『今真面目な話ししてるからねナイルくん』
◁
(もしもーし、こちら殲滅班代表のサラーマだ。 聞いてると思うが召喚されたモンスターは未だに暴れてやがる。 デュラハンとかキメラあたりのモンスターは下っ端でもなんとか対応できるが、恐竜種が厄介だ。 俺とサナが直々に出てかねーと仕留められねー。 つー理由で応援を頼みてえんだが、今どこにいんだ?)
サラーマさんから応援要請が届く。 俺達はルタカを拘束して隠し通路から脱出し、王家の墓を俯瞰しながら殲滅班リーダーのサラーマさんと連絡を取っていたのだが……
「いくら精鋭選抜で無差別にモンスターを討伐していたとは言え」
「この配置はなんだかきな臭いんだよね」
冒険者端末の画面に開かれた地図を見ながら渋い顔をするトト兄妹。
「きな臭いってなんだ? なんか気がついたのかよ?」
「団長、地図をよく見て下さい。 サラーマさんの作戦資料と連携してすでに救出した村や、モンスターが出現した地点に印がついているんです」
「そりゃー分かっけどよ。 シーツ女、お前もなんか気がついたのか?」
メメジェットさんが団長に見せた冒険者端末の画面には、この国の地図が記されており、赤いばってんがちらほらと描かれている。
これはホープさんが作成したアプリらしく、この作戦中に戦闘があった場所を示しているようだ。
俺も地図をよく見ながら思考を回すが、
「俺達がいるのはここですよね、王家の墓」
「そこはギーザ砂漠のケオプス王墓だばぁろう」
『ばぁろう』
『このまちーでいきーぬいーて』
『えゔぃでぃどでかいしのぎをあっげっるっ!』
『君たちうるさいよ?』
『ハマにハマってんのか?』
『そんなことよりナイル氏、いい加減地図の見方覚えようか?』
団長にバカかこいつ? みたいな視線を向けられて思わず赤面。
しかしメメジェット氏はそんな俺のことなどシカトして、モンスターと戦闘があった印を指でなぞりながら、
「距離が離れすぎています。 明らかに時間稼ぎを狙った配置なんですよ」
「そう言われてみりゃあそうかも知れねぇな」
「なるほど、一理ありますね」
「黒湖ナイル、貴様分かったふりをしているだけで分かっていないだろう?」
顎を撫でながらふむふむ頷いていた俺に喧嘩を売ってくるラーザさん。
「そういうラーザさんもすっとぼけた顔してるじゃないですか、意味分かってないでしょ?」
「誰がすっとぼけた顔だと! 貴様、私は一応女性なのだからな! もっと姫のように扱わんか!」
『ニキ、通訳プリーズ』
『私もお姫様抱っこされたかったのよ! メメジェットだけずるいんだから!』
『なにそれ超かわええ、昇天してしまうw』
「ハイハイ二人共静かにして、メメジェットさんがまた鼻血出してるから」
ハートちゃんに間に入られ、にらみ合いながら火花を散らす俺達は邪魔者のように遠くに押しやられてしまった。
◁
それにしても妙だ。 【自己複製顕現】で作った分身体は喋れないという前提があるから、俺達が捕まえたルタカは本人だという証拠がある。
アサシンの職業スキルには【完全変装】という他のプレーヤーの外見を真似るというものもあったため、団長の墓守の加護を駆使して一度触れ、ルタカにかかっているバフやらなんやらは解除したから間違いないのだ。
けれどルタカが召喚したモンスターはいまだ健在。 この事から推測できるのは以下の通り。
「墓守の加護は、固有スキルを解除できないんだろうね」
「実験のために黒湖ナイルに触れても、信者たちの声は聞こえたと言っていたから間違いないだろう」
ラーザさんの言う通り、先程団長に触れられた状態でコメント欄を確認してみたが、問題なく確認できた。
「それと固有スキルは意識がない状態でも発動が可能」
「黒湖さんこの前電話で言ってましたよね? 寝てる間に視聴者たちがコメント欄を掲示板がわりにしてると」
