『おいおい、今はラブなコメディしてる場合じゃないんだぜ?』
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「セフメト平静祈願を回避するため、三つの作戦を考案しよう!」
自信満々に三本指を立てていたホープさんから告げられたのは三つの方策だった。
「そもそもの問題点として、セフメト平静祈願が発生する原因は三つあるんだ。
ひとつ、シリスの体を十個提出する
ふたつ、太陽神レアーへの信仰を人々が失ってしまう
みっつ、大昔の災害でセフメトが封印されている」
彼の言う通り、セフメト平静祈願の発生条件としては大まかな理由としてこれらの原因が挙げられる。
「ならば、勝てない戦いに真正面から挑むのではなく、あらかじめ対策を立てて行こうではないか!」
ホープさんの言葉を真面目に聞く俺達。 昨日の夜は突然現れたトト兄妹をあまり良く思っていなかったサラーマさんたちだが、先程の会話を経てすでに全員の間で絆のようなものが生まれているような気がした。
「とりあえず対策できそうなものは、シリスの体をまとめて提出するというものですね」
「そのとおりだメメジェットさん。 しかしこちらに関しては少々厄介な事象が発生していてね」
「と、言いますと?」
「すでにシリスの体は五つ提出されてしまっている」
ホープさんの言葉に目を丸くするラーザさん。
「なんということだ! 黒湖ナイルと競い合っていたのはたった数日だぞ! この数日の間に五つも見つかったというのか!」
「私たちよそ者はこの世界に起きるであろう未来を把握していますから」
「そう言えばナイル、お前未来視ができるとかいう嘘ぶっこいでたよな。 あれってそういう理由だったのか?」
「何でそんなどうでもいいこと覚えてるんですかサラーマさん」
ホープさんの説明を聞いて納得がいったような顔で俺を見てくるサラーマさんとサナさん。 たしかに俺は、サナさんに視聴者との会話が盗み聞きされた時そんな事を言ってごまかそうとしていた。
「しかし不思議なものだな。 他所から来たお前たち新入りがどうしてこの世界で起きる事象を予言できるのだ? 先ほどのセフメト様復活の話もそうだが、どうも解せんな」
「そこに関して詳しく説明すると長くなっちゃうからね。 今重要なのはもたもたしてたらシリスの体はあっという間に十個提出されちゃうってことだよ」
ハートちゃんの言葉を聞き、眉間にシワを寄せながら唸り始めてしまうラーザさん。 どうやらラーザさん、負けず嫌いが災いしてシリスの体を先に提出されたのが気に食わないらしい。
「そこで、我々七人を二手に分けようと思う」
「なぜ二手に分ける必要がある?」
「まあ話は最後まで聞くんだ。 今現在の状況として、すでに集まったシリスの体は比較的難易度の低いダンジョンで取れるものばかりだと推測できる」
「つまり転移したての俺達はレベルが低いせいで、難易度が高いダンジョンに挑戦するのを渋ってるってわけっすか」
『五つって言うと、ストーリー進めれば自動的に発見できるダンジョンばっかりってことか』
『それ以降のダンジョンは発見するのにもいくつかのクエストを攻略しないといけないからね』
『それでなくても一つの職業だけレベル上げても、六つ目以降は攻略が厳しい状況になる頃合いじゃない?』
コメント欄でもホープさんの説明を受けて様々な憶測が飛び交っている。 どうやらシリスの体が発見できるダンジョンは、発見するのにも面倒な手順を踏まなければ入れない場所が多くあるらしい。
「二手に分けるのはレベリングと攻略を同時進行するためさ。 レベリングに関しては妹のハートのほうが詳しい。 だからハートが計画したレベリング計画を元に、我々兄妹はすでに行動方針を決めている」
「これからみんなには全職業レベル三十になるようパラディンのジョブチェンダンジョンに挑んでもらいたいんだ。 ボクの計算上だと、うまく行けば今日中に全職業レベル三十にできると思う」
