『ユニークモンスターよりはマシな相手だろ』
◁
正座しているホープさんを、全員が般若面で囲っている。
「さて、弁明を聞こうかホープさん」
「貴様のせいで黒湖ナイルが痛い思いをしたのだ。 この落とし前はどうつける?」
「溺死です溺死! 有無を言わさず溺死です」
パキパキと指を鳴らした俺に続き、チンピラのような雰囲気をまといながらホープさんにメンチを切る二人。
『はたから見ればカツアゲにしか見えない件』
『ちょっとジャンプさせてみようぜ』
『ケジメつけさせないとなw』
「にしてもまさか、おっぱいウィザードにもポンコツな一面があったとは驚きだぜ」
「サラーマさん、いい加減そのあだ名定着させようとするのやめた方がいいにゃ」
サナさんにジト目を向けられているのだが、サラーマさんはどこ吹く風である。 彼はなぜか知らないがあのあだ名を気に入っているらしい。
「おいおいみんな。 そんなにムキになって怒ること無いじゃあないか。 そもそもの問題点として、君たちも【自己複製顕現】の存在を忘れていただろう?」
ぐうの音も出ない正論を告げられ、一気にしょんぼりしてしまう俺達。
先程の戦いは見事に勝利を勝ち取った。 ホープさんの津波魔法とイアールトの炎のブレスが科学反応を起こし、水蒸気爆発を発生させたのだ。
水蒸気爆発の衝撃で上級障壁魔法は破壊されたが、俺達には大したダメージがなく。 火傷の痛みで四肢の感覚が完全になくなっていた俺に涙目で駆けつけてきたメメジェットさんが【レクスヒール】を掛けてくれた。
レクスヒールはプリーストの治癒魔法の中でも最上級のもので、一瞬にしてHPを全回復させるスキルである。 しかしなぜだろうか、メメジェットさんはその後も【メガヒール】と【ギガヒール】を掛けてきてまさかのオーバーヒール。
過保護にもほどがあるのではなかろうか?
とまあホープさんのポンコツ伝説を産み出したドラゴン討伐は無事に成功。 本来のレイド戦は一戦ごとに五十人分の報酬が出るため、それを参加者全体で均等に分けるというものだったのだが。
今回参加したのは七名。 よって一人ひとりの報酬は奮っている。
「今回のイアールト戦で龍星石が四十五個も出た。 一人ひとりに専用武器を作るためには後二回くらいドラゴン討伐をすればどうにかなるだろう」
「五十人分の報酬出るなら五十個でてくれてもよかったのでは? もしかして異世界補正かかってる?」
「いいえ黒湖さん、ゲームだった頃と報酬の美味しさには大差がありません。 推奨討伐人数が五十人だったというだけで、普通はこのレイド戦に挑むのは三十人程度でしたからね」
『イアールトは攻撃がパターン化されてたから倒しやすかったからな』
『ギルドの集団戦の練習台にされてることも多かった』
『さすがに七人で討伐時間二時間ってのは快挙だけどな』
ヘリポリの世界も奥が深いのだなあなんて思った今日この頃である。
◁
ドラゴン退治を終えた俺達はアジトへ戻っていた。
ホープさんが土魔法で掘った、例の竪穴式のアジトである。 相変わらず貧相なアジトのため気分的にコソ泥にでもなった気分だ。
ハートちゃんとルゥーファちゃんが補給のために各地を転々としているのは、希少な食料を用意するためだ。 とは言っても必要最低限しか用意できないため、腹一杯になるまで食べる事はできない。
心なしか、サナさんが涙目になっているけど仕方がない。
「さて、ドラゴン退治も上手く行ったことだけど、ぶっちゃけ言って状況何も変わってなくないかな?」
「ホープさん、それは言っちゃいけないお約束」
俺たちが今するべき目標は王国軍の追跡から逃れること。 本来ならすぐにでも信者集めに集中し、レアー様の怒りを鎮める段階に入りたいのだが……王国軍が強すぎてそれどころではないのだ。
最悪のケースを想定し、王国軍に見つかっても対処できるよう専用武器を作ろうと動き出していたのだが、
「だって坊や、ハートがいないから正直に言わせてもらうけど、専用武器作ったところで状況が好転すると思うかい?」
「まだ作ってないからなんとも言えませんが、武器変えたくらいであの軍隊相手にするのは……」
「断言してあげよう。 無理だ。 絶対無理、無理ゲーだよ。 あんな理不尽に立ち向かうのはクソゲーハンターを名乗る変態くらいだ」
『鳥頭がお呼ばれかな?』
『クソゲーハンターの反射速度舐めんなよ?』
『ユニークモンスターよりはマシな相手だろ』
ダンマリを決め込んでしまう一同。 しかし部屋の隅で置物のように座っていたメメジェットさんは、シーツの中からニョキっと尖ったものを隆起させ(多分手を挙げている)、全員の視線を集めた。
