『パセリのようにコンカッセされたなw』
◁
シリスの体を三人で守ると言い出した時点でおかしいとは思っていた。
少数精鋭で敵の大将を撃つと言う話はよく聞くが、少数精鋭でお宝を護衛するなど聞いた事がない。
この三人は初めから守りに徹する気などなかったのだろう。 その証拠に、俺が死を覚悟したこの戦場で、修羅の如き無双ぶりを見せているのだから。
「キャッハッハッハッハ! ぬるい、ぬるいぜオラァァァァァ!」
「ちょ、バースィラ団長強すぎじゃね?」
バースィラ団長は鋼鉄の篭手と脛当てを装備して、敵を殴ったり蹴ったりするゴリゴリの格闘アタッカー。 彼女が右腕を振り抜くだけで、数体のアイアンゴーレムが粉砕されていく。
溢れんばかりにごった返していたアイアンゴーレムは、たった数秒にも関わらず目に見えて数を減らしていた。
『モンクのジョブがあまり人気じゃなかった理由を聞いてなかったかな?』
『すべてあの戦闘狂が原因だ』
『どうやらあいつは強すぎたようだからね』
コメント欄がバースィラ団長のことを教えてくれた。 どうやらソロプレーヤーのためにNPCをパーティーメンバーにできる制度の中で、最も多く使われたのはバースィラ団長だったらしい。
理由は単純明快。
「墓守の加護! なんて厄介極まりない固有スキルなのだ!」
ルタカが渋面を浮かべながら逃げ回っている。 ゴーレムたちに隠れるように移動を続けているようだが、バースィラ団長は強者を求める戦闘狂が如くアイアンゴーレムを鉄くずに変えていく。
メルト族と言う墓守の一族である彼女は、戦闘に全振りした固有スキルを有しており、その性格も非常に攻撃的なのだ。
「逃げてんじゃねえぞ腰抜けが! 召喚するならもっと骨がある魔物を召喚しやがれ!」
暴れまわるバースィラ団長の前に二体のプラチナゴーレムが立ちふさがるが、縦横無尽に駆け回るバースィラ団長は周囲のゴーレムを破壊したままの勢いでアッパーカットを放つと、たった一撃で粉々に砕け散るプラチナゴーレム。
続けて砕け散っていたプラチナゴーレムの残骸を足場にして空中を駆け上がり、動きが遅いもう一体の目前に飛び上がると、腰を捻って空中で一回転し、遠心力を加えてかかとを振り下ろす。
脳天に強力なかかと落としを喰らったプラチナゴーレムは、衝撃波とともに粉々に砕け散った。
圧巻、それ以外の感想が出てこない。
『粗砕だw』
『パセリのようにコンカッセされたなw』
『バースィラ団長は料理も得意なのでしょうか?』
「固有スキル、墓守の加護は第三者から自身に向けられる闘技スキル以外、すべてのスキルを無効化する」
「バフを受けた敵に殴られたとしても強制的にバフを解除するし、スキルを使用してのデバフも不可」
トト兄妹が息ぴったりに解説してくれたのだが、バフ無しであの攻撃力は流石におかしいだろうと首を傾げると、隣で初級魔法を放っていたメメジェットさんが付け加えてくれる。
「バフをできない代わりに、常時全ステータス二倍という化け物ステータスなんです。 しかも彼女、モンクですから自身が使用した自己強化スキルに関しては、きっちり発動するんですよ」
味方のバフを受けられない代わりに強力な能力を発動させるタイプのスキルだったか。 確かに味方のサポートを受けられないというのはパーティー単位で戦闘するこのゲームにとっては致命的。
だが彼女はモンクという職業のため自己強化に関しては問題なく発動できてしまう。
『NPCにこんな化け物性能のモンクがいたら、プレーヤーがモンクにするメリットは皆無』
『こっちでサポートしなくても勝手に強い』
『クリア後の高難易度で戦うバースィラ団長も、デバフが効かないから苦戦するってわけ』
『ちなみに自分たちにかけたバフも、団長に触れると強制解除される』
『向かうところ敵なしって事だよ』
『ソロプレーヤーの使用NPCランキングでも、ぶっちぎりのトップだからなw』
モンクという職業は人気がない上に、変態だの玄人だの言われるのはこいつが主な原因だったか。 一人納得してしまった今日このごろ。
「ちっ! なんて厄介な、バフも無効化されるしデバフも効かないとなると……純粋な戦闘力で押し切るしか無いか!」
しびれを切らしたルタカは転送陣から新たなモンスターを呼び寄せる。
「お? いいサンドバックじゃねえか!」
「マグナザウルスをサンドバック呼ばわり……だと?」
転送陣の中から複数の巨体が押し寄せてくる。 こんな光景この世の終わりだ。
隠し通路がジェラシックシークレットロードになってしまった瞬間を目の当たりにしてしまった!
