『じゃあおっぱいマントでいいじゃん』
◁
かろうじでセフメトを倒すことができた。 【生命の産出者】によって召喚された魔物は討伐すると真っ黒な塵になる。 セフメトがその真っ黒な塵になって霧散したのをこの眼で確認したのだ、間違いない。
このダンジョンが地下に伸びているタイプじゃ無くて良かったとつくづく思う。
幸いにも王家の墓は一階層しか無かった上に、その一回層がかなり広大なマップだったのだ。 天井がなくなったとしても崩落の心配はしなくていいだろう。 ……たぶん。
部屋の天井は消し飛び日光が差し込んでいて、わずかに残ってる壁面は大量の亀裂が入っている……というよりもはや崩壊していると表現したほうが早い。
ツッコまれる前に言っておくが、俺が【阿修羅滅砕】を打つ頃にはすでに周りは明るかったから、俺が天井をふっとばしたわけではないと断言できる。
『なぜこうなった』
『芸術的な爆発が起きたんだろうな』
『正と負の熱エネルギーを操作して、とんでも火力を出したんだろうさ』
この部屋のありさまを見て戦慄していると、視界の端にボロボロの状態で倒れている人影を発見した。
俺は慌ててその人影に駆け寄ると、倒れていたのはホープさんであることが判明。
『ちょ! ホープさん倒れてるけど?』
『生きてるよね?』
『ホープさんもそうだけど他のみんなの生存も早く確認してくれ』
『ハートちゃんとかは最後の砦あったけど、団長は危ないかも』
『身代わりマント壊されたあとも攻撃喰らったっぽいしな』
『でもモンクならど根性があるじゃん!』
慌てて息をしているかを確認し、続いて冒険者端末でステータスを確認。
ステータスを確認したところでほっと息をつく。 どうやらHPは一残ってる瀕死状態だったようだ。
「ホープさん! 無事ですか!」
急いで治癒しないといけないと思い、声を張る。 ほぼ同時に物音が聞こえてきたのでそちらに視線を送ると、一部だけ破壊から免れていた区画を発見し、そこに固まっていたメメジェットさんたちを確認。
すでに目を覚ましたラーザさんやハートちゃんも目についた、団長はまだ気を失っているようだが、胸はわずかに上下している。 全員生きていることを確認し、ドッと疲れが襲ってくる。
磁石で轢かれるように地面に突っ伏しそうになったのだが必死に堪え、シーツから覗いている両目をパチクリさせていたメメジェットさんへ向けて手を挙げる。
「メメジェットさん! 今すぐ治癒をお願いできますか!」
「あ、えーっと、はい! お任せ下さい!」
メメジェットさんはあたふたしながらもその場で杖を構え、寝ているホープさんに向ける。 治癒魔法は遠距離からでもかけられるためわざわざ駆け寄るという手間を取らなくてもいい。
「まさか少年、セフメトを本当に倒しちゃうなんて」
「さすが黒湖ナイルだ。 お前はやるやつだと思っていたぞ!」
『セフメトとエンカした時はマジで心臓止まるかと思ったけどw』
『画面越しでも迫力と恐怖がやばかった』
『いきなり画面が暗転したときとか、絶望しか無かったぞw』
『ラーザ様に怪我を負わせた罪は重いぞ』
『メメジェット氏も泣かせてたな、許さん』
『ゆしさいていカーディナルが判決を下した。 被告人黒湖ナイル、有罪』
全員無事だと知った途端、安心したようにコメント欄も流れ始める。 セフメトを倒したことへの称賛や、途中まで何もしなかった俺への叱咤。 他にもいつもどおりチャチャを入れてくるコメントや、セフメトとの戦いで感じた思いなどをみんながコメントしてくれる。
コメントが多すぎてすべて目で追うことはできなかったが、それでもようやく戦いが終わったことを改めて感じ、地面に根を張るような勢いで思い切り尻餅をついた。
「あぁーつかれたー。 にしても、何がどうなったんすか?」
治癒魔法がホープさんにかかっていることを確認してホッと息をつくと共に、改めて部屋の様子を確認し直す。
セフメトと殴り合っている中、恐竜種がうじゃうじゃ湧いていたはずだったのだが、その恐竜種は一体もいない。 戦闘中鼓膜を破りそうな破壊音がしたが、あれが恐竜種を一掃したのだろうか?
