『ここで迷ったら主人公の座を本当にホープさんに取られるぞw』
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メメジェットさんから電話が来たため、俺はすぐさまアジトへ帰還した。
我々チーム【ゴットオブラーザ】の三人と、団長、トト兄妹が揃ったことで、本格的にルタカ打倒のための計画を発表されることになった。
「アタイら以外の連中には周辺の村を救出するのに専念して貰う、今回は競い合いじゃなく計画的に救ってもらうから、そっちの心配は一切しなくていいぜ」
「そっちにはサラーマくんもいるからねぇ」
「あんなへなちょこに任せといたらろくなことになんねえぞ?」
団長はずいぶんとサラーマさんがお気に入りらしく、かなり厳しい教育をされているようだ。 そんなことはともかく、ルタカの居場所がまだ特定されていない以上今はそちらを最優先で捜索しなければならない。
「おそらくやつは、すでに全ダンジョンを攻略してどこかしらに拠点を構えているんだろう」
「ルタカさんはアポフィスと徒党を組んでいるわけですから選択肢は限られます。 というわけで、先程の会議で怪しい場所をリストアップしておきました」
先程メメジェットさんがホープさんに拉致られていたのはこのためだったのだろう。 これはさっき聞いた話しなのだが、メメジェットさんはこのゲームの構造に相当詳しいらしい。
意外だったが理由を聞けば納得で、ラーザさんを徹底的に強化するためだけにゲームの仕組みを隅から隅まで調べ上げていたらしい。
ラーザさんに関わるNPCの会話はもちろんラーザさんの故郷の村で会話できるNPCとの内容や、それに関わるイベントクエストの攻略法。 ラーザさんを最強のパラディンたらしめるために必要なバフからダメージ計算まで。
ホープさんはシリスの体集めに各地を転々とする中で、こういったメメジェットさんの意外な才能に気がついたようで、作戦会議にどうしても欲しかったのだとか。
「アポフィス討伐依頼で中心になるのはラーザちゃんだからね。 メメジェットさんは詳しくて当然なわけさ」
リストアップされた表を見ながらキョトンとしてしまう俺。
「なんだかカタカナの割合が高いね。 あ、でも一番怪しいのは王家の墓っていうところなのか、漢字でよかった」
『思いつく限り最高級に頭の悪い感想が出ました』
『なるほど、王家の墓にアジトを構えてるのが有力ってか』
『ナイルくんはダンジョンの名前見ても分かんないもんねw』
「十中八九ヤツらは王家の墓に居城を構えてます、でなければカムテフ神殿やカルナク神殿辺りが濃厚です。 精鋭選抜の際にフィロパトル王墓に奴らの姿が見えなかった時点ですでに予想はついていましたけどね!」
メメジェットさんたちとフィロパトル王墓についた際、強力なモンスターが異常に多かったことから、ルタカも追われていたのならそこを襲われると予想したのだろう。
まあ、俺とラーザさんのコンビネーションだったら強力なモンスターがいたところでお茶の子さいさいだったのだが。
「つーわけだクソガキ。 お前たちのチームはこれからこのリストにある場所を片っ端から捜索してもらい、ルタカを見つけ次第仕留めてこい」
「えっと、それって言葉のあやとかではなくガチで打ち取るって話しっすか?」
「捕縛する余裕なんてあると思ってんのかよ?」
団長に鋭い眼光を向けられ、思わず萎縮してしまう。
「ふはは、もしや黒湖ナイル、貴様日和っているのだな?」
「誰が! そういうラーザさんこそ足震えてますけど?」
「これは武者震いだ馬鹿者が!」
『口を開けばすぐ喧嘩w』
『お前ら仲良すぎだろw』
『もうとっとと付き合っちゃえよ』
『それは許さん!』
『首をだせい!』
『汚物は消毒!』
このままではコメント欄で戦争が勃発しそうなため、ラーザさんは適当にあしらって話を進める。
「あいつは凶悪な魔物をホイホイ出しやがる。 近づくのも困難かもしれねえ」
「やるんだったらチャンスは一度だろうね。 相手にバレる前に首を取る。 本当だったら少年にはアサシンにジョブチェンジしてもらった方が効率がいいけど、もし戦闘になったら使い慣れてるモンクのほうがいいだろうからね」
「やはりシリス様の守護は私と団長二人にして、精鋭班にハートも編成するべきかな?」
物騒な話になってきた。 確かに魔物を大量に召喚する厄介な相手、チャンスを逃せば次はないと考えていいだろう。
何よりあのホープさんすら撤退を余儀なくされた相手だ。 一筋縄でいかないのはまず間違いない。
けれど、相手は転移者だ。 俺と同じ世界で生きていた人間。
いくらこの世界が異世界だからといって、そう簡単に腹をくくれる話しではない。 温室育ちの俺に、いざって時に迷わず命を刈り取るだなんて選択肢ができるだろうか?
