『それ違うゲーム』
◁
「いやー、みんな無事でよかったよ!」
指示された場所に向かうと、すでに俺達以外のメンバーが揃っていた。 ここは街道からそれた山の中にある竪穴式アジト。
切り立った崖の下部分を掘って作られた簡易的な隠れ家である。 簡易的とは言っても、テーブルやベットなどの生活必需品はしっかりと用意されている。
どうやらこの竪穴式アジトはホープさんの土魔法で作成した場所らしい。
「久しぶりではないか黒湖ナイル。 げ、元気にしていたか?」
「気安く話しかけるなこの犬畜生。 貴様のような犬畜生は、伴侶様の前でひざまずいて尻尾を振っていればいい」
「ななな、何だこの女は! この私に向かって犬畜生だとは! 表に出んか!」
「黒湖さん! この女は一体何なんですか! ラーザ様に向かってなんと不敬な! 溺死案件ですよ!」
集合してそうそうすごく空気が悪い。 ラーザさんとルゥーファちゃんは取っ組み合いの喧嘩を始める上に、場違いにもそこに向かっていくメメジェットさん。
もうすでに心がめげそうである。
『ルゥーファちゃんの敵意はどういう法則で決まるんだ?』
『ハートちゃん以外は全員敵らしい』
『ホープさんはどうなるのだろうか?』
「はいはいみんなー感動の再会のところ悪いけど、ちょっと面倒な事態が発生したから今後の方針を話しまーす」
「感動の再会とは?」
「さて、先程の少年救出戦にてボクたちも王国から指名手配される大悪党に任命されてしまったよ。 ちなみに、懸賞金的に最下位はサナちゃんだった」
俺達全員の指名手配書を机に並べながら耳が痛くなりそうな報告をするハートちゃん。
「にゃんだって! なんであたしの懸賞金が一番低いんだにゃ!」
「ブスだからに決まっているでしょうブス」
「なんで君はあたしのことをそんなにブスブス言うんだにゃ! 懸賞金に見た目は関係ないにゃ!」
ラーザさんと喧嘩していたかと思ったら今度はサナさんに喧嘩を売りに行くルゥーファちゃん。 とても忙しいご様子で。
『ちゃっかりメメジェットさんの懸賞金が高い件』
『サラーマさんの次だね』
『ホープさんとナイル君がダントツだなw』
「すごいんだわさナイルきゅん。 一、十、百、千……二十三億? おーくせんまんおーくせんまん」
「呪われそうなダンスはやめなさい、ワースト二位のありたむさん」
「ひどいんだわさナイルきゅん! 懸賞金が低いってこと、ちょっと気にしてたのに!」
俺が鼻で笑いながらからかうと、涙目でにじり寄ってくるビキニアーマーの露出狂。
「視聴者の目に毒だからとっとと装備整えろ! だから懸賞金が低いんだよ!」
「あたくしのボディーが魅力的じゃないからって、懸賞金には関係ないんだわさ!」
「誰もそんな事一言も言ってねー」
『ボディーラインで懸賞金が決まるならありたむ氏とホープさんがトップだろう』
『だがホープさんの魂は男である』
『ナイル君的にはメメジェット氏がナンバーワンだろうなw』
「変なコメントはやめてください」
「どんなコメントされたんですか?」
「めめめめめ、メメジェットさんのことはなにも言われてないんだからね?」
「ちょっと黒湖さん、詳しくお話をお聞きしたいのですが」
噂をされていた御本人に声をかけられ動揺してしまう俺。 視線を右往左往させていると、苛立たしげに咳払いをして全員の注目を集めるハートちゃん。
「はい、いま静かになるまでに五十八秒かかりました!」
「そういうネタいいから」
「と、も、か、く! みんな指名手配されてるわけだから、今後の動きには最新の注意を払うように!」
「涙目だよハートちゃん。 なにかあったのかい?」
「誰のせいだと思ってるんだ!」
この通り、ハートちゃんはいじめると可愛いのである。
「こらこら坊や。 うちの可愛い妹をいじめるんじゃないよ。 そもそもの問題は何でこうなったのかって話しだよ」
ホープさんが部屋の端に用意されていた椅子にどっしりと腰掛けながら問いかけてくる。 そう言われるとぐうの音も出ないため、俺はムスッとしながら押し黙る。
「これからは尾行に最新の注意を払ってもらわないと困るよ? それにルゥーファさん、君は今後王国軍撹乱のために動いてもらうからそのつもりで頼むよ?」
「貴様、男臭いわね。 ガワは女ですけど中身は男ではなくて」
「……えっと、なぜバレた?」
鋭い視線を向けられたホープさんが突然冷や汗をかき始める。
「貴様からは伴侶様への不躾な視線を感じませんの。 そこのブスとシーツ、それから犬畜生からは卑猥な視線をプンプン感じますが、貴様からはサラーマさんと同種の視線を感じましたわ。 例えるなら男の友情という尊い成分を」
