『さすがアルティメット先輩』
◁
色々あったがいざドラゴン退治へ進むことになった。 ……のだが、
「なんだこの世紀末な風景は」
「花がねえ。 花がねえぞ」
『筋肉ダルマのハーレムだ』
『これはこの世の終わりか?』
『終末ならぬ筋肉のハーレム』
俺達七人の周りには大量のガングロマッチョ君がずらりと並んでいる。 ホープさんのイラストコピーアプリのお陰でガングロマッチョ君の最高傑作が大量にコピーされ、ひどい有様になっている。
「暑苦しいにゃ」
「なぜこのデザインにした? 全員黒湖ナイルにすればよかったではないか」
「それはマジでやめろ」
恐ろしいことを言い出したラーザさんにマジレスしていると、苦笑いを浮かべたホープさんが手を鳴らして俺達の注目を集める。
「準備は整った。 基本的にこちらのガングロマッチョ君たちに突貫してもらい、私達はクールタイムを管理しながらメメジェットさんの【神信の教え】が発動している最中に強力な攻撃をガンガン仕掛ける」
「ガンガン行こうぜ!」
「命令されろだわさ!」
「メメジェットさんはクールタイムが終わり次第神信の教えを常に発動してもらい、ラーザちゃんは全体攻撃のタイミングで【絶対防御】。 二撃目以降は私の【上級障壁魔法】を使うから、スキル発動時は効果範囲内にすぐ撤収するように」
「絶対防御ときたら絶対攻撃」
「宴の始まりだわさ!」
「うるっさいんだよ君たち!」
『それってもしかしなくても乱数聖域?』
『宴おばさん現る』
『宴もたけなわだ!』
俺とママでちゃちゃをいれていたらホープさんにひっぱたかれた。
「全体攻撃の火炎ブレスは三十秒おき、絶対防御のCTは四十秒で、上級障壁魔法はCT四十五秒。 私がタイム管理を担当するから全員間違えないように」
ホープさんが作戦の最終確認をとり、みんなでこくりと頷く。
「よし、それじゃあドラゴン退治開始だ!」
こうして始まるドラゴン退治。 この時、俺達は気づいていなかった。 この中に、ラーザさんを超えるポンコツが混ざっているということに。
◁
イアールトは炎の龍らしい。 龍と表現したのは翼がついていないからであり、西洋風のドラゴンと言うよりも中国風の龍を連想させる見た目だ。
とは言っても手足がたくさん生えているわけではなく、一番わかり易い表現だと前足だけ生えている蛇。
真っ赤な鱗で全身を包み、睨まれるだけで背筋が凍りそうな邪悪な瞳、牙は鋭く、眼の前に立つと見上げるほどの巨体。 感覚的に灯台を見上げているようなサイズ感だ。
でかい上にすばしっこく、噛みつき攻撃はピストルのような速さで飛んでくる。 その上、鱗も非常に硬いため尻尾の叩きつけはかなりの威力になるし、通常攻撃なら当てても弾かれる。
三十秒ごとにフィールド全体を焼き尽くす炎のブレスを放ち、他にも広範囲攻撃である毒の吐息、フレイムバースト。 物理攻撃も、尻尾の薙ぎ払いと噛みつきにひっかきと数種類。
終いには蛇睨みという多彩な攻撃パターンを持っている。
蛇睨みに関してはイアールトの目を見ないように気をつければどうにか回避はできる。 けれど攻撃パターンや標的が誰かを確認するためにはどうしても瞳の動きを見ないといけないらしい。
基本的に視線が向いている方向に布陣した味方へ噛みつきやひっかきをしてくるし、毒の吐息を吐く前は瞳が紫色に発光し、フレイムバーストの前は瞳が真っ赤に光る。
全体攻撃の炎のブレスは一度目を閉じて口をパクパクさせながら口内で炎を作り出すという予備動作がある。
どれも瞳を見ていないと回避できないというのに、その瞳を見ていると蛇睨みで麻痺させられるという負の連鎖。 だが状態異常に強い俺は攻撃の要、いちいち目を見ながら戦うなど不可能。
つまりレイド戦においては、麻痺覚悟でイアールトの瞳を見ながら全体に指示を出す犠牲者が必要になる。
「目が紫に光ったんだわさ!」
「誰狙ってんだ!」
「えーっと、たぶんナイルきゅんだわさ!」
「うぎゃあぁぁぁ! 指示がおっせー!」
『直撃したw』
『あの吐息臭そうだね』
『喰らったのがナイルくんなのが不幸中の幸い』
毒の吐息をもろに喰らい一瞬だけ猛毒状態にさせられて、かなりイラッとくる。
「使えねー指示役だなクソッタレ!」
「どーどー落ち着くんだ坊や。 冷静に行こう冷静に」
戦闘が始まってから数時間。 まだイアールトの動きに慣れていないせいか、ママの指示がワンテンポ遅い。
おかげさまでメメジェットさんは大忙しである。
「黒湖さんはまだ余裕ありますよね? そのまま前衛に残って下さい、神信の教えのクールタイムが終わりました! 仕掛けますよ!」
メメジェットさんの掛け声に合わせて全員が臨戦態勢に入る。 ガングロマッチョ君は基本的に好きに暴れさせているため放っておいても勝手にダメージを入れてくれる。
しかしイアールトの装甲は硬く、こちらのダメージはあまり期待できない。 そこで、俺達は基本的にメメジェットさんの神信の教えが発動中の二十五秒間に強力な闘技スキルを連発するという方針になった。
