『ありたむ氏の新たな素顔が判明』
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晴れて精鋭班となった俺は、作戦会議中に準備を進めることにした。 作戦会議にはトト兄妹筆頭にバースィラ団長とメメジェットさんが参加しており、それ以外の傭兵たちはこのあと起きる大規模作戦に向けた準備に奔走している。
そんなわけで、俺はケーネの村救出時に破損してしまった聖銅の錫杖に代わる武器を探すため、武器屋に向かっている訳だが、一人で買い物に行くと思いも寄らない事態に遭遇する可能性が否定できないため、特別ゲストを招待した。
では、特別ゲストの方に一言いただきましょう。
「あたくしなんかが一緒に武器屋に行ったとしても、なんの恩恵もないんだわさ」
そう、今回のゲストは絶賛病み期突入中、この俺黒湖ナイルのガワを作成してくれたイラストレーター、ありたむさんです。
『これは重症だw』
『そりゃあチーム分けの時、目の前であまり者扱いされてたもんなw』
『あの後も何らかの精神攻撃があったに違いないw』
なぜゲストにママを選んだのか、率直に言って可愛そうだったからである。
「元気だしてよママ、俺達はトト兄妹のお陰でレベリングしてたから活躍できただけで、上級者のサポート無しにレベル五十代に突入してるママは十分すごいって!」
「そんな事言われてもさ、あたくしが今回の精鋭選抜でできたことなんて、サナたんの眷属に守って貰うお姫様ムーブだけだったんだわさ」
聞く所によると、ママがまともに戦えたのはデュラハンやキメラが相手のときだけで、カリュドンやブルーサイクロプス、マジカルペガサスといった危険モンスターと遭遇した際は、サナさんが召喚した眷属二体に厳重に守られながら後方待機させられていたそうだ。
しかも、そんな状況のためなにか役に立たないとと思考を巡らせるママに対し、サナさん達は必死にこんな言葉をかけ続けていたらしい。
(ありたむ! お前は無理しなくていい! 前に出ても一撃で瀕死になっちまうから下がってろ!)
(ナイルくんのお母さん! 君はあたしたちと違ってレベルが高くないんだから、無理に前線に出ようとしなくていいにゃ!)
二人はママの身を案じてこう言い続けていたらしい。 確かに二人の優しさがにじみ出ているこのセリフだったのだが、ママが解釈するとこうなる。
「あたくしみたいな役立たずで、固有スキルをまんまと盗まれるような間抜けが前線に出ると、足手まといだから視界に入るなって言われ続けたんだわさ」
見た目的にお嬢様で強気なキャラデザになっているのだが、ママは昔からメンタルがかなり弱い。 大学で知り合った時も、仲良くなるまでにものすごく苦労した思い出がある。
そんなわけで、ママを買い物の相棒に選んだ理由には、
(俺達もありたむのこと元気づけようと色々試行錯誤したんだがな? 上手くいかなかったんだよ。 だからナイル、お前の親なんだからなんとか元気づけてやってくれないか?)
と、サラーマさんたちから頼まれたという経緯もあったのだ。
「ママは色々と深く考えすぎなんだよ。 二人はママの身を案じて下がってろって言ってたんだよ。 戦闘中で言葉選ぶ余裕なかったんだって」
「でも、そんなこと言ってもあの二人はあたくしを前線に出す時は雑魚退治のときだけで……」
「今のステータス見てみな? レベルすごい上がってるでしょ? あの二人は精鋭に選ばれるための極限状態でもママのレベルを上げるために敵とママとの実力を冷静に見定めて、その上でママが一緒に戦えるようなプレーヤーになれるよう配慮してくれてたんだよ?」
精鋭選抜前はレベル五十ちょっとだったママのレベルは、現在レベル六十八まで上がっている。 俺に言われるがままスマートフォンでステータスを確認していたママは、じーっとスマホの画面を見て硬直している。
付き合いが長い訳では無いが、大学時代は四六時中行動を共にしていただけあり、ママが考えてそうなことは分かるのである。
そう、今現在ママの脳内では葛藤しているのだ。 ネガティブ思考とポジティブ思考が対立しているのだ!
