『録画してる人へ、ちゃんと4Kで頼むぞw』
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セフメトとの戦いの中で、同接数は五十万人以上を記録していた。 もちろん戦いが終わったあとも視聴者数は増え続けていた。
つまり【信者の声援】の効果により、ステータスは五千以上の値になるのが確定している。
このゲームのシステム上、ステータス差が二百以上あれば負けはほぼ確定と言われている。 にも関わらず、ステータスに千以上の差があったら話にならないのは明白だ。
「クハハハハハハハハ! 残念でしたねナイルボーイ! セフメトが倒された時はもうダメかと思いましたが、セフメトを倒した君のスキルを簒奪してしまえば、一気に形勢逆転できる! 勝利の女神は僕に味方したんですよ!」
両手を高々と上げながら、さぞ嬉しそうに高笑いを上げるルタカ。 そんなルタカを注視しながら渋い表情で武器を構えたハートちゃんとラーザさん。
だが俺は、スッと手を上げて二人を制する。
「馬鹿だなお前。 お前にゃあそのスキルは使いこなせねぇぞ?」
「負け惜しみですかナイルボーイ! 虚勢を張ったところで結果は何も変わらな……」
『きめーんだよ口開くな』
『お前と視界共有するとか吐き気がする』
『生理的に無理、とっととくたばっちまえよ』
「……なん、だ?」
突然顔を青ざめさせながら、頭をかきむしるように押さえだすルタカ。
『何だじゃねえよクソ』
『いいから早くナイルくんにスキル返せよ』
『誰か画面録画できる人いる?』
『俺しとこうか?』
『任せた』
『じゃあほかはみんなブラウザバックだね』
五十万近くいたはずの視聴者達が、ものすごい勢いで減っているのだろう。 今の俺にコメント欄は見えないが、このバカの顔を見れば猿でも分かる
「な、何だお前ら……今からこの僕が、ナイルボーイをボコボコにするんだぞ? 見たくないのか?」
「やってみろよ」
上段からの回し蹴り、反応もできずに顔面に受けたルタカは地面に叩きつけられた。
だが、ルタカは蹴られたことにも気がつかず、頭をガシガシとかきむしりながら虚ろな目で虚空を見上げている。
『ボリボリうるせー、耳が腐る』
『マジキモい早くこの世から消え失せろ』
『追跡班がルタカの顔写真発見したらしいよ』
『予想通りキモいなw』
『晒し上げろ!』
『空気が穢れるから呼吸するのやめてもらっていいですか?』
「うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさい! 僕が、僕がお前たちに何をしたっていうんだ!」
すでにルタカの眼は戦いどころではなく、完全に錯乱していた。 視聴者たちから送られるコメントが、呪いのように思考を鈍らせているのだろう。
突然狂い出したルタカを目にし、驚愕するメメジェットさん達。
うずくまっていたルタカの顎を蹴り上げる。 サンドバック状態になっているルタカは抵抗する様子もなく、だらんと上体をのけ反らせた。
「視聴者への配慮がなってねえ、そんな頭ブンブン振り回してたら視聴者が酔っちまうだろ」
続いてルタカの髪を掴み、顔面を殴り飛ばす。
するとようやくルタカは俺に攻撃されていることに気がついたようで、グッと歯を食いしばりながら俺を睨んでくる。
「ぅおのれ! 僕の防御力なら、お前の通常攻撃程度ではダメージなど……」
『まだ視聴してるやついたら早くブラウザバックしてくれませんか?』
『ナイルくんにボコされてるのをリアルタイムで見れるのはそそるけどね』
『ちゃんと録画して切り抜き動画上げるから我慢しろ』
『ナイルくんのために皆さんブラウザバックお願いします』
『こんなクソのステータスの一部になるのは嫌でしょ?』
『録画してる人へ、ちゃんと4Kで頼むぞw』
「何なんだお前ら! 勝手に視聴を辞めるんじゃない! 僕のステータスが……」
『喋んなよ気持ちわりー』
『ナイルくんに唾かかったらどうすんだよ』
『切実なお願い、とっととくたばれ』
またしても、ルタカの瞳がどんよりと濁り始めた。
まるで絶望の底にいるような。
自らの生を否定されているような。
不特定多数から向けられる容赦ない悪意に飲まれたような、そんな瞳。
予想していたことだが、いざその姿を見てしまうと、同情する。
