『はたして責任とは、なんの責任なのか?』
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地獄のモンスターハウス周回は三日目に突入した。 現在、俺の職業はウォーリアー。
モンクのレベルは二日でMAXになったため、それ以降は他の職業レベルを満遍なく上げていく流れだ。
専門職として選択した職業は優先的にマックスにし、他の職業は満遍なくレベルを上げていくらしい。 ご察しの通り俺は専門職をモンクにした。
なんとなく馴染みがあるし、自己バフは信者の声援と相性がいいからだ。
他の職業のレベリングは順調で、レベル三十から六十まで上げるのにモンスターハウス三箇所も回れば十分達成できるし、何なら最近はレベルも上がってきたためモンスターハウス攻略にさほど苦戦しなくなってきている。
午前中の内に職業レベルを六十まで上げて、午後はシーナイに戻ってジョブチェンジというルーティーンさえ出来上がっているくらいだ。
それぞれ専門職をレベルマックスにしてからはモンスターハウスの攻略に対して手こずらなくなったため、今日からはモンスターハウス一つにつき単騎で攻略だ! なんて無茶ぶりをされる始末。 その無茶振りを難なくクリアしてしまったことには驚いたが……
ちなみにサラーマさんやサナさんですら、ハートちゃんのバフありとは言えモンスターハウスを単騎で攻略できるほどにまで成長している。
もはや向かうところ敵なし状態である。
そんな俺にも悩みはある。 そして今、俺は悩まされているそれと睨み合っているのだが……
『今日もこの時間がやってきたか』
『モテモテだなぁナイルくん』
『俺はこの時間を楽しみに仕事頑張ってたんだ』
宿屋のベットに寝転がり、握りしめているスマートフォンをじっと睨む。
俺達が持つこのスマートフォン、正式名称は冒険者端末といい、自分の持ち物の確認からステータスの確認。 特定のクエストを攻略するとレアアイテムレーダーや危険モンスター攻略図鑑などの便利アプリをダウンロードできるという素晴らしいアイテムなのだが、このスマホにはあまり使われていないはずの機能がある。
ずばり、通話機能である。
本来なら、このゲーム内のスマホを使わず、それぞれのプレーヤーがダウンロードしていたゲーマー用通話アプリを使って連絡を取りながらマルチプレイを楽しんでいたのだろう。
そのせいでこのゲーム内に搭載されている通話機能など使うプレーヤーはいなかった。 その文化はNPCたちにも浸透していたようで、異世界転移してからというもの、この通話機能を使っている人はまず見かけない。
だというのに、着信を知らせる通知と共に、俺のスマホにはとあるプレーヤーの名前が映し出されている。
「うぅ、出ないとなにされるかわからないからなぁ」
おれは眉をしかめながらもスマホを耳に押し当てた。
「はい、もしもし」
(遅い。 何をしていたんですか? この私を待たせるとはいい度胸じゃないですか)
「いえいえ、ちょっとレベリングで疲れておりまして」
(口答えとは随分と偉くなりましたね。 この前のこと、私は忘れていませんからね?)
「うぐ、もうあのときのことは忘れてくださいよ」
『忘れはしないあの日の出来事』
『いいぞいいぞ、もっといじめられろナイルたん!』
『心眼スキルは諸刃の剣w』
そう、電話の相手はメメジェットさん。 レベリングツアー初日の夜から毎日のように電話がかかってきている。
きっかけはレベリングツアーに出立する前の夜。 パラディンのジョブチェンダンジョンで基本レベリングが終わった俺は夕食後に夜風に当たっていたのだが、そんな時にしれっと俺の隣にメメジェットさんが座ってきた。
メメジェットさんはいつもシーツを被っていて、何を考えているのかはっきり言ってわからない。 それもそのはず、表情が見えないのだからシーツの下でゴソゴソしてても何を企んでいるのか分からないのだ。
そんなわけでしれっと隣りに座ってから脈絡のない話しばかり振ってくるメメジェットさんにじれったくなった俺は、とある思いつきから人生最大の過ちを犯してしまう。
元々俺はこの世界に転移したばかりの時、心眼スキルを手に入れることを第一目的として冒険してきたのだが、その心眼スキルを手に入れたばかりだったということで少々気が緩んでいたらしい。
心眼スキル、それは目を瞑っていようと、視界が遮られていようと周囲の景色を透視して確認することができるスキルで、壁の向こうが見えたり暗闇状態になっても周囲の様子をしっかり確認することができたりと、わりかし便利なスキルなのだ。
だから俺はその心眼スキルを使い、メメジェット氏のシーツを透視して表情を確認、コミュニケーションを円滑にしようとしてしまったのだ。
だがそれが間違いだった。 その時たまたま、というか意図的に俺達の話しを盗み聞きしていたラーザさんが近くに潜んでいたのだ。
これがラーザさん以外の人だったら今ごろこんな面倒なことになっていなかっただろう。 しかし、神は俺を見放したようだ。
ラーザさんが持つ固有スキル【性能看破】は相手が覚えているスキルや、現在使用中のスキルを看破することができる。
もう一度言う。 現在、使用中の、スキルを、看破、できる。
つまりこの時、数時間前にお別れだと思いこんでた相手とばったり再開し、夕食の席では気まずすぎてお話できなかったため、ちょっとさみしいななんて思って俺の様子を盗み見ていたラーザさんは、俺がメメジェットさんと会話している最中に心眼スキルを使用したことを看破してしまったのだ。
心眼スキルで見えたものはスキルを使った本人にしかわからない。 だからそのスキルで何を見たのかと問いただされたところで、なんとでも言い訳できてしまう。
何が言いたいかと言うと、こんな勘違いをされてしまったのだ。
(人の裸を盗み見ていたくせに、忘れてくれだなんて無責任なことを口走るなんて、溺死案件ですか?)
