『ふはは、我々のありがたみを存分に味わったか』
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モンスターハウスでの死闘は数時間に及んだ。 幸いにもハートちゃんのバフがあったおかげで魔物自体は大した脅威ではなかったが、数がとてつもなかったのだ。
導きの光を背にひたすらに武器を振り続けていた俺達は、敵が出てこないのを確認して血まみれの地面に脱力して倒れ込む。
周囲にはアンデットの残骸が山のように積まれており、アシッドゾンビのお陰でとんでもなく臭いのだが、そんな事どうでも良くなるような疲労に包まれている。
「もう、腕が上がらないにゃ」
「なんだよこれ、こんなきついだなんて聞いてねえよ」
「これくらいで音を上げるなんて、まだまだだね!」
「うるさいよこしまえロープレ」
「ん? こしまえろーぷれ?」
俺のツッコミに対して不思議そうに首を傾げるハートちゃん。 しくった、あの子は無自覚であの名言を言っていたのか。
『ちょっと、審判の人? コールまだ?』
『俺は上に行くよ』
『モンスターハウスって楽しいじゃん』
ハートちゃんの無自覚な名ゼリフに反応して盛り上がるコメント欄。 俺はぶっ倒れながらもポケットからスマートフォンを取り出し、現在のステータスを確認。
「うそっしょ? レベルが二十も上がってんじゃん」
驚くべきことにモンスターハウス一回の挑戦でレベルが二十も上がっていた。 ここに入る時はレベル三十だったのだが、たった一度のモンスターハウス攻略で高レベルプレーヤーに片足を突っ込むことができた。
今回のレベルアップで新たなスキルもたくさん増えたため、息が整ったらそのへんの雑魚モンスターで試してみたいとワクワクす……いやいやまてまて、俺はもしかしなくてもハートちゃんの鬼畜レベリングのせいで脳内毒されているのではないか?
そんなふ風に思ってプルプル頭を振っていると、ハートちゃんもポケットに入れていたスマートフォンを取り出す。
「ふむふむ、討伐数は四人合計で約五百か。 今回は大当たりだったね」
「「「五百?」」」
三人の驚愕の叫びが重なり、満足そうに頷くハートちゃん。
「このダンジョンのモンスターハウスはアンデット系が固定で出てくる。 つまり神聖領域を展開すれば余裕で勝てるのさ」
「余裕とは程遠かったですけどね」
「そんなわけで次に向かう場所では機械系モンスターがポップする。 こっちに関しては【破壊の化身】っていうウォーリアーのスキルが効果的。 ボクが君たちにこのスキルを付与するからその状態で無双してもらうからね」
さらっととんでもないことを言い出すハートちゃん。 なんだか彼女が告げた言葉のニュアンス的にはこれから次のダンジョンのモンスターハウスに向かうと言っているように聞こえる。
「あの、ハートちゃん。 俺もう限界」
「いやいや、なに甘ったれたこと言ってるのかな少年」
ハートちゃんはサディスティックな笑みを浮かべながら左目にかかっていた前髪をふぁさっと弾く。
「今、ここで限界を超えないと、いつ限界を超えるんだい?」
なんかいろんな名言が混ざっているように聞こえてくる。
『今ここで限界を超えろ』
『限界など、とうの昔に超えている』
『いつやるか? 今でしょw』
「最後の名言はジャンルちげーだろ」
「視聴者と楽しく話してるってことは、まだまだ余裕があるってことだよね?」
ハートちゃんは俺を怖がらせないよう笑顔を貼り付けているようだが、それが逆に怖かった。
鬼教官ハートちゃんに首根っこを掴まれた俺は、悲鳴を上げながら床にしがみついて抵抗を示したのだが、アサシンの【眠りの霧】というスキルで眠らされて抵抗むなしく次の地獄へと放り込まれることになってしまった。
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結局、モンスターハウスは三箇所巡ることになった。 アンデットモンスターが固定で出てくるケオプス王墓。 機械系モンスターが固定で出てくるケフレン王墓。 そして最後は鉱物系モンスターが固定で出てくるミケリノス王墓。
この三箇所でモンスターハウスを発見し次第突貫。 ひたすらにモンスター討伐をし続け、今日だけで討伐したモンスターは軽く千を超えた。
