『かっこいい二つ名でよかったじゃないかこわっぱめ』
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激闘から三週間が経過した。
野蛮な害悪プレイヤー、ルタカは捕縛され。 元々レベリングツアーの途中だった俺達は再度レベリングに明け暮れる日々を耐え抜き、無事に全職業レベルMAXという境地へと至った。
というより、シリス様暗殺計画を阻止する道すがら、第一目標だったシリスの体十四個獲得という目標が達成されたということもあり、この三週間で俺達攻略班は全員もれなく全職業レベルマックスという境地を目指すしかなかったのだ。
全員とは、新たに仲間に加わった変態ソルジャーも含まれている。
「全能の神よ! あたくしの業を見よ! そして平伏せよ!」
「ママ、静かにしてね。 悪目立ちすると後々面倒だから」
「相変わらずナイル君のママはうるさいにゃ」
「そういうお年頃なんだろ? ほっといてやれや」
『久々に配信見に来たけど、面白いメンバーになってるね』
『これから向かうダンジョンがあそこだからなw』
『ファラオの真意を見せてくれよw』
『しかしあつそうな格好だなw』
『いったいなに機関を名乗ってるんだ?』
『俺に心があれば、大笑いしてる格好だw』
俺達は今、全身真っ黒なコートに身を包んでとある街に訪れている。 この町の名前はヌブという。
ヌブの街に訪れた理由はとあるクエストを達成するためなのだが……
「さすがは太陽神を祀る神殿が近くにある村だ。 直射日光がすごい」
「ぬふふ、太陽はここに君臨する」
「ナイル君のママ、普通に喋って欲しいにゃ」
サナさんが呆れるのも当然、ママはさっきから年号が変わってしまいそうな口調で喋っているのだから。 喋り方が暑苦しい。
それでなくとも燦々と照りつける太陽光に背中を焼かれる思いをしながらも、俺達四人は全身真っ黒なコートに身を包んでフードを目深に被らなくてはならないのだから困ったものだ。
こんな格好をしなければならない理由は単純明快。 たまたま通りすがった壁に貼られていたチラシが原因。
忌々しいチラシを横目で伺い、盛大な溜息を零してしまう。
「また懸賞金が上がっておる」
『とうとう二十億の壁を突破したのか、わっぱよw』
『かっこいい二つ名でよかったじゃないかこわっぱめ』
『破神の暴童・黒湖ナイル(笑) 座右の銘、暴力こそ正義w』
「……(笑)はつけないでいただきたい」
「大怪盗破神の暴童か……確か、暴力こそ正義! とか言ってるところをまな板娘に聞かれたのが原因だったか?」
「やかましいワニですね」
世間体ではシリスの体が無くなったのはすべて俺のせいになっているらしく、サラーマさんたちは特殊捜索部隊という名目で自由行動を許されているらしい。
呆れたように肩をすぼめているサラーマさんの言う通り、俺のこの謎ネーミングセンスな二つ名はハートちゃんが吹聴したもので間違いない。 メメジェットさんに聞いた話によると、口を開けば俺のことをこの恥ずかしい二つ名で言いふらして回っているらしい。
本人的にネーミングセンスが気に入っているようで、随分とドヤ顔で言いふらしているとか? スーパーエクストリーム迷惑な話しだ。
ちなみに、この事実はメメジェットさんから電話で聞いた。 毎晩きっちり同じ時間に電話が来るもんだからもはや日課になりつつある、例の暇電である。
「そんなことよりナイル君、依頼主は確か武器屋の斜め向かいにある食堂の店主だったにゃ? 多分あそこで間違いないにゃ」
「地図によるとこっちの建物じゃないですか?」
『まずは地図を正しい方向で見なさい』
『知ったかぶる前に地図を真っ直ぐ持ちなさい』
『進行方向に合わせようとして変に傾けたりするからそんな頓珍漢な回答をするんだぞ』
「おいナイル、地図ってのはこの方向に向けて見るんだぞ」
「なんで自信満々に意味わからない建物指さしたんだわさ?」
「ナイル君に聞いたあたしがバカだったにゃ。 もはやナイル君は、今後一切地図を見ないほうが自分のためになるにゃ」
同じようなことを耳と目が痛くなるほど浴びせられた俺は、悔しさのあまりふぐのように頬を丸めながら俯いてしまう今日この頃でした。
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ヌブの街にいる古い食堂の店主は太陽神レアー様を信仰する数少ない信者らしく、ここから近くにあるアブシンベル岩窟殿に出没する盗賊を退治してほしいという依頼を出しているらしい。
これはストーリーとは全く関係ないサブクエストな上に報酬も美味しくないいわばハズレに分類されるクエストで、このゲームをやり込んでる猛者ですら面倒だからという理由でパスするレベルだそうだ。
