『ここはギャルゲーじゃないんだぜ?』
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途中、とんでもない大事件が発生したりしたが、パラディンのダンジョンでのレベリングは想像以上に効率が良かった。
なぜこんなにも効率よくレベリングできたのか、それはコプスネクロマンサーの強化が主な要因。
どこかのお馬鹿さん達がいたずらにボスの強化を施したおかげで、コプスネクロマンサーはかなりの強化を受けており、眷属を百体も召喚して襲いかかってくる。 俺達は互いに邪魔にならない距離感で布陣して、召喚された眷属たちをひたすらに倒して倒して倒しまくる。
一定の距離を保っているとコプスネクロマンサーは減った眷属の再召喚を優先するため、近づかなければ強力な魔法を放ってこないのだ。
その特性を逆手に取り、コプスネクロマンサーの魔力が枯渇するまでひたすらに眷属を倒しまくる。 眷属一体一体は大した強さではないため、サラーマさんやサナさんでも十分に対応可能だった。
というのも、ハートちゃんが【無窮の探求者】という強力な固有スキルを使って二人をバフしまくったおかげである。
そうして俺達はひたすらに眷属を狩りまくり、時たまコプスネクロマンサーが大規模魔法の詠唱を始めると、アサシンの職業スキル【気配遮断】で潜伏していたハートちゃんが奇襲。 ソルジャーが高レベルで覚える【特攻タックル】を駆使して強制ノックバックさせ、詠唱を中断させる。
こうすることでコプスネクロマンサーは眷属召喚しかさせてもらえず。 一つの職業をレベル三十にするまで経験値補充係としての役目を全うさせられ、レベリングが終了するとハートちゃんの超絶にバフされた【バックスタブ】でグサリ。
俺達は八時間かけて全職業レベル三十という目標を達成してしまったのだった。
見事に目標達成した俺達は宿屋に帰還し、明日以降のレベリングツアーに備えようとしていたのだが……
「遅かったじゃないか坊やたち。 無事に全職業レベル三十にできたのかい?」
「んなっ! 黒湖ナイル! なぜここに!」
「いやいや、それはこっちのセリフですよ」
先ほど涙のお別れを済ませたはずのラーザさんだけではなく、シリスの体集めのために編成されたホープ組の三人が宿屋の食堂で晩餐会を開いていた。
「あれ? 言ってなかったかな? シリスの体集めのために、最低限レベルを上げないといけないから今日一日はシーナイの街に滞在すると」
「私たちは先程までパラディンのダンジョンでレベリングしてたんです」
どうやら彼女たちもパラディンのダンジョンに篭っていたらしい。 その割には姿を見なかったが?
「不思議そうな顔してるねえ少年。 ちなみに言っておくと、マルチプレイ中に他のプレヤーと遭遇したりしないよう、ここのダンジョンはパーティーごとに別空間へ繋がるようになってるんだよ。 だからこの修道院にあるダンジョンは、毎回入る度に地形が変わってるでしょ?」
その説明には納得だが、ここは異世界のためなんとなく納得したくない気もする。
『気まずすぎんだろw』
『ラーザ様とさっき涙のお別れイベントをしたばっかりなのになw』
『ご愁傷さまです』
どうにも居心地の悪い気分にさらされながらも、俺は仕方がなくホープさんたちと夕食の席についたのだった。
顔を真赤にさせながらチラッチラ見てくるラーザ様は断固として見ないようにしながら。
◁
夜風に当たりながらスマホで自分のステータスをチェックしていた。 全職業をレベル三十にしたのだ、念願だった心眼スキルを手に入れたことで俺はなんとも言えない達成感に満たされている。
始めはこのスキルを手にするために旅をしていたのだが、あれよこれよとしている内にいつの間にかこの世界に転移したプレイヤーの命を救うため、死にイベに抗う最前線プレイヤーとして立ち回る羽目になっていた。
本当だったらのんびりと旅をしたかったが、まあ俺だけが現実世界との連絡を取れる生配信者だ。 こういった問題に挑戦するのも仕方がないことなのだろう。
なんせ、俺だけ生配信中なのだから。
一人物思いにふけっていると、シーツを被ったメメジェットさんがさり気なく隣りに座ってくる。
何事かと思って彼女を横目に見ていると、シーツの下でゴソゴソと動き出した。
「黒湖さん、眠れないんですか?」
「まあ、まだ寝るには早すぎる時間ですからね」
「それもそうですよね、ははは」
ちなみに夕食を食べて数分しか経っていない、日本時間的には夜の八時過ぎってところだ。 こんな時間に寝たら、深夜に目を覚ましてしまう。
メメジェットさんはいまだにシーツの下でゴソゴソしており、会話もとりあえずって雰囲気で選んでいた気がした。
この人はシーツのせいで表情が全くわからない。 視線だけで相手の思いを察することができるほど、俺は会話のエキスパートではないのだ。
そこではっと思いつく!