ビルのような巨体のマグナザウルスが押しかけてきたせいで、広々と使っていた地下通路は、一気に狭く感じてしまう。
マグナザウルスは全体的な耐性のバランスが良く、鉱物系モンスターやアンデットモンスターのように弱点が存在しない。 強いて言うのなら氷属性の魔法攻撃が有効な程度だ。
つまりここからは、
「団長、もう十分暴れただろう? 次は私達の番だ」
杖を構えて余裕の笑みを見せるホープさん。 けれどルタカは待ってましたとばかりに分身体たちに視線を送る。
今のルタカにとって、自身の脅威として映っているのはトト兄妹や団長だけなのだろうが、それは逆に好都合でもある。
「気安く魔法を使えるとでも思っていましたか! デスサイズとエルダーヴァンパイアの召喚コードはすでに取得してるんですよ!」
「おい、俺を忘れんなよヘタクソ」
召喚された瞬間、デスサイズの頭を消し飛ばす俺。 横目にその様子を見ていたのだろうか、うっすらと口角を上げるホープさん。
「おい黒湖ナイル、私だって先程から敵を集めたり、立ち位置を調整したりと大活躍しているのだぞ?」
忘れてはならないラーザさん。 彼女はメメジェットさんの神聖領域の中に入っているため、アンデットが相手ならば殴るパラディンとして活躍することが可能。
よってエルダーヴァンパイアも袈裟懸けに切り裂かれて一気に無力化される。
切り札のつもりで出したはずのアンデット達が瞬殺され、苛立ちを爆発させるルタカ。
「取り巻き共が、邪魔ばかりしてくれますね!」
歯が砕けそうなほどの歯ぎしり音を響かせながら、どうしたものかと視線を巡らせるルタカは、まだ戦場に立っているモンスターたちを確認する。
そして、いまだ健在だったモンスターたちに視線を釘づけた。
バースィラ団長とホープさんは恐竜種の相手をしているためこちらのサポートには回れなくなっている。 そのためルタカはしめたとばかりに口角を上げながら、
「ミスリルドラゴンに遊んでもらっておきなさい! 取り巻き共!」
バースィラ団長はなにも考えず好き勝手暴れていたため、ミスリルドラゴンは二体も残っていた。 物理耐性が非常に高いこいつらが立ちふさがってしまうと、アンデットの召喚を妨害できない。
面倒な状況になってしまったが、ホープさんをサポートするためにはどうにかして切り抜けなければならないだろう。 けれど具体的な策は浮かばない。
どうしたものかと思い、何気なく背後に視線を送ってみると、
「相変わらず爪が甘いよルタカ。 アサシンは【気配遮断】っていう職業スキルを持ってるんだよ? 最優先で警戒しなきゃダメじゃないか。 それに今のボクは、ゲーム時代のときとは一味違う」
俺達の背後に、ヌッと現れるハートちゃん。 俺はびっくりして体重と両手を左側に寄せながら、
「ハートちゃん! いつの間に!」
『俺このポーズ見たことある』
『ハートちゃんを魔物顔のおっさん扱いするな』
『トゲトゲ帽子被ったらまんまそれだな』
マニアックなポーズかと思ったが、以外にもネタとして通用するらしいなんてどうでもいいことはさておき。
「さて少年。 ボクがいるってことは、君がこれからするべきこと、分かるよね?」
「無論ですとも」
「わかっているなら話は早い。 さあラーザちゃん、少年のサポートをお願い!」
「しかしだなハート殿、黒湖ナイルは物理攻撃しかできない上に波断衝のクールタイムも……」
「まあまあ、説明はあとでするから、背中は頼みましたよラーザさん!」
俺が鼻をふんすと鳴らし、気合十分でラーザさんに親指を立てると、目をキラキラと輝かせながら尻尾を振り回すラーザさん。
「貴様にそんなにも頼りにされてしまったのなら、仕方がないから世界最強のタンクとしてサポートしてやろうではないか!」
頼られるのがとっても嬉しいらしい。 鼻歌を歌いながらスキップを始めそうなラーザさんの隣に立っていた変態は、そんなラーザさんへ血走った視線を縫い付けている。
「嬉しそうなラーザ様……なんてとうとぃ——グッ、血が、血が足りません」
「メメジェットさん、鼻血は我慢して真面目に手伝ってね?」
地面に手をついてうなだれていた変態、またの名をメメジェットさんの背中にポンと手を置きながら苦笑いするハートちゃん。
「さて少年、ミケリノス王墓で培った鉱物系モンスターの掃討経験を活かす時だ。 なに、安心してくれていいからね? なんせ今回の敵、モンスターハウスに出てきた奴らよりもちょっと強いだけなんだから、安心して暴れていいんだよ?」




