『ドヤ顔やめろ』
◁
ミケリノス王墓のモンスターハウスには鉱物系モンスターが固定で出現する。 モンクの俺は相性が悪いこのモンスターハウスだったのだが、そんな劣勢すらもものともしないのがハートちゃんのスキル、【無窮の探求者】だ。
「すべての攻撃に破壊属性を付与できる【破壊の化身】、これは自己強化スキルに分類される。 更にこのスキルに【剛腕】【間合い延長】などの強力な自己強化スキルを添えて、ソルジャーの残念スキルと言われていた【技能共有】を発動させると、どうなると思う?」
「ばかなのですかトト・ハート? そもそも自己強化スキルは全職業で共有できる補助スキルではない。 つまりその組み合わせは不可能なんですよ!」
「そうだね、覚えたスキルを職業に関係なく共有できる。 そんな夢のような固有スキルがないと不可能だ」
ハートちゃんがおかしそうに鼻を鳴らしながらルタカを睨むと、ルタカは瞳孔を開きながら口をあわあわさせ始める。
「まさか、貴様の固有スキルは……」
「無窮の探求者、ボクみたいな知識の宝庫がこのスキルを使えば、もはや無敵に近いんだよ」
「ハートちゃんって、意外とナルシストだったんだね」
『いらん一言w』
『ほら見てみろナイル氏、せっかくハートちゃんがカッコつけてたのに』
『口の端がヒクヒクしてやがる』
どうやら涙目にならないように我慢しているらしい、ちょっといじめたくなる表情になっていた。
「そ、そういうわけだからルタカ! 今から君の自慢のモンスターたちを、片っ端から無力化してあげるんだからね!」
半ばヤケクソ気味に言い放つハートちゃん、なんか可愛い。
ハートちゃんはミケリノス王墓のモンスターハウスで使用していた自己強化スキルとともに、ソルジャーの技能共有を発動させる。
本来なら技能共有はゴミスキルとしてプレーヤーたちにバカにされていた。
技能共有の効果は自己強化スキルをパーティー全体で共有するという破格のものだったのだが、それを覚えるのがソルジャーだったことがゴミスキルと言われていた原因。
なんせソルジャーは自己強化スキルを四つしか覚えない上に、モンクやウォーリアーと比べるとその性能も中途半端だったからだ。
わざわざソルジャーをパーティーに入れて技能共有を使わせるより、プリーストやウィザード、パラディンなどの他者強化スキルでアタッカーを強化したほうが早いし、その方がダメージ効率もいい。
モンクやウォーリアーが技能共有を覚えれば最強だったのだろうが、残念ながらそう都合よく強いスキルを習得できないよう調整されてしまっていたのだ。
そういった経緯があり、本来技能共有はゴミスキルと言われていたのだが、この世界で唯一、覚えたスキルを職業に関係なく使用できるというハートちゃんが使用すれば、最強のスキルに様変わりしてしまう。
「キタキタキターーー! 愉快痛快大爽快の、俺強え無双の時間だ!」
『ナイル氏、ミケリノス王墓行く度にテンション上がってたからねw』
『コードネーム、クソガキ。 暴れ狂う時間だぜ!』
『ラストコード、破壊僧。 暴力の世界にしてやるぜ』
「メメジェットさん、【神信の教え】も添えてあげてよ」
「想像するだけで恐ろしい組み合わせですね」
メメジェットさんは呆れたような声で返事しながらも神信の教えを発動させた。
神信の教えは味方が発動したスキルの効果を上昇させる超優秀な強化スキル。 ここまで説明してきた強力な強化スキルの性能を、更に向上させるという暴力的な組み合わせ。
「な、何なんですかその反則級の固有スキルは!」
思わず唖然としてしまうルタカだったが、ここまでこの鉱物系モンスターたちのせいで俺のフラストレーションは限界値に達している。 故に容赦は一切なしだ!
