『この調子じゃ到着はいつになるか分からんな』
◁
ドラゴン退治に向けた作戦会議が始まった。 メンバーはハートちゃんとルゥーファちゃん以外の全員。
基本的に後衛はメメジェットさんとホープさん。 中衛がサナさんとママ。 前衛に俺とサラーマさん、ラーザさんで向かうことになる。
ヒーラーが一人しかいないため基本的に無闇やたらに突進は不可。 ラーザさんがドラゴンの攻撃を請け負っている内に俺やサラーマさん、ホープさんで高火力攻撃をぶちかましまくるという流れだ。
「これ絶対ハートちゃんいたほうがいいでしょ?」
「残念だったね坊や。 ハートは補給のために各地を転々とするから三日は不在だ」
「何でそんなに時間かかるの? 移動はペガサスっしょ?」
「馬鹿だな坊や、王国軍の勢力はどんだけいると思っている? 近場の街を転々としてたら移動先がたやすく特定される。 そうなるとペガサスの機動力を活かして不規則に街を回ったほうが捕まるリスクが低くなる」
「指名手配犯は大変なんだね」
「そうさ、だと言うのに君は安直に行動してくれたおかげでこんな面倒なことになってるんだけどね」
ドラゴンが出現するというダンジョンへ移動している最中、街道から外れた道なき道を行きながらも細目を送ってくるホープさん。
そう言われてしまうとぐうの音も出ない。
『各職業の専用武器づくりってことはさ、ドラゴン何回倒すハメになるの?』
『人数少ないし、ほんとにこのメンバーで倒せたなら二回くらい?』
『一体につき五時間以上かかるとすると、気が遠くなるね』
「ちょっと待った! 視聴者の皆さん、その話し詳しく」
「ナイル、信者からなんか教えてもらったのか?」
「ドラゴン退治に五時間以上かかると聞いたのだが? さらに全職業の最強武器を作るには二回も戦わないといけないって不穏な話も上がっているが?」
「二回で済めばラッキーなんじゃないか?」
「なんですと?」
聞く所によるとドラゴンを討伐すると龍星石というアイテムがドロップし、これを集めたあと専用武器を作るための特殊ダンジョンを攻略すると、武器の原型を獲得できる。
この原型を持って職業ごとに専門の鍛冶師の下へ行き、専用武器を作ってもらうという手順になるんだとか。
特殊ダンジョンはジョブチェンクエストと違って一箇所に固まっているわけではなく、各地に転々としているため移動にも時間がかかる。 その上専門の鍛冶師が住んでいる場所も転々としている。
ドラゴン退治も面倒だが特殊ダンジョンや鍛冶師探しも相当に重労働だろう。
「移動に関してはヒッポグリフがいるからなんとかなるかも知れないにゃ!」
「それは指名手配されてない場合に限ります。 鳴き声がうるさいヒッポグリフなんかで移動すれば、一瞬で場所を特定さてしまいますからね」
「メメジェットの言うとおりだ。 というか、言われるまでもなくそのくらい察しろ泥棒猫め」
ラーザさんにまでバカにされてしまっては、さすがのサナさんも涙目である。
「可哀想なサナさん、ラーザさんのようなポンコツにまでバカにされてしまっては悔しくてしょうがないでしょう」
「おい黒湖ナイル。 誰がポンコツだと? このペーペーナイルめ!」
「久々に会ったと思ったら早速喧嘩を売ってくるとは、懲りないですねラーザさん。 ドラゴン退治で引導を渡してあげようではないですか!」
「ぐはぁ! ラーザ様が久々にいきいきとしていらっしゃる!」
俺とラーザさんが額をぶつけて超至近距離で睨み合っていたら、後ろを歩いていたメメジェットさんがドン引きレベルで吐血してしまった。
「ちょっとメメジェットさん? 衛生兵! 衛生兵を呼ぶんだ!」
「ばかかおっぱいウィザード! 不運なことに衛生兵はそいつだ!」
「とんでもない量の鼻血だにゃ! 鼻から出なかった分は口から出たのかにゃ?」
サナさん、冷静な解説をしている場合ではないだろう。 なんてことは言えず、泡を吹いてぶっ倒れてしまったメメジェットさんをみんなで慌てて介護し始める。
『この調子じゃ到着はいつになるか分からんな』
『しばらく会ってなかったから血が溜まっていたのだろう』
『推し同士がオデコパシーしてたからね、しゃーないしゃーない』
◁
レトポリス神殿、この場所にドラゴンが待機しているようで、一日一体しか討伐できないらしい。
討伐するにしてもレイド戦のようになるため、トッププレーヤー五十人がかりでも討伐に五時間以上かかるのが普通らしい。