盗賊は大して強くないから経験値の足しにもならないし、言うまでもないが相手は人間なのでドロップアイテムもゴミ。
さらに用心深いため根気強く待ち伏せしないと出てこない。 極めつけは報酬の貧弱さで、回復アイテムである鮭おにぎり二十個と金銭が少々。
ぶっちゃけ言ってハートちゃんから指示がなければこんなクエスト受けたくもない。 というかあの子、面倒だからという理由で俺達に押し付けた気がしてしょうがない。
現地であるアブシンベル岩窟殿から少し離れた岩場にキャンプを構え、根気強く張り込み調査を続けていたら無性に腹が立ってきた。
貧乏ゆすりでヘビーメタルなビートを奏でている俺を横目に見たサナさんは、退屈そうにあくびしながら世間話を振るという気遣いをしてくれた。
「それにしてもヌブの街は被害が少なくてよかったにゃ」
「そういえば他の街はほとんど壊滅状態だったんですよね」
三週間前にルタカというクソッタレな害悪プレーヤーが好き勝手暴れたおかげで、この世界の街は大量に壊滅した上に死傷者も山のように出てしまった。 そのせいでレアー様を信仰する現地人も激減するという二次被害にも襲われている。
対応が遅れたのは、俺達が完全に後手に回っていたのもそうだし、ファイヤーム傭兵団と情報共有を密にしていなかったからという不手際など複数考えられる。
最も、失敗したことを今頃になってあーだこーだ言ったところで犠牲者は帰ってこないし、同じ失態を二度と犯さないよう自分たちを律しなければならない。
「ま、今後はあんな失態を犯さないよう最新の注意を払わないと、犠牲になった人たちに合わせる顔がないですよ」
「そうだにゃ。 後ろを向いてる暇があったら前を向いて進まないといけないからにゃ」
サナさんはいつもおちゃらけている印象があったが、ここ最近はずっと浮かない顔をしている。 今は休憩中のためテントで休憩しているサラーマさんも同じように、前ほどふざけたような発言がないし、ママに関しても無理やり場を賑わせようと変にネタを絞り出している印象がある。
この前のような失態は金輪際起こしてはいけないと、全員緊張感を持って自分がすべきことをこなしているのだ。
そのため今の俺達は三手に分かれている。
本物のセフメト対策の為、レアー様を信仰する現地人を助けて回る俺達実行班。 以前も説明した通りレアー様が怒らなければセフメトは復活しないかもしれないため、この活動は地味に見えてかなり重要。
転移者達の情報を片っ端から収集するために、自由行動をするトト兄妹たち情報班。 ルタカのような害悪プレーヤーがまたでてこないとも限らない。
不穏な動きをしている転移者は即刻捕まえるために、少数精鋭で顔が知れているプレーヤーがこの立ち回りにふさわしい。
ファイヤーム傭兵団の仕事を請け負いつつ、情報収集とレアー様の信仰心を広めて回るラーザさんとメメジェットさんの潜伏班。 潜伏班というかなり難しい立ち位置の所に、ラーザさんというポンコツが服を着ているような人材が割り当てられているのが不安でしょうがないが。
メメジェットさんから毎日かかってくる暇電で、そこら辺は上手く立ち回っていることが分かっている。
よってこの三週間、面倒事もなくスムーズに作戦は進んでいる。
とはいったものの、一番面倒な下働きのようなことをしているのは俺達だと思うと、やはり腹立たしくもある。 たまには骨のあるクエストをして視聴者的にも俺的にも楽しい絵面を満喫したいところなのだが。
「にしても、張り込み始めてから半日経ちましたが、盗賊なんて来ませんけど?」
「そうだにゃあ、このままじゃ勘が鈍っちゃうから、適当なモンスターでも出てくれるといいんだけどにゃあ」
サラーマさんが例の現地人から依頼を聞いてから半日、待てど暮らせど盗賊など現れず。
ぼーっと日陰に潜伏し続けていただけで日が沈んでしまった。
「ま、盗賊の活動時間は夜だからにゃ。 気長に待つとするにゃ」
そうは言っても待っているだけというのは視聴者にとっても俺にとってもかなり辛いものがある。
おかげさまで視聴者は五万人まで減ってしまっている始末。
「ちなみに、このクエストをクリアしたことある猛者の方に質問です。 盗賊が出てくるのって最短でどのくらいですか?」
『これがゲームだった時は、ゲーム内時間いじれたからね』
『いじったうえで二日かな?』
『お前運が良いな、俺は五日だ』
『五日も運がいい方だと思うけどね』
『掲示板で見た最長記録は十二日だぞ?』
『確かこのイベントの発生条件満たした後でも、出現率20%じゃなかったっけ?』
「Oh……サナさん、悪い情報が——」
「聞きたくないにゃ」
「——ですよね」
空気の重さはゾウの足取りよりも重くなった。




