『甘えん坊なサナたんは天使、いや天猫だ』
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シリスの体を持ってせっせと逃げた俺は、魔物の残党狩りをしていたサラーマさんたちと合流した。
セフメト戦の疲れが残ったまま残党狩りは流石に嫌だと思っていたが、どうやら恐竜種はほとんどルタカの最後の足掻きの際転送陣で送られていたらしく、ほとんどやる事がなかった。
おかげさまでサラーマさんと合流すると同時に、近くの村で休むように言われたためつかの間の休息をいただけた。
これもホープさんが大量の恐竜種を掃除してくれたおかげだ。 ありがたい。
そんなわけでこの世界の命運を分ける大勝負は一件落着したわけで、途中まで行動を共にしてたハートちゃんは一度ホープさんの元に戻ると言って別れてしまった。
そのせいでやる事がない。 寝ようかとも考えたがサラーマさんと合流したのは朝方だった。
そもそもここにたどり着くまでにハートちゃんと休息を多めに取りながら移動していたからそこまで疲れは残っていない。 それにプリーストのスキルで疲労感も回復してもらったし。
つまり、絶賛暇人なわけだ。
この世界に来てから暇だなんて感じるのは初めてかもしれない。 しかし、こんな時だからこそ普段できない事をするべきではなかろうか!
例えば、いつも俺を支えてくれている視聴者のために、何か喜んでもらえる企画を考えたりとか。
「とは言ったものの、何をするべきか?」
『字面がおかしいw』
『おまえずっと無言だったろw』
『自分の脳内で勝手に喋るなw』
またしても脳内で色々考えてたせいで視聴者の皆さんからツッコミを入れられてしまった。 悪い癖だ、無言の時間を作るとか本来なら放送事故である。
でもまあ四六時中配信中なんだから少しくらいの無言は許してくれ。
こういったお礼企画は普通サプライズでおこなうべきなのだろうが、常に配信状態のためサプライズは難しい。
そうなると何かして欲しいことはないか直接聞くのが一番手っ取り早いだろう。
「ああ、すみません。 突然暇をいただいたので、今回の戦いを支えてくれた皆さんのために何かお礼企画を考えてまして!」
『なんだよ突然、照れちまうだろぅがぃ』
『そういう事ならまたたび買いに行こう』
『またたびを与えたサナたんは天使だど』
そういえば、結構前に視聴者たちが似たような事を言っていた思い出がある。
割と健全なお願いだと思うし、このくらいならお安い御用だろう。
投げ銭もちまちま貰ったおかげでお金にも困っていない。 こういう大切なお金は視聴者のために使って還元しなければ!
「いいですね! またたび大作戦! 早速またたびを買いに行きましょう! とは言ってもどこに売ってるかは知らんが」
『サナたんのためなら俺が案内しよう!』
『この村だったら割と道具が揃ってるはず!』
『ここがすでに滅びた街とかじゃなくてよかったよw』
コメント欄と睨めっこしながら街に駆り出す。
またたび作戦実行を聞きつけてから、サナさんファンの視聴者たちが歓喜の声を上げていた。
視聴者の皆さんが喜んでくれるなら配信者冥利に尽きる。 セフメト戦の疲れなど吹っ飛ぶ心地よい高揚感に胸を躍らせながら、見慣れない街を散策し始めた。
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「おかえりなさいサラーマさんたち!」
「お、おう。 何だナイル、今日はやけに機嫌が良さそうだな」
返ってくるなり疲れた顔をしていたサラーマさんに、挨拶をしただけだったのだが気持ち悪がられた。 ちょっぴりさみしい。
「あらあらナイルきゅん! モンスター狩りで疲れているママを癒やしてくれるんさ?」
「ママは元気そうだから後でね。 今日はサラーマさんやサナさんに日頃の感謝の気持を用意しておいたんですよ!」
「ふにゃ? ナイル君があたしのために労いをしてくれるのかにゃ?」
「明日は槍でも降るのか?」
「ナイルきゅん! どうしてママにだけなにも用意してくれないんだわさ!」
「自分の胸に聞けこの露出狂」
俺は得意げな顔でバックの中からプレゼントを取り出した。 駄々をこねながらにじり寄ってきたママは力ずくで押し返す。
この世界に来てからはママに対してお世話になった事はない。 むしろお世話してあげたことしか無い。
というわけで、サナさんにだけマタタビを渡したらなんかサラーマさんに言われそうだからという理由でサラーマさんにもお土産を用意した。 日頃からお世話になってるし。
簡単な包装を施した箱を二人に渡し、開けていいかと聞かれたのですかさず了承する。
「すげーなナイル。 何で俺の趣味を知ってんだよ」
「視聴者に……んっんー。 この前サラーマさん言ってたじゃないですか、新しい釣り竿が欲しいって」
「なるほど、信者は何でも知ってるんだな」
無駄に勘がいいサラーマさんは視聴者の入れ知恵だと気がついたらしい。 俺が渡した釣り竿をブンブン振りながら細目を向けてくる。
だがしばらく釣り竿のしなり具合やらなんやらを調べると、ほんのりと表情を崩しながらあからさまに顔をそらした。
