『デスペナの検証でもする気か?』
◁
『なんだこの無敵過ぎる刺客はw』
『なんでトト兄妹みたいなトッププレイヤーが、初心者丸出しのナイル氏に喧嘩挑んできたのかな?』
『デスペナの検証でもする気か?』
視聴者たちのコメントをチラ見して青ざめる。
デスペナルティ、略してデスペナ。 プレイヤーのHPが0になった際受ける罰則のようなもの、大体のゲームでは所定位置、いわゆるセーブポイントと呼ばれる場所に強制的にワープさせられる。
中にはそれだけでなく、一部ステータスの一定時間低下やレベルの減少など、様々なペナルティを課せられる事がある。
このゲームの場合は所定位置に強制ワープさせられるだけでステータスやレベルに変動はない。 しかし、それはゲームだった時の話。
ここはもうゲームではなく異世界。 デスペナルティの検証、つまりここでも本当に生き返れるのかを試す検証という事だろう。
このゲームに詳しくない俺は確かに生存優先度としては低いだろう。 攻略する際のゲーム知識が大いに欠如していてなんの助けにもならない。
ならば複数いる転移者の中でいなくても困らないのは間違いなく俺。 そうなるとデスペナルティの検証にはもってこいの人材なわけだ。
「私はこのゲームにどっぷりハマっていてね、合計で五つのセーブデータを持っていたんだ。 しかもすべてのセーブデータで全職業レベルMAXで、メインクエストもサブクエストも全制覇!」
自慢気に自らの廃人伝説を語り続けるトト・ホープさん。 しかし現状が現状だけに内容が頭に入ってこない。
もしコイツらの目的がデスペナの検証なら、俺はこれからなぶり殺される。 運が良ければこの世界でも復活するかもしれないが、それを黙って受け入れるほど俺は優しくない。
サナさんは相変わらず妹のハートちゃんに担がれている、この場を乗り切るための方法は一つしか無い。
「つまり、生き残りたいのなら、あんたが召喚したサブ垢も含めて、全部ぶっ倒せってことっすか?」
「え? いやいや、もう十分だからそんな怖い顔でこっちを見……」
突っ立っているトト・ホープさんに突進する。
杖を虚空にしまっていたトト・ホープさんは慌てて杖を構えるが、俺は視聴者のお陰で上昇した敏捷を駆使して一気に肉薄。 覚えたばかりのモンクの闘技スキル【波断衝】をお見舞いする。
波断衝、これは所持する武器で与えたダメージを一点に集中させ、破壊属性を付与した攻撃をお見舞いし、相手の防御力を低下させるスキル。
自己完結型アタッカーであるモンクが最も多用する便利スキルだ。
瞠目しながらみぞおちに喰らった一撃を凝視するトト・ホープさん。 勢いよく吹っ飛んでいった彼を見て、遠目から高みの見物していたハートちゃんが困惑したように声をかけてくる。
「ちょ、ちょっと! なにしてるの少年?」
視聴者たちが言う通り、トト・ホープさんは確かにトッププレイヤーで立ち回りも上手い。 そんなトッププレイヤーが固有スキルによって分身する。
こんなの、理不尽以外の何者でもない。 勝てるわけがないことは分かっている。
けれど、勝てないからと言って黙って殺されるなんてまっぴらごめんだ!
隙を与えないようふっとばした本体を追う。 トト・ホープさんはまさかの突進に動揺しながらも、無詠唱で魔法を発動。
俺の追撃は魔法で作り出した障壁に弾かれる。 そしてすぐ隣に立っていたサブ垢が詠唱破棄した魔法を発動。
コプスネクロマンサーとの戦闘で、魔法をぶん殴って相殺したことを思い出した。 相手がいくら格上だからといって、詠唱破棄したということは大した魔法でないことはなんとなく察している。
でなければ先程、揺動のために詠唱を経て発動しようとしていた魔法との差別化にはならない。
ということで聖銅の錫杖をフルスイング。
「嘘でしょ? 魔法攻撃を物理攻撃で相殺したの? 一体どんな攻撃力してるのさ!」
「ちょっと! なにか勘違いしているんじゃない坊や? 私はあなたの実力を試していただけで……」
「問答無用!」
ハートちゃんの驚愕の声、トト・ホープさんの必死な説得はすべて遮断する。 またどこかに潜伏させた味方、あるいはもう一体目のサブ垢に奇襲されるとも限らない。
トト・ホープさんはサブ垢が一体しかいないなんて一言も言っていない、あらゆる最悪な状況を想定しつつ、一気怒涛に畳み掛ける。
ハートちゃんが参戦してきたらますます勝ち目はなくなる、ならばせめて、サブ垢だけでもぶっ飛ばさないといけない。
距離を取るために詠唱破棄した魔法を地面に放ち、衝撃で一気に後ろへ飛んでいくトト・ホープ本体。 タイミングを合わせて追撃の魔法を放とうとするサブ垢。
狙い目はここだ。
『うわ、爆発魔法が直撃したw』
『けど同時にサブ垢の頭部を消し飛ばしたぞw』
『絵面がグロいがw』
