考えようによってはいい情報さ。 神は全能ってわけでもなさそうってわけだからね」
「ハートちゃん、もったいぶってないで早く教えてほしいにゃ」
話しが長くなりすぎたせいか、サナさんやラーザさんは退屈そうな顔をしていた。 ママに関しては言うまでもなくお絵かきに没頭しており、ルゥーファちゃんは俺の頭を永遠とナデナデしてきている。
もはやこの四人は当てにならないと考えていい。
「まず、少年たちがセテフに襲われた理由だけど、それはセテフの目的がシリスの復活を阻止することだからだ」
そんな事は言われるまでもなく分かっている。 今更そんな事言われてもぽかんとすることしかできない。
『シリスの復活を阻止するなら、体のパーツをもってるやつから奪うのが最適解』
『けどシリシオン神殿に近づくまでそういった妨害は一切なかった』
『だったら考えられるのは、待ち伏せかな?』
「視聴者の皆さん! 賢こすぎる!」
「おいナイル、お前だけ納得するな、俺達にも分かるように説明しろ」
俺は首を傾げていたサラーマさんに視聴者の見解を説明する。 視聴者の見解を効いていたハートちゃんは満足そうに頷いている。
どうやら視聴者達の予測は合っていたらしい。
「次いで、シリスの復活を阻止したいセテフと、シリスを復活させたいアセト。 この二柱の神が次々と姿を表した理由だけど……」
「アセトもセテフと同じく、シリシオン神殿を見張っていたからですか?」
「さすがだなメメジェット。 ようやく納得したぜ。 そういう事なら不可解だった神々の襲撃も説明がつくからな」
メメジェットさんの回答を聞き、謎が次々と明らかになっていく。
まず、セテフは誰がシリスの体を持っているか分からなかったため、シリスを復活させるための場所、シリシオン神殿で待ち伏せをしていた。
待ち伏せをしていたということは俺達の行動がすべて筒抜けというわけでもなく、潜伏すれば発見するのも困難になるということ。 それはつまり、俺達がシリスを復活させる気がないという思惑がバレていないということだ。
シリシオン神殿から離れて直接捜索を始めてしまえば、セテフがいなくなった隙に俺達がシリシオン神殿に突入成功するかも知れない。
「つまり、セテフに関しては棚上げにしていいってことだね? シリシオン神殿に近づかなければ攻撃されないってことでしょ?」
「まあ、追跡してくる可能性が高い相手がひとり減っただけ、って考えればさほど嬉しいことじゃないかも知れないけどね」
ハートちゃんは苦笑いしながらそう告げるが、そもそもの話し俺達は神という存在を過大評価しすぎていた節がある。
どこに隠れようと見透かされてるような恐怖に駆られていた。 けれど、蓋を開けてみれば神は全能でもなんでもなく、こうして潜伏している俺達に攻撃を仕掛けられずにいるのだ。
「そういうことだから追ってくる相手は増えたかも知れないけど、逃げるための算段ならたくさん浮かぶって話しなんだよ」
ハートちゃんがニヤリと笑いながら告げてくる。 ちゃんと話を聞いていたメンバーは肩の荷が下りたように、ホッと息を吐いていたのだが……
どうやらハートちゃんからの報告はまだ終わっていはいなかった。
「そしてもう一つ。 どちらかというと良い情報がもう一つあるんだ。 ボクとお兄がこっそりと行っていた実験が成功したみたいでね。 実験に関わっていた人物をこれからここに呼ぼうと思う。 これから話すのは王国軍を打倒するための第一歩、今日集まってもらったみんなに話したい本題だ」




