『今のルゥーファは歩く放送事故だw』
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【生命の産出者】に明確なクールタイムは存在しない。 強いていうのならばママが使用する時はイラストを描き終えるまでの時間がクールタイムと言ってもいいだろう。
ママはわりかし名を馳せているイラストレーター。 転移前は仕事もたくさん請け負っており、作業速度に関してはそんなに遅くないし、作画クオリティも非常に高い。
そんなママが、この数日間暇を持て余したせいで加筆に加筆を重ねた最高傑作を召喚したのだ。 今俺の前で仁王立ちしているガングロマッチョ君はかなりの強者であることは言うまでもない。
「ぐをぉぉぉぉぉ!」
「それいけバーサーカー! ナイルきゅんに付き纏うストーカーをやっちゃうんだわさ!」
ガングロマッチョ君はとあるゲームに出てくる英雄を参考にしたらしい超強力なサーヴァント。 召喚者に付き従う下僕のような存在なのだ!
推定身長三メーターに及ぶ巨体が振り下ろす拳は軽々と大地を破壊し、くまゆりちゃんを吹っ飛ばす。
「ありたむ、そのままあのやばい女の子を気絶させろ!」
「合点承知の助だわさ!」
ママがガングロマッチョ君に指示を与えると、咆哮を轟かせながら一直線に突貫していくガングロマッチョ君。
しかし殴り飛ばされて体制を崩していたルゥーファちゃんはアクロバットな動きで受け身を取り、突進してくるガングロマッチョ君を正面から相手取る。
「御母上! どうして貴方がわたくしと伴侶様の愛を邪魔するのですか!」
「自分の胸に聞くんだわさ、この超絶地雷ストーカー娘!」
『ストーカー系Vtuberルゥーファのママもまたありたむ氏だからな』
『これは親子対決でもあり、兄妹対決でもあるのだよ』
『なんか対戦カード的には激アツだけどねw』
毎日のようにコラボ配信を懇願してきたなんちゃってVtuberであるルゥーファちゃんは、俺と同じくゲーム実況を生業とするゲーム実況者。 実況するゲームはほとんど、俺がSNSでプレーすると宣言したゲームばかりだったため人気は皆無だったが……
それもしかたがないこと、彼女は人気になるためにVtuberを目指したのではないのだから。
ルゥーファちゃんのガワを作成したのは俺と同じくママである。 故にVtuber界隈でいえば俺とルゥーファちゃんは兄妹と言っても過言ではない。
しかしルゥーファちゃんがママにガワの作成を依頼したのは狂気的な理由なのだ。
「伴侶様とわたくしは運命共同体。 伴侶様がVtuberならばわたくしがVtuberとなるのは当然のこと。 同じ母から生まれることで、わたくしと伴侶様は二つで一つになれる! 伴侶様とわたくしが二人でひとつという概念がある以上、伴侶様が異世界転移したのならばわたくしも異世界転移するのは当然の理! つまりこれこそ運命、またの名を愛と言うのでしょう!」
度が過ぎるレベルの追っかけ体質が故に生まれたストーカー系Vtuber。 つまりこの娘、超絶地雷娘なのである。
愛が重すぎるせいか、ガングロマッチョ君はいつの間にかふっ飛ばされてしまった。 どうやらステータスは思った以上に高いようだ。
「何だあの女! 目がヤベェ!」
「ドン引きなのにゃ!」
ラリった目で自分の体を抱いているルゥーファさんを見て青ざめるサラーマさんたち。 しかしルゥーファさんにとって、サナさんの存在はそれはもう許しがたかったようで、
「その薄汚い猫なで声で伴侶様の鼓膜を汚すなブス!」
「なんであたしにだけあんなに当たりがきついのかにゃ?」
ヒッポグリフで自由滑空しているサナさんに向けて集中砲火を始めるルゥーファちゃん。
使用している闘技スキルを見る限りレンジャーのレベルも相当高いと見受るが、こちらは全員全職業レベルマックスの猛者。 固有スキルがかなり強力なものだったとしても、そう簡単にやられたりはしないのだ。
「金剛滅砕打!」
涙をのんでくまゆりちゃんを屠る。 いくら化け物ステータスのルゥーファちゃんが召喚した眷属だったとしても、今の俺達の前ではおもちゃ同然。
「崩天撃!」
