『ここはいつから固有結界になった?』
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翌日、あれよあれよとしている間に、いつの間にかアジトの中庭に呼び出された。
昨日はトト兄妹も忙しそうだったし、サラーマさんもしごかれて涙目だったから励ますのに苦労した。
呼び出された中庭には人がごった返しており、油断すると仲間達とはぐれそうだ。 なんて思ってる矢先、すでに二名ほど姿が見えなくなっている。
「めっちゃ人がいっぱいいるけどなんの集まり?」
「黒湖さん、団長さんの話聞いてなかったんですか?」
「これから私たちファイヤーム傭兵団は盗賊共掃討作戦に当たるのだ」
昨日バースィラ団長が伝えた事実。 この傭兵団を三つのグループに分けるという話しだった。
ひとつめは防衛班。 このグループはラーザさんが間一髪で取り返したシリスの体を死守するためのグループだ。
ルタカの狙いはシリスのセルフ復活と暗殺。 それをするためには嫌でもシリスの体が必要になるため、やつらは必ず奪いに来る。
そのためシリスの体を奪い返そうと企む、ルタカ率いる盗賊団を迎撃する猛者が必要になるわけだ。
ふたつめは殲滅班。 こちらは割と単純作業。 周囲の村や町はルタカ率いる盗賊団の略奪被害にあっており、避難してきた村人たちが各地の大都市に集結しているらしい。
もしかしたらルタカは、シリスの暗殺が成功したあかつきには反乱でも起こし、この国を乗っ取るつもりなのだろうか?
そんなわけで傭兵団の面目的にも襲われてる村や町は放っておけないわけだ。
そしてみっつ目のグループ。 精鋭班。 シリスの体防衛と周囲の村を襲うモンスターの殲滅。 こちらに大多数の隊員が割かれてしまうため、元凶であるルタカ本人を見つけたとしても討伐に行けるメンバーは限られる。
しかし討伐に向かわせるメンバーを適当に選んでしまうと、やつの固有スキル【希望の簒奪者】によってスキルを奪われ、相手を強化してしまうことになるだろう。
そうなってしまえば目も当てられない。 よってルタカを直接ぶっ倒すのは少数精鋭を選抜した精鋭班の仕事となる。
言うまでもなく精鋭班は少数で固め、このファイヤーム傭兵団の中でも指折りの実力を持った者たちで編成するべきだろう。
おそらく、俺達がこうして中庭に集められたのはこの班分けを発表するためだ。
中庭の中心に俺の身長よりも高い台が設置されており、みんながそちらへ注目を集めていた。
一緒に並んでいた愉快な仲間たちも緊張の面持ちだ。 しかし不可解な点が一つだけある。
それは、トト兄妹と途中ではぐれたことだ。
「緊急招集に応じた愛すべき仲間たち。 今日はお前らに重大任務を発表するために集まってもらった!」
強者の風格を帯びた凛とした声音が響き、空気が一瞬にして緊張する。
俺達の視線の先に設置されていた台の上に、一人の女性が堂々と登っていく。
頭頂部で括った新緑色の髪をふりふりと振りながら、睨まれただけで石化してしまいそうな鋭い目つきを光らせ、中庭に集合した数百人の傭兵たちに視線を巡らせた。
「知ってるやつもいるかも知れねえが、アタイらの倉庫が盗賊共に襲われた! 襲った盗賊グループはかの有名なアポフィス! 盗まれたのは、お前らが集めてくれたシリス様の体だ!」
困惑したようにざわめき出す傭兵たち。 どうやら初耳だったものも複数いるようで、その動揺のさざめきはすぐさま放たれたバースィラ団長の言葉で掻き消される。
「アタイらは王国からの依頼でシリス様の体を死にものぐるいで集めてる。 そんなアタイらが血と汗を流して見つけた大切なもんを、盗賊ごときに奪われたんだ。 いくら相手があの悪名高いアポフィスだったとしてもよぉ。 黙ってやられるだけってのは、アタイらのポリシーじゃねえ!」
「そうだそうだ!」
「俺達の恐ろしさを思い知らせてやるんだ!」
「全員まとめて血祭りにしてやるぜ!」
傭兵たちの士気が一気に上昇し、怒りとともに鼓舞の叫びが所々から上がる。 だから俺も負けじと声を上げることにした。
「然り! 然り!」
『ナイルくん。 今真面目なところだから』
『おーららららららららららららら!』
『ここはいつから固有結界になった?』
俺の鼓舞を聞いて、隣からジト目を向けてきているメメジェットさんは意図的に見ないようにして、周りから上がる気合の怒声に混じって然りコールを連呼する。
「てめぇ等もアタイと同じく憤ってんなら、その怒りを存分にぶちまける機会をくれてやる!」
「「「うをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」
「然り! 然り!」
傭兵達と俺の雄叫びで地面が揺れる。 のだが、
「ナイルくん、うるさいにゃ」
「もしや黒湖ナイル、貴様団長をおちょくっているのか?」
「おいおいナイル、その言葉の意味は難しくて分からんが、悪ふざけしてるのは俺でもわかるぜ?」
