『マジでこの子の口塞げw』
◁
どうやらルゥーファちゃんはつけられていたらしい。
「オメェを探すのに役に立つ固有スキル持ちがいねえか探してた時にな、この女の話を聞いたんだ。 こいつの固有スキル、【遮二無二追尾愛】は伴侶と定めた相手に近づくほどその効果を発揮する。 そんな女がとある少年を探してそこら中の街を行き来してるってな」
流暢に話しながらも殺人打撃を雨のように降り注いでくる団長。 くまさん大事件ペアがサポートに入ってくれてやっとさばけるレベルの勢いだ。
「この女が探してる少年の容姿は、ベージュの短い髪。 琥珀色の瞳、褐色の肌。 身長は147.7センチ、足のサイズは25.5、体重は48.7で、朝食はパン派。 好きな食べ物はプリン。 外見の特徴は素肌に鰐皮のベストを着ている、神が選んだレベルのイケメン」
「身長云々については突っ込むのは野暮だろうからなにも言わないっすよ」
「まさかと思ってこの女の後をつけていたら、まんまとターゲットが釣れたってことだ」
「もしかして団長、まさかと思った特徴って……神が選んだレベルのイケメンってところっすかね?」
「おまえ、よくもまあ恥ずかしげもなくそんな事言えるよな。 まあ、否定はしないでおいてやるぜ?」
優しい言葉とは裏腹に飛んでくるハイキックは体をそらして回避。 ここまでの立ち合いで俺もくまさん大事件ペアも全く反撃できず、空から遊撃をしているらららちゃんの鉤爪もまったくかすらない。
控えめに言っても強すぎる。
バースィラ団長は元々エンドコンテンツでバトルができるファイヤーム傭兵団の最強兵力。 その強さの秘訣は彼女が持つ固有スキル【墓守の加護】が原因だ。
自分に向けられるスキルは、闘技スキル意外すべて無効化するというこのスキルのせいで味方にかけたバフは意味をなさず、デバフで弱体化も不可能。 逆を言えば仲間としてパーティーを組んだ際は、味方からのバフをかけることができないというデメリットになるこのスキル。
仲間として戦う際はそのデメリットを払拭するために全ステータス常時二倍というぶっ飛んだ効果が施されており、これが敵として戦う際に厄介になる原因のひとつだ。
さらに面倒なのが、自らが発動した自己強化スキルはきっちり効果があるという点だ。 団長が無効化するのは、あくまで他者から自分に向けられるスキルに限定されている。
このせいで団長とのバトルが楽しめるエンドコンテンツの難易度は、プレーヤーたちから鬼畜という称号をもらうほどの難易度になってしまっているのだ。
元々の職業がモンクなので自己強化に優れている上に状態異常はほとんど効かない。 つまり状態異常付与系の闘技スキルで殴っても焼け石に水。
常時ステータス二倍という頭が湧いてるとしか思えない追加効果も非常に強い。 数値化するとわかりやすいが、全職業レベルマックスの際平均ステータスは二千二百前後。
これが二倍になるため基本的に団長のステータスを数値化すると常に四千四百前後になるということだ。 このステータスに追いつくためには、現在全職業レベルマックスになった俺でも、視聴者が二十万人以上必要になる。
そんな中、現在の視聴者は十万いかないくらい。 圧倒的にステータス不足。
「何だよ今の動き! 人間技じゃねえ!」
「こらくまゆらちゃん! 伴侶様に怪我をさせたらご飯抜きますからね!」
危うく大ダメージを喰らいかけた俺を見て、団長にまんまと出し抜かれたくまゆらちゃんが説教を受けている。
「ただでさえステータスで劣ってるっていうのにあの身のこなし、はっきり言って対処できそうにねぇ」
『まあここはゲームじゃないから肉弾戦はきついよなw』
『ステータスが高くても素の戦闘技術は本場の人間には勝てないでしょ』
『FPSの世界チャンピオンが、戦場のスナイパーにリアルでは勝てないのと同じさ』
逆もまた然り、戦場のスナイパーはFPSの世界チャンピオンにゲームでは手も足も出ないだろう。 いくらフルダイブゲームをたくさん遊んで戦い慣れしたつもりになっていたとしても、本物の武闘家と喧嘩すれば手も足も出ないということだ。
魔獣であるくまさん大事件ペアと協力しても避けるのが精一杯だが、避けるという行為ができているだけ自分をすごいと自賛したい。
それほどまでに洗練した動きをしている団長。
