『もしかしてこの美女はエルフか?』
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「暴風神セテフ。 ストーリー終盤で現れる理不尽。 シリスを復活させようとした私たちの前に立ち塞がり、ハレンドスさんが足止めしてくれる災厄」
「確か、破壊や戦争、砂嵐などの悪しき物を神格化した神と聞きましたが? 破滅の女神セフメトとどちらが脅威なのでしょうか?」
「たぶん、ゲーム的にはセフメトの方が強いんだろうけど、この世界での立ち位置はよくわからない。 その辺はラーザちゃんやサラーマくんに聞いた方がいいだろうね」
玉の汗を流しながら暴風神セテフを凝視するホープさんたち。
「それにしても困ったな、こいつとは戦闘にならずイベントが発生するだけのいわば盛り上げ役。 戦闘データなんて皆無なんだけど?」
褐色の肌で上半身を露出した大男。 体全体に真っ白な線で描かれた入れ墨が入っており、筋肉はそれなりにしかついていない。
なによりも目立つのは被り物だ。 ジャッカルをモチーフにしたような黒紫で、ピンとした耳が特徴的な被り物。
被り物の下からわずかに見えている血色の髪と瞳は禍々しさをさらに際立たせている。
「愚かな人間よ。 我の兄を復活させようとするのなら、ここで駆逐してくれる」
コメント欄が確認できない以上、ステータスも一般的なものになっていることは間違いない。 そうなると、戦闘になった際に問われるのは立ち回りだけだ。
他にも気になるのは相手のステータスだが、この場にはラーザさんもいなければソルジャーのスキルを持った仲間もいない。 俺等の仲間でソルジャーの職業をメインにしているのはママだけだ。
「闘技スキルは問題なく使える! 封印されたのは固有スキルだけだ!」
「となれば戦闘は問題なく行えますね! まずは小手調べ、おいでなさいくまゆり、くまゆら! らららちゃん!」
名前を呼ぶ順番まで抜かり無いな。 なんてどうでもいいことを思っていたら、セテフは右手に持っていた自分の身長ほどある杖を振り上げる。
その瞬間、周囲に突風がまき起こり、同時に砂嵐が俺達を襲った。 激しい突風の影響か、空を滑空していたらららちゃんは一瞬にして蜂の巣になってしまう。
「らららちゃんが瞬殺されてしまいましたわ! これこそ本物の大事件!」
「なんだよあれ! 今何された? 杖の一振りでマシンガンでも撃ったのかよ!」
「神なんだから何でもありなんだろう! そんなことよりも坊や! 前衛は君しかいないんだからどうにかしてセテフを食い止めてくれるかい?」
激しい突風に当てられ足を地面から離すのが少々怖いが、できる限り跳躍しないよう気をつけながら戦えば問題はなさそうだ。
逃げるにしても戦うにしても、セテフを足止めするために前衛の俺は突貫しなければならない。
そう思って地を蹴り一気に肉薄しようとしたその時だった。 視界の端に映り込む脅威。
慌ててバックステップしてその脅威を回避する。 改めて目を凝らしてなにに襲われたか確認しようとしたのだが、血の気が引いてしまうような光景を目の当たりにしてしまった。
それは先ほど、らららちゃんを蜂の巣にした元凶。
「何だあれ? 黒い砂? けど風の影響で一粒一粒がとんでもない威力になってるぞ!」
俺がさっきまで立っていた大地がえぐれている。 ガトリングガンで撃ち抜かれたような大地を見る限り、喰らったら一瞬にして蜂の巣だろう。
「我に鉾を向けるとはおこがましい。 その愚行を冥界にて後悔するがいい」
セテフが再度杖を振ると、黒い砂の集合体は一気に霧散して、不規則に迫りくる。
「これは、避けられる次元じゃねぇ! 前衛がどうこう言ってる余裕はないでしょ!」
「坊や! すぐ私のそばに! 【クインタシルド】!」
クインタシルドの最大展開面積はおよそ直径十メーター。 慌ててクインタシルドの影響範囲に滑り込んだのだが、そこまでの僅かな移動にも関わらず、全身に裂創や貫通創を負ってしまった。
全身に焼けるような痛みが走る。
「ほんの少し障壁の外にいただけでこれかよ! 気絶しなかった自分を褒め称えたいね」
「冗談抜きにまずいよこれ! なんでこんな大事な作戦中にイレギュラーが発生しちゃうかな!」
青ざめながら回復アイテムを取り出す。 もっとも回復効率がいい焼きおにぎりをむしゃむしゃ頬張りながら、障壁の外で堂々と仁王立ちしていセテフを凝視。
「大変ですわ! くまゆりちゃんとくまゆらちゃんが一瞬にしてミンチにされてしまいましたの!」
「障壁の効果は三十秒。 今回は【自己複製顕現】も封印されているし、もたついていたら攻撃を退ける方法が無くなる!」
「ペガサスで離脱するしか無くね?」
「伴侶様、ペガサスではなくてネイちゃんですの!」
「今はふざけている場合ではないからね! ただ逃げるだけだったら追われる可能性がある。 あんなに近寄られてたのに気配も感じなかったし、セテフは戦闘が始まってから一歩も動いていない。 相手の敏捷も未知数だよ!」
切羽詰まったような声で諭してくるホープさんだったが、ここに来てさらなる絶望的状況が俺達に死のカウントダウンを告げてくる。
「ホープさんやばい! 障壁にヒビ入ってるけど!」
「嘘だろ? と言いたいところだけど、さすがは神だよ。 おそらくステータスもとんでもないんだろうね。 すぐに上級魔法を二重詠唱する。 ルゥーファちゃんはペガサスを召喚して離脱準備!」
「わたくしの愛ペガサスが、ずきゅん☆どきゅん☆と走り出しますわ!」
「ルゥーファちゃん、流石にこの場面でふざけるのはまずいと思うよ?」
俺が真面目な顔で注意を促すと、ルゥーファちゃんは涙目でへたり込んでしまった。
「も、申し訳ございません伴侶様。 わたくしはただ、貴方様に喜んでもらいたい一心で……およおよ」
「いいから早くペガサス召喚せんかい」
およおよおよ……なんて言って目元をしくしくこすっていたルゥーファちゃんをひっぱたき、むりやり幻獣召喚を行使させる。 くだらない漫才をしている内に、クインタシルドは四枚目まで破壊されてしまっていた。
残り一枚、これが破られたら俺達は一瞬にしてミンチにされてしまうだろう。 しかしクインタシルドが割られるまでにかかったのは二十秒前後。 よって詠唱時間分はいかんなく稼ぐ事ができていた。
「漫才は終わったかな二人共! ぶちかますからね!」
ホープさんが杖を向けると、壁のような波が発生した直後に黄炎の巨塊が発生する。 これは聞く所によるとルタカ戦で使用した魔法コンボ。 正と負の相反する力をぶつけることによって発生させた絶大なエネルギーを爆発させる最強の科学反応。
通称メドロー波!
