『団長ごときに負けるとは、セベック族の面汚しよ』
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ここまで聞いた話をまとめると、ホープさんはこの数日間で様々な問題に直面していた。
まずはルタカという転移者との遭遇。 この転移者は固有スキルで強力な力を手に入れたため気が大きくなっていて、とある計画を実行しようとしているようだ。
シリスの体をかき集めて復活させ、それを殺害するという悪魔のような計画。
ゲームのメインストーリーではこのシリスの体をかき集め、現ファラオであるハレンドスさんに提出し、シリス様を復活させてエンディングとなるのだが、そのシリスを殺害してゲーム自体をクリアできなくしてしまおうという計画なのだ。
そのためルタカはファイヤーム傭兵団で募集していたシリスの体捜索隊に潜り込み、任務先で一緒になったママを襲って固有スキルを簒奪した。
ママの固有スキルは【生命の産出者】、自身が描いた生き物を召喚することができるという少々尖った性能をしたスキルだったのだが、これを手にしたルタカはゲーム内知識を利用して危険モンスターを次々と産み出した。
理不尽な強さに設定された恐竜系モンスター、プレイヤーに様々なデバフを与えてくるアンデット系モンスター。 他にも耐久力に優れるゴーレムや攻撃力に特化したサイクロプスなど。 上げればきりがないほどに厄介なモンスターを次々と産み出し、本来なら単騎で相手するのも厄介なモンスターの群れを作り出した。
そうして力を得たルタカは十二個目のダンジョンに入るために発生するイベント、盗賊団撃退依頼で出てくるアポフィスという大規模盗賊団と結託した。
アポフィスと結託したルタカは盗賊たちに魔物の支配権を譲渡し、シリスの体が封印されているダンジョン周辺を徘徊させているようだ。
各地に散ったホープさんの分身体もそのアポフィス率いる魔物の軍勢に蹴散らされ、ホープさん本体も十二個目のダンジョン入口にあるタップマグナの街でルタカと戦ったようだが、不意を突かれて固有スキルを盗まれてしまったらしい。
その時の戦闘でルタカの計画を耳にしたようで、このままではシリスが暗殺されてしまうという危機に気がつくことができたのは不幸中の幸いだろう。 ラーザさんやメメジェットさんはホープさんが全力で守ったようで、この二人の固有スキルも盗まれずに済んでいた。
現在もルタカは大量に召喚した魔物の群れを盗賊達に率いさせ、ここいら一帯の町や村を襲わせているらしい。 そこらじゅうで無慈悲な略奪が今も続いているようだが、現在の状況では対応が難しい。
やむなく撤退したホープさんは、すでに提出されていたシリスの体を守るため慌ててファイヤーム傭兵団の倉庫に直行したようだが、時すでに遅く。
盗賊たち率いる魔物の群れに襲われており、そこで戦闘中だったママと合流したという流れだ。
「あたくしはルタカのやつにしてやられたせいで固有スキルがない一般人になっちまったもんだから、仕方がなくファイヤーム傭兵団が管轄する倉庫の護衛っていう地味な任務をこなしてひもじい生活をしてたんだわさ」
「ハズレくじ引いたってことだね」
「ホープさん達が駆けつけてなかったら、今頃死んでたかもしれないんだわさ」
『なんだかもしかしなくてもやばいことになってないか?』
『早くルタカをぶっ飛ばしに行かなくていいの?』
『おいおい落ち着け、策もないのに正面突破は流石にやばいでしょ』
視聴者たちも今回ばかりはざわついている。 俺も話を聞いていた限り深刻すぎて焦燥感にかられてしまっているが、具体的にどうしたらいいのかさっぱり思いつかない。
「安心したまえよ坊や。 なにも私はただただルタカに惨敗して逃げ帰ってきたわけではない」
そう言って得意げな笑みを浮かべながらバックからとある箱を取り出した。 その箱は俺が初めて入ったチュートリアルダンジョンの奥地で発見した箱にそっくりな見た目をしている。
「それは、シリス様の体の一部かにゃ?」
「ああ、私たちは倉庫が襲われた後の現場に到着してだな。 そこで死にかけていたありたむから情報を聞き出し、慌てて後を追ったんだ」
「ラーザ様にかかればあんな盗賊風情、いちころですからね」
褒めて褒めてとばかりに尻尾をブンブン振り回すラーザさんと、その様子を横目に見ながらうっとりしているメメジェットさん。