あの破裂音からして高エネルギーの爆発でも発生したのだろう。 おそらく俺たちを守っていた魔力の障壁はその爆発で破壊されたと推測できる。
「あれは上級魔法を使用した科学反応による、高エネルギー爆発だよ」
「はい? ハートちゃん日本語でオーケー?」
『魔法で元素反応起こしたってこと?』
『過負荷か?』
『どちらかといえば蒸発じゃね?』
視聴者達が好き勝手考察を並べる中、ハートちゃんは壁に背中を預けながらペラペラとさっき起きたことを説明してくれた。
どうやらホープさん……新たな境地へと至ったらしく、固有スキルのチート性能を使用するまでもなく恐竜種を大掃除してしまったようだ。
一般的なステータスでそんな化け物じみた快挙を起こしてしまうとは、まさに歩く核兵器と称したくなる。
「ホープさんのヒーロー名はアトミックウィザードで決定だ」
『なぜ突然S級ヒーローに似た名前が出た?』
『確かにワンパンで終わらせちまったもんなw』
『じゃあおっぱいマントでいいじゃん』
確かにホープさんは魔女っぽいローブの上にマントを付けているが、不埒な名前は却下だし、こいつの魂は男だ。 異論は認めん。
そんな事を思いながらも、ゆっくりと上下するホープさんの双丘に目を奪われているのは誰でしょう。 そう、俺です。
とまあそんなことはさておき、メメジェットさんの治癒魔法も無事にかけ終わり、戦いが終わった俺はゴロンと寝転んで四肢を投げ、真っ青な空をぼんやりと見上げる。
生命の産出者で召喚された偽物とはいえ、セフメトを倒したという事実はこれからの戦いにおいて非常に貴重な経験になるだろう。
これから改めてレベリングし、万全な体制を整えて挑めばもしかしたら死にイベも割とすんなり攻略できるのかもしれない。
そんな事を思って一人ほくそ笑む。 だが、すっかり勝った気でいた俺達は、肝心なことを確認し忘れていた。
「油断したねぇ、ナイルボーイ」
肩に触れられたことに気づき、反射的に状態を起こして慌てて後方に飛んだが……
「僕の【希望の簒奪者】を発動させる条件は、相手に触れることなんですよ」
いびつに口角を吊り上げながら、勝ち誇った笑みを浮かべるルタカ。
どうやら攻撃ではなかったため【戦術眼】にすら引っかからなかったようだ。 それでなくてもこんな至近距離に近づかれたのに気がつかなかったとは。
勝ったと思って完全に油断していたとはいえ、納得しがたい失態を犯してしまった。
全身ズタボロの状態で突然現れたルタカを眼にして、ぎょっと目を開くハートちゃんが横目に映る。
「シーフの職業スキル【完全擬態】を使われたんだ! でも、いったいどうやってあの大爆発から逃れたっていうんだ!」
聞いた話によると、こいつは【クインタシルド】の障壁外にいたらしく、例の爆発をもろに喰らったはずなのだ。 現に、クインタシルドで守られていなかったホープさんも瀕死の状態になってしまっている。
こいつの職業はシーフだ。 防御系のスキルは一切覚えないはず。
「クソホープが詠唱してる最中に、ミスリルドラゴンを召喚して壁になってもらったんですよ!」
誇らしげに両手を開きながら、自慢げにからくりを説明するルタカ。
「そんな、黒湖さんのスキルまで盗まれてしまったんですか? せっかく、せっかくセフメトを倒したというのに!」
「ごめんみんな、僕が油断して警戒を怠ってなければ、こんな事にはならなかったのに!」
下唇を噛みながらキュッと拳を握るハートちゃん。
「いいやハート殿。 貴方だけでの責任ではない。 完全にセフメト様にばかり意識を持っていかれていたせいで、あの外道の存在をすっかり忘れてしまっていた」
サラッと辛辣なことをいいながらのっそりと起き上がるラーザさん。 セフメトから受けたダメージはすでに回復したかもしれない。 けれどHPという表面上の値は回復しても、受けたダメージによる疲労は確実に体を重くしている。
団長なんかは二発もセフメトの攻撃を喰らっていたらしい、おそらく数日は目を覚まさないだろう。 セフメトの攻撃はそれほどまでに重かったのだ。
すぐに目を覚ましたラーザさんやハートちゃんはあきらかにおかしい。
現に俺も、ステータスがいくら高いとは言ってもこの疲労感には抗えそうにない。 全身が地面に吸い込まれるような疲労感に襲われながらも、俺はルタカを警戒しながら構えを取る。
見ただけで疲労困憊だということがバレているのだろう、ルタカはクツクツと肩を激しく揺らしながら俺をあざ笑うように睨んできた。
「くはは、セフメトすら倒してしまうナイルボーイの固有スキル。 これさえあれば、僕は本物の最強になれる!」
希望の簒奪者。 ホープさんの【自己複製顕現】やママの【生命の産出者】といった強力な固有スキルを強奪するその固有スキルで……
俺の固有スキル【信者の声援】と【信者のお告げ】は一瞬にして盗まれた。