俺はダメージ覚悟でカウンター。 サブ垢の頭部を力の限り殴り飛ばした。
頭部を失ったサブ垢の体は、ブロックノイズに侵されたような状態に変わって空気中に霧散した。 どうやら俺達プレイヤーは弱点が設定されているようで、受けるダメージも変動するらしい。
幸いにも俺の身代わりマントはいまだに健在だが、もう耐えられてもあと一発といったところだろう。
「エクスプに直撃したのにノックバックしないだけじゃなく、的確に頭部へ反撃? お兄、これちょっとヤバいんじゃないの?」
「あれを喰らったのが二世ちゃんで命拾いしたよ! 坊や落ち着いて、一旦話を!」
トト・ホープさんは必死に呼びかけるような態度を示しているが、足元には新たな魔法陣が出現している。 詠唱破棄しないということは強力な魔法、トッププレイヤーのくせに騙し討とは卑怯だな。
『おいおいナイル氏、一旦落ち着けってw』
『あれはただの上級障壁魔法だからw』
『面白くなってきたw やっちゃえバーサーカー!』
トト・ホープさんの正面に半透明な五枚の障壁が展開される。 俺は全力の一撃をその壁にお見舞いすると、一枚目の壁を粉砕することに成功。 続けざまに二枚目も破壊。
壁を破壊するたびに、トト・ホープさんは青ざめながら新たな詠唱を開始する。
「クインタシルドを物理で破壊するとか! どんな攻撃力してるの!」
「お兄の防御力と、少年の攻撃力に五百以上の差があれば、理論上不可能じゃないかも!」
「悠長に解説してないであんたも助けなさいよ! この坊や、完全に頭に血が上ってる! 一旦無力化させないと話聞いてもらえないもの!」
「確かに目がやばい、待っててお兄!」
五枚目の障壁を破壊した俺は、大げさに武器を振りかぶってトト・ホープさんに肉薄。 案の定、トト・ホープさんは武器の方に注意が向いていた。
おそらくこの人はこのゲームにおいては最強クラスに強いのだろう、けれど俺は色々なゲームを、初見でゲームオーバーしないよう慎重にプレイしてきたんだ。
その中には対人戦を目的としたFPSや格ゲーもあった。 一対一での殴り合いには色んなゲームで培った経験を活かすことができる。
このゲームの基本は相手の予備動作から攻撃の予測、相手が所持しているスキルから考えられる攻撃パターンの想定、そして武器や職業の性質から考えられる相性などを想定した対人戦だったのだろう。
「うぐっ! スキルを、囮に?」
「お兄? まさか、身代わりマントが壊された?」
だから、武器を振りかぶっていれば、モンクの中でも厄介なスキル、波断衝を警戒する。 そして注意がそっちに向いていれば、騙し討ちの前蹴りには全く対応できない。
想定通り、俺の前蹴りは、人体の弱点である心臓部に直撃した。 痛みは身代わりマントのお陰で感じないだろうが、大ダメージを与えたことには変わりない。
なんせ今の俺の攻撃力は、モンクの自己強化スキルのお陰で四桁に到達しているのだから。
顔を青ざめさせながら尻餅をついていたトト・ホープさんに、渾身の一撃を喰らわせようと武器を振り下ろそうとした瞬間、俺の肩で爆発がおきた。
身代わりマントが破壊され、思わぬ奇襲に目を見張る。
『なぜエクスプなんて喰らった?』
『サブ垢はもう倒したはずだが?』
『まさか二体目のサブ垢か?』
決して油断していたわけではない、俺は確実に周囲の警戒をして奇襲に備えていた。 確かに、トドメを刺す瞬間だったから注意が散漫になっていたのかもしれない。
それでもサブ垢の分身がもう一体増えていれば気がつかないはずがないし、そもそも俺には戦術眼があるから奇襲に気がついていてもおかしくない。 発動確率が三割だから、発動しなかっただけなのだろうか?
そもそもの問題は、この爆発が発生した方角からして攻撃が飛んできたのは妹のハートちゃんがいた位置だという事。
距離は数十メーター離れている。 アサシンである彼女が爆発魔法なんて使えるわけがない。
「ごめんねナイルさん。 一旦落ち着いてもらうために無力化させるから!」
体勢を崩していた俺に向かって手を伸ばしながら、そう告げてくるハートちゃん。
一体何が起きたのだろうか?
「ナイスよハート! そのまま【挑発】して頂戴!」
「オッケーお兄!」
視線が勝手に動かされる。 向きたくもないのにハートちゃんの方へ意識を向けさせられる。
俺のすぐ前には無防備のトト・ホープさんがいる、そっちに注意を向けたくても、体が勝手にハートちゃんの方へ向けさせられた。
これはまるで、パラディンの挑発スキルじゃないか。
「うちの妹は、このゲームに無駄に詳しいヘリポリ博士なのよ!」
「だから固有スキルは、【無窮の探求者】っていうすごいスキルを貰った!」
「その固有スキルを使えば、ハートが一度覚えたスキルは職業に関係なく全て使用することができる!」