「いやはやラーザちゃんの鼻の良さには感服だったよ。 こちらのチームにラーザちゃんがいて本当に助かった。 彼女がいなければ今頃取り返しのつかないことになっていたかもしれない」
苦笑いを浮かべながら肩を竦めるホープさん。
「まあ、取り返せたのはひとつだけだったがな」
「ばらばらに逃げられたのですから、仕方がないですよラーザ様」
しゅんと肩を落としてしまったラーザさんの肩に、シーツに包まれた手をポンと置くメメジェットさん。
この人はラーザさんに甘い。 甘やかすのは教育によくない気がする。
「つまり、俺達はこれからラーザさんが取り返したシリスの体を死守しないといけないってことですか?」
「様をつけろ黒湖ナイル! 不敬だぞ!」
「そうだそうだ、不敬ですよ黒湖さん!」
いちいち突っかかってくるラーザさんたちにため息をつきたい気分だが、今は面倒だから素直に「シリス様の体ね、はいはい」と訂正しておく。
今後の方針がなんとなく分かってきたところで、タイミングよく入口の扉が開かれた。
「面倒な説明は終わったかよ?」
扉が開いた先には先程サラーマさんを拉致してどっかに行っていたバースィラ団長。 プラスアルファで白目をむいたまま引きずられてきたサラーマさん。
なんだかサラーマさんは最近散々な目に会ってる気がする。
「んで、話の流れは大体わかったか? クソガキ」
「初対面でクソガキ扱いされるのは釈然としませんが、まあ大体の状況は掴めました」
「そーか、だったらこれからアタイは何をすると思う?」
どうやらこの人は俺を試しているらしい。 こんなにも攻撃的な視線を送られているのなら、起きるイベントは一つしかない。
「ふふふ、サラーマさんはやられたようだな」
やれやれと肩を竦めながら立ち上がる俺に、不思議そうな視線を送ってくるバースィラ団長。
しかし俺は鼻にかけたような声で、一度は言いたかったあのセリフを口にする。
「ふはははは、サラーマは四天王の中でも最弱!」
「このおバカさんは何言ってるのかにゃ?」
『団長ごときに負けるとは、セベック族の面汚しよ』
『お前は団長と戦いたいから煽っているようだが、実は煽らなくても戦える』
『ナイルには生き別れた妹がいるような気がしていたようだな、実はそんな事無かったらしいがw』
ノリの良い視聴者に対し、こいつ何言ってんの? と言いたげな顔を向けてくるサナさん達。 唯一ママだけは吹き出していた。
「てめぇもアタイの稽古を受けてえのか? だったら別に構わねえが」
「遠慮しておきます」
「何が言いてえんだこのガキは?」
呆れたように顔を引き攣らせるバースィラ団長。
完全にシラケてしまったが、これはノリの悪い人が多いせいだと思う。 特に元ネタ分かってるくせに知らんぷりしてるママ以外の転移者共、責任取ってくれ。
「すまない団長。 坊やには信者のお告げという固有スキルがあってね」
「別世界で平和に暮らしてる人間たちの声が聞こえるから、たまに変なこと言い出してしまうんです」
「おい廃人兄妹、俺のことを頭がおかしなヤカラみたいに扱うのはやめろ」
「はぁ……本当に愚か」
団長に媚びへつらっていたトト兄妹に思わず細目を向けてしまう。 メメジェットさんに関しては聞こえるか聞こえないかの音量でため息交じりに一言。 精神的に辛い。
いたたまれない空気を感じ取ったのか、バースィラ団長はボリボリと後頭部をかきながら俺を指さしてきた。
「ともかくな、そこのガキはなんにも分かってねえみてぇだから特別に教えといてやる。 今はそこにいるホープのお陰で盗賊共の思惑を阻止できているかもしれねえが、それも時間の問題なわけでな。 そこでアタイはファイヤーム傭兵団全隊員に緊急招集をかけた」
団長の見た目からして、この後起きるのは力試しとばかりに中庭での組み手稽古かと思ったが、そんな事はないらしい。 久々にモンクにジョブチェンしたから本場のモンクと手合わせ願いたかったが、今は状況が状況だし我慢するとする。
「これからアタイの傭兵団を三つのグループに分ける。 ひとつはシリス様の体を守護する防衛班。 ふたつ目は周囲の村や町を襲ってる魔物を駆逐する殲滅班。 そして最後のひとつ。 これはいちばん重要なグループだ」
一本ずつ指を立てながら説明してくれていた団長が、突然もったいぶって謎の間をおいた。 ムズムズするから早く教えて欲しい。
「ルタカとか言うクソッタレを発見し、直接ぶっ飛ばしに行く精鋭班だ」




