『触れた回数をカウントしてるあたりがやばい』
◁
(それで、何か申し開きはあるかな?)
薄暗くなり始めた時間帯、俺達はテントの中で円を作って座っていた。
「ママが戦闘中にふざけた発言ばかりしていたせいで注意が散漫になっていました」
「ちょっとナイルきゅん、あたくしのせいにしようとしてるみたいだけどさ、それを言うならナイルきゅんにも少なからず責任があるさ」
俺たちは今、ストーカーとの死闘を終えてとある大問題に瀕していた。
「まぁ、お前らも戦闘中ふざけてた戦犯があるけどな。 サナ、お前空飛んでたなら気づいてもおかしくねぇだろ?」
「ふにゃあ! まさかのサナに責任を押し付ける気かにゃ?」
「そうだそうだ! サナさん見張りに飽きてたからってノリノリでルゥーファちゃん退治に臨んでたから、盗賊がちゃっかり出現するなんて毛ほども考えてなかったでしょ!」
「ナイルくんまでサラーマさんの味方するのかにゃ? みんな揃って人手なしなんだにゃ!」
(ちょっと黒湖さん、罪のなすりつけ合いしてる場合じゃないでしょう?)
俺の冒険者端末からメメジェットさんの声が響く。 そう、俺たちは今冒険者端末の通話機能を利用した緊急会議を開いている。
それぞれの冒険者端末で、この場にいないメンバーに通話をつなぎ、スピーカーモードにして会話をするという単純な方法だが、この会議方法は割と便利で多用している。
サラーマさんの冒険者端末にはハートちゃんが繋いでいるため、こちらからはホープさんの声も聞こえてくる。
(ともかく、今は盗掘された品物の奪還が必須だよ。 現場に足跡とかの痕跡は残っていなかったのかい?)
「ホープさんもバカだなぁ。 あんなにも用心深い連中がそんな間抜けなミスすると思ったか?」
(坊や、次会ったら覚えておくといいよ)
『盗賊を取り逃がした間抜けがなんか言ってるw』
『でも盗賊共もずる賢いよなw』
『ルゥーファとの戦いに乗じて盗掘を決行するとはねw』
コメント欄の言う通り、俺達がずっと待ち望んでいた盗賊達は、ルゥーファちゃんとの戦闘にまぎれて盗掘を成功させていたのだ。
見事ルゥーファちゃんを捕らえた後念の為と言ってサラーマさんがアブシンベル岩窟殿を調べた結果、見事に荒らされていた葬祭殿を発見したから間違いない。
「そもそも、ここはお墓じゃないのに何で葬祭殿なんかがあるわけ? そこがまずおかしいわけよ」
「おいおい野暮なこと言うんじゃないわさナイルきゅん。 ここは歴代ファラオの中の英雄が一柱、レアメス君が最愛の妻のために作った神殿であり、それはつまりそこに最愛の妻が眠っていると仮定してもおかしくねえってことだわさ」
「レアメスさんは妻が大量にいたという話を聞く。 そんなヤリチン野郎なのに最愛の妻と定義づけるのには意義を申し立てる」
「おいナイル、いい加減バチが当たるからその辺で押さえとけ」
間抜けな失態を犯してしまったせいか、どうでもいい文句ばかりたれてしまっている。 これは俗に言う現実逃避というやつだ。
(どうやらこの調子だと、少年は拗ねちゃってて使い物にならなそうだ。 サナちゃん聞こえるかい?)
「聞こえるにゃ。 ナイルくんは当てにならないからサナにドンと任せるにゃ!」
「おいこらクソ猫。 またマタタビで酔い潰すぞ」
「ナイルきゅん、いったんシャラップだわさ」
『サナたんにマタタビ与えるのは大賛成』
『あれは俺等にとってご褒美以外のなんでも無かった』
『ほっぺすりすりは捉え方によっては破廉恥だからアカンと思います』
とまあ先日こっそりおこなったマタタビイベントは水に流し、ハートちゃんが真剣な声音でサナさんに今後の方針を話し始める。
(眷属召喚でドーベルマンは呼べるかい?)
「サナは犬系の魔獣とは相性が悪いにゃ」
(つまり無理なんだね?)
