『ディスイズ修羅場』
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視聴者の皆さん、ここまで俺の心の声をご拝読してくださってありがとうございます。
突然ですが質問です、こんな経験はないでしょうか?
学校で好きな人とグループを組んでねと号令がかかり、いつも仲良く話してくれる友達を探してあれよあれよとしていたら、いつの間にか教室の中心で孤独を叫ぶハメになり、気がつくと目の前で繰り広げられる余り物のなすりつけあい。
これは拷問だ。 クラス内に混ざり込んだなんちゃってボッチを、魔女裁判の如く炙り出す拷問なのだ!
とまあ、くだらない質問をしてしまったのはさておき、現在俺たちは今後の運命を左右するグループ分けの時間になっているのだ。
そんなわけでちょっとしたトラウマが脳裏によぎり、呆けてしまっていたわけだが……
念のため言っておくけどさっきの話は関係ないよ? 本当に関係ないからね?
「三人で一グループか。 サナ、ナイル! 俺たちは引き続き三人で……って、なんのつもりだお前ら」
サラーマさんが嬉しいことを呟きながら俺に視線を送ってくれた。 よかった俺は今回ぼっちになるのは防げたようだ。
あ、今回っていうのは言葉のあやで、特に理由はないからね?
「残念だったなサラーマ。 黒湖ナイルはすでにグループが決まっている」
「そう言うわけですのであなた方はありたむさんでもメンバーに入れて我慢して下さい」
「あ、あたくし、あまり物扱いされてる気がするんだわさ」
俺の右腕にはメメジェットさんのシーツが絡みつき、反対側からはラーザさんが俺の肩に腕を回してがっちりホールド。
これは嬉しい状況、両手に花とはまさにこの状況下のことを言うのだろう。
「おいおい待てよお前ら。 俺とサナはここまでずっとナイルと行動を共にして来たんだ、後から出て来たお前らと組むより俺らと組んだ方が連携はスムーズだろ?」
「そうだにゃ! 昨日会ったばかりのありたむさんと組むより、ずっと一緒だったあたし達が組んだ方がいいにゃ!」
「あの、あたくしここにいるんだわさ? だからあんまりメンタル破壊しそうな喧嘩はしないで欲しいんだわさ?」
ママが涙目になっている件に関しては居た堪れない気持ちになるが、なんだか不穏な状況である。
『グループ分けか……』
『うっ、あの日の黒歴史が!』
『同志がいたみたいで安心したよ』
どうやら視聴者の中にもグループ分けにトラウマを持っている人がいたようで安心した。
「おいおい寝言をほざくなサラーマよ。 貴様らはレベリングをしていたから高レベルなのかもしれないが、我々はシリス様の体集めに紛争していたからまだ全職業平均レベル三十なのだ」
「せっかくレベルアップしたのにー、黒湖さんがいないと魔物とも戦えないんですかー?」
メメジェットさんが取り巻きの如く煽り散らしている。 それに対し、顔色を変えてしまうのはサラーマさん。
「うぐ、確かに俺たちは以前より見違えるほど強くはなったが……」
「サラーマさん騙されちゃダメにゃ! こいつらはナイルくんと一緒のチームになりたいだけにゃ! 下心丸出しにゃ!」
「お前が言うでないこの泥棒猫め!」
「にゃにを! 吠えるだけしか脳のない泣き虫犬め!」
「あ、あの! 二人とも落ち着いて……」
不毛な争いを避けるため、俺は慌てて仲裁に入ろうとしたのだが
「貴様はどうなのだ黒湖ナイル」
「ナイルくんはどっちと組みたいかにゃ?」
余計面倒なことになってしまった。
『ディスイズ修羅場』
『やめて、俺のために争わないで! って言ってみてw』
『もうくじ引きにしろよ』
視聴者がナイスすぎるコメントをしてくれた。 天才かもしれない。
「ここは間をとってくじ引きなんてどうでしょう?」
遠慮がちにそう告げてみる。 すると、
「運任せということか、確かにそちらのほうが良さそうだ」
「それなら方法は一つにゃ!」
なぜだろうか、くじ引きを提案したのに、サナさんは両手を組み合わせて組んだ手のひらの中を覗いており、ラーザさんに関しては謎に肩を回してウォーミングアップを始めた。
「先にどっちがどっちか決めておこうではないか」
「負けた方がありたむさんに決まってるにゃ」
