『ここに来て虹サソリ謎強化の理由判明』
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俺はハートちゃん率いるレベリングチームに配属された。 メンバーは四人。
ハートちゃんと俺。 そして、サラーマさんとサナさんだった。
「残念だったなナイル。 お前が大好きなメメジェットは違うチームだぜ」
「やかましいわこの変態ワニ!」
「え? ナイルくんはメメちゃんに想いを寄せていたのかにゃ?」
「変な勘違いすんじゃねえ! 尻尾もぐぞこの食いしん坊猫!」
『ナイル氏が荒れている』
『サナたんに手を出してみろ、俺はお前を許さんからな!』
『ドサクサに紛れて尻尾に触りたいだけと見た』
「なんで少年はこんなにカッカしてるのかな?」
首を傾げながら俺達の喧嘩を眺めているハートちゃん。 すでに俺達ハート組はパラディンのジョブチェンダンジョンに入っており、ホープ組とは別行動。
別れ際にメメジェット氏からゴミを見るような視線を向けられながらも、お約束のラーザ節が展開されていた。
(これから三週間は別行動だが、次にあった時はお前よりも強くなってやるんだからな! 首を洗って待っておけよ黒湖ナイル!)
とまあそんな事を言いながらぐすんと鼻を鳴らして去っていったラーザさんの背中は、ものすごく寂しそうだった。 相変わらず可愛いかよ。
「それじゃあ流れを説明するからね。 まずこのダンジョンは大部屋に入る度に大量のモンスターが出現する。 一番多くて二十体、一番少なくて十二体。 このダンジョンに出てくる魔物は共通して仲間呼びをしてくるんだ」
ハートちゃんの言う通り、ここに出てくる魔物は仲間呼びを使用して数を増やしていく。
パラディンが早い段階で覚える【挑発】スキルがあるとまとめて討伐できるため有利になり、逆に集団戦が苦手なアサシンやモンクは不利になる。
「少年は相性悪いけど、このダンジョンを三分台でクリアできている前提があるから問題ないよね?」
「まあ、モンクですが愛さえあれば問題ないです」
「なに言ってるんだにゃ?」
『どこのラブコメだよw』
『モンクだけど愛さえあれば問題ないよね』
『頑張れお兄ちゃん!』
俺がチャチャを入れたことを察したであろうハートちゃんは大げさな咳払いを挟み、段取りの説明を再開する。
「そこで、ボクの【無窮の探求者】を利用して、みんなをバフするから大部屋に出てきたモンスターは単騎で撃退して貰う」
「げっ! まさか単騎でRTAさせる気かにゃ?」
「RTAなんてレベリングには非効率だから禁止だよ」
「それを聞いて安心したにゃ」
サナさんがホッと胸をなでおろしているが、俺は居心地が悪くなってそっぽを向く。 どうやらサナさん、RTA恐怖症になっているらしい。
「とまあボス部屋まではこの流れで行くけど、ボス部屋に入ったら三人とも一定距離を取って召喚された魔物を片っ端からぶっ倒してもらうからね! それまでに十分なレベルに達してほしいから大部屋に入るごとに一人ひとりノルマ十五体を目標にして貰う!」
「ここのボスは何だったっけな?」
「コプスネクロマンサーにゃ」
「ああ、あの馬鹿みたいに眷属召喚してくるアンデットか」
サラーマさんはこのダンジョンに入るのが久しぶりだと言っていたため、ボスがなんのモンスターなのか確認したかったようだ。
「けど大丈夫なのかよ、ジョブチェンダンジョンのボスって、謎の強化されてただろ? 俺達だけで倒せるのか?」
「ナイルくんは一人で倒してたにゃ」
「俺をナイルと一緒にするんじゃねえ」
不安そうなサラーマさんの言葉を聞き、ハートちゃんは不思議そうに首を傾げる。
「何でサラーマくんがここのダンジョンボスが強化されてるのを知ってるのかな?」
「そりゃあ、この前他のダンジョンで戦ったからな。 謎の強化されてたから苦戦した経験があんだよ」
先日のこと思い出したのか、サラーマさんは盛大なため息を付きながら肩を落としていた。
レインボースコーピオンとの死闘、あの時サラーマさんは自分だけ役に立たなかったと気を落としていたため、今回のこのダンジョン攻略も不安なのだろう。
「謎の強化? ああ君たちは知らなかったのか、あれは強化される理由にとある法則があるんだよ」
ここで、うんちく大好きハートちゃんが目の色を変えてしまう。 しかしダンジョンボスの強化理由を知れるのは俺にとっても嬉しいことだ。 聞いていて損はしないだろう。
「これはボクたちの検証に基づく確かな情報なんだけどね。 このダンジョンのボスが強化されるのは、挑戦回数が関係してるんだ」
「ボクたちの検証?」
「挑戦回数?」
雲行きが怪しくなった気がする。 サラーマさんは物騒な目つきで準備体操を始めた。
