『諸君、スクショの準備は十分か?』
◁
いつの間にか、ケーネ村を襲っていた魔物たちがすべて倒されていた。 一体何が起こったのだろうか?
俺がラーザさんにボロクソ言っている間にすべてが片付いたらしく、高難易度常連の凶悪モンスターである恐竜種の姿もさっぱり見えない。
なんとなく喧嘩しながらもデュラハンたちをボコボコにしていた記憶はぼんやりと残っているが、恐竜種は逃げたのだろうか?
そんな事を考えながら、現状最も奇妙奇天烈な光景を前に絶句している。
「いえーーーい! 黒湖さん、私達今ランキング二位ですよぅ! へいよぅ!」
「何でメメジェットさんウザキャラみたいになってんの?」
鼻血を出しすぎて頭がおかしくなったのだろうか、メメジェットさんがハイになっている。 確かにさっき肩をちょこんとしながら口をすぼめていたラーザさんには心臓を捧げそうになってしまったが、俺は自制心が強いからギリギリ耐えた。
『二位ってなんで分かるんだ?』
『メメジェットさんシーツ被ってるせいで原因不明』
『心眼スキル使えば分かるんじゃね?』
「俺をまた苦労人にしたいんですか?」
「へいへい黒湖さーん! あんた誰としゃべってんだよぅ! せいほー、おー!」
「大変だ黒湖ナイル! メメジェットが悪霊に取り憑かれてしまったぞ!」
収集がつかない事になってしまっていたが、俺は頭を抱えながらも次の街に行こうと促した。
ラーザさんはとりあえずという形でメメジェットさんを担いで俺の後に続いて駆けていく。
しばらく駆けていると、なぜかHPが半分くらいになっていたメメジェットさん(おそらく鼻血が原因)は自分にヒールを掛けて回復し、正常に戻っていた。
そして、正常に戻ったメメジェットさんは何事もなかったかのような口調で先程言っていた順位の説明を始める。
「一位のチームは【ナイルバスターズ】らしいです。 ちっ! 黒湖さんがいないと何もできない愚物かと思っていましたが、油断ならないですね!」
「その一位とか二位とかって何で分かるんですか?」
「これはこの精鋭選抜のためにホープさんが作成したアプリでして、チームリーダーはそのアプリをダウンロードしているんです」
メメジェットさんは風になびいていたシーツをめくり、スマートフォンの画面を俺に見せてきた。
画面には俺達が獲得したであろうポイントがデカデカと記載されており、その下には現段階の順位と思われる数字が記載されている。
見たこともないアプリのため、ゲームの時は無かった代物だろう。
「何あの人、アプリも作れんのかよw」
「さすがはホープ殿だ! して、その【ナイルバスターズ】というのは一体何なのだ?」
ホープさんの有能さには脱帽だが、ラーザさんが質問したネーミングセンス皆無な上に俺の名前を勝手に使っている謎の名前の正体は、俺も気になっていた。
「これはチーム名です。 ナイルバスターズというのはサラーマさんがリーダーをしているチームです」
「なぜその名前に?」
「妥当黒湖さんに燃えているようですよ?」
『サラーマさんは相当さみしいんだろうな』
『あのワニは相当なかまってちゃんなんだろうな』
『あのオカンはナイルくんのこと相当好きなんだろうな』
「うるさいよ視聴者の皆さん」
すかさず視聴者たちに注意をいれる俺のことはスルーされ、ラーザさんはキョトンとした顔でメメジェットさんに問いかける。
「それなら我々のチームはなんという名前なのだ?」
「ゴットオブラーザです」
ドヤ! っと聞こえてきそうな勢いで意味不明なネーミングをさらけ出すメメジェットさん。 ネーミングセンスはこちらのチームも皆無だったようだ。
「な、何だその名前は、照れるではないか」
「いや照れんなよ! 普通怒るとこだぞここ!」
『今日はラーザ様の可愛い姿が大量だ』
『ナイルくんはラーザさんのキュートショットハンターだね』
『CSH! CSH!』
「頭文字で略すな、変な称号を作るな! 意味不明なワードを流行らせるな!」
瞬く間に俺のコメント欄はCSHで埋め尽くされてしまう。 もう頭が痛いです。
「むむ、黒湖ナイルはいつまで信者と話しておるのだ!」
「黒湖さん、ラーザ様は貴方にもっとかまって欲しいとおっしゃられてます! なんなら、先程の喧嘩の続きを所望します!」
「お前ら真面目に戦う気ある?」
今日はいつも以上に精神が疲弊する。 こんなことならサラーマさんたちと冒険していた時のほうが精神的に楽だった。
どうしよう、俺はもしかしたら……サラーマさんショックになっているのかもしれない。
◁
アプリのお陰で俺達が倒したモンスターの脅威度やレベル、助けた村の重要度などを数値化してどんどんポイントが加算されていき、リアルタイム順位がわかるようになっていた。
これのお陰で俺達はあの後はあまりふざけることなくたくさんの村を救出して回った。
おふざけができなくなった原因は、今は思い出したくない。 途中からは視聴者たちのためにずっと目を閉じていたし、心眼スキルでみてしまった光景はとてもではないが見せられない。
その後、目的にしていたフィロパトル王墓に一日掛けてたどり着いたが、ルタカの本拠地と思われる場所は見当たらず。 仕方がなくそこを根城にしていたモンスターたちを討伐して周辺の村を無差別に救出して回った。 無差別テロならぬ無差別救助!