「なんなら、少年たちにシリス様の体を預けてボク達で仕留めに行こうか?」
「確かにそれなら問題なく達成できそうだ。 けれど、何があるかわからない以上、奥の手は最後まで取っておきたい」
「それは遠回しに、私達はもしもの時に備えた捨て駒、って扱いをされてると捕らえてもよいのか?」
「好きなように捉えてくれて構わないよ」
にらみ合うホープさんとラーザさん。 メメジェットさんもいつにも増して真剣な視線を交わらせている。
『一触即発だぞ、シリアス展開になってしまった』
『ナイル氏なら、気合い入りすぎて奥義使ったらうっかり殺っちゃいましたって展開になりそう』
『さっき村ひとつ潰しかけたからなw』
うぐ、視聴者達が忘れかけていた失態を思い出させてくる。 あれは俺だけではなくて紛らわしいコメントをした視聴者たちにも問題があると思う。
『ナイル氏もしかして迷ってる?』
『迷う必要ないでしょw』
『ここで迷ったら主人公の座を本当にホープさんに取られるぞw』
「いやいや、誰も主人公の座をかけて争ってたりしてないっすけどw」
思わずツッコんでしまいハッとしたのだが、ひとりでに話し始めた俺に対し、この場にいる誰も言及はしなかった。
『現にルタカのクソはこの世界の住人を何人も殺してるんだぜ?』
『途中の村で大量に死体転がってるの見ちゃったんでしょ?』
『そこからは俺達に気を使って心眼スキルで周囲の様子見ながら戦ってたみたいだけどなw』
視聴者達の言う通りだった。 途中からラーザさんと喧嘩をせず、真面目に魔物退治をし始めていたのはこの世界の人々が、たくさん亡くなってしまっているという事実を知ってしまったから。
通りすがった村で転がっていた死体をうっかり見た瞬間、反射的に目隠しをして戦ってきた。 あんな酷い光景を視聴者たちに見せたくなかったからだ。
『生かしとく価値無いっしょ?』
『サクッと殺っちゃいなよ』
『この世界にはおまわりさんいないし安心しなってw』
気軽に俺に殺人を勧めてくる視聴者達。 けれど俺は、やっぱり多くの方々が見ているこの生配信をスプラッタ映像にしたくはない。
俺が本気で悩んでる時に、背中を押そうと気を遣ってくれる視聴者達には、見ていてスッキリする配信を堪能してもらいたい。
「団長! 俺は思うんです。 こんなにも多くの人間を手に掛けた外道を、楽に死なせてもいいのでしょうか? 然るべき罰を与えるべきではないかと思います!」
「ほう、つまりぶっ倒して無力化し、とっ捕まえてここに連れてくるって言いてえのか?」
「その方が、家族を失った方々も満足しますし、恨みを晴らす機会を与えることができると思うんです」
これは、俺が殺すのをためらってするための提案ではない。 確かに、ルタカというプレーヤーは殺されても文句を言えないような罪を重ねてきた。
すでに廃墟になった村で、母親と思われる死体の側で泣きじゃくる幼子を見た。 瓦礫に押しつぶされながらも、恋人を守るため肉の盾になっていた男性を見た。
あんな酷い状況を作った人間を楽に死なせるなど、我慢ならない。
俺は苛ついているのだ。 この素晴らしいゲーム世界に転移したというのに、その世界をくそったれた世界に変えようとしているプレーヤーが。
だから俺は、ただ殺すだけではなくより残酷な結末を与えたい。 たとえそれが、ただ仕留めるだけの任務よりも格段に難しいものになったとしても。
「俺は、直接ルタカってやつからなにかされたわけじゃあありませんが、それでもあいつがしでかした残虐な光景を見てきました。 だから俺は、あいつを捕まえてみんなの前に晒したい!」
「自分が殺す勇気がないってだけだったらぶん殴ってやるところだが、その目……ずいぶんとブチギレてるな?」
「そりゃあもう、顔面の造形がわからなくなるほどぶん殴って、半殺しにはしてやろうと思ってます」
「野暮かもしれねえが言っておくぞ? ぶっ殺すよりも、とっ捕まえるほうが数倍難しいんだぜ? それでもお前はとっ捕まえるって宣言できんのか?」
俺を試すように、威圧してくる団長だったが、俺はもう決めたのだ。
「誰に向かって物言ってるんすか? ……余裕に決まってるっしょ?」
黒湖ナイルが生意気なクソガキ設定になったのは、俺の本性がこういう性質だからなのだ。
長年多くのゲームをプレイしてきた。 たとえこの世界がリアルな異世界だったとしても、自分のプレイングに、立ち回りに絶対の自信がある。
だからこそ、初見ゲームをゲームオーバー無しでクリアするなんて無茶な企画をし続けていたのだから。
この世界でも、ゲームオーバー無しで高難易度ミッションを達成してやろうじゃないか!
「きっひひひひひひ! おもしれぇ、マジでおもしれぇじゃねえかクソガキ! この任務を無事に達成したら、アタイの舎弟になれよ!」
「断固拒否させていただきます!」
途端にケタケタと笑い出した団長に背中をバンバン叩かれた。 ものすごく気に入られてしまったらしい。
「さすが坊やだね。 まあ、まぐれだったとは言ってもこの私の身代わりマントを破壊した猛者だ。 そう簡単にやられるわけがないだろうから、最初から心配はしてなかったけどね?」
団長に頭をガシガシ撫でられている中、ホープさんは呆れたように肩をすくめながら俺の元まで歩み寄ってきた。
「覚悟が決まったところで即時行動だ。 健闘を祈ってるからね?」
ホープさんに優しく肩を叩かれ、真っ直ぐな視線を向けられる。 最強プレーヤーからお墨付きを貰ったのだ……
俄然やる気が出てきた。 どんな化け物が現れたとしても、絶対に負ける気がしない。