というか、千より先は覚えていない。
「すげーな、今日だけでレベルが七十五まで上がっちまったぞ」
「その代わり腕の感覚ないにゃ。 後半はレンジャーなのに蹴りで戦うハメになったにゃ」
「弓使いの蹴りって萌えますよね。 ぬふふ」
「お前って本当にマニアックな趣味してるよな」
『そう言えばナイル氏って、異常に弓キャラ推してるよなw』
『勘違いすんな、こいつは声優さんで推しを決める声豚だ』
『推しの声優はため息一つですら当てちまうんだぜ?』
夕食の席では葬式のような雰囲気で意味不明な会話を交わす俺達。 ただ一人だけ、ものすごくごきげんな表情で戦利品を確認する変態がいるが。
「すごいすごい! こんなにドロップ率がいいなんて! なるほど、比較的幸運値が高いモンクとレンジャーがパーティーにいたからこんなにドロップ率がいいんだね! いや待てよ? ……そうか、そういうことか!」
俺達が鬼畜なモンスター討伐で疲労困憊してぶっ倒れている中、この子だけはものすごくご機嫌な足取りで戦利品収集をしていたのだ。 集めた戦利品を高級収納アイテムであるサウスフェイスのバックパックに放り込んでいた光景がフラッシュバックする。
そんな中、突然スマートフォンから目を離し、黙々と黒豆スープを飲んでいた俺に視線を釘付けるハートちゃん。
「少年の幸運値は視聴者たちのお陰で二千弱! つまりこの馬鹿みたいに高い幸運値のお陰でドロップ率がかなりいいんだね!」
「いやいや、それだったらなんであんなにモンスターに遭遇するわ、危険なトラップにハマるわしたんですかね」
「そう言われてみれば、たしかに今回巡ったダンジョンはモンスターとのポップ率が低かった! 罠も即死級のものは無かったし!」
「え? あれで?」
なんだか話しが全く噛み合っていない気がするのは俺だけか?
おれは今日のダンジョン探索を思い出す。 モンスターは数秒感覚でポップして、その都度ハートちゃんが息をするように瞬殺し、罠なんかは壁が迫ってくるタイプや落とし穴の底に槍が敷き詰められているものだけでなく、天井が降ってくるものや部屋の中を水で満たしていくもの。
考えうる限り凶悪と言っても過言ではない罠ばかりだったし、モンスターのポップ率も秒間隔だった。 とてもではないが幸運値のお陰で緩和されているだなんて思えない。
「何で不思議そうな顔してるんだい? レーザートラップがあったら控えめに言っても腕や足は持っていかれるし、最悪一瞬にしてミンチになるよ? 爆破トラップもなかったから五体満足だし。 今日回った三箇所は、普通だったら通路をモンスターが埋め尽くしてるレベルのダンジョンだからね?」
話を聞く限り、今日回ったダンジョンは墓荒らし対策の為即死級のトラップが嫌と言うほど張り巡らされているだけでなく、墓守のごとく凶悪モンスターが闊歩する魔境だったらしい。
その事実を知った俺達は、食器をボトリと落として唖然とする。 そして、錆びた歯車のような挙動で首を回し、お互いの視線を交わらせた。
「俺達は信者たちのお陰で五体満足で帰れたんだぁ」
「ありがとうナイルくん。 ありがとうナイル君の信者様方。 ありがとう幸運値の恩恵!」
「俺は、なんて幸せなんだ! 視聴者の方々のお陰で今もこうして美味しい料理にありつけているんだ! これはなんてお礼をしたらいいのかわからないぞ! 神様仏様視聴者様ぁぁぁぁぁ!」
途端に、俺達は肩を組んで感謝感激雨あられな号泣をし始めた。
『よせやい照れるじゃねえか』
『ふはは、我々のありがたみを存分に味わったか』
『よし、お礼はサナたんとハートちゃんの入浴シーンを心眼スキルで覗いてもらうということで』
『ゲスの極みすぎる要求w サラーマさんで我慢しろ変態』
『そもそも心眼スキル使ったら俺達には見えないw』
『ナイルくんが女性陣に怒られる映像は拝めるがな!』
ここぞとばかりにゲスい申し出をしてくる視聴者は大勢いたが、少なくとも『ラーザ様の泣き顔をもっと見たい』という要求や、『サナたんの寝顔プリーズ』とか、『マタタビってアイテムがあるからそれをサナたんに献上したもう』という願いはすぐに叶えたいと思った今日この頃でしたとさ。