ナイルバスターズというセンス皆無な名前をしたチームは俺達がポイントを稼ぐと、対抗するようにポイントを伸ばしていき、俺達もそれに負けじとメキメキとポイントを稼いでいく。
こうしてシーソーゲームが続く中、三日間の精鋭選抜が終了した。
「えー、精鋭チームに配属するのは……チーム【ゴットオブラーザ】の三人に決定したよ」
再度中庭に集合した俺達にそんな宣言を下すホープさん。 そして三人揃ってハイタッチを交わすチーム【ゴットオブラーザ】。
「わーはっはっはっはっは! 私と黒湖ナイルが手を組めば、首位を取ることなど容易い!」
「いやー、最後に恐竜種五体討伐できたのがでかかったっすね!」
「やはり黒湖さんとラーザ様の相性は抜群。 これからもサラーマさんなどと冒険するより、私達と行動を共にしましょう! そしてラーザ様のあんな表情やこんな表情をもっと拝ませて下さい!」
肩を組んで喜びを分かち合う俺達の隣で、全力で落ち込むサラーマさんたち。
「畜生! あと一歩足りなかったか!」
「あたしが二日目の朝に寝坊さえしなければ!」
「足引っ張ってすまなかったんだわさ。 あたくしなんかが貴方たちのチームに入って申し訳なかったんだわさ。 むしろ、あたくしがこの世界に転移してしまってすみませんだわさ」
ママに関しては入念なメンタルケアが必須だろうが、今は精鋭チームとしての重要任務をまっとうするために思考を切り替えなければ!
「そういうわけだから坊や。 ルタカをぶっ飛ばすのは君に任せるよ?」
「任せといてくださいよホープさん! 俺とラーザさんが力を合わせれば、怖いものなんて無いっすからね!」
胸を叩きながらそう宣言する。 すると、隣に立っていたラーザさんは突然息を呑んで、バチッバチッとまばたきしてから俺を凝視した。
「おい黒湖ナイル、貴様今の言葉をもう一度言ってみろ!」
『諸君、スクショの準備は十分か?』
『安心しろ、容量の空きも確保済みだ』
『この日のために4K録画を可能にしたんだからな!』
尻尾をブンブン振りながら面倒になりそうな事を言ってくるラーザさん。 ボール遊びしていた愛犬が、またボールを投げろとばかりに足元にボールを押し付けてくるような表情で。
そんな表情を向けられたもんだから、俺もついついヤケになって、
「ラーザさんが足を引っ張らなければ余裕だって言ったんですよ!」
「なっ! なんでそんな意地悪なウソを付くのだこのいけず! 私と力を合わせれば怖いものなんて無いのではなかったのか!」
「思いっきり聞こえてんじゃねえか! 何なのマジで? ほんと面倒くさいっすねこいつは!」
とまあお約束とばかりに喧嘩が始まり、ホープさんは盛大なため息を付きながらメメジェットさんの首根っこを掴んで作戦会議に向かうのだった。
もっとも、無理やり連行されたメメジェットさんは罵詈雑言をホープさんに浴びせ、必死に抵抗していたようだが……