「ひゃっほぉぉぉぉぉい!」
全力の普通のパンチで弾け飛ぶミスリルドラゴン。 目をカッ広げ、この世の終わりのような顔で傍観するルタカ。
『俺こんなゲーム知らないw』
『ミスリルドラゴンが土塊のような有様にw』
『これはひどい』
本来、ミスリルドラゴンはこのゲームの中でもトップクラスの硬さを誇るモンスターなのだが、ハートちゃんのバフ盛りを受けたうえで、視聴者達のお陰で攻撃力が異常なまでに上がっている俺の攻撃なら、闘技スキルでもない普通のパンチですら粉々に砕いてしまう。
「おいおいなんだなんだ? お前メッチャクチャ楽しそうなことしてんじゃねえか!」
「ハートのバフ盛りを受けた坊やは、もはや一騎当千のモンクだからね」
「さすがはアタイの舎弟だぜ」
マグナザウルスを足蹴にしながら誇らしげな顔をしている団長だったが、俺は舎弟になった覚えなど無い。
「何なんなのだ貴様ら! 僕の邪魔ばかりして!」
苦しげな表情のルタカがまたもモンスターを召喚するが、もはやハートちゃんのサポートを受けた俺に敵などいない。 召喚された瞬間に頭からぶっ潰して、ついでに近くにいたルタカの分身体を消し飛ばす。
「さてさて、そろそろ終幕と行こうかルタカ」
ホープさんは優雅な足取りで戦場のど真ん中を歩きつつ、俺らのサポートに付いていたハートちゃんにアイコンタクトを送ると、
「ウィザードの自己強化スキル、【精霊の恩恵】これで私のスキルクールタイムは三十秒間半減する」
「ボクの技能共有で二枚掛けすれば、スキルクールタイムはゼロになるね」
「まさか、嘘だろ?」
ルタカは諦めたような声色で呟くと、堂々と歩み寄ってくるホープさんを凝視して、最後のあがきとばかりに大量のモンスターを召喚し始めた。
「結局数の暴力に頼るのかい? この前はハートがいなかったからね、その数の暴力を前に苦戦を強いられたが、今となってはもはや滑稽でしか無いよ」
ホープさんが無数の炎の塊を作り出す。 あれは一度見たことがある、俺の実力を図るという名目で放たれた爆発魔法の連射。
「そんな、爆発魔法の連続発動だと? そんなの反則だ! 防げるわけがない! チートを使うよりもよっぽど理不尽だ!」
「なにを言っているのかな? 実際にこの爆発魔法の雨を防いだプレーヤーの前で、よく恥ずかしげもなくそんな事言えるよね?」
「は? 防いだやつがいるだと? そんな、理論上ありえないことだ!」
瞠目するルタカを見て、俺は首を傾げながらメメジェットさんに視線を送るのだが、
「なんですかあれ、エグすぎますよ」
「え? あれってそんなにやばい技だったの?」
「なに言ってるんですか黒湖さん。 爆発魔法の威力はモンクの金剛滅砕打よりも高い上に、発動スピードが非常に早いのです。 そんな技を連続で放たれることを想像して下さい。 理不尽以外の何物でもないでしょう?」
金剛滅砕打の威力はモンクである俺が一番知っている。 防御力をかなり多めに割り振ったとしても、バフ無しの一撃ですら大ダメージになる技だ。
そんな強力な威力をもった技を、遠距離で、さらにクールタイム無しで連射されれば、塵も残らず消し飛ばされてしまうだろう。
「うわ、そんなエグい技を俺に使ったのかよあの人」
「え? 黒湖さんあれ喰らって生きてたんですか?」
「生きてたもなにも、そん時の戦いでホープさんの身代わりマントを破壊したんだが?」
「……は?」
メメジェットさんが眼を見開きながら俺の顔を見る。 だが、俺達の会話が聞こえていたであろうルタカは駄々っ子のように騒ぎ出してしまう。
「嘘だ! 妄言だ! 虚勢を張っているに違いない! そんな事できるわけがないのですから! 理論上ありえないんですよ!」
俺の言葉を否定ばかりしながらも、必死にモンスターを大量召喚してホープさんの攻撃に備えるルタカ。
俺はそんなルタカが可哀想になったので、こんな言葉を送ってあげるとこにした。
「いいかルタカ、このゲームにはな……ありえないなんてことはありえないんだよ!」
『この世のすべてが欲しいのか?』
『ドヤ顔やめろ』
『メメジェットさんに呆れられてるぞw』
「さてルタカ。 この茶番もそろそろ終わりにしようか」




