『なにそれ意味深でかっこいいじゃん』
◁
アサシンという職業はその名前から想像できる通り、攻撃力と敏捷が非常に上がりやすい物理攻撃特化の職業だ。 主に敏捷と攻撃力を活かした短期決戦型と言われている。
その代わり、HPと幸運に関してはレベルアップによる数値上昇率は全職業最下位だ。 数値上昇率最下位の項目が二つもあるのはアサシンのみ。
ウィザードが優遇されていることからも分かるが、HPが低く耐久力が低いという弱点はさほど問題にはならない。 しかし、幸運値が低い事で複数の問題が発生する。
幸運の数値が低いとクリティカルヒットを受けやすいだけではなく、比較的ステータスの高いモンスターに遭遇しやすい。
視聴者やトト兄妹に聞いた情報をまとめると、ダンジョンに入った際ポップするモンスターのレベルは基本的にランダムではあるが、ダンジョン内に入ったパーティーメンバーのレベル平均値に左右され、幸運値が低いと比較的強いモンスターに遭遇してしまう確率が上がる。
それだけでなく倒したモンスターから得られる報酬も悪くなる。
報酬に関してはいくら立ち回りが上手いプレーヤーがいたとしても緩和することは難しい。
つまり俺たちは、この高難易度のダンジョンに挑むという危険性に加え、ポップするモンスターが強いという点も懸念しなければならないのだ。 さらに言うと戦利品も奮わない。
「ちなみに言っておくと、出てくるモンスターのレベルが高いだけじゃなくて、モンスターのポップ率も上がるはずなんだけどね?」
「つまり強いモンスターがわんさか出ると?」
「そうとも言うかもしれないね!」
俺たちは通って来た通路を振り返る。 松明でぼんやりと照らされた通路には、無惨に切り伏せられた、元々モンスターだったはずの残骸達が転がっている。
「どうりでさっきからモンスターがわんさかでてくるわけだ」
「こんなにたくさんいたら、こっち討伐したほうがよかったんじゃないかにゃ?」
「なに言ってるんだよサナちゃん。 こいつら全員打たれ強いから、少年ならまだしも君たち二人では対処できる相手じゃないよ?」
サナさんの質問は最もだったが、平然とした口調で答えるハートちゃんを横目に、俺は盛大なため息を付いた。
「じゃあ何でそんな危険モンスターがいるダンジョンに連れてきたんすか?」
「え? 経験値効率がいいからだけど?」
『おかしいな、ナイル氏は日本語で喋っていたのだが』
『話が通じているようで全く通じていない件』
『ハートちゃんは頭のネジが三本くらい抜けてるから我慢しろ』
視聴者たちから散々言われているハートちゃん。 しかし彼女の【罠感知】スキルのお陰で罠に引っかからず安全に進めているのも確かだ。
その後もハートちゃんを先頭にして細い通路を通っていくのだが……
「あ、サラーマくんストップ。 そのタイル、踏んだら全身蜂の巣だよ?」
「っはひゃあ!」
「なんですか今のきしょい叫び声」
サラーマさんからずうたいに似合わない悲鳴が響き、思わず口が滑ってしまう。 俺の背後にいたハートちゃんが罠に気がついたおかげでサラーマさんは命拾いしたようだ。
おかげさまでサラーマさんは、踏み出そうとしていた足を慌てて上げたせいでバランスを崩し、転倒してしまいそうになっていた。 のだが、
「サラーマくん! 転んじゃダメだ!」
「理不尽!」
「君が転ぼうとしている床は……」
ガタン!
「ぎゃあぁぁぁぁぁ! って、なんだ?」
素っ頓狂な声が俺の背後から響いてくる。
サラーマさんは転んだ瞬間、床に吸い込まれるような勢いで姿を消したはずなのだが、俺の眼の前にある大穴から一瞬だけ響いたサラーマさんの叫び声が止むと、突然背後から呆けた声が聞こえてきたのだ。 はっきり言って意味がわからない。
「なぜサラーマさんが俺の後ろに?」
「パラディンのスキル【身代わり】を使ってサラーマくんの代わりにボクが落とし穴に落ちたんだよ」
「それは確か、かなり高レベルで覚えるスキルのはずだにゃ!」
「レベル五十七だね」
あの一瞬の出来事にも関わらず、ハートちゃんは複数あるスキルの中から最も効果的なスキルを選択し、息をするように使用したのだ。
どうやら身代わりスキルを使用すると、仲間との位置を入れ替える事ができるらしい。 その証拠に穴の中からハートちゃんの声が聞こえる。
「そんなことよりハートちゃん、君は大丈夫なのかにゃ? アサシンはそれでなくてもHPが低いのに」
サナさんは顔を青ざめさせながら穴の中を覗き込む。 俺も釣られて身を少し乗り出してみたのだが、
「この程度の罠で、ボクがくたばるとでも思ったかい?」
『高難易度の罠だからといって、ボクを倒せるとでも思ったか?』
『落とし穴に落ちたからといって、ボクが怪我するとでも思ったか?』
『うるさいよ魔王ロープレ』
穴の底には血まみれの槍が敷き詰められていた。 普通に落ちていたら間違いなく串刺しだね、わかるとも。
だがしかし、ハートちゃんは両手両足をつっぱらせ、蜘蛛のような格好で落とし穴の中間地点で突っかかっていた。 しかも平然とした顔で、アサシンじゃなくて忍者なのかな?