「申し訳ないですにゃ」
魔獣の中には複数の種類があり、プレイヤーがレンジャーになった場合呼べる魔獣はランダムで決まる。 サナさんの場合はNPCだったから呼べる魔獣はすでに発覚しているはずだが、ハートちゃんはここが異世界だという一縷の望みにかけたらしい。
「あーあ、一緒にいたのがサナさんじゃなくてラーザさんだったらなー。 今頃匂いで追跡できてたのになー」
(おい黒湖ナイル、今なんと言った? 聞こえなかったからもう一回)
(ぶをぉほぉぉぉ! ラーザ様、ティッシュを取って下さい)
(大丈夫かメメジェット! 今日の鼻血はかなり量が多いぞ!)
俺の冒険者端末が急に騒がしくなったため、無言で音量を下げたのだが、隣りに座っていたサナさんからわざとらしく尻尾でペシペシされた。 なるほどこれはご褒美だ。
「まあナイルが言った通り、ラーザがいれば匂いで追うこともできただろうな」
「サラーマさんまであんな負け犬の肩を持つのかにゃ?」
(誰が負け犬だこの泥棒猫! いい度胸だ貴様! 今からそっちに行くから覚悟しろ!)
おかしいな、スマホの音量は限りなく小さくしたはずなのだが? ラーザさんは声の音量がバグっているようだ。
(はいはい、いったんみんな静かにしようか? こうなったら奥の手を使うよ? サラーマさん、拘束したルゥーファさんの猿ぐつわを外してあげて?)
「え? それはまずいよハートちゃん。 こいつ平気で放送禁止ワードを連発するんだ」
(ボクに策があるから、いいから早く外す)
ゴクリと喉を鳴らしたサラーマさんが、俺達の後ろでみの虫になっていたルゥーファちゃんに視線を送る。 俺も釣られて視線を送ってみたのだが、すぐに目をそらした。
すでに目がやばい、あれは映してはいけない。
『一瞬写ったルゥーファは狂気的にヤバい奴だったな』
『何でアヘ顔だったんだ?』
『考えるな、察しろ』
俺の背後からそろそろと音がしたと思ったら、すぐさま騒音が発生する。
「おのれこのブス! わたくしの前で四十二回も伴侶様に触れましたわね! これはNTR展開なのですか? わたくしの眼の前で淫らな交わりを見せつけて、わたくしを興奮させるつもりなのですか! 答えなさいブス!」
『触れた回数をカウントしてるあたりがやばい』
『つーかサナたん、そんなにちょくちょくナイル氏に触れてたのかw』
『これは確信犯かも知れない』
「なあ、もう口閉じさせたほうがいいか?」
「サラーマさん、おなしゃっす」
(だめに決まってるでしょ! おーいルゥーファさーん聞こえるかなー?)
サラーマさんの冒険者端末からハートちゃんの声が響く。 するとルゥーファちゃん、サナさんを口汚く罵っていた口を一瞬閉じ、耳を澄ます。
「この声、女ですわね? 貴様もわたくしの伴侶様を狙う下郎なのですか!」
(うーん、確かに少年は魅力的なショタだ。 君が心酔する理由もよく分かるよ。 だからちょっと、少年のファンであるボクからのお願いをひとつ聞いてくれないかな?)
ものすごい煽りだ、これではルゥーファちゃんは余計に騒ぎ出してしまうのではないだろうか?
と思ったのだが、ルゥーファさんはまさかの沈黙。 そして数秒の葛藤を挟み、淡々とした口調でよくわからない文言を唱えだす。
「褐色、美声、臆病、生意気、全体の色合い、好きな食べ物は濃厚プリンというちょっぴり可愛い成分」
(金装飾過多、素肌にベストというえっちさ、うっすら見える筋肉の筋、なによりも鎖骨のチラ見え)
「……」
(……)
「話しを聞こう」
謎の暗号をかわした直後、予想外なことにルゥーファさんは静かになってしまった。
「え? ちょっと理解不能だったんだが?」
「おい、今の暗号は何だ?」
『わかる、分かるぞ同志たちよ』
『お前らいいセンスしてるじゃねえか』
『プリンが好きなところは確かに納得オブ納得だ』
「あたくしと通じる物を感じたんだわさ」
「ふにゃ? ナイル君のママは今の言葉の意味が理解できたのかにゃ?」
「ブスは黙れ。 それで? 顔の見えない理解者さん、要求をおっしょってくださって?」
相変わらずサナさんには非常に厳しいが、どうやらハートちゃんとは電話越しでも理解し合えたようだ。 その後ハートちゃんは、何事もなかったかのようにペラペラと今後の計画を話し始めたのだった。