「そうさ、ボクとお兄がこのパラディンのダンジョンで基本のレベリングをしてる時に気がついたんだ。 このダンジョンに挑戦する度にコプスネクロマンサーが召喚してくる魔物が増えているという事実にね!」
むふんと鼻を鳴らしながら、機嫌良さそうな顔で人差し指を立てるハートちゃん。 そしてその話を聞きながら俺達三人は歩きながらもさり気なく移動し、ハートちゃんを取り囲んだ。
「そこでボクはとある仮説を立てたんだ。 ボスは倒される度に強くなるのか、それとも挑戦回数で強さが変わるのか、はたまた時間経過で強化されているのかと!」
「ほほう、続けて?」
「それで検証のために三つのダンジョンを使ったんだ! 一つ目はモンクのダンジョン。 ここはボスを倒すところまで進める。 二つ目はレンジャーのダンジョン。 ここは挑戦と同時にすぐにダンジョンを出る」
「はは〜ん、モンクのダンジョンも検証に使ったのか」
「なるほどにゃ〜」
「まあまあサナさん。 話は最後まで聞いてみましょう」
指をパキパキと鳴らし始めたサナさんを穏やかな笑みで制する俺。 ハートちゃんに関しては俺達の様子など気にもせず、うんちくを語るのに必死になっているようだ。
ちなみに、三つ目のダンジョンはアサシンのダンジョンで、ここは挑戦したりはせずに放置していたらしい。
「そして、お兄がソルジャーにジョブチェンジして三つのダンジョンに向かい、【観察眼】スキルを使ってボスのレベルを確認。 その後ボクは単騎でモンクのダンジョンを十回攻略。 その間にお兄がレンジャーのダンジョンに入って、すぐ脱出を十回。 ボクがダンジョン攻略を十回済ませた後、それぞれのダンジョンにもう一度入ってレベルを確認してみたんだ!」
もったいぶって謎の間を置くハートちゃん。 俺達三人は互いに視線を交差させ、アイコンタクトを交わす。
「すると驚くべきことに! モンクとレンジャーのダンジョンボスは、レベルが五も上がってたんだ! これはつまり、挑戦回数が多いダンジョンほどボスが強化されるという事実が判明したわけで、次は強化されるのはどこまでなのかの検証を始めたんだ! ちなみに、他の人に迷惑をかけないように、一番人気がない職業であるモンクのダンジョンを検証に使ったんだよ!」
「ずばり、レベル六十でしょう」
「そのとおりだよ少年! ……って、え? なんで少年がそれを知ってるの?」
嬉しそうに俺を指さしてきたハートちゃん。 背後には影が差した満面の笑みで接近していくサラーマさんとサナさんが見えている。
まあ、二人はハートちゃんの真後ろにいるため、ご本人は全然気がついていないが。
「さあ、なんででしょうね? よーく考えて下さいハートちゃん。 俺は初心者で、このヘリポリに入国したばっかりだといいましたよね? 最初の職業って何になるんでしたっけ?」
「ソルジャーだよ? ソルジャーは魔力以外満遍なく上がるからね、初心者でも扱いやすい優秀な職業だよ!」
どうやら相当機嫌がいいのだろう。 聞いてもいないうんちくを語り始めるハートちゃんだったが、それに待ったをかけるように俺は次いで質問を投げかける。
「じゃあ、今の俺の職業、何でしたっけ?」
「え? モンクでしょ? 何で今頃そんな事を聞いて……る、のかな?」
突然、全身からドッと緊張の汗を滴らせるハートちゃん。 瞳孔を開き、その表情には(あ、これもしかしてやばいんじゃね?)と書いてある気がする。
『ここに来て虹サソリ謎強化の理由判明』
『泡沫となるがいい』
『判決からは逃れられない』
「あ、いやぁその。 なんというかね、別にボク達は悪気があって検証したわけではなくて、この検証が少しでもみんなの役に立てばいいなと思ってしていたわけでして。 決して興味本位でみんなに迷惑をかけたかったわけでは……」
随分と早口で弁明の言葉を紡いでいくハートちゃんだったが、背後からずっしりと硬い鱗で覆われたサラーマさんの手が迫り、その細っこい肩に墜落した。
「おい、まな板娘。 少し話しがあるんだが」
「えーっと、その〜。 ……せ、セクハラで訴えますよ?」
『悲報、サラーマさんセクハラ疑惑浮上』
『あのワニの笑顔、恐怖でしか無いだろうw』
『たしかに絵面的に訴えられても文句言えないw』
「上等だこのぺちゃぱい女! お前のせいで俺達死にかけたんだぞ覚悟しやがれ!」
「安心するんだにゃサラーマさん! サナが押さえつければ文句言えないはずだにゃ!」
「ひっ! 助けてお兄! いじめられちゃうよぉぉぉぉぉ!」
サナさんに羽交い締めされたハートちゃんを確認し、俺とサラーマさんは肩を並べて邪悪な笑みを浮かべる。
「こいつ、どうしてやりましょうかサラーマの兄貴」
「ファイヤーム傭兵団流の罰ゲーム。 くすぐり地獄と洒落込もうぜ!」
こうしてハートちゃんは、サナさんに押さえつけられてくすぐり地獄に落とされてしまうのだった。