ちなみにレインボースコーピオン戦でぶっ倒れた時も信者たちは俺の無事を確認するようなコメントを複数くれていた。 起きた時ほんの少しだけそのコメントが見えたから間違いない。
「だったらさっき坊やが言っていた、ルタカが最後に放った負け惜しみのようなセリフ。 (あと少し時間を稼げれば) あれは今現在も固有スキルを使ってなにか企んでいるということなんだろうね」
ホープさんが険しい表情でそう結論づける。
もしルタカが最後の最後に放った言葉が去勢じゃないというのなら、その可能性は否定できない。
むしろ、負けたフリをして騙し討ちを狙うような男なら、警戒は絶対に怠るわけにはいかないだろう。
「どうしようか、このまま私達六人で根城にしていた王家の墓を捜索するかい?」
「サラーマさんの方は大丈夫なんすかね、恐竜種に苦戦してるようですが」
殲滅班の指揮はサラーマさんに一任されていたようで、意外にも効率よく順調に殲滅を続けていたらしいのだが、どうしても恐竜種が出た際はそんじょそこらの傭兵では歯が立たないらしい。
そのせいでサラーマさんとサナさん、おまけとばかりにママまでもが常に恐竜種を倒すために各地を転々とする羽目になっているらしく、非常に効率が悪いそうだ。
「とは言っても少数で王家の墓に入って、万が一のことがあったら取り返しがつかないことになるよ?」
「ルタカを拘束したとはいえ、目を離すのも危険ですし」
「ではこうしよう、ホープ殿達は王家の墓の入口でルタカの見張り兼シリス様の体の護衛。 我々ゴットオブラーザの三人は、シリス様の体捜索とともにルタカの思惑の捜査。 なにか問題が発生したら冒険者端末で連絡するというのはどうだ?」
「ぷふっ、ラーザさん……自分でゴットオブラーザとか言ってて恥ずかしくないんですか?」
『今真面目な話ししてるからねナイルくん』
『茶化すな茶化すな』
『でもラーザさんが恥ずかしそうに真っ赤になってるよ?』
『でかしたナイル氏』
『さすがのラーザ様も恥ずかしくて目が渦巻いてるw』
『尊い成分補充してくれてありがとう』
今にも火を吹きそうな顔で俺の肩をポコポコ叩いてくるラーザさんにほっこりしながらも、一転して真剣な顔つきで俺達へ順繰りに視線を送るホープさん。
「メンバーを入れ替えよう。 私達と坊やで捜索、メメジェットさんとラーザちゃんは団長とともに入口で見張りだ!」
「嫌です」←即答w
「メメジェットさん、今は君のわがままを聞いている暇はない。 生意気な褐色ショタと青春したいなら戦いが終わってから存分にやっていてくれ」
またしてもホープさんの決定に異を唱えるメメジェットさんだったが、
「もう、見張りながら突入すりゃーいいだろ? この凡くらを適当に荷車にでもつっこんどきゃー思わぬ事態にも対応できるしな。 やべーと思ったらサクッと殺っちまえばいい」
面倒くさそうな顔をしながら、ぐるぐるまきに拘束されているルタカを親指で示す団長。 後半の一言はかなり物騒だったが理にかなっている。
およそ頭が悪そうだが非常に効率が良さそうな提案を聞き、今にも喧嘩が始まりそうだったホープさん達が押し黙る。
団長が呆れながら全員の表情を確認したが、反対意見は出なかったようで、
「決まりだな、適当に荷車持ってきて中に突入すっぞ? なにがあるか分かんねえから油断は禁物だ」
団長の指示を聞き、ホープさんは冒険者端末を取り出して耳に押し当てる。
「仕方がない、サラーマくんにはもう少しの間踏ん張ってもらおう」
「転移者達はなにをしているのです? まったく、固有スキルという強力な力を持っておきながら恐竜種とも戦えないとは、情けないですね」
メメジェットさんの小言に苦笑いを浮かべながらも、ホープさんはサラーマさんに改めて謝罪するとともに、もう少しだけ踏ん張ってもらえるようお願いする連絡を入れたのだった。