ウォーリアーが高レベルで習得する闘技スキル、【崩天撃】 この攻撃は攻撃範囲がかなり広く、威力も桁外れ。 決まり文句は天すらも崩壊させる一撃というらしい。
サラーマさんの一撃によって塵と化してしまうくまゆらちゃん。 可愛かった二体のクマは一瞬にして蹴散らされてしまった。
『魔法が効かない相手にはウォーリアーを連れて行けと言われるほどの火力お化け』
『遠距離攻撃スキルがあればその脅威はウィザードに及ぶと言われているからな』
『実際、変な意地はってウィザードでなくウォーリアーを愛用するプレーヤーも多かった』
「なんですって? わたくしのくまちゃん達があんなモブのワニにやられてしまうだなんて!」
「モブで悪かったなイカレ女! それよりも、頭上注意だぜ?」
悪人面で笑いながら空を指差すサラーマさん。 ルゥーファちゃんは渋い顔をしながら視線を上げると、
「らららちゃん! このブスがっ! よくもわたくしのらららちゃんにひどいことを!」
胸部を射抜かれて塵になってしまっていたエンペラーホークが目の当たりになった。
そう、この数日間で強くなったのは俺だけではないのだ。
「にゃはははは! あたしを目の敵にしたいんだったら、あたしを負かせるくらいの実力をつけないと滑稽なだけだにゃ!」
またしてもルゥーファちゃんに【パライズレイン】を浴びせるサナさん。 空からの猛攻に対処できないルゥーファちゃんは頭を抱えながら逃げ回ることしかできない。
しかしサナさんの麻痺矢はかすっただけでもその脅威を発揮する。 やがて腕や肩をかすった麻痺矢のせいで四肢が上手く動かなくなったルゥーファちゃんは足をもつれさせて転倒してしまった。
悔しげに唸りながら空から迫るサナさんを睨みつけるルゥーファちゃんだったのだが、
「プリズンロペ!」
レンジャーの特殊スキル、縄を使用した捕縛術。 四方八方から同時に迫る縄を防ごうにも、レンジャーであるルゥーファちゃんには斬撃特製のある攻撃は上手く扱えない上に、四肢が麻痺した状態では抵抗も虚しい。
一瞬にしてみの虫のように縄でぐるぐる巻きにされたルゥーファちゃんは、したり顔でヒッポグリフから降りてきたサナさんに親の敵のような視線を向ける。
「おのれ! このわたくしにこのような仕打ちをして、伴侶様が黙っているとでも思っていますの?」
「あんたを捕まえるのはナイル君の指示だにゃ」
「黙れブス! 気安く伴侶様の名を呼ぶな! 貴様のようなブスに名前を呼ばれてしまったら、わたくしの伴侶様が汚れてしまう!」
「ナイル君、こいつ話し通じないからとりあえずヌブの街に駐屯してる王国軍に突き出してもいいかにゃ?」
苛立ちを隠そうともせずに俺に指示を仰いでくるサナさん。 拘束されているくせにかなり強気で暴言を吐きまくっているルゥーファちゃんは今の状況が分かっていないのだろうか?
俺はボリボリ頭を掻きながら拘束したルゥーファさんに近づいていき。
「あー、とりあえずルゥーファさん。 一度落ち着いて話しをしましょうか?」
やや距離を取りながら問いかけてみた。 のだが、
「あらいやですわ伴侶様。 このような格好で貴方様とお話なんて! でもわたくし、貴方様が臨むのならばそういったプレイもやぶさかではありませんの」
「えーっと? この配信はよい子の皆さんも見ているので、変な発言は控えて欲しいんですが」
失念していたがルゥーファさん。 俺が今生配信中だという事実を知らなかったようでして、
「伴侶様! わたくしいつでも準備は万全ですの! 今日はたまたま危険日なのです! ですからあなた様の子種を好きなだけわたくしの愛の巣窟に……」
「だぁぁぁ! 誰かこのバカの口を塞いでくれ! 健全なはずの俺のチャンネルが垢バンされたら俺の人生もこの世界での立ち位置も一気に崩壊しちまう!」
『今のルゥーファは歩く放送事故だw』
『この特設サイトも垢バンされる対象に入ってるのかな?』
『万が一垢バンされたらナイル氏色々と終わるもんなw』
俺は慌ててその場から離れ、放送禁止ワードを恥ずかしげもなく叫びまくるルゥーファちゃんはサラーマさん達によって強制的に黙らされた。