「はい、すみませんでした」
(私との約束、忘れたわけではないですよね? ちゃんと責任は取ってもらいますからね)
『ぶひひひひ、耳が幸せだ!』
『はたして責任とは、なんの責任なのか?』
『ああ、メメジェット氏に口汚く罵られる度に、脳が……震える』
そう、俺は決して、決して破廉恥な理由で心眼スキルを使ったわけではないが、それを証明する手段がない以上、女性の前で心眼スキルを使用するのはご法度だったのだ。
この事件が原因で、おれはラーザさんから痴漢のように摘発されてしまった。
とまあそんなこんなで駆けつけたラーザさんに締め上げられ、俺はしくしく泣きながらメメジェットさんの前で正座をさせられた末に、こんな罰則を下された。
(これから毎日、夜の九時になったら私と通話してもらいます。 その際、私からの連絡はワンコール以内に応じること。 私の質問には嘘偽りなく答えること。 私と別行動をしている時は、その日に起きた出来事を必ず詳細に報告すること!)
『典型的な束縛の鬼、これはご褒美です』
『これぞ世に聞く地雷女w だがそれがいい!』
『ナイル氏はとんでもない大当たりを引いてしまったのだw』
スマホを持ってモジモジしていたのは俺の連絡先を聞きに来たからで、どうやら連絡先を交換したかった理由はチーム間の連絡を円滑にするためだったらしい。
俺も鈍感な訳では無いため、もしかしたら俺の異世界生活に青春の嵐が来るのか! とも思ったが、メメジェットさんいわく「サナさんとハートちゃんの身が心配ですので、変な気を起こせば私が直接注意勧告を告げますからね!」という理由らしい。
俺の自由はあの日の夜に失った。 今もこうして気乗りしないままメメジェットさんに今日の出来事を詳細に報告することになっている。
それが守れないのなら俺が裸体を覗き見たという濡れ衣をこの世界の人々に周知して、俺の社会的立場というものは崩落させられるらしい。
そうなれば、俺はメメジェットさんに顎でこき使われる奴隷のような存在になってしまう。 今の状態でもそうなっている気がしなくもないが……
(ちょっと黒湖さん! ちゃんと話を聞いているんですか?)
「あっ、はい! 聞いてますすみません!」
(分かってるなら返事! さあ、今日あったことを包み隠さず報告して下さい?)
こうして今日も疲れているというのに、一日の間に何があったのかを報告し、サナさんと仲良く話してるエピソードを説明すれば
(この女ったらし、不潔です。 それはセクハラですから気をつけないとダメですよ!)
などと理不尽なこと言われるわ、ハートちゃんと喧嘩しているエピソードを話してみても
(ハートちゃんと随分仲がいいんですね? 相手は年下ですよこのロリコン! 恥を知りなさい恥を!)
と罵られ続けている。 サラーマさんとのエピソードを話すと何故かご機嫌になる理由はよくわからんが。
毎日こんなに罵られ続ければ、精神崩壊待ったなしである。
『なんて甘いラブコメなんだ』
『メロンよりも甘いラブコメで胸焼けです』
『もうお前たち、くっついてスイカになっちゃいなよ!』