「言っておくけどアサシンの幸運デバフのせいで罠の数と危険度も増すんだから、ボクが踏んだ床以外踏まないようにしてよね?」
俺達は穴の中から這い出てきたハートちゃんの忠告を聞き、身震いしながら激しく頷いた。
◁
しばらくこの危険すぎるダンジョンを進んでいくと、ハートちゃんは突然立ち止まった。
「見つけたよ、この部屋が目的の部屋だ」
「なあ、俺達本当に生きて帰れるのか? このダンジョンに挑戦するのはまだ早かったんじゃねえのか?」
「まあ、冷静に考えればそうだね。 推奨レベルは全職業レベル六十五だもん」
「倍以上じゃねえか! 俺達を殺す気か!」
俺の代わりに文句を言ってくれたサラーマさん。 あざっす。
『目的の部屋……か』
『必要じゃなくて?』
『いやいや、ここ魔法学校じゃないから』
「なんだかこの部屋、きな臭いんだが?」
「ナイルくん、奇遇だにゃ。 サナも同じこと思ってたにゃ」
「オチのネタバレ、地獄っぽいな」
ほおを引き攣らせながらボソリと告げたのだが、どうやらコメント欄はこんな状況でもお気楽らしい。
『思惑のネタバレ地雷っぽいな』
『なにそれ意味深でかっこいいじゃん』
『それっぽいコメントして笑ってんだ』
「……失敬! とぅっとぅるっとぅっとぅっとぅるっふー☆ って、やかましいわ!」
「なにを一人で盛り上がってるのかにゃ?」
コメント欄の雰囲気に流されてついつい脳内に浮かんだ好きな曲を口ずさんでしまった。 替え歌にしてはかなり無理矢理過ぎて草生えたが。
「ほらほらみんな、ふざけてないで戦う準備して! この部屋が当初からの目的だった経験値部屋だよ! ボーナスタイムスタートなんだから」
心底嫌そうな顔で背中に背負っていた斧を握るサラーマさん。 俺も釣られて聖銅の錫杖を構えた。
「なあ、これからどんなモンスターと戦うんだよ。 推奨レベル半分以下の俺達でまともに戦えるんだろうなぁ?」
「安心したまえ、ボクの知識とスキルによって君たちをバフするし、便利スキルを大量に使ってサポートもするんだ。 君たちが足を引っ張らない限り問題はないからね!」
そんなフラグみたいなことを言いながら目的の部屋のドアを勢いよく開いて中に入っていくハートちゃん。 俺達三人も互いの視線を交差させ、ゆっくりと頷きあってから恐る恐る中に入っていく。
そして、三人全員が部屋の中に入った瞬間、空いていたはずの扉が勢いよく閉じた。 ドアが閉じた衝撃で前髪がファサッと舞い上がり、意味がわからず硬直する俺。
「にゃにごとかにゃ! 扉が閉まっちゃったにゃ!」
「おい! 嘘だろ! 押しても引いてもびくともしねえぞ! どうなってんだ!」
「サラーマさん落ち着いて! 押戸でも引戸でもないのなら、スライド式かもしれません!」
『お前が一番落ち着けw』
『ドア壊さなくてよかったよw』
『ドア壊したらまたじいちゃんに怒られるからねw』
固く閉ざされた扉を破壊しようとガンガン蹴り飛ばすサラーマさんだったのだが、突然部屋の中にアラートが鳴り響く。 緊急地震速報でも来たのかと思って思わずスマホを確認してみたが、ここが異世界だということを思い出して苦笑い。
「なんだ! なんの音だ!」
「おっおっおっ、落ち着くんだにゃ! 冷静になるんだにゃ!」
困惑しながら叫びだす二人の声を聞きながら、心眼スキルを発動させて真っ暗な部屋の中を把握する。 すると、信じたくない事実を知ってしまった。
「なにこれ、モンスターがうじゃうじゃいるんだが」
「うじゃうじゃだと? 具体的に何体くらいいるんだ!」
「うにゃあぁぁぁぁぁ! サナはまだ死にたくないにゃ!」
突然背後にヌッと現れ、泣き出してしまったサナさんの肩にポンと手を置きつつ、プリーストのスキル【導きの光】で部屋を明るくするハートちゃん。
「そんな嬉し泣きしなくてもいいよサナちゃん。 安心して、ここは見ての通りモンスターハウス。 部屋の中に大量のモンスターがいるってだけの楽しいトラップだよ! このモンスター全員倒すまで出られない代わりに、報酬とか経験値がとっても美味しいんだ!」
満面の笑みで、信じがたいことを言い始めるハートちゃん。
なるほどこの子、アサシンの専売特許である【罠感知】のスキルを使い、俺達を罠の中に引き入れやがったわけか。 鬼畜め。