「全職業レベル三十? 結構な重労働だと思うにゃ、今日中に達成するのは難しいにゃ」
「安心してサナちゃん。 ボクはレベリング計画を綿密に立ててるから、ボクが指示したとおりに行動すれば簡単に達成できるさ」
自信満々に胸を張るハートちゃん。 しかしサナさんは少々のり気ではないようだ。 何か思いついたようにメメジェットさんはサナさんを流し見る。
「おそらくサナさん、重労働が嫌なのでは?」
「違うにゃ。 昨日はダンジョン攻略でちょっとしたトラウマを植え付けられたから、パラディンのジョブチェンダンジョンに行きたくないだけだにゃ」
質問したメメジェットさんは首を傾げていたが、サナさんはきっちりと俺にジト目を向けている。 なんかすんません本当に。
「ともかく、チーム分けはボクとお兄を中心に戦力を均等に割り振るから」
「ならば私は黒湖ナイルと同じチームだな!」
「ラーザちゃん、なんで当たり前のように話を進めようとするの? ちゃんとボクの話を最後まで聞いて!」
しれっと俺の後ろに移動して、俺の肩にずっしりと両手を置いたラーザさん。 そんなラーザさんにムスッとしながら待ったをかけるハートちゃんだったのだが……
『ラーザ様に手を置いてもらっただと?』
『その肩、異世界から帰ったらオークション出してもらおう』
『五十万から競売スタートです』
「物騒な話はやめんかい」
「なにか言ったか黒湖ナイル?」
「すんませんこっちの話です」
「まーたお前は信者と話してたのか」
呆れたように肩を竦めるサラーマさん。 なんだか話が大幅に脱線している。
「とりあえず、ナイルくんはボクのチームで、メメジェットさんの固有スキルはラーザさんとセットじゃないと意味がないから、必然的にメメジェットさんはお兄と一緒のチームに——」
「却下させてもらいます」
「——なるんだけ、ど……メメジェットさん、今なにか言ったかな?」
「断固拒否させていただきます。 貴方がた兄妹はサラーマさんとサナさん。 私とラーザ様は黒湖さんと一緒のチームの方が効率がいいかと思います」
「一応聞いておくけど、その心は?」
「……気分です」
「却下で」
何故か急に空気が悪くなり、にらみ合うハートちゃんとメメジェットさん。 おいおいなんだってんだ? なぜ急に喧嘩が始まった?
さっきまであんなに親しげな雰囲気だったのに。 俺達の間には硬い絆が生まれていると思っていたのに!
「聞き捨てならないにゃメメちゃん! 君はただ単にナイルくんと一緒に冒険したいだけだにゃ?」
「そんな事はありませんよ。 こっちのほうが効率がいいのです」
「そうだそうだ! 新入りが偉そうに私に命令するんじゃない! 私もメメジェットに賛成だ! 黒湖ナイルと共に修行をしたほうが効率がいいと思うぞ! 競い合う仲間がいた方が、修行もはかどるのだからな!」
「競い合う相手が少年じゃないとはかどらない理由について、具体的な説明を求めます」
「ちょっと落ち着くんだ君たち。 何でそんな喧嘩が始まったんだい?」
メメジェットさんとラーザさん対サナさんハートちゃんの喧嘩が始まり、慌てて止めに入るホープさん。
なんだろう、友情という言葉が俺の脳内で崩壊していく気がする。 この原因は果たして何なのだろうか?
俺とサラーマさんはぽつんと椅子に座ったまま、今にも取っ組み合いが始まりそうな女性陣の喧嘩を傍観することしかできない。
『おいおい、今はラブなコメディしてる場合じゃないんだぜ?』
『うらやまけしからん状態だな』
『おそらく元凶であるナイル氏はほうけてるんだろうな』
頼みの綱である視聴者達はみんな揃って良くわからんコメントをしているため、俺達の知恵ではどうすることもできないであろう。
「おいナイル、とりあえず俺達はちょっと外でも歩いて時間つぶしてようぜ?」
「それもそうですね、なんか長いことかかりそうですし」
こうして俺達は、二人でシーナイの街をぶらつくことになったのだった。




