『見るなら堂々と見ないとなw』
◁
無事に二層目も攻略できた。 視聴者たちの話だと三層目は大部屋が一つだけあるという話で、中にはボスが待ち構えているらしい。
俺達は二層目から三層目に降りて、ボス部屋への階段を降りている。
「ふーんだ。 黒湖ナイルがずるっ子しなかったら私の方が討伐数上回ってたもん。 せっかく挑発スキルを使わずに戦ってあげたのに」
「いやいやラーザ。 お前が挑発スキル使わなかったのはナイルに獲物を奪われるのを危惧してたからだろ?」
「あたしの見立てでも、挑発スキル使おうと使わまいとナイルくんの圧勝だにゃ」
ボス戦前だと言うのに、すっかりむくれてしまったラーザさんのご機嫌取りという高難易度ミッションが発生している。
視聴者の皆さんに攻略法を聞きたいのだが、コメント欄は盛り上がっていてそれどころではない。
『ラーザ様のふくれっ面をもっと近くで写してくれ!』
『欲を言えば膨らんでる頬をぷにっとして欲しい』
『ラーザ様の頬をぷにっとできるのはお前しかいない! 行くんだナイル氏!』
全く話にならない状態である。 人気キャラクターとパーティーを組むのも考えものだ。 それよりも気になってしょうがない問題がもう一つある。
「メメジェットさん、鼻血大丈夫ですか」
「ええ、大丈夫よ。 最初はあんたたちと冒険に行くなんてまっぴらゴメンだったけど、今となっては共にダンジョンに潜れたことを嬉しく思っているわ」
なんて言いながら俺におんぶされているメメジェットさんだった人。
ここに来る前にラーザさんの痴態を目撃して萌えカスになっていたが、なんとか意識を回復させている。
桔梗色の長めの癖っ毛。 菫色の瞳。 褐色の肌。 金を基調とした装飾類。 猫のような目つき。 小柄でスレンダーな体型。 アラビアンテイストな踊り子を彷彿とさせる衣装。
どうしよう、見た目だけで言えばこの子もラーザさんやサナさんに引けを取らない美少女である。
しかしそんな可愛らしい容姿を台無しにしてしまうのは鼻に詰め込まれたティッシュ。 鼻血は止まったようだがまだ頭がくらくらしているらしい。 先程までのラーザさんの暴れっぷりは、ファンにとってはとてもじゃないが耐えきれない尊さだったようだ。
恥ずかしながらこの俺ですら、ラーザさんは少し可愛いなと思ってしまったほどなのだ。 ダメージは相当だろう。
なるほど、状態異常を付与するモンスターが多いというこのダンジョン。 一番の強敵はナチュラルに魅了効果を与えてくるラーザさんだったということか。
『おそらく今、ナイル氏はどうでもいいことを考えている』
『じゃないと背負っている美少女に動揺してしまうと見た』
『ナチュラルにおぶってる辺りがギルティー』
「ていうかお前ら、最初はなんかギスギスしてたのにいつの間にか仲良くなってないか?」
「むむ、ナイルくんはやっぱり軽薄な男だったのかにゃ?」
「やっぱりってなんですか、ただしゃべってただけなのになんでそんな事言われる筋合いがあるんですかね!」
コメント欄だけでなくサラーマさんたちにも茶々を入れられてしまう始末。 いつの間にか俺のポジションはいじられキャラになっていた。
でもまあ、最初の方はメメジェットさんからものすごい圧をかけられていたため、今はこうして普通に会話できているのはぶっちゃけありがたい。
「いやはや黒湖さん、あなたと旅をすればラーザ様の色々な素顔を見れそうです。 このダンジョンが終わったらこの人たちなんか放っておいて私達と旅に出ませんか?」
「堂々と勧誘してきますねw」
「おいこらメメジェット。 俺の許可無く何勝手にナイルを引き抜こうとしてんだ」
「ナイルくんと最初に冒険に行ったのはあたしたちだにゃ! ポッと出のプリーストが色仕掛けなんて百年早いにゃ!」
色仕掛けの定義とは? なんて聞こうとしていたが、コメント欄が横目に映った瞬間居心地が悪くなった。
『なるほど、美少女をおんぶというハニートラップか』
『背中は幸せか? ナイル氏』
『背中のエロは、戦士の恥だぞ?』
改めて言及されると意識してしまいそうだ。 背中にあたっている少々柔らかい感触。
「あれれ、ナイルくん顔赤いんじゃないかにゃ?」
「体調でも悪いんですか?」
「ああいえなんでもないんです」
「ナイル、おまえって隅に置けねえな」
サラーマさんがニヤニヤしながら視線を向けてきているため、おれは咳払いしながら先を急いだ。
◁
三層目に待ち構えているボスはレインボースコーピオンと言うらしい。