「そうは言ってもですね。 現状、専用武器を取りに行く以外になにか対抗策が浮かびますか?」
メメジェットさんがもっともなことを言い始める。 するとまたしても全員顔を俯かせて黙り込んでしまった。
逃避行中の俺たちは、常に緊張感に苛まれながら行動しなければならない。
しかも、相手はあの王国軍。 数日前に手も足も出せずに逃げることしかできなかった相手だ。
葬式のような空気になってしまうのも仕方がないことである。
「にゃー。 お腹すいたにゃー」
「おいサナ、空気読め」
「そんなこと言ってもにゃー、今頃になって話し合いをしても意味ないと思うにゃ。 専用武器を作ると決めたのなら最後までやった方がいいだろうし、原型取りに行ったり鍛治師探したりしているうちに何かいい案が浮かぶかもしれないじゃにゃいか! くだらない話し合いしてるよりも、専用武器作って王国軍に少しでも抵抗できるようにした方がよっぽどお利口さんだにゃ!」
苛立たしげに言い放つサナさん。 俺たちは目玉が飛び出んばかりに目を見開き、サナさんを呆然と見つめてしまった。
「す、すげー! サナがもっともなこと言ってやがる!」
「おそらく、この泥棒猫は空腹すぎて脳が覚醒したのだろう」
「なるほど、鋭いですねラーザさん。 つまり早く飯が食いたすぎて、くだらない話し合いを終わらせるために思考加速を起こしたと言うことですか!」
『無理やりすぎる理由つけて納得するのやめろ』
『サナたんはただの食いしん坊じゃないんだぜ?』
『ナイルくんとラーザさんって本当息ぴったりだよね』
今までバカ担当だったサナさんにもっともなことを言われ、メメジェットさんとホープさんですら何も言い返すことができないらしい。
そんな様子を見ながら俺たち三人で大興奮していると、カンカンに怒ったサナさんがこちらに視線をよこす。
「失礼なこと言うにゃ! そもそも、ハートちゃんが帰ってくるまでくだらない話してる時間が勿体無いにゃ! ご飯食べて疲れを癒したり、お昼寝して体を休めたり、たまには外に出てのびのび魔物狩りして待ってた方がよっぽど楽しいにゃ!」
「サラーマニキ、つまりこう言うことでしょうか? サナさんは難しい話は楽しくないから楽しいことがしたいと?」
「なんだ、俺たちの感動返せよ」
「まったくだ泥棒猫め、所詮貴様の脳内は食事と昼寝と遊びの三色にしか染まっていなかったのだな」
「うにゃぁぁぁぁぁ! なんなのにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
急に冷め切った顔で肩を窄める俺たちを見て、サナさんは涙目になりながら地団駄を踏み始めたが……
そうなると面倒な流れになるのが目に見えるため、メメジェットさんが慌てて口を開いた。
「ともかく、サナさんが言うことはもっともです。 しかし、どちらにせよハートさんが戻って来ないと食事もできなければ、今後の話し合いもままなりません。 このアジトは狭いので特にできることがあるとは思いませんが、それぞれ自由時間にしましょうか?」
メメジェットさんの正論を前に、ギャーギャー騒いでいたサナさんは絶望的な顔で膝をついてしまった。
ご飯が食べられないと聞いてショックを受けたのだろう。 どうやら相当お腹が減っているらしい。
「ねーねー見て欲しいんだわさナイルきゅん! バーサーカーの最終形態を描いてみたわさ!」
こんな空気の中にも関わらず、無邪気な声音ではしゃぎ出すママ。 ずっと静かだと思ってたらこいつ、呑気にイラスト描いてやがったか……
アジトの中はため息で満たされてしまう。 空気が読めないと言うか、マイペースと言うか。
ともかく、ママにはため息量産機の称号を贈ろうと思う。
「ほらほら、前作までのバーサーカーとは違ってでかくごつく描くだけでなく、細い中に確かなゴツさを込めたこの力作。 戦闘力は五十三万だわさ」
『なんか合成英霊が完成してるw』
『ポワダポワダポワダ』
『まったく、人をイライラさせるのがうまいイラストレーターだw』
ドヤ顔を決めてくるママからスッと視線を逸らし、四つん這いで落ち込んでいるサナさんの肩に手をポンと置く。
「サナさん、さっきはディスってすいませんでした。 あなたと違って、はなっから俺達の話しすら聞いてないバカがいたとは思わなくて」
「俺もすまなかったなサナ。 お詫びと言っちゃあなんだが、この件が落ち着いたら飯奢るぜ」
「むぅ、貴様にこんな事言うのはなんだが、その……すまなかった。 貴様のおかげで無駄な時間を過ごさずに済んだぞ」
俺に続いてサラーマさんやラーザさんまで謝り出し、話を聞いてなかったバカはきょどりながら目を泳がせていたのだった。