それが発動すると同時に俺達はペガサスに跨り、一目散にその場から離れる。
障壁を貼っているホープさん本人もペガサスに乗っているため、障壁ごとその場から移動することができる。 さらにペガサスの最高飛行速度はヒッポグリフには劣るが、それでも体感速度は高速道路を爆走するオープンカーを想像させる。
俺の直感だが時速二百キロは出ているだろう。 とは言え、呪文の発動と同時に飛び去ったため、背後から高エネルギー爆発の衝撃が襲いかかるのは一瞬のこと。
「割れてしまいましたわ! 障壁が! ビスケットのように!」
「倒置法と比喩の乱用はさすがにうるさいよ」
「ぶっ飛ばされてるっていうのによくもそんな冷静に話ができるよね?」
衝撃を背中に喰らい、前後左右すらわからない状態で必死にネイちゃんの首にしがみつく俺達。 必死過ぎてネイちゃんが窒息死するかも、なんてこと考えてる余裕もないくらいにしがみついていた。
数百メーターの距離をふっ飛ばされていた俺達はやがて、態勢を整えてくれたネイちゃんのお陰でようやく周囲の様子を確認することができた。
「もしかして逃げられた?」
「砂嵐は止んでるからね」
「どさくさに紛れて伴侶様にしがみつこうとしましたが、そんな余裕もないほどの勢いで吹き飛ばされましたからね」
「本音漏れてるぞ」
『めっちゃヒヤヒヤした』
『主にルゥーファちゃんのおふざけに』
『エンターテイナーとしては合格だったな』
コメント欄が復活したことをかんがみれば、無事に逃げられたと考えていいだろう。
一時はどうなることかと思ったが、無事に逃げおおせた俺達は念の為さらに離れた場所で地上に降り立つ。 降り立った先はシリシオン神殿から東に三キロ程離れた樹海の中。
無論、ホープさんが地図を確認しながら他のチームに迷惑をかけないであろう位置を厳選して移動した。 樹海の中に降りたのだから、王国軍との鉢合わせも無いと推測していいだろう。
ルゥーファちゃんがすぐにドーベルマンのぶらっくはやて号を召喚して周囲を調べさせたが、王国軍の斥候は愚か、人っ子一人いなかったようでようやく安心して一息つける状態になった。
「とりあえずハートとメメジェットさんに連絡だね」
「とんでもない目にあいましたね」
苔が蒸している巨木の根っこに腰を落ち着けながらも、盛大にため息を吐く俺達だったのだが、ゆっくり休めると思ったのもつかの間。
眼の前に光の柱が現れる。 柱は天高く伸びており、俺の勝手な直感だが、何やら神々しい誰かさんが降臨したような気がする。
「もし、貴方はファイヤーム傭兵団に所属している傭兵、黒湖ナイル様でお間違いはありませんか?」
鈴が鳴ったような可憐な声が光柱の中から聞こえてくる。 光柱が徐々に霧散していくと、中から出てきたのは見目麗しい純白の羽衣を纏った女性。
「えーっと、人違いですって言ったらどっか行ってくれたりします?」
「うふふ、この私に嘘をつこうとするとは、いい度胸をしている人間なのですね?」
「ふむ、この俺を人間呼ばわりとは、貴方もさっきのジャッカルヘッドと同じ……神様であられますかな?」
影が差した笑顔でクスクスと笑い出す女性に怖気を感じながらも、嫌な予感を感じて問いかけてみれば、
「いかにも、妾は前ファラオであるシリスが妻。 葬送の女神アセトと申します」
『もしかしてこの美女はエルフか?』
『ミミックに引っかかる率100%の女神か?』
『とんでもないことになってきているが?』
ちなみに、言うまでもないが耳は尖っていない。
「視聴者の皆さん、大変です。 コメント欄が見えるようになったと思ったら、いつの間にか女神様まで降臨してしまいました」
眼の前に現れたのが女神と聞いた瞬間、現実逃避したい一心で復活したコメント欄に助けを求めてしまうのだった。