「あ、あたくし、完全にお荷物扱い……そうだわよね、固有スキルを盗まれたマヌケな転移者なんて、お荷物以外の何者でもないわさ」
突然虚な瞳で虚空を見上げ、ほろりと涙をこぼしながら呟き出してしまうママ。
もうやめてあげて欲しい、ママのメンタルが真っ白に燃え尽きてしまう。
「じゃん」「けん」
「「ぽん!」」
こうして、チーム分けは平和に終了してくれたのだった。
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そんなわけでチーム分けもすんだ俺達は、早速とばかりに魔物狩りへと足を向けていた。 襲われている町や村は確認されているだけでも数十件に及ぶ。
「ふははははは! こうして黒湖ナイルと肩を並べて戦う機会が、こんなにも早く訪れるとはな!」
「今回はレベル差が大きいから競い合わないって話しじゃありませんでしたっけ?」
「うむ、そのとおりだ。 それに、今回黒湖ナイルと私たちは同じチームの運命共同隊だ! 競うべき相手は他にいる!」
「ご安心をラーザ様! 黒湖さんに頼らなければ何もできない愚物など、ラーザ様の敵ではありません!」
『ナイル氏、あとでママのメンタルケアを怠るなよ』
『ラーザ様はいつにも増してテンションが高いw』
『尻尾の振りがいつにも増して早いもんな』
弾むような足取りで俺の隣を駆けているのはラーザさん。 あのじゃんけんの勝者はまさかのラーザさんだったのだ。
勝利を確信した瞬間に周りの目を一切気にせず、飛び上がりながらガッツポーズを掲げていた彼女には奇異な視線が集まっていたが、メメジェットさんは喜びテンションが上っているラーザさんを拝めて幸せだったのだろう。 その証拠にシーツが真っ赤になっている。
「後数分も走れば魔物の目撃情報があったケーネ村です、備えて下さい!」
地図とにらめっこしながら効率的なルートをメメジェットさんが決め、彼女の指示に従って街道を駆け抜けている最中だ。
「報告を聞く限り、おそらく奴らはシリス様の体を封印しているダンジョン周辺の街から攻める布陣なのでしょう」
「となるとここから一番近くにあるテンティリス神殿に向かうのか?」
「そうですね、そこなら通り道なので問題ないでしょう。 魔物の討伐数も評価に影響があるようですし、見つけた端から潰していきましょう」
小走りで三人並走しながら計画を立てていく。 本当だったら入念に計画を立てたいところだが、そんな悠長なことをしていたら手柄を他に取られてしまう。
それに、メメジェットさんはルタカの行方に心当たりがあるらしい。
「今回の精鋭チーム選抜戦なのですが、おそらく優先的に選ばれるのはルタカの居場所を突き止めたグループが濃厚でしょう。 やつがいる場所さえわかればそこから襲われそうな村や町の特定も可能ですし、魔物が集中している地点も絞り出せます」
「その口ぶりだとすでに検討はついているのか?」
「無論です。 私たちがヤツを最後に目撃したのはタップマグナの街。 そこから最も近くにあるダンジョンは一つしかありません!」
メメジェットさんは地図を俺達に見せながら、できる秘書みたいなキリッとした視線を向けてきた。
「なるほど、イペレスト神殿か!」
「それは逆方向です。 フィロパトル王墓に決まっているでしょう? 地図も読めないのですか愚か者!」
『相変わらず方向音痴で草』
『メメジェット氏の侮蔑はご褒美』
『ナイル氏ファインプレーだ』
丸めた地図で頭をひっぱたかれた俺は顔をしかめていたのだが、呑気に喧嘩をしている状況でもなくなってしまった。
「おい黒湖ナイル、前を見てみろ!」
ラーザさんに声をかけられて視線を前に送ってみると、数メーター先の大地に不自然なほどの土煙が上がっており、ぼんやりと村の外観が確認できた。
「かなり魔物の数が多そうですね」
「まさか黒湖ナイル、日和っているのか?」
「まさか、今度はちゃんと挑発スキル使ってくださいよ? 倒した数で勝負とか言うほどの余裕はなさそうですから」
武器を構えながら言葉を交わすと、ラーザさんはおかしそうに鼻を鳴らした。
「私もそこまでバカではないさ。 なんせこの数週間、ただただシリス様の体を集めていただけではないのだからな」