「でもま、その。 なんというかあれだな。 いい釣り竿だ。 えーっと、その……ありがとよ」
「ツンデレか! って言うか、そんなお礼言われるほどいい値段の釣り竿買えなかったんですから、そこまで照れられると逆に申し訳ないっすよ!」
サラーマさんの趣味は釣りらしく、暇さえあれば早朝から川に行って釣をして一日過ごしたりするらしい。 そのため水場のことや魚のことにも詳しく、俺があげた釣り竿も対して高価じゃないのは分かっているだろう。
「バカかよナイル。 こういうのはな、値段じゃねえんだよ」
とまあ、予想外な一言で俺困惑。 突然男前なことを言われたら絶句してしまうではないか。
「あらやだ。 ナイルきゅんの顔が赤いんだわさ。 ちょろすぎるナイルきゅんは完璧にヘタレ、総受けだわね」
『ぴぎゃあぁあぁあぁ! 夏コミのネタがぁあぁあぁぁぁっ!』
『静まれ腐死鳥たちよ!』
『腐女子勢の目の色が変わってしまったようだw』
これ以上サラーマさんにかまっていたらとんでもないことになりそうなので、ぎゃあぎゃあうるさいママに任せて一度心を落ち着かせる。
そんなことより本命はこちらだ。 俺はそう思ってウキウキしながらも丁寧に包装をはがしているサナさんにロックオン。
するとサナさん、箱を開けた瞬間なにやらほんわかした表情になり始める。
「ふにゃあぁぁぁ。 幸せになる香りだにゃ♡ ナイル君、ありがとにゃあ」
眠そうな目のまま千鳥足で寄ってくるサナさん。 思ったよりも普通の反応だったため一瞬がっかりしそうになった。 のだが、
「ナイルく〜ん、だぁい好きだにゃ♡」
「ほげっ!」
突然首に両手を回され、俺に全体重を預けるかのように抱きつかれた。 それよりも問題なのは、頬をピッタリとくっつけられた状態でスリスリされている事である。
「わなななな、なにしてるんですかサナさん?」
「あたしのナイル君はだぁれにも渡さないんだにゃー♡」
なんとも幸せそうな顔で密着してきたサナさんが、うっとりした目で頬をスリスリと! このままでは色々とまずい。
「おいナイル、浮気か? メメジェットにチクっといてやるぞ」
「冒険者端末に写真機能があって良かったんだわさ! これは、実に豊作だわね!」
呆れながらも釣り竿を何度もフリフリしているサラーマさんと、カシャカシャとシャッター音を鳴らしまくるママ。
「ちょ! サラーマさん見てないで止めてくださいよ! あとママ、これ以上撮ったら金とるぞ?」
「ナーイールーくーん。 ナデナデして欲しいんだにゃー♡ あごの裏のところをこしょこしょなでてくれるとぉ、さなお姉さんがたくさんいい事してあげるんだにゃー」
「い、いい事? いい事ってなに? ふ、ははは、ダメですよサナさんったら、みんな見てるんだし……ってダメだ! 落ち着け俺、これは健全な配信。 そんないかがわしいことあってはならない!」
『とかいいながら秒で言いなりになるナイルくんでした』
『絶対面白くなるから早くメメジェットに知らせろw』
『修羅場に陥るナイルを鼻で笑うのが最近のマイブームw』
『報告するならラーザ様キボンヌ』
『それにしても撫でてほしがり子ちゃんなサナたんは癒やし』
『甘えん坊なサナたんは天使、いや天猫だ』
「ふっふっふー、ナデナデしてくれたお礼にー、さなお姉さんを膝枕する権利をあげちゃうんだにゃー♡」
舌っ足らずになりかけているサナさんは一方的にそう告げて、勝手に俺の膝にゴロンと寝転がってくる。
いい事の定義とは? 膝枕は萌えるシチュエーションだが、俺がしてもらうんじゃなくてしてるんだよねこれ?
一応弁明しておくが、何だこんなことかよ、期待して損した! なんて事は思っていない。
まあでも、さすがは猫といったところだろうか? サナさんは膝の上で寝るのが好きらしく、俺の膝の上に寝転がった瞬間幸せそうな顔で寝息を立て始めてしまった。
仕方がないので頭を優しくなでてあげたのだが、なんだか嬉しそうに尻尾を振ってくるもんだから可愛らしくてついついめでたくなってしまう。
「ふむ、ナイルきゅんは猫派だったんさ?」
「どちらかと言うと、って言うか断然猫派だね」
「あらあらまあまあ」
「何だよそのムカつく反応」
「いーやー、なんでもないんだわさー」
下卑た笑み浮かべているママを睨みながらも、可愛らしい寝息を立てているサナさんを撫でくりまわして遊んでいると、
「もしもしラーザか? 面白い話あるんだが聞きたいか?」
「ちょっと待てサラーマさん! おい、面倒なことになるからマジでやめろよ? これフリじゃねえからな! こら、なにニヤケてんだこのクソワニ! ちょっと、ママまで変なこと考えるなよ? おい待てこらあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その後、幸せそうに寝ているサナさんを撫でているせいで動けない俺を、ここぞとばかりにからかう二人へ必死に罵詈雑言を浴びせまくることになったのだった。
数時間後、目を覚ましたサナさんはマタタビで酔っていた時の記憶を覚えていたらしく、暫くの間口を聞いてくれなくなってしまったのだった。
ママいわく、口を聞いてくれなくなった理由は「サナたんはああ見えて恥ずかしがり屋さんなんさ?」らしい。