スキル効果を上昇させる信神の教えは強力な強化スキルなのだ。
「阿修羅滅砕!」「滅空!」「アルティメットスピア!」「開闢魔法!」「ディメンションスラッシュだわさ!」
攻撃陣が高威力の闘技スキルを連発。 悲鳴を上げながら思い切り吹っ飛んでいくイアールト。
『すごい高密度の闘技スキルだねw』
『多分あれでも体力の一割も削れてないぞ』
『レイドボスとはそういうものである』
現在の視聴者数は十六万ちょっと。 ステータス的にはかなり高いが、レイドボスは頭が湧いてしまいそうな単位のHPを持っているため対したダメージ源にはならないだろう。
大切なのは一人ひとりが集中力を切らさずに連携を取り、相手の攻撃は決められた手順で回避して、攻撃するべきタイミングに合わせて総攻撃を仕掛けるという攻守のパターン化だ。
今のところ順調で、ホープさんとラーザさんの防御スキルが交互に作動しているおかげで炎のブレスは回避できているし、イアールトの直接攻撃はラーザさんが神がかったジャストガードで弾くというおまけ付きだ。
相変わらず頼れるタンクである。
「むむっ! 何やら黒湖ナイルから尊敬の眼差しを感じるぞ! 思っていることを正直に言うが言い!」
「いや、前見ろ前!」
突然尻尾をブンブン振り始めたラーザさんに慌てて声を掛けるが、
「恥ずかしがることはないのだぞ黒湖ナイル! 褒めたい時に私を褒めるがいい!」
「真面目にやってくれないかな? ……って、ノールックでジャストガード? バケモノなのかな?」
ラーザさんがイアールトの噛みつきをノールックでジャストガードしてしまい、苦言を吐いていたホープさんは瞠目してしまう。
「なに、セフメト様の攻撃を体験した私にしてみれば、この程度の攻撃取るに足らん」
「すげーなラーザ、なんだか悔しい限りだぜ」
「そういうサラーマこそ、とんでもない火力ではないか!」
機嫌が良さそうなラーザさんがサラーマさんに賞賛を送る。 彼女が言う通りウォーリアーであるサラーマさんの火力はとんでもなく、レベルマックスで覚える闘技スキル【滅空】は、このゲームの中でもダントツトップの火力を誇る物理技だ。
イアールトの首筋に痛々しい裂傷が見られるくらいだ。 というより、骨すら裂けているだろうあの傷は裂傷と言うよりも開放創だろう。
『ソルジャーのディメンションスラッシュもやばいぞw』
『防御無視、障害物透過のあれか』
『レンジャーのアルティメットスピアも貫通力がやばいんだぜ?』
『さすがアルティメット先輩』
『ホープさんの開闢魔法アタックも音がやばかった』
『ギャリック砲の方が個人的に好きだw』
イアールトは先程俺達が一斉攻撃で与えた傷を瞬時に再生させ、ケロッとした顔をしている。 最初にあれを見た時はHPまで回復しているのかと思ったが、どうやらあれは傷だけを直しているだけでHPは回復していないらしい。
「ここまでは順調だ。 ちょうどこれで二時間経過したかな。 次の攻撃も耐えきるよ?」
「ママの指示出しが遅れなけば問題ないはず!」
「責任重大だわさ! あ、今サナたん狙ってるわさ!」
「ふにゃあ! ヒッポグリフのおかげで助かったにゃ!」
どうやらイアールトにとって、上空を飛び回りながらチクチク狙撃してくるサナさんが一番厄介に写っているらしく、一番攻撃対象に選ばれやすい。
しかしさすがは機動力に優れるヒッポグリフ。 今のところ危なげなくイアールトの攻撃をかわし続けている。
ある程度攻撃を仕掛けたところでメメジェットさんの神信の教えの効果が終わり、相手の攻撃を耐えながら隙を見て攻撃するという我慢の時間帯に切り替わる。
順調に進んでいるかと思われたこの時間帯、事件は突然訪れた。
「ちょっと! あんなモーション聞いてないんだわさ!」
「とぐろを巻いただと? ドラゴンなのかヘビなのか、はっきりせんかい!」
「ちょっとこれは想定外だ、全員いったん離れてくれるかな?」
見たこともないモーションだったのだろう、ホープさんの切迫した叫びが戦場にこだまする。 しかし次の瞬間……
「あ、これあかんやつ!」
「やむを得ない! ラーザちゃん!」
「絶対防御!」
撒いたとぐろを解くように、戦場全体を襲う尻尾の薙ぎ払い攻撃が飛んできた。 ジャンプすればかわせそうな攻撃だったが、いかんせん攻撃速度がはやすぎてとっさの反応ができない。
機転を利かせたホープさんの指示により、パーティー全体が一瞬だけダメージ無効になる絶対防御のスキルを使用するラーザさん。
なんとかイアールトのイレギュラー攻撃を防ぐことには成功したが……
「次の炎のブレスは?」
「後五秒だ!」
「CTやばいんじゃない?」
次の全体攻撃はラーザさんの絶対防御で回避する手はずになっていた。 それをここで使ってしまったのだ。
「ごめんよみんな、クインタシルドのクールタイムは後十二秒もあるんだ」
全員の顔から血の気が引いたタイミングで、イアールトは炎のブレスの予備動作を始めたのだった。