「流石に今ふざけちゃうのは違うと思うんだわさ」
「いい加減にして下さい黒湖さん」
超ノリノリで聖銅の錫杖を地面に叩きつけていたのだが、頭をひっぱたかれて黙らされてしまった。
「そういうわけだからよ。 今からこいつらに秘策を伝授してもらうぜ?」
ニヤリと笑みを浮かべながら背後を指し示すバースィラ団長。 指し示された先から満を持して登場してきたのは……
「あいつらなにしてんの?」
もしかしなくてもトト兄妹だった。
『いつの間にかバースィラ団長のおつきの人になってる』
『昨日の会議の後なにやら慌ただしくしてた理由が判明』
『あのおつきの人たち、もしかして紋所でもだすのかな?』
意気揚々と登場してきたトト兄妹に注目が集まり、傭兵たちの多くは誰だあいつとざわざわし始めるのだが、そのざわめきの中には驚愕の声がちらほらと混ざっていた。
「あれって、トト兄妹じゃない?」
「生の二人を見たのは初めてだ! あいつらも転移してたのかよ!」
「あの兄弟がいるんなら、俺達絶対勝てるじゃねえか!」
おそらく声の主は転移者たちだろう。 トト兄妹の有名さを改めて知ることになり、そんな人達からレベリングしてもらったという事を自慢したくなってしまった。
「お初にお目にかかる。 私の名前はトト・ホープ。 見ての通りウィザードだ。 こちらは妹のハート。 縁あって、バースィラ団長直々に右腕と左腕の称号を授かった」
ホープさんの声を聞き、ざわめきが強まっていく。 どうやらバースィラ団長が認めた人物という事実があるだけで、トト兄妹を始めて見たという元NPC達も文句を言おうなどと思わないようだ。
その証拠に俺の隣に並んでた元NPC達も目をまんまるに見開いている。
「おいおい嘘だろ?」
「右腕と左腕って、バースィラ団長との模擬決闘に勝利したってことかにゃ?」
「先日、ホープ殿の立ち回りをこの目で実際に見ていた故只者でないというのは分かっていたが、まさかこれほどとは」
サラーマさん達が驚く中、隣にいたメメジェットさんがこっそり耳打ちしてくれる。
「実際、バースィラ団長との決闘は、ゲームだった時もあったイベントです。 エンドコンテンツなのでクリアできなくても支障はないクエストだったはずですが、さすがはガチ勢」
バースィラ団長に認められるためには、身代わりマントを使った模擬戦闘に勝たなくてはいけないようだ。 実際にゲームだった時のヘリポリにも団長に一騎打ちを挑めるというエンドコンテンツが存在したとか。
しかしこれがかなりの高難易度らしく、相当やり込んだプレーヤーでも攻略できたのはごく僅かだったらしい。
一度ゲームをクリアしたことがあるという話しだったメメジェットさんが動揺しつつもわかりやすく説明してくれた。
「そんなわけで今回の班分けは私たちに一任されている。 これから言うことをよく聞いてくれ」
堂々と声を上げているホープさんに対し、ハートちゃんは終始直立したままだった。 多分あの子、大勢に見られて緊張してるんだろうな。
もしかしたらすでに気絶しているのかもしれない。
「まず、防衛班は私たちと団長を合わせた三人だ」
驚きの発表を聞き、静まり返る傭兵たち。 しかし、静寂は一瞬だった。
「ざけんじゃねえぞてめぇ! 舐めてんじゃねえだろうな!」
「そうだそうだ! この作戦では防衛班もかなり重要なはずだ! それを三人だと? そんな馬鹿げた作戦に納得できるか!」
野次が飛び交い耳をふさぎたくなるほどの騒音になった。 しかしこんなにも悪意を向けられているというのに、ホープさんは意味深な笑みを浮かべながら、
「文句があるやつがいるのなら、全員まとめて相手をしてあげよう。 安心したまえ、無論私が一人で相手をしてあげるから」
全く声を張ったわけではないというのに、一瞬にして凍りついたように静まり返る。
俺ですら身の危険を感じるほどの殺気を放たれたのだ。 変な話、少しでも動いたら攻撃対象にされそうで冷や汗が止まらない。
この人の身代わりマントを一度破壊した事があるが、あれは紛れもなくまぐれだったんだということと、ホープさんが実力の三分の一も出していなかっただろう事実を思い知らされる。
その圧倒的な威圧感と殺気に当てられた数名の傭兵たちは、腰を抜かして地べたに座り込んでしまうほどだった。
「おや? 威勢の割にはみんな揃ってずいぶんな腑抜けだね。 まあ、力の差もわからないバカがこの場にいなかったということで良しとしよう」
先程の威圧感が嘘のように、機嫌良さそうに鼻を鳴らしながらそう告げると、ホープさんはおもむろに指を三本立てた。
「ではこれから、ここにいるみんなには三人一組になってもらうよ。 三人一組で一チーム。 これから三日間かけてこの町周辺に散らばり、見つけた端から魔物を討伐、より多くの村や町の救助、ルタカの根城を特定。 この三つの条件を文句なしに達成したチームを精鋭チームと格付けし、ルタカの討伐に向かってもらう」