おそらく今、ルタカにはこの配信に関わった数十万人の視聴者たちからの悪意を向けられている。
いわゆる、大炎上状態。
「視聴者への配慮がなってねえんだよ」
涙やよだれを垂れ流しながら、虚空をぼーっと見上げていたルタカを蹴り飛ばす。
「視聴者への感謝ができてねぇんだよ」
脱力してぶっ倒れたルタカの胸ぐらをつかみ上げ、
「勘違いしてるみてぇだなルタカ。 俺が強いのは、スキルのおかげじゃねえんだぞ」
全力の右ストレートをお見舞いする。
「視聴者の皆さんがいるから、俺は無敵なんだよ」
綿の抜かれたぬいぐるみのように、脱力したルタカが床をコロコロ転がっていく。 不特定多数の人物から存在そのものを否定され、精神が完全に崩壊しているのだろう。
「視聴者の皆さんがステータスアップのためのツールだとでも思ってんのか? 勘違いすんな、視聴者の皆さんがいるから俺はどんな理不尽にもくじけなかった。 視聴者の皆さんが俺を支えてくれてたからセフメトに勝てたんだ。 お前が相手にしていたのは、俺一人じゃなかったんだよ。 視聴者のありがたみがわからないお前ごときには、このスキルは扱えねぇ」
ボロ雑巾のように地面に転がっているルタカを見下しながら叱咤する。
「く、くはは。 くはははは。 そうか、お前はクソホープと違い、一人では何もできない雑魚だったということか」
のっそりと起き上がりながら、トチ狂ったような笑みを浮かべるルタカ。
「でも残念だったな、僕のステータスはまだ、千は残ってるんだよ」
あの一瞬で視聴者は十万人程度になったらしい。 俺は改めて、セフメト戦を支えてくれた視聴者たちに心の底から敬服する。
「お前の言う通り、俺はこのゲームのことをまだなんにも分かってない雑魚だ。 俺一人では何もできないに決まってる。 結局人間一人の力なんてたかが知れてるからな」
「だったら今ここで、僕が分からせてあげますよ! 僕が本物の最強である証を! たった一人でも最強を証明できるという事を!」
腰にさしていたククリ刀を抜き、目にも止まらぬ速さで突貫してくるルタカ。 俺はすぐさま身を翻して突き攻撃をかわし、ルタカの腕を蹴り上げククリ刀を吹き飛ばす。
まだ残っている視聴者のお陰で敏捷のステータスはそれなりに高いのだろうが、セフメトと比べれば月とスッポンだ。
「そもそも俺は、みんなでワイワイバカ騒ぎしながらゲームをするのが好きだ。 お前はバグ使ったり人のアイテムを盗んで、自分が楽しむことしか考えてなかっただろ?」
「だったら何だって言うんだ! 武装解除した程度で、勝った気になるな!」
「別にバグを発見することも、バグを作り出す行為自体を否定するわけじゃねえ。 プログラミングの技術に秀でてることも否定はしねえ。 むしろすげえとは思ってる。 けどな、お前のそのゲームの楽しみ方は、真っ向から否定する」
ヤケクソとばかりに腰に掴みかかって来たルタカの顔面に膝蹴りを食らわせ、空を仰がせる。
「お前のそのプレイングじゃあ、誰も見たがらねえんだよ」
ドサリと重々しい音を立てながら地面に大の字になるルタカ。 鼻血で顔面が真っ赤に染まり、うめきながら呆然としている。
俺は疲労が溜まった体躯にムチを打ち、ゆっくりとルタカの元へ歩み寄って、
「そんなバカに、俺もホープさんも負けるわけねえだろ? 分かったら諦めて、俺達のスキルを返しやがれ」
胸ぐらをつかんで叱りつけてやった。
そして視界の端に、見慣れているが安心する、温かな声援が戻ってくる。
『お? 視界が戻った!』
『ナイルちゃま……突然で悪いが、あたしと結婚して下さい』
『お前ふざけんなよ、ナイルは俺のものだ!』
『ナイル様にボコボコにされる画面を見ていたせいで、色々とびしょ濡れです』
『新手の変態か? だが許す』
『あの状況でブラウザバックしなかったお前らにナイル神と結婚する権利はないんご』
久しぶりにコメント欄が視界の端に戻ってきたおかげで、ほっこりしながらも視聴者達のありがたみを改めて再認識する。
「皆さん今回の戦いも協力していただきありがとうございました! これからもヘリポリ攻略に全力を尽くしていきますので、どうぞご自愛下さい!」
そんな視聴者へ向けて膝を折って正座をし、額を地面に叩きつけて全力の感謝を伝えたのだった。