「サラーマさんたちは助けに来てくれねえのかよ!」
「お言葉ですが伴侶様、あのモブとブスが助けに来るのは愚策かと思われます」
「え? なんで?」
「現在指名手配となっているのは伴侶様だけだからでございます」
なるほど、ここで俺に協力しているところを見られたら、俺の一味のものだと言う情報が広まり、サラーマさんたちまで指名手配されてしまうということか。
そう考えると真っ先に逃げたママは懸命な判断だったのだろう、ビビって逃げただけだと思うがここはそういうことにしてファインプレー賞を贈ってあげたい。
「けど、それが分かってるならルゥーファちゃんはどうして俺を助けてくれるの?」
「なにをわかりきったことを。 ここで貴方様の力になれば、貴方様はわたくしとしか行動を共にできなくなる。 つまりわたくしに依存する。 わたくしに依存する貴方様と、貴方様に依存しているわたくし。 これこそが真実の愛!」
『こいつはやべえやつだ』
『ナイル氏、色んな意味で絶対絶命』
『でもルゥーファはよく団長相手に立ち回れてるなw』
視聴者の言う通りである。 団長がありえないほど強いにもかかわらず、ここまで見事に俺が攻撃を避けることができているのはほとんどくまさん大事件ペアのおかげだ。
つまりこのくまさん大事件ペアを操作しているルゥーファちゃんはかなりの使い手ということになる。
「くそ、思った以上にストーカー女がクセモノだな。 攻めるに攻めきれねえ」
「あの団長が舌打ちするレベル?」
「ストーカー女から始末したいが近づけねえし、ならば舎弟をとっととぶっ飛ばそうとしてもいい位置に踏み込めねえ。 お前、このくま共になに命令したんだ?」
怒涛の攻撃がいったん止み、皮肉めいた笑みを浮かべながら問いかけてくる団長だったが。
「伴侶様に怪我をさせた貴様になぜわたくしの手の内を教えなければならないのです? まあ、戦士としての誇りを捨て、敵からのお情けが欲しいのなら教えてやらんこともないですわよ? このモブ女」
ものすごい煽りで対応するルゥーファちゃんだった。 団長は気性が荒い性格だ。
いくら戦い慣れしている歴戦の猛者でも、ここまでバカにされてしまったら黙っていないだろう。
「上等だストーカー女。 まずはてめぇから殺ってやる」
今日一番の恐ろしい表情で手をバキバキ鳴らし始める団長。
あれはまさに、相手を殺す気満々の殺気……俺はなにを言っているのだろうか?
「あまり強い言葉は使わないほうがよろしくてよ? 弱く見えますもの」
『マジでこの子の口塞げw』
『こんなときでもナイル君を喜ばせようとするルゥーファを尊敬するよ』
『じゃあナイルは天に立たないとな』
ふざけてる場合じゃねえ。 団長は青筋を浮かべながら超前傾姿勢で突進してきて、おれは小さく悲鳴を上げながら鋼の戦棒を握りしめる。
「伴侶様! いったんお下がり下さい!」
怒り心頭の団長が突進してくるタイミングで、くまゆりちゃんにふっ飛ばされて後ろに下げられた。 バランスを崩して倒れ込んだ先には柔らかな二つのクッション……じゃないなこれ。
「あぁ〜ん伴侶様! こんなところでくんずほぐれつがご希望だなんて、大歓迎です」
「やめて首に腕を回さないで! さらに密着しようとしないで!」
『ナイル君が襲われてるw』
『傍から見るとラッキースケベだがな』
『それってルゥーファ側のラッキースケベ?』
「いちゃこらする余裕があるとはな! 随分と舐めてくれるじゃねえかストーカー女!」
怒号が響き、俺はプルプル震えながらも武器を構える。 しかし、くまさん大事件ペアは怒涛のごとき団長の攻撃を達人のごとくさばいており、期を見てらららちゃんの奇襲まで交える連携っぷり。
「え? なんか俺達と戦ったときよりも強くね?」
「当たり前ですわ伴侶様。 わたくしのスキルは伴侶様と近づけば近づくほどに協力になる。 つまり、今が最強のわたくしの姿なのです」
首に絡みついていた腕にぎゅっと力が入り、若干息が苦しいのだが。 なるほど理にかなっている。
『つまりこのぱふぱふは戦略的パフパフなのか』
『後頭部にぱふぱふされても一ターン動けなくなるの?』
『もはやナイルきゅんはぬいぐるみのように抱きしめられている件』
「さあご覧下さい伴侶様。 貴方様のお役に立つためにわたくし、たっくさん修行をしたのですわよ?」