というわけで、俺は畳み掛けることにする。
「敵も大量に出てくるし、自分たちも精鋭に選ばれたい。 そんな極限状態でもママにレベルを上げてもらおうと立ち回ってた理由、分かる?」
「え、えーっと、憐れみからなる同情心?」
「ちゃうわい! 少しでも早く、ママと肩を並べて戦いたいと思ってたからなんじゃないかな? じゃなきゃ俺だったらそんな面倒な事しないで放置するし、ママだってどうでもいいやつとパーティー組んだらそうするでしょ?」
俺のその語りかけに、目を見開いてうるうると瞳を潤わせるママ。
「そ、そんな……あたくしはなんて優しい方々とパーティーを組ませてもらっていたんだわさ」
『さすがナイル氏、ありたむ氏の扱いをよく分かってる』
『ありたむ氏は根が優しすぎてすぐ自己嫌悪しちまうからなw』
『コラボ配信でしょっちゅうナイル氏に泣かされてたっけw』
人目もはばからずに目から滝のように涙を流し始めるママなのだった。
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そんなわけで、ママも元気になったことだし第一目標は難なくクリア。
ネガティブ思考すぎてウザイ人だと思われがちなママだが、あそこまでネガティブになるのは他人をおもんばかっている時なのだ。
他の人に迷惑をかけたのではないか、自分のせいで他人に苦労をさせたのではないかと考えるあまりネガティブになってしまう。 そういう優しすぎる性格だからこそ、他人に対して最大限の経緯と気遣いができる人だからこそ、俺は今もこうしてママと行動を共にしているのだ。
そんなママは、ネガティブ期間から脱するとものすごく面白い人になる。
「見るんだわさナイルきゅん! この武器、どっからどう見ても青い槍使いが持ってるあれなんだわさ!」
「その心臓もらい受ける! って、何で槍なんか見てんだよ! 俺が装備したいのは棒だから!」
「いやいや、あたくしソルジャーだから、槍装備して戦ってみたかったんだわさ」
ソルジャーが装備できるのは剣か槍の二択らしく、斬撃と刺突という二つの攻撃が満遍なく得意になる万能職業。
槍は間合いが伸びるが攻撃速度が落ちるため、使用するにはコツがいるということをホープさんから聞いた。 だと言うのに……
「槍にも長いのと短いのがあるんだわさ! 短くて黄色い槍……あった! みてみてナイルきゅん! 貴様らはそんなにも勝ちたいか?」
「二本装備しても意味ないでしょ! 真面目に選ばんかい」
『迫真の演技力w 血涙出したらエモい絵面になるぞw』
『なぜか不運のキャラクターを推してるからねw』
『彼女が推しているキャラはことごとく途中退場、というジンクスがあるほどw』
とあるゲームが大好きなママは、こうして隙あらばすぐにネタへ突っ走る性質がある。
武器屋で異常なテンションを見せるママをさらっといなしながらも俺は新たな武器を購入。
鋼の戦棒、この店にあった中で一番頑丈そうな武器で、攻撃力に関しては二の次。 これでしばらくはこいつのお世話になりそうだ。
「武器も買えたし、どっかでお茶してから帰りますか」
「それもそうだわさ。 せっかくのナイルきゅん独り占めの期会を逃す手はないんだわさ!」
「つーかママ、せっかく武器と防具一緒に買える店選んだのに、何で防具新しいの買わないんだよ」
「この防具、意外と動きやすいし防御力も高いんだわさ」
ママはエンカウントしたときからずっとビキニアーマーという露出度の高い装備をしている。 しかも、お嬢様みたいな髪型してるのにも関わらずだ。
「そのキャラデザならドレスアーマーみたいなヤツのほうがエモいと思うし、俺今生配信中だからママのその恥ずかしい格好、全世界に見られてるんだからね?」
俺は手のひらを返しながら指摘すると、ママはゆっくりと自分の格好を確認し始めた。
「全世界に? あたくしのこの姿が? 生配信されてる?」
『こらナイル氏、俺達の目の保養を奪うでない』
『ドレスアーマーも捨てがたいが、このチグハグな見た目がエモいんじゃないか』
『ちぐはぐの良さはイラストレーターを経験したものにしか分からんさ←偏見w』
しばらく硬直して自分の姿をじっと見ていたママは、ゆっくりと顔を上げ、真剣な表情で俺を見てきた。 このパターンは四年の付き合いの中でも初めてのパターン。
一体何を言われるのだろうか、またネガティブ思考になったら困りものだ。 そんな事を思いながら、固唾をのんでママの言葉を待っていると。
「確かにドレスアーマーもとっても可愛いんだわさ」
以外にも普通のことを口走ったので、ホッと胸をなでおろす。 ママは鎧の造形や衣類の書き込みにこだわるタイプで、アクセサリーをジャラジャラ付けたキャラを好んで描くのだ。
だからビキニアーマーよりドレスアーマーの方が、イラスト的には好みだろう。
「けどねえナイルきゅん、今この瞬間もあたくしのこの姿を全世界に生配信していて、下心丸出しの紳士たちもこの配信を見てるんだわよね?」
「え? まあ、そういう人も少しはいると思うけど……」
「ぬふふ、なにそれ萌えるんだわさ。 今年の冬コミにはあたくしのあんな姿やこんな姿の薄い本がたくさん並び……ぬふ、ぬふふふふ」
「……ほわい?」
『まさかのカミングアウトにナイル氏動揺w』
『ありたむ氏の新たな素顔が判明』
『こいつ、筋金入りの変態だw』
突然ドン引き必須な下卑た笑みを浮かべながら体をくねくねさせ、頬を紅潮させて口元をスライムのようにグネグネにしてしまうママ。
俺はそっと目を伏せ、視聴者たちに注意勧告を施した。
「良い子のみんなはママみたいになっちゃダメだよ?」