『問う、ホープさんとナイル君の組み合わせはBLに分類されるのか』
『いやいや、今のホープさんにはついてないから否である』
『けど中身は男だぜ? 見た目よりも中身のほうが重要なんだよ』
なんだか知らないが、コメント欄では奥が深い論争が勃発している。 俺はその論争を軽くスルー。
「ともかく、この手配書が出回ればボク達は悪者として全国に知れ渡ってしまう。 そうなるとレアー様の信仰心を高めるという目標は達成しづらくなる」
「今の俺達は盗賊と似たようなもんだからな」
存在感が薄かったサラーマさんの一言で、全員が渋い顔をしながら押し黙ってしまう。
「そもそもの問題として、俺達は王国軍に見つかったら完全にお陀仏だ。 次はないぜ?」
「そうは言いましてもね、すでに我々はレベルマックスですから。 これ以上の戦力アップは厳しいのでは?」
メメジェットさんの指摘を受け、サラーマさんはうなりながら固まってしまう。
「つまり、最重要事項は王国軍に見つかっても自力で逃げられるための戦力アップが必要ってことっすか?」
「レベルマックスなのに戦力アップは難しいのでは? せいぜい装備をいいものに新調するくらいしかできませんよ?」
「それなら、これからゲームでの知識を活かし、それぞれの専用武器を作って戦力アップを狙っていこう! 王国軍に見つかったとしても対応できるように戦力アップは最も重要な案件だからね! それが終わったら盗賊団殲滅作戦を行って、ボクたちは悪者じゃないということを世間に知ってもらうって言う流れなんかどうかな!」
ハートちゃんがウキウキした表情で専用武器のアレコレを語りだす。 この子もしかして、専用武器が欲しいだけなんじゃないだろうか?
けれど主張はもっともだ。 王国軍の強さは異常だった。
百人単位の【技能共有】は単純だがそれ故に対処が非常に難しい。
「専用武器を作るのは非常にいい案だと思いますが、このアジトから出てしまったら見つかるのも時間の問題ですよ?」
「目くらましのために何人か別行動取れば?」
「補給とかも必要になってくるだろうしね」
いくら見つかりづらい所にアジトを作ったとは言っても、王国軍の数は非常に多い。 人海戦術を使えば見つかるのは時間の問題だろう。
それに、食料だって無限にあるわけじゃないし、自給自足しようにも限度がある。 誰かしらが街に入って食料を購入しなければ餓死してしまうのも必然。
「必要なものや食事に関してはボクとルゥーファちゃんで請け負う。 アサシンの職業スキルには【完全変装】があるから街に入るのは容易だし、ルゥーファちゃんはペガサスを使って高速で移動できる」
「空を移動するならサナさんでもいいんじゃないの?」
「ヒッポグリフは鳴き声がうるさいから潜伏には向かないんだよ」
そういえばそんな事を言っていた気がする。
「それで、さっきも言った通り残りのメンバーは職業ごとの専用武器を手に入れるため、ドラゴン退治に向かってもらうよ!」
「おお、ドラゴン退治!」
ドラゴン退治と言えばRPGの醍醐味だ。 ワクワクする宣言を聞いた俺は目をキラキラさせながらハートちゃんの次の言葉を待つ。
しかし隣で壁に背を預けてかっこよく立っていたサラーマさんは浮かない顔だ。
「ドラゴンってお前……この人数で勝てるわけねえだろ? 推奨人数は確か、五十人以上だったろ?」
「なんじゃそりゃ? まさかドラゴンって、この世界で言うところのレイドボス的な感じ?」
「さすが少年だ、察しがよくて助かるよ」
悪人面で口角を上げるハートちゃんに、俺は嫌な予感を感じながらもコメント欄を確認。
『ドラゴン退治か、スーパーハイテンションのドラゴン斬りがオヌヌメ』
『それ違うゲーム』
『邪悪なる竜は失墜し、世界は今洛陽に至る、撃ち落とす!』
『それも違うゲーム』
『凡人、身の程をわきまえよ!』
『お前らいい加減にしろ』
「真面目に教えてくれませんかねw」
「え? 今から説明するから早とちりしないでよ少年」
「おいまな板娘、こいつ多分信者と話してるぜ?」
「ああ、そういうことね。 って言うかサラーマさん、そのまな板娘ってやめてくれない? そろそろセクハラで訴えるよ?」
「訴えられるもんなら訴えてみやがれ、今の俺達は速攻でお縄にかけられるぜ?」
コメント欄とやり取りしていたらいつの間にかサラーマさんとハートちゃんまでもが火花をちらし始めた。
こうして久々に仲間たちで集合したアジトでは、あちらこちらで喧嘩が始まってしまいなだめるために骨を折るハメになった。