レイド戦とはオンラインゲームやマルチプレーができるゲームにおいて、複数のプレーヤーと共に強力なボスと戦闘をする事を意味する。 つまりこれから戦うドラゴンは非常に強力なのだ。
そんな相手に七人で挑まなければならない。 これは普通に考えて無謀である。
「このダンジョンは入口が転送陣になっていてね、足を踏み入れると別空間に移動してドラゴンと戦闘することになる」
「確か、ドラゴンの名前はイアールトでしたよね?」
「その通りだよメメジェットさん。 ところで鼻血は大丈夫かい?」
真っ赤なシーツをかぶっているメメジェットさんは平然と立ち尽くしているが、先程の流血事件は相当に肝を冷やした。
「焼きおにぎりのお陰でHPは回復しましたからご安心を」
「HPの問題ではなくて血液が足りているかを心配しているんだけどね?」
手のひらを返して肩をすぼめたホープさんに、俺は思わず苦笑い。
「イアールトは三十秒感覚で強力な範囲攻撃を放ってくる。 基本的にこれはパラディンの【絶対防御】か、私の【上級障壁魔法】で防御する事になるから、タイム管理はおこらたらないように」
イアールトは巨大なコブラのような見た目をした魔物で、名目上はドラゴンと呼ばれている。 魚だろうと蛇だろうと概念的にドラゴンとされてしまう神話あるあるだ、見た目に関しては特にツッコム事はないだろう。
「厄介なのは毒と炎だな」
「どちらも無差別に放ってくる技だからね。 攻撃範囲が広いからパラディンの挑発を使っても誰かしらは巻き込まれる覚悟をしたほうがいいだろう」
「毒に関してはモンクのナイルが巻き込まれれば大丈夫だろうが、炎は誰も防げねえだろうな」
サラーマさんが言う通り、状態異常に強いモンクは毒攻撃に耐えられるだろうが、なんだかさっきの言い方だと肉の壁みたいな扱いのため少しふてくされてしまう。
「ナイルきゅん、どうしてそんなにムスッとしてるんだわさ?」
「口じゃなくて手を動かしたら?」
「ひどいんだわさ、せっかく心配してあげたっていうのにさ!」
『ひとり黙々とイラストを書いていたありたむ氏に労いの言葉をかけてやれ』
『ずっと静かだったのはそのせいだったか』
『マッチョを大量に描いているときの気分ってどうなんだろうね?』
オロオロと泣きながらもひたすらに透明なウィンドウにペンを走らせるママ。 悔しい話しだが今回の戦いはママの固有スキル【生命の産出者】にかかっている。
「今何体描けたかな?」
「十五体だわさ」
「サナのフレイムレオールの背中に乗せてあげてたんだから、ちゃんと仕事するんだにゃ!」
「いやいや、十五体も描けたんだから十分だと思うわさ」
『すげーな切実に』
『たった数時間の移動中に十五体も描いてたか』
『フレイムレオールのたてがみって熱くないの? あれ設定上は炎でしょ?』
ここまでの移動でサナさんが召喚した魔獣の背に乗ってせっせとイラスト制作に臨んでいたママ。 今回の討伐で足りない分の戦力は大量のガングロマッチョ君で補うという方針だ。
割と理にかなっていると思うが、せっせとイラストを描くママは大変そうだ。 まあ、イラストを描くこと自体は大好きらしいママにとってはそこまで苦行ではなかったようだが。
「そんなに描けたのかい。 だったら私が作ったイラストコピーアプリは必要なかったかな?」
「え? 今それ言っちゃうんさ?」
「だって、聞かれなかったからさ」
一瞬にして二人の間の空気が凍りつく。
ホープさん、どうりでさっきからずっと冒険者端末をいじっていると思ったら、アプリ作っていたのか。 しかもこの数時間で。
「さすがのあたくしも、こんなに苦労してイラスト描いてたのに今ごろになってそんな事言われるとカチーンと来ちゃうんだわさ。 というわけで、やっちゃうんだわさバーサーカー」
「ちょっと待った、これからイアールトと戦うんだよ? ちょっとー、ありたむさん? その物騒な筋肉ダルマを落ち着かせてくれないかい?」
「安心するんだわさ、イラストコピーアプリがあれば、三〜四体くらい犠牲になってもすぐに召喚できるわさ。 なので腕試しにいかがですかな?」
「あ、まあ、確かにそうなるけどさ。 ちょっと坊や! このキチガイを止めてくれないかい?」
「問答無用なんだわさ!」
神殿を前にしているというのに大騒ぎを始めるママとホープさんを横目に、俺は盛大なあくびをかいていたのだった。