「ところで黒湖さん、一つお願いがあってきたのですが……」
そんな事言いながらじっと俺の顔を見てくるメメジェットさん。 今はまだ視線しか見えないためなにをお願いしようとしているのかなんてさっぱり想像つかない。
だがしかし、俺にはこの問題を解決するためのスキルがあるのだ!
さっそく、心眼スキルの出番である!
「お願いですか? 俺で良ければ何でも聞きますが」
「でしたらその、えーっと……」
俺はメメジェットさんにバレないよう脳内で心眼スキルを発動できるようイメージする。 こういった補助スキルは本人の意志で自由に使えるため口に出したりする必要はないのだ。
さあ、今はシーツのせいで見えないメメジェットさんの表情を見て、会話を円滑にしてみせようじゃないか!
俺の意思に従い、心眼スキルが発動した。 シーツが半透明になり、頬が紅潮してスマホを両手で握りしめ、ユッサユッサと体を揺らしながら言い淀むメメジェットさんの姿が明らかに。
そしてすかさずコメント欄を確認
『メメジェット氏、なんで黙り込んだ?』
『なんんだなんだ? ラブなコメディ始めちゃう気か?』
『ここはギャルゲーじゃないんだぜ?』
コメント欄を見る限り、視聴者達はメメジェットさんの表情には気がついていないだろう。 追い打ちとばかりに目を閉じてみる。
『おいナイル氏! なにも見えないじゃないか!』
『画面が暗転した! もしかして座りながら寝たか?』
『難聴系ギャルゲー展開回避法を使わず、うたた寝系ギャルゲー展開回避法を使ったのか?』
俺にはバッチリ見えている。 突然目を閉じた俺を身て、不思議そうに可愛らしい顔をコテンとかしげるメメジェットさんが!
これで明らかになった。 心眼スキルを使えば、視聴者たちに見られることなく水回りの悩みを解決できる! 音に関しては歌を歌うなどしてごまかすのは必須だろうが、手探りで色々するより便利になったのは確かだ。
「黒湖さん? もしかして寝ちゃいました? 酔っ払ったのでしょうか?」
「ああいえ別に、っていうかメメジェットさん? さっきからスマホ持ってなにをモジモジしてるんですか?」
「……え?」
『はい?』
『おっと?』
『えっちだな』
なぜだろう、突然体を抱くようにして距離を取ったメメジェットさん。 同時に感じるのは背後から迫る邪悪な気配。
「おい黒湖ナイル、貴様今。 なにを見ているのだ?」
いつの間にか背後にヌッと現れたラーザさん。 どこから湧いてでたのかを聞きたいが、そんな雰囲気ではなさそうだ。
はて、どうして俺はラーザさんにゴミを見るような視線を向けられているのか、どうしてメメジェットさんはシーツの下で涙目になって口をあわあわさせているのだろうか?
「ラーザさん、そんな物騒な顔してどうしたんです?」
「どうしたもこうしたもないだろう? 貴様が覚えたいと言っていた心眼スキルは透視ができるのだぞ?」
「ああ、確かに心眼スキルがあると色々と役に立ちますからね」
「貴様、メメジェットの布を透視してなにを見たのだ?」
あれ、何やらラーザさん、とんでもない勘違いを?
『ナイル氏には幻滅したよ』
『畜生、俺達には心眼スキルで見たものは共有されないのかよ!』
『スケスケだぜ! って感じ?』
ことの重大さに気がついた俺は、全身から冷や汗を噴出した。
「いやいや、勘違いしてますよラーザさん、俺が透視したのはあのシーツだけで……」
「透視したのを認めるのだな? 歯を食いしばれ黒湖ナイル、ひと思いに終わらせてやる!」
「不潔です黒湖さん! あなたがそんなむっつりさんだとは思いませんでしたよ!」
これは、本格的にやばい気がする。
「ちょっと待った、一回落ち着いて話しを聞いて下さいよ。 俺が透視したのはシーツだけなんですってば!」
「「問答無用だぁぁぁぁ!」」
せっかく手に入れた心眼スキルだったのだが、こいつは使い所を間違えれば身を滅ぼす諸刃の剣だということに、今更ながら気ずかされる今日このごろでしたとさ。