その名の通りかなり巨大なサソリらしく、眼の前に立つと見上げるほどの大きさで、おそらく床からの高さは三メーター前後。 尻尾はそれよりも長いらしく、怪獣映画とかに出てきそうな規模だと予想できる。
レインボースコーピオンは複数の状態異常を付与してくるようで、一度に複数の状態異常にかけられると流石に上級者でも厳しいようだ。
付与してくるのは、毒、裂傷、麻痺、不全、石化、劣化、混乱の七種類。 故にレインボースコーピオン。
状態異常は大きく四種類に分かれるらしく、HPを削ってくるタイプ、行動を制限してくるタイプ、アイテムの使用を阻害してくるタイプ、ステータスを減少してくるタイプの四種類。
例えば麻痺状態だと三割の確率で体がしびれて動けなくなり、不全だと受傷部位周辺の筋肉が弛緩して動かせなくなる。 石化だと受傷部位周辺が完全に石化して動かせなくなるらしい。
中でも厄介なのは混乱だ。 下手に動けなくなるよりもかなり面倒くさいし、他のゲームでもこの手の状態異常にかかったことがあるが、はっきり言って感覚的に気持ち悪いのだ。
このゲームの混乱状態だと数パターンの混乱状態があるようで、動かそうとした部位とは別の部位が動いてしまうタイプ、視界に映る景色が一変してしまうタイプ、アイテムが使用不可になるタイプなどなど、上げればきりがない。
レインボースコーピオンの場合、体の動きを妨害してくるタイプの混乱らしく、腕を動かそうとすれば足が、首をひねろうとしたら腰が、膝を曲げようとしたら肘が、といった感じに体の感覚がしっちゃかめっちゃかになってしまう。 このタイプは大っ嫌いなタイプだ。
あれだけは何回なっても慣れない。 まあ、世界は広いため混乱状態に自分からなりたがる変態もいるくらいだ。 それだけ刺激的な状態異常なわけである。
レインボースコーピオンの尾に刺された場合高確率で三種類の状態異常を付与され、爪での攻撃では確定不全、たまに吐き出してくる真っ黒な煙に当たると石化状態になる。
最も気をつけないといけないのは言わずもがな尾による串刺しだ。 ダメージも半端ではないし、攻撃速度も他のモンスターとは比べ物にならないくらい早いらしい。
今回ばかりはサラーマさんやサナさんも協力してくれるらしく、かなりの強敵であることを示唆してくる緊張感だ。
「メメジェットさん、もうボス部屋つきそうですけど、動けそうですか?」
「ええ、悪かったわね。 ここまでおぶってもらっちゃって」
ツンケンした態度は未だに変わらないが、最低限のコミュニケーションは取れるようだ。 レインボースコーピオン戦では大活躍になると思うから、体力は温存して欲しい。
改めて俺の背中から降りたメメジェットさんをちらりと伺う。 なるほど胸部の膨らみは申し分ない。
男の夢が詰まった胸部は、でかすぎず小さすぎずのお椀型フォルム。 全体的に見れば絵に書いたようなスレンダーボディーだ。
腹筋に薄っすらと入った縦三本線がスタイルの良さに拍車をかけ、さらにそこから視線が向かうのは芸術的なくびれ。
ウエストの細さはほどよく膨らんだ胸部と抜群の調和を生み出しており、まさに女神の対比と称してもいいくらいだ。 さらにそれを惹き立てるのは何と言っても褐色の肌!
と、こっそり盗み見ていたつもりだったが油断していたようだ。
突然メメジェットさんが自分の体を抱くように身を捩ったため、やばいと思って視線を逸らそうとしたのが……
時すでに遅く、俺の後頭部にゴミへ向けるような視線を感じる。 レインボースコーピオンと戦う前から命の危機に瀕してしまった。
「……溺死」
「あの、違うんですこれはそういう意味で見てたわけではないんです聞いて下さいあの、そう、衣装ですよ! 衣装が凝ってて可愛いなと思って見てただけでしてやましい理由なんて一切合切……」
「黒湖さん、ものすごく早口になりましたね。 これは溺死案件確定でしょうか?」
『見るなら堂々と見ないとなw』
『むっつりだなナイル氏は』
『ナイルくんえっちだなw』
視聴者たちには俺の視界が共有されているのを忘れていた。 メメジェットさんだけではなく視聴者の皆さんからもボロクソに非難されてしまった。
ボス戦前だと言うのに女性陣はドン引きである。 これが原因で連携に障害が発生したらもう立ち直れない。
これは、一刻も早く心眼スキルが必要である。
念の為言っておくが、心眼スキルでえっちな事など考えていない。 絶対に、絶対にだ!




